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完全獣人が押し掛け女房に幸せにされちゃう話

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あー、くそっ!

オレは何もしてないってのに、いちいち突っかかってくるやつ、なんなんだ?

汚らわしいとか、ケダモノだとか。

八つ当たりに暴力振るう方がよっぽどケダモノだろうが。見た目が違うから差別するとか、程度の低さが伺えるよな。

お前らなんか耳と尻尾以外が人間の姿の、人間のなり損ないの癖に! より獣人らしいのはほぼ獣の姿のオレの方だろ!!

と、言ったところでこの国では負け惜しみにしかならない。重要視されるのはまず容姿、次に賢さ、優しさ、最後に強さ。

オスに生まれたからには強さを求めるものだろうが!! 弱かったら嫁を守ることができないじゃないか!

まぁ、二足歩行の狼であるオレに嫁なんて来ないだろうけど。嫁になる可能性は……、考えたくもない。

まぁ、オレだって嫁にするならすべすべな肌の半獣人パラヴィーナがいい。完全獣人ヴェーシだと舐め回した時に口に毛が入りそうだからな。



「あの、大丈夫ですか?」
「ん? あぁ、すまん。邪魔だったな」
「いえ、いいんです! そうじゃなくて、怪我してるみたいだったから……」
「舐めときゃ治るから大丈夫だ。っえ? まさか心配してくれるのか!? ……いや、悪い、調子に乗った」

言いがかりをつけられ、連れ込まれた路地裏は飲食店の裏口の側だった。そして今、飲食店から出てきた人に声をかけられたのだ。

垂れ目で丸い耳の、おっとり美人。尻尾もボリュームたっぷりで、なんとも魅力的だ。これは引く手数多だろう。この飲食店の看板息子だったか。オレなんかが店内に入ると他の客から嫌がられるので、外から眺めていただけだが。

「心配、しますよ。良かったら中で休んでいかれますか?」
「はっ!? いやいやいや、アンタみたいな美人にそんなこと言われたら勘違いするだろ。それとも揶揄ってんのか?」
「揶揄ってません!!」
「お、おう。そうか、そりゃ悪かった。まぁオレは大丈夫だからすぐ帰るさ。じゃあな」

めちゃくちゃいい子じゃねぇか!
やべぇ、マジで惚れそう。
両親以外から優しくされたことないからな。心の中で高嶺の花に憧れるくらいは許してもらう。



そんなことがあって、ついこの店の前を通るようになった。食いもんは屋台で買って家で食うから、この店の味は知らないが、看板息子の顔を見た日はいつものメシが旨く感じる。やべぇ。

惚れるな惚れるなと己を戒めていたのに、この店は持ち帰り料理を始めやがった。いや、料理をしてるのは親父だろうからあの子の手料理って訳じゃない。だが、持ち帰り用の容器にあの子が手ずから入れてくれるので、人気が出ている。しかし、数量限定だし、おれにとっては少々、いや結構、高い。

散々悩んで、数日分の食費で結局買ってしまったが、とてもいい笑顔で対応してくれた。



「失礼、話を聞いてもらえるだろうか」
「……………………」

明らかに育ちの良い、見目麗しい男の着る服は、この国で唯一、鍛えた身体が引目にならない騎士のもの。騎士がオレなんかに話?

「悪い話ではないから、そう警戒しないでくれ」
「お偉い騎士様が、完全獣人ヴェーシの貧民にどんな話があるっていうんだ?」

一応、仕事はあるから貧民ではないが。

「あなたは貧民ではないだろう。真面目に仕事をし、慎ましく暮らしている」

そりゃ、オレの容姿だと真面目にしてなきゃ、それ見たことかとつけ込まれるからな。

「その身体能力を活かして、辺境警備隊に入隊して欲しいんだ」

辺境警備隊とは、その名の通り辺境を警備している。隣国との境目にある闇の森オスクロ・セルバに生息する、人を襲う危険な動物を駆除するのが主な仕事だと聞いたことがある。

