召喚農夫の田舎暮らし

香月ミツほ

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災い転じて福となす3

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渋々テーブルを拭くファーガスさん、そこに茶器を運ぶブリアンさん、わざわざ魔術で水を出してお湯を沸かすコナンさん。

「お茶に合う水があるんですよ」

さっきの水を使わないのは何でだろうと見つめていたら、そう説明してくれた。

「お口に合うと良いんですが」

サラダとスクランブルエッグと野菜スープとチキンソテーにパン。チキンソテーはお代わりできるように余分に作ってある。

「いただき……「美味い!」
「ファーガス殿! まずはスイ殿への感謝を……「うるせぇ! ごちゃごちゃ言ってんならお前の分も寄越せ!」
「嫌です!」

お代わりありますから、と言うと少し落ち着いて食べ始めた。

「本当に美味しいですね。このサラダのカリカリした物は?」
「フライドオニオン、玉ねぎをカリカリに揚げた物です」
「この肉は?」
「鳥肉にハーブを揉み込んで一晩寝かせて塩を振って焼きました」
「昨夜から準備して下さってたんですか?」

朝は忙しいから仕込みを夜のうちにするのは当たり前だと思うんだけど、そう言われるとあまりにも浮かれている自分が恥ずかしい。

「えっと…… 両親が旅立ってからずっと1人だったので、皆さんとの食事が嬉しくて、その……」
「で、ではまたお伺いしてもよろしいですか?」
「はい! ぜひ来て下さい。あ、今日、ファーガスさんに温泉を掘ってもらうんで、次にいらした時はぜひ入って下さい」
「「「温泉!?」」」

あれ? ファーガスさんに言ってなかったっけ?

「俺は井戸を掘りたいって聞いたぞ」
「すみません、温泉なんです。もしかして温泉になると追加の報酬が必要ですか?」
「……ガスが出たりしたら危ねえよなぁ。そうだな、多少は追加で労ってもらうかな」
「多少、ですか?」
「はっきりさせておくべきです。どんな無理な要求をするか分かりませんよ」
「無理なんざ言わねえよ。ちっと温泉入らしてもらって背中流してもらおうか、って程度で……」
「この不埒者!!」

えーっと…… それ、一緒にお風呂に入るって事……?

「~~~~~~///! そんな嬉し恥ずかしい事を!?」
「何が不埒者だよ、喜んでるじゃねえか」
「スイ殿!?」

だってぼくなんかをそう言う対象で見てもらえるだけでも嬉しいのに、そんなお誘いって……

「ファーガス殿を…… 好ましく思っておいでなのですか?」

「ええと…… かっこいいな、って思ってます。それにぼくなんかをそう言う目で見てくれる人なんて、今までいなかったし……」
「私がいます! 私ではダメですか……?」
「ダメじゃないですっ!! ブリアン様もかっこいいし、素敵です! ただ、身分が高くて畏れ多いって言うか……」
「それならファーガス殿だって侯爵家の三男ですよ」
「俺は勘当されてるから平民だ!」
「私だって四男ですから、身分などあってないようなものです」

それ暴論! でも、ファーガスさんも…… 貴族……?

「身分なんかよりすげぇモン持ってる奴がンな顔すんな」
「身分よりすごいもの?」
「召喚獣だよ! 麒麟なんてSSSクラスだぞ!? 下手したら神話の中の神聖獣だ。ワームだって下位とは言え龍種で、しかも王だぞ。モールもラットも単体ならともかくあの数をまとめて召喚して使役するなんてありえないんだよ!」
「でも、みんな友達だから手を貸してくれてるだけだよ? 使役じゃないからやりたくない事はしないよ?」
「例えば?」
「大ちゃんももぐたん達も熱いから温泉掘りたくないって」
「本気で命令してるか?」
「友達に命令なんてしません! お願いするだけです!」
「だからだろ? お願い! えーめんどくさーい! って程度だろ」
「でも無理させたくないし……」
「まぁ、使役の支配レベルはともかく、麒麟やワームの王にお願いを聞いてもらえるなんて、王でも神官長でも出来ませんからね。スイ殿はすごいんですよ」

あ、なでなで気持ちいいです。

「勝手に触るんじゃねぇ」
「貴方のモノではありませんよ」

ぼぼぼ、ぼくを取り合ってる??? 本当に?

