いつまででも甘えたい

香月ミツほ

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第25話

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朝食の用意は戦争だった。
一気に10人以上増えて大わらわ。おれの提案で1人分ずつ焼いていたパンを大きく焼いて切り分けた。スープは鍋が倍になり、肉は薄く切って火の通りを早くした。当番以外の人にも手伝ってもらってちぎっただけのサラダにゆで卵を切ってのせてもらった。

セサルさんがふらふらとやって来ておれに抱きつく。

「会いたかった。」

耳元で囁かれてボッと音が聞こえそうなくらい赤面した。

「あぁのあのあの!おれも会いたかったけど…その…ここではその…」

うぅぅ…全員に注目されている。

「ヨシキ、お前の席はここだ。」

ガウルの言葉にそちらを見ると、同じテーブルででれでれの笑顔でパスクが手を振っていた。
セサルさんと2人でそこへ行くとパスクがセサルさんを不躾に見る。

「お前もかわいいな。でもヨシキを取り合ってる1人なんだな?」
「何が言いたいんです?」
「俺もヨシキに惚れたから取り合いに入れてくれ。」
「えぇっ!?」

「なんでヨシキが驚くんだよ。」
「だって…惚れたって…」

流されたと言うか絆されたけど。

「そうか、ちゃんと申し込んでなかったな。お前の優しさに惚れたんだ。恋人になってくれ。」

返事もしていないのに、うぉぉぉぉぉ!と周りから雄叫びが上がる。
恋愛を諦めていたリーダーを仲間達は心配していたようだ。返事をしないといけないんだろうけど…

「あの…まだ会ったばかりだし、他の人からも言われてて…どう選んで良いか分からないんです。」
「返事はいつでも構わない。忘れないでいてくれればそれで良い。だが来た時は相手してくれるか?」
「はい…また来て下さい。」

もう1度盛り上がって賑やかな食事を終えた。



昼食の仕込みは手伝わなくていいと言われたのでセサルさんの部屋に行った。料理長、優しい。

「何があったか教えてくれる?」

帰りに強盗団に襲われた事と助け出されるまでの事をかいつまんで説明した。

「そんな怖いを…」
「いや、あんまり怖くなかったかな?後で人殺しだって聞いてから怖くなったくらいで…」
「イラリオは?」
「まだ反省房だと思う。反省することなんて何もないのに。」

「…優しすぎるよ。」
「どこが?」
「守れなかったんだから責められるべきだよ。」
「それ、おれが死んだみたいに聞こえるからヤメて。」

ぶふっ!

2人で吹き出して笑い合った。

「ただいま、セサル。」
「っ!おかえり、ヨシキ。」

ただいまのキス、おかえりのキス。
甘々のいちゃラブタイム。

しばらくしてパスク達が帰ると知らせが来たので見送りに行く。荷馬車の前に集まるパスク達の前にイラリオが居た。

「イラリオ!」

駆け寄ると悲しそうな顔で力なく笑う。まだ気にしてる。

「そんな顔しないで。イラリオは何も悪くないでしょう?」
「悪いからじゃなくて、良いところが無かったから落ち込んでるんだよ。」
「側にいてくれるだけで心強かったのに。」
「でも…」

「おい!今は俺たちの見送りだろ?そいつとは後でゆっくり話をすれば良い。俺を構ってくれ。」

こんなに筋骨隆々のかっこいいパスクが構ってくれ、なんてかわいい事言ってる。やだ、萌える。

「気をつけてね。パスク達のお仕事、危険なんでしょ?怪我しないでまた来てね?」

近づいて言えば自然に上目遣いになる。
パスクはデレデレだ。おれなんかにこんなにデレるなんて、ホントに寂しかったんだね。

両手を伸ばして抱っこを要求すれば、抱き上げられて子供抱き。

「待ってるからね?」

耳に息がかかるほど近づいて囁くと人前なのに濃厚なキスをされた。腰が抜けるからやめて!チョロすぎる自分が情けない。

ガウルに引き離されて、抱っこされたまま見送った。

振り返ると引き攣った顔のセサルと泣きそうなイラリオがおれを見つめてた。

「どういう事?」

「恋人になってくれって言われた。」
「隊長はそれで良いんですか!?」
「…悪い。色々あって俺はあの人に頭が上がらないんだ。」
「イラリオは!?」
「おれには何も言う資格がないからさ…」

目を逸らしてうな垂れるイラリオは「哀愁」を体現している。

「…選べなくてごめんなさい。」

こればっかり言ってるけど、本当に諸悪の根源だよね。情けなくて涙が出そう。

「行くぞ。」

ガウルが部屋に向かう。
追いかけてくるセサルがあんたは仕事だろう、って言うけど足を止めない。おろおろ…

「ヨシキを泣かす奴は許さん。」
「泣かしてなんか…」
「お前に責められて泣きそうだったろうが。」
「っぐ…」

「…悪いのは僕だから…」

「悪くない!俺たちが勝手に惚れただけだ。ヨシキは全員選んでも良いし、断っても良いんだ。」
「だけどそんなの…僕に都合が良すぎるよ…」
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