今の仕事は牧場の家畜を狙ってくる肉食獣を排除するもの。だがそうそう獣も来ないので、暇つぶしに畑のモグラを叩いている。

しがみつく理由もない。
だが、辺境へ行ったらこの店には来られなくなる。



……その方が諦めもつくか。

真面目に話を聞いてみたら給金が高く、オレと同じような完全獣人ヴェーシが多くいるらしい。傷を舐め合う気はないが、稼ぎがあるのはいいことだ。

たいして悩むこともなく、入隊を決めた。

支度金までくれたので、出発の日まで毎日、例の店に通った。

「あのあのあの、い、いつもありがとうございます!」

出発の前日、看板息子から声をかけられた。
こんなオレでもまともな職につけたのだ、と思われたくて、つい翌日の出発を告げた。

「………え? 辺境……? 明日?」
「あぁ。ここのメシが食えなくなるのは残念だが、オレなんかが人の役に立てるなら、と考えてな」
「でも、そんな……、あ、危なくないんですか?」

危なくないならこんなに給料は良くないだろう、と笑うと何故だか泣きそうな顔をされた。怖がらせたか?

申し訳なくなって挨拶もそこそこに家に帰ると、留守の間、家を借りてくれるやつらが来ていた。両親が残した家をどうするかと悩んでいたら、オレを警備隊に誘いに来た男の知り合いが結婚するので、家を借りたいと言ってきたのだ。

あいつ、どんだけオレのこと調べてやがるんだ?

家は古く、あちこちガタがきているが、この夫婦は大工なので2人で補修すると言う。

庭の木を1本だけ切らずにおいてくれたら、好きなように改装して良いと言ったら喜ばれた。

高い給料がもらえて、家賃収入もできて、看板息子とも話ができた。話ができすぎてるんじゃないかとも思うが、辺境警備隊は過酷でなり手が少なく、やめてしまうものも多い。怪我で働けなくなる者もいる。

怪我をして働けなくなっても生活の保証はされるらしいが、寝たきりになるのは辛いだろう。だからこそ給料がいいのだ。




辺境の町まで乗り合い馬車で10日、警備隊が暮らす砦までさらに3日かかる。町から砦までは荷馬車だ。隊員の1人が町まで迎えにきてくれていた。

「……よく来たな。俺はオルソ、辺境警備隊の隊員だ。よろしくな」
「ピオニールだ。こちらこそ世話になる」

町まで迎えに来てくれたのは、オレと同じ完全獣人ヴェーシだが、熊だった。熊はよく二本足で歩くから、服を着ていないと動物に間違われそうだ、などと失礼なことを考えながら、荷馬車に揺られながら砦での仕事について説明してもらった。

隊員としての主な仕事は危険動物の駆除だが、町が遠いため食料の調達も推奨される。闇の森オスクロ・セルバで狩れる動物や採れる植物、気をつけなければならない動植物、危険な場所の目印を色々教えてもらった。

とは言え、闇の森オスクロ・セルバでは常に2人1組で行動するので、その都度教えてくれるそうだ。



砦について驚いた。
全隊員7人中6人が全身毛並みに包まれた完全獣人だったからだ。熊の他に黒豹、犬、狐、山猫、虎がいた。これなら差別されることもないだろう。

隊員が少ないのはここの生活が厳しいことと、完全獣人ヴェーシが少ないから。半獣人パラヴィーナではあまり続かないようだ。

隊員以外に料理人と雑用係が数人いて、彼らは半獣人パラヴィーナだ。料理人は一般的に耳と尻尾しか毛皮がない半獣人パラヴィーナがなる職業だ。完全獣人だとパン生地をこねるときに毛が入るからだと言われている。こちらとしても、恋人でも家族でもないやつの毛は口にしたくない。

しかも物好きな男で、完全獣人ヴェーシが好みらしい。狐の隊員と恋仲だそうだ。



砦の生活は毎朝の鍛錬と森の見回り、掃除や洗濯は持ち回りだ。オルソは不器用で洗濯させられないので、代わりに畑仕事とトイレ掃除をやっているらしい。厚手の隊員服を絞って破くなんて、わざとじゃないかと疑ったが、トイレ掃除をやりたがる奴はいないだろうから、本当に不器用なのだろう。

鍛錬など初めての経験だが、身体を思い切り動かすのは楽しかった。



3ヶ月が過ぎ、砦の生活に慣れた頃。
なぜか周りが浮き足立っている。何があるんだ? 見張り以外全員休暇だなんて。しかも今日の見張りは半獣人パラヴィーナがしているので、完全獣人ヴェーシ全員が休暇だ。

「お前は初体験だな。まぁ、楽しみにしておけ」

何を楽しみにしたら良いのか分からないまま1週間が過ぎ、通常通り生活物資が荷馬車で届けられた。

……荷馬車が3台?