「とにかく、2人っきりにはしておけません。コナン、私の無事を知らせに行って下さい。私はここに残ります」
「え?」
「あ゛?」
「エキドナの討伐は無事に完了、私は家を出ます。私は本気です。どうか結婚してください」
「仕事はどうすんだよ?」
「スイ殿の手伝いができれば1番ですが手が足りているようなのでとりあえず冒険者になります」
「金持ちには出しゃばらずに金だけ出してもらう方が世の中のためになるんだがな」
「貴方が言いますか?」
「スイ殿はどうですか? ご迷惑ではありませんか?」

コナンさんが心配してくれた。……正直、取り合いされてめちゃくちゃ嬉しいし、賑やかで楽しいし、滞在してくれると言うなら大歓迎だ。

「あの…… あまり喧嘩しないで下さるのなら、歓迎します。好きなだけ滞在して下さい」
「ありがとうございます!」
「まずはたっぷり温泉だな。よし、まずは深さを調べるか」

ようやく温泉を掘ってもらえそうだ。それにしても一緒にお風呂…… 
あぁっ! 恥ずかしくて大事なところが妄想できない!

何やってるんだ、ぼくは。
とにかくコナンさんをケルピーに乗せてもらって送り出して、露天風呂予定地を2人に見せた。

「もう出来上がってる!?」
「はい! アリさん達が頑張ってくれたんです。あとはお湯だけです!」
「アリさん、とは?」
「呼びましょうか? アリさーん!」

ずもももももっ!

「って! メザーリク・アントじゃねーか!」
「メザーリク・アント?」
「獲物を生きたまま土に埋めて固めてエサにする魔獣です」
「お湯を入れる所を土を固めて作ってくれたんだよ?」

「「…………」」

「もう良い。ちっと離れててくれ」

両手を軽く突き出して呪文を詠唱するとフワフワとした光が地面から浮かび上がり、その光が指先に収束して糸を紡ぐように空中に模様を描いた。それが漏斗状になり、地面に潜り込んで行く。

「ん…… む…… はぁっ!!」
「ファーガスさん!大丈夫ですか!?」
「……あぁ、大丈夫だ。けど、1日じゃぁここに穴掘るのは無理そうだな」
「ダメなんですか?」
「岩盤は硬いしけっこう深いし、魔力が足りねぇ。補充できるなら……」
「 ?  マジックポーションがあれば良いんですか?」
「ありゃ酔うから何度も飲めねぇ。ちょっと来い」

何だか分からないけど言われるがままに近寄ると、いきなり唇を貪られた。

「ふやぁっ、あぁ…… ん…… はふっ…… はぁ…… ん……」
「おい!!」
「あー、やっぱすげぇな、お前。完全回復だ」
「ふぇ?」
「魔力譲渡だよ。こんな一瞬で満タンだぜ! おまえはどうだ? 辛くないか?」
「ふにゃぁ…… きしゅって…… きもち…… いい…… んでしゅね……」
「まさか初めて!?」
「はじめてでしゅ……」

ブリアン様がなんで驚いてるのか分からないけど、舌を絡めて擦りあう気持良さったら……

「3回分もありゃ掘れそうだ。辛くなったら言えよ、っておいぃ!!」
「んちゅ…… あぁ…… ん…… はぅんっ!」
「ブリアン! てめぇ、何してやがる!!」
「……口直しをさせてあげようと思いまして」
「要らねぇよ! もう腰砕けになってんじゃねぇか! 大丈夫か!?」
「きもちいぃぃぃ……」
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