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第21話
しおりを挟むここは辺境だと言っていたから盗賊なんか採算が取れないんじゃないか?
それともただ下品な通りすがり…
盗賊よりも無理がある。
なんにせよ情報収集をするべきだと、耳をそばだてた。
「おい、にーちゃん!俺たち道に迷って食いモンが足りなくなっちまったんだ。後ろの荷物をよこせ。」
「分けて」でも「くれ」でもなく「よこせ」と来たもんだ。とりあえず悪者だね。
「悪いけど今日、食糧はほとんど積んでないんだ。他を当たってくれる?」
イラリオが飄々と答える。
「こんなとこに人が来るか!」
「じゃあなんであなた達は“こんなとこ”にいるの?」
「道に迷ったんだ。」
「一本道で?」
そうだ!ここ一本道だった!!
「うるせぇ!良いから荷を置いてとっとと失せろ!」
僕はどうしたら良いのかな…
ギシッ
荷台の後部から小さな音が聞こえてそちらを伺うと、人がこっそり入り込んで荷物の物色を始めた。やばい!
怖くて心臓が破裂しそうなほどばくばくしている。見つかりませんように、見つかりませんように!
「お頭ぁ!なんかちっこいのがいる!」
「ヨシキ!?」
見つかった!
毛布を剥ぎ取られよろけた所を捕まえられて、為すすべもない。ジタバタしてもビクともしない。荷物のように肩に担がれて外に連れ出されると、目線の高さにビビる。
「あれ?おとなしくなった。」
「ヨシキに何をした!?」
「担いで来ただけで何もしてないぞ?」
僕を担いでる人の声も不思議そうだけど、僕はそれどころじゃない。
抱え直されて子供抱きにされてもかなり高い位置で支えられてる。
「高いの怖い!!」
思わず叫んだ僕は高所恐怖症です。
抱いてる人の頭にしがみつくのは不可抗力なんです!!
「かわいい? お頭、この子もらって行こう?」
「ダメだ!」
「怖い!下ろして!やだやだやだー!」
みっともなく泣き叫んでしまったのも仕方がない事なんです。
お頭と呼ばれた人は下ろすなと言うし、僕は怖くてしがみついてるし、隠れていた悪者の仲間達はぞろぞろ出て来るしで、イラリオは縛られてしまった。
そしてようやく下ろしてもらった僕はイラリオに駆け寄ることもできなかった。
腰が抜けて立てなかったから。
どこまで情けないのか、絶望しかない。悪者達が「なんだその可愛い生き物は!」とか「妖精だ」とか勝手なことを言ってるけど、無視して匍匐前進でイラリオの側まで移動した。
「イラリオ、ごめんね…」
ぐすぐすと鼻をすする僕を安心させるように笑いながら
「大丈夫、じきに迎えが来ます。」
予定を過ぎても戻らなかったら、隊長が心配して迎えに来ますよ、と小声で言った。
大した荷がないとか文句を言いつつ、荷馬車を寝床にするつもりのようで移動する気配はない。見えているのが全員なら13人。
お頭と大きい人と僕たちの見張りの他に10人。足手まといの僕を抱えて逃げるのは無理だろう。ここは油断させて援軍を待つのみ。
「お前、なんで逃げようとしないんだ?」
俺たちの見張りが声をかけて来た。
「この人を置いていけないし、おれの足じゃすぐ捕まるから。」
「お前、男か?」
気づいてなかったの?
「男です!」
冷静な声を出そうとしたのに語気が荒くなってしまった。油断させたいのに怒らせたらまずい、と様子を伺うと目に好色な光が宿っている。別な意味でやばい。
「逃げようとしたら縛れと言われてるんだがな。」
楽しそうに笑っているのに顔が怖い。思わずイラリオに縋り付く。
「ふん、砦で色子を買ったのか。」
「違う!」
イラリオさんが否定するけどなんの事だか分からない。
「色子って?」
「性欲処理係。」
「違う!!」
そんな仕事はしていません!
複数といやらしい事はしてるけど…
「そのために買って来たんだろうに、騙して連れて来たのか。」
違うって言ってるのに!!
「あれ?人身売買なんてあるの?」
「違法だけど全く無いかと言われたら無いとも言い切れないんだ…」
「そうなんだ。」
「てめぇら勝手に喋ってんじゃねぇ!!」
意外と淋しがり屋?
「色子じゃないって言ってるのに聞いてくれないんだもん。話が通じない人と話しても仕方ないし。」
「…本当に違うのか?」
「違います!」
「まぁ、そう言う事にしといてやろう。」
…やっぱり信じてないな。
「おいちっこいの!メシだ!」
「え?おれだけ?イラリオのは?」
「1日くらい食わなくたって死にゃあしない。」
「じゃあおれも要らない!」
「ダメだよ、ヨシキは食べないと。あ、でも変な薬入れられたら困るから食べない方が良いかも。」
「んなこたぁしねえ!酌させるだけだっての!」
「イラリオにも食事くれなきゃしない!」
ぐうぅぅぅう…
腹の虫がやせ我慢を豪快に裏切る。
そう言えば寝起きにスープとパン食べただけだった。
「おら諦めろ育ち盛り!まぁそいつにも食いもんやるから心配すんな。」
「じゃあイラリオがちゃんと食べたら言う事聞く。」
「ちっ!しょうがねぇ、おい!持って来てやれ。」
他の人の居場所も遠くないので、すぐに2人分のスープとパンが運ばれて来た。
「縄は解いてくれないんだな?」
「当たり前だ。」
「じゃあ、食べさせてくれる?」
見張りに向かって確認してから、おれに向かってあーんと口を開ける。
こんな時なのに呑気なイラリオに笑ってしまう。一口ずつちぎってスープに浸してから口に運ぶ。
2人で交互に食べた。
そして全部食べ終わったら引き離されておれだけリーダーの所へ連れて行かれた。
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