いつもは1台なのに、見慣れない荷馬車が3台。いや、荷馬車と呼んで良いのかも分からない、小さな家のような馬車。

言われるままに完全獣人ヴェーシ5人で出迎えると、家型馬車の後部の扉が開き、美しい衣装を着た美しい若者が、次々と降りてきた。

こんな辺境に半獣人パラヴィーナの美人が5人も。代表で挨拶をする、先の黒い大きな三角耳はなんの獣人だろうか? すらりとしていてかわいいよりも美しい。他は長くて白いウサギ耳、茶色い垂れたウサギ耳、グレーのネコ耳、少し長い茶色の耳は……、鹿、か?

そして見覚えのある、丸い耳にタレ目、ふんわり尻尾のおっとり美人。あの店の看板息子!!

「新入りか?」

隊長の虎が聞く。
いや、だからこの美人達はなんなんだ?

「ふふふ、実はね、そこの新人くんを追いかけてきたんですって」
「ふぇっ!? な、なんでいきなりバラすんですか!!」
「だぁって、他の人から狙われたくないでしょ? それとも他の人も気になる?」
「…………いえ、ぼくは、その……」

オレは夢を見ているのか?
憧れの看板息子がオレを追いかけてこんな辺境まで来た、だと……?

「と、いうことでみんなはいつもの顔ぶれでお相手するからね?」
「そういうことか。お前も隅に置けないな」

戸惑うオレ達にからかいの言葉を投げてから、隊員達はそれぞれ美人の荷物を持ち、手を引いて砦に入っていった。

「……すまないが教えてくれ。彼らは何者なんだ?」
「あ、う、その、慰問の……、娼夫、だそうです」
「娼夫!?」

まさかの答えに大きな声を出してしまった。看板息子が慌てた様子で補足する。

「ぼくは違いますよ!? その、あの方達は完全獣人ヴェーシを好む方々で、いくつかある砦を巡っているのだそうです」

天使か。
それはそれとして……。

「オレに会いに、と言ったか?」
「は……、はぃ……」

とりあえず中に入ろうと促し、はたと気づく。どこで話をしたらいいんだ?

とりあえず食堂に行き、相談すると自室に行くよう言われる。外に漏れて困るような情報もないから、と言うがオレなんかの部屋に連れ込まれたなんて、不名誉ではないのか?

「娼夫と一緒にいたんだ。名誉がどうのというなら部屋に入れてやれ」

躊躇いはあるが、オレの理性が働けば済むことだと考え、質素な部屋に案内して待たせて茶をもらってきた。

「それで? 本当にオレに会いに来たのか?」
「だって……、名前も聞けないうちにいなくなっちゃうし、父は豪商の息子の求婚を受けろって言うし、ぼくは……、あなたのことが好きなのに!!」
「……オレを好き?」
「好きです!」
完全獣人ヴェーシだぞ?」
「……だ、抱きしめられたら気持ちよさそうだな、って」
「なら誰でも……」
「イヤです! あなたは覚えていないかも知れませんが、町外れで猪に襲われたところを助けていただいたんです。その時、足をくじいて……、家までおぶってくださいました」
「あぁ! あの子供か」

確か3年くらい前にそんなことがあったな。
しがみつく滑らかで華奢な腕が好ましくて、不埒な思いを巡らせていたのだが、おかしなことをしなくて良かった。

あの店とは場所が違うが。

「昨年、成人してお店に出るようになったらお客さんが増えて、今の場所に店を移したんです。そうしたら何人も、その……、求婚されて……」
「そいつらではなく、オレを選んでくれるのか? 完全獣人ヴェーシである、オレを?」
「元々、完全獣人ヴェーシの方が好みだったのです。だって、かっこいいじゃないですか! 強そうで、きれいで、もふもふで!」
「ふははっ! あぁ、オレもそう考えている。完全獣人ヴェーシは格好いいんだ、ってな。なのに殆どの奴らは見下してきやがる」
「おかしいですよね! 絶対、完全獣人ヴェーシはかっこいい!! ……あ、それじゃあ半獣人パラヴィーナのぼくは、対象外、ですか?」

そんな泣きそうな目で見るな。食っちまうぞ。

「嫁にするなら全身くまなく舐めまわせる半獣人パラヴィーナが良いと思ってる」
「ならぼくをお嫁さんにしてください!!」

食い気味にそんなことを言われ、顔がにやける。憧れるだけだったこいつが、オレの嫁。諦めようとしていたこいつを舐め回して良い、ってのか?

「本当にオレでいいのか?」
「あなたがいいんです!!」
「身を任せられるか?」
「はい。でも、その前に……」
「ん?」
「ぼくの名はプロチオーネです。あなたの名前を教えてください」

婚姻について話し合っているというのに、名乗ってもいなかったとは。我ながら間抜けだ。

「オレの名はピオニールだ。プロチオーネ、オレのつがいになってくれるか?」
「押しかけて来ちゃったのに、つがいに……、してくれるんですか?」
「オレにはもったいないが、お前が良いのならこの幸運を手放したくない」
「嬉しい……」

美しい涙をこぼしながら、プロチオーネは微笑んだ。

物好きってのはいるもんだな。いつか捨てられたとしても、この幸せなひとときは生涯の宝だ。瞬間を愛おしみながら、できる限り優しく抱きしめた。


カラン カラン カラン


「……なんの音ですか?」
「夕飯だ。部屋で食べられるようにもらって来るから待っててくれ」

あの感じなら客の分まで用意してあるだろう。なければオレの分を食べさせればいいし、明日は大王鼠を狩って食べさせよう。果物は好きだろうか? あぁ、好物を聞かなくては。

色々考えながら食堂へ向かうと、普段と違う可愛らしい料理がトレイに並べられていた。

「これをもらっていいのか?」
「あぁ。客の分もちゃんと持って行けよ」
「ありがとう」
「これも使うか?」
「それは?」
「油だ」
「………………」
「なんだ、嫌われたのか?」
「はっ!! アレ用か。そ、そうだな」
「あー、まぁ完全獣人ヴェーシだとここに来るまで童貞だよな。頑張れよ」

咄嗟に何のための物か気づかなかったせいで生温い視線をよこされた。発情期でもなければそうそう濡れないので油はあった方がいいと聞く。

モテる奴は食用油なんかじゃなく、潤香露じゅんかつゆを持ち歩くらしいが、オレに必要になるはずがなかった。

……今までは。

今度、買ってみるか。

夕飯を持って部屋に戻ると、なんだかソワソワする匂いを感じた。気になるが、不快ではない。

2人で和やかに夕食を食べ、プロチオーネがくれた手土産の酒を飲んだ。シュワシュワ弾ける果実酒だ。美味い。

「……ピオニール、お酒の力を借りるぼくを、嫌いにならないで」
「なんのことだ」
「ぼくを、今すぐつがいにしてください」

今すぐ?
つがいに?

「……いいのか」
「お願い……、ぼく、この部屋でピオニールを待ってたら……、おかしくなってきちゃって……、我慢できない……!!」

簡素なテーブルを挟んで向かい合わせに座っていたが、回り込んで頭を抱きしめられた。すると胸元から感じる甘やかな香り。先ほどから感じていたソワソワする匂いはこれか!

「発情期なのか?」
「終わったばかりなのに、この部屋……、ピオニールの匂いが強くて……」

オレの匂いで発情したのか!!

オレに恋したプロチオーネが発情しながら淫らに誘う、そんな妄想をしては抜いていたが、まさか現実になるとは! いや、これは美味い酒に酔って見ている夢なのか?

……夢なら思い切り好きなことをしてみよう。

「こんなにかわいいプロチオーネに誘われたら、誰だって断れるはずがないな」
「そこまでじゃ……、あっ……」

抱き上げて簡素なベッドに寝かせ、覆いかぶさってぺろりと頬を舐める。唇も舐め、まぶたも、こめかみもあごも舐め、そして丸くてかわいい耳を舐める。恥ずかしさと気持ちよさで真っ赤になって震えているように見える。

少なくとも嫌がってはいない。

それにしても人の服を脱がせるのはなかなか難しい。引き裂いてしまいそうだが、ここは格好をつけたい。なんとかシャツのボタンを外すと、滑らかな白い肌と胸を彩る薄桃色があらわになった。

ごくり。

柔肌に噛みつきたくなる本能を抑えつつ首筋を甘噛みすれば、欲を帯びた声が溢れる。プロチオーネの匂いと視覚的な刺激と、甘い声に嬲られてオレのモノが毛皮の鞘から顔を出したのを感じた。

服を脱がないと下腹部がキツいが、まだまだ舐めたりない。うっかり入ってしまわないよう、服で戒めておくべきだろう。

そう考えていたのに。

「ピオニールも脱いでぇ……」
「ぅぐ……!」

股間を膝で刺激して催促され、危うく暴発するところだった。しかたがない。

プロチオーネの服を全て脱がせ、要望通り手早く自分の服を脱ぎ捨てる。それをプロチオーネがうっとりと見つめていた。

「本当に完全獣人ヴェーシが嫌いじゃないんだな」

服を脱がなかったのは、いざとなったら怖がられるのではないかと不安たったからだ。それが杞憂で嬉しい。

「前はぼくも、完全獣人ヴェーシに生まれたかった、と考えてたの。でも、ピオニールに好きになってもらえるのなら、半獣人パラヴィーナで良いかな、って。あ……」
「うん? あぁ、コレか。完全獣人ヴェーシ と違って半獣人パラヴィーナは剥き出しなんだな。いやらしいな」

最も弱く敏感な部分が、服を脱いだだけで曝け出されてしまうなんて、まるで下着をつけていないみたいじゃないか。

「は、恥ずかしい……」
「気にするな。ほら、オレも今は無防備だ」

陰茎を隠してもじもじとするプロチオーネに否応なしに発情させられ、オレの陰茎は限界まで露出している。

「す、すご……! え? それ、普通、なの……?」
「比べたことなんてないから知らん」

プロチオーネに比べれば2倍はあるだろうか? 3倍まではいかないと思う。

「……無理そうなら今は入れないから、確認させてくれ」
「確認……? ひぁっ!!」

膝を曲げ、さりげなく手を添えて隠している陰部を晒すべく、膝を割り開き、脚の間に陣取った。

「つがいになってくれるんじゃないのか?」
「なる! なりたい!! でも……」
「あぁ、まだ明るいからな。では見せてくれるまで、匂い付けマーキングを楽しもうか」
「ひぁ……、あ、んんっ、やぁん……」

股間を隠す手と、周りの腹部、鼠蹊部から内腿を伝わって膝、脛、足首、足の甲、そして指、指の間。足指の間はかなり感じるようで、身をくねらせて悶えている。

その姿を見るのも楽しく、プロチオーネがオレの匂いに包まれていくのも嬉しい。両脚を隈なく舐め回したころ、手はだらりと伸び、くったりと力が抜けた身体と対照的に、健気に勃ち上がる小ぶりな陰茎が姿を見せていた。

根元に薄い下生えも見える。

息を荒げるプロチオーネの、しとどに濡れたそこを、何も言わずに舌で包んだ。

「ひぅぅぅぅぅっ!!」

身体中を散々舐められ、焦らされた挙げ句に突然の口淫。プロチオーネはがくがくと激しく身を震わせて、勢いよく絶頂した。オレは嬉々として彼の白い蜜を飲み込んだ。

「ピオニールぅ、すごいの……。すごく気持ち良くて、なんでかお尻の奥がうずうずするの……」
「プロチオーネはもうメスなんだな」
「メスにして。ピオニールだけのメスに、つがいに、早く……。もう、壊れてもいいからぁ……」

こんなにも執着してくれるなんて、やはり夢なのだろうか? またしても弱気な自分が顔を出す。いやいやいや、少しでもこの幸せが長引くように努力をしよう。

ふにゃふにゃになって羞恥心が薄れたピオニールの蕾に、いよいよ触れる。鼻先で双球をいたずらすれば、はふぅ、と悩ましげな吐息が溢れた。

べろり

「はぁん……」

長い舌で恥ずかしい場所をひと舐めすると、可愛らしい声がする。しばらく舐めて、鉤爪のない人差し指に、油をまぶして差し込んでみた。さほど抵抗はない。

「ひっ」
「痛いのか?」
「ちがっ、その、変な感じで……」
「少し我慢してくれ」

怯えるような反応をされ、痛いほど張り詰めていた自身の象徴が少しおさまったので、時間をかけてゆっくり解すことにした。

油を足しながら入れては留め、抜いてはまた入れる、を繰り返し柔らかくなってきたのを感じて指を増やした。不意の発情で多少は濡れていたが、やはり潤いが足りない。

オレが下手くそだから……。

「やんっ!」
「ん?」
「あっ、そこ、なんか……、ふぇ……」

2本の指を入れ、後孔が満遍なく広がるようにあちこち触っていたら、手触りの違う部分があった。そこだけ少し硬くて、押してみるとプロチオーネの萎えていた陰茎が少しずつ芯を持ち始めた。

「いいところだな」
「いい……? わかんな、ひぅっ!」

これは楽しい。
オレの手でかわいらしく踊るのを楽しんでいたら、後孔はかなり柔らかくなった。

「そろそろ入りそうだ。いいな?」
「も、さっきから早く、って、言ってるのにぃ」
「そうだったか?」

しまった、泣きそうだ。しつこくしてしまった。

準備が整ったと判断して、このしこりを陰茎で刺激しようと考える。うつ伏せにして腰と尻尾を上げさせると、そこはとても美しく見えた。

柔らかくほころんだ蕾にオレのものをあてがう。そこはまるで甘えるように吸いついてきた。

「入れるぞ」
「おねがい……、します……」

自分が獰猛な顔になっているのにも、その顔に相手が魅了されていることにも気づかなかったが、少しの抵抗の後、ぐぷんと先端が受け入れられ、敏感な部分を温かく包み込まれる多幸感に酔いしれた。

「入っ、た……?」
「あぁ、張り出した部分は入った」
「あ、あ、あ、やぁん、ぞくぞくするぅ……」

指の届く範囲しか柔らかくなっていなかったのでその奥に進むには時間がかかったが、小刻みな抽送はいいところを優しく刺激したようで感じているのが分かる。

油を足さなくても中から潤みが溢れてくるからだ。

「あぅんっ!」

行き止まりを感じたところでプロチオーネが尻尾を膨らませた。

痛かったのかと腰を引くと、尻が追いかけてきた。

「痛くないか?」
「痛くない……、おく、気持ちいい……」

なるほど。
ならば遠慮は陰茎の根本のコブが入らないようにすれば良いだけか。

緩慢な動きから徐々に速度を上げ、奥と手前のいいところをあやすように撫でさすれば、淫蜜が溢れて卑猥な音色を奏で始めた。

「やぁ、それぇ、気持ちい、よぅ……! 初めて、なのに、こんな、あぁ……、しゅご……、あぁぁんっ!!」

あまりにも可愛らしく煽るものだから、さすがに我慢の限界がきた。しこりが裏筋を擦るのも、奥がちゅぽちゅぽ吸い付くのも、想像を遥かに超える快楽だった。

「あぅ、も、イク! イっちゃう! イかせてぇ!!」
「あぁ、一緒にイこう。こうか? こっちか?」
「ひゅあぁぁぁあっ!!」
「くっ!!」

激しい動きで翻弄したつもりが、翻弄されて搾り取られた。ような気がする。狼なので射精が長いのだが、プロチオーネの中もずっと