召喚農夫の田舎暮らし

香月ミツほ

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災い転じて福となす1

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長年の謎の答えが……まさかのお宝だったなんて!!

作るぞ! 天然温泉露天風呂!!



**********



ぼくはスイ。
両親と3人で田舎の片隅で薬草を育ててそれを薬にして売って生活している。

いや、今は1人だ。

両親からお前ももう一人前だ、と言われ置いてきぼりを食っての一人暮らしもすでに2年になる。

いい歳だから引退するとか言い出しておかーさんのヘソクリでリゾート地に買った小さな家でレストランを開くんだそうだ。

妹か弟ができたら手紙を送る! って…… その歳で!? ぼくはこの地味顔のせいで付き合った事すらないってのに!!

はぁ……

そしてぼくは両親から教わった農業と薬学の知識と、生まれ持った召喚の能力を使って、大ミミズに土を耕してもらい、モグラ達に畝を立ててもらい、種をまいて雑草や害虫はネズミ達に食べてもらって万年豊作だ。

売るのは薬草ばかりだから世間が不作の年にうちだけ儲けて怨みを買うこともなく、呑気に暮らしている。自分ちで食べる分くらいは作ってるけど。

で!
おとーさんが買ったこの土地は3分の1が不毛地帯だった。売主も理由が分からず、持て余していたのをおまけとして押し付けられたんだけど、そこに温泉が埋まっていたなんて!

召喚した大ミミズの大ちゃんが熱くて進めないって言って、モグラ達も同意して、ネズミ達が硫黄臭いって言うから鑑定して見たら温泉がある事が分かったんだ。

あ、ぼくの鑑定は無機物限定。
人間に対して使っても知ってる情報の確認しかできない。名前を忘れた時に思い出せるのは助かるけど。

他には経験で得た家事能力しかないです……。

それにしても温泉!
ぼくの召喚獣達は生き物で、熱いと進めないから、土属性魔術師に依頼するべきかな?

いくらで依頼を受けてもらえるのか、魔術師ギルドに聞きに行こう。


**********


午前中の仕事を終えて街に行く。
うちはかなり郊外にあるけど、召喚獣のりんちゃんの脚なら1時間あれば着く。

召喚術の応用で無限収納バッグも作ったので、とりあえずありったけのヘソクリを持って行った。


**********


「こんにちはー!」
「よぅ、スイ! あれ? 今日は納品の日だっけか?」
「違います。土属性魔術師さんに依頼がしたくて、依頼料の相談に来ました」
「そうか。ランクは?」
「A以上……、Bでも行けるかなぁ?」
「何して欲しいんだ?」 

「お、……井戸を掘って欲しいんですけど、地盤が堅くて……」

受け付けの人とそんな話をしていたら声をかけられた。

「金はあるのか?」
「多少はありますが急ぎではないので足りなければお金が貯まってから依頼します。だからまず見積もりをですね……」
「さっき納品と言っていたが?」
「はい。薬師なので定期的にポーションやマジックポーションを納品しています」
「……マンドラゴラはあるか?」
「あると言えばありますが…… まだ土の中です」
「あるのか!?」
「はい」
「ならそれを報酬に引き受けよう。おれはSランク土属性魔術師のファーガスだ」
「良いんですか? ぼくはスイ、よろしくお願いします!」

……でも、マンドラゴラ1つで引き受けちゃって良いの?

「……マンドラゴラは入手難易度AAAだぞ? それに情けない話だが、ヒュドラに噛まれて呪いの籠った毒を流し込まれたんだ」

たしかヒュドラの毒は解毒も解呪も一時的にしか効かなくて、マンドラゴラを使ったハイレアポーションじゃないと完全な回復はできないんだっけ。それって大変だよなぁ。

「じゃぁ、早い方が良いですよね?」

のんびり買い物して帰ろうと思ったけど、早いに越した事はないだろう。

「ぼくの召喚獣に乗って下さい。りんちゃーん!」
「りんちゃん……、って! おまえ……、これ…… 麒麟……?」

なんか引き攣ってるけど怖くないよ?

「急ぎましょう! りんちゃん、この人も一緒に良い?」

りんちゃんが頷いたので、ファーガスさんに早く乗るよう促した。急ぎなのを理解してくれたのか行きの半分の時間で着いた。

「りんちゃんありがとう! あっ! こら、くすぐったいってば!!」

りんちゃん含め、召還獣達はぼくの魔力が大好きでよく甘えて来る。ぺろぺろ舐められるとくすぐったいけど、可愛くて仕方ない。大ちゃんは舐めないけど頭を擦り付けて甘える。やっぱり可愛い。

「ごめんなさい! どうぞこちらへ」
「あ、あぁ」

家に招き入れ、ダイニングセットに座ってもらって、作ってあったハイレアポーションを持って来た。

「こちらを試してみて下さい」
「!! ハイレアポーションじゃないか!」
「はい。作り方を覚える為に何度か作って成功したものです。効果がなかったらマンドラゴラをお渡ししますので、腕のいい薬師に作ってもらって下さい」
「……分かった」

ファーガスさんは一口味見をして驚いた顔で一気飲みした。

「美味い! ハイレアポーションてのはこんなに美味かったか!?」
「味は普通だと思いますけど……」

普通のポーションと同じ様なものだと思うけど…… ファーガスさんの身体が必要としてるからかも?

「効果はどうですか?」

ファーガスさんはおもむろにズボンを脱いで、たくましい太腿に巻かれた包帯を外した。

「完璧だ。痛みも重苦しさも何もない」

良かった。ヒュドラの呪いを含んだ毒は、傷が治っても傷の周りがどす黒く変色して内部がじくじくと痛み、熱を持って人を苛む。その上、魔力の回復速度を著しく低下させる。

「大変でしたね」
「まぁ、自分がヘマやらかしたんだ。仕方ない」

それにしても、魔術師なのにファーガスさんの脚の逞しさと言ったら……

「ずいぶん鍛えてらっしゃるんですね」
「まあな。魔力が切れたからって戦う術がなかったら命に関わる。魔力を使わずに戦えるならその方が良い」

魔術師だけど剣士でもあるのか。土属性は金属と相性も良いし、武器や防具も身につけられる。

「あの…… 今日はうちで休んでもらって、明日、魔力が回復してからで良いですか?」
「俺もその方がありがたい」
「すぐ食事の用意をしますね!」

久しぶりに1人じゃない食事! 頑張って美味しいもの作るぞー!!


**********


「美味い!」

ファーガスさんは装備を解いて、寛ぎながらぼくの作った料理を食べている。

「これで酒がありゃ言う事ないんだがな」
「あ! お酒あります。気が利かなくてすみません」

ぼくは果実酒にハーブを入れたお酒を持って来た。

「甲斐甲斐しいな。良い妻になりそうだ」
「そうなれたら良いんですけど……」

モテないぼくと結婚してくれる人なんているのかなぁ? はぁ……

「さて、寝るか」
「あ、両親が使ってた部屋を使って下さい。身体拭くならお湯の準備もしますよ?」
「悪いな」
「明日は頑張ってもらいますから」

部屋に案内してタライを運び、お湯と水と手拭いを持って行った。

「ありがとう」

!!
すごい…… 脚も凄かったけど全身無駄なく付いた筋肉が……

「何だ? 俺に興味があるのか?」
「ご、ごめんなさい! 明日片付けますから、そのままにしておいて下さい!! おやすみなさい!」

Sランクだもんなぁ。かっこいい訳だよ。顔だっためちゃくちゃかっこいいし…… 一度でいいから抱きしめられたいなぁ……。

ドンドンドンドンッ!
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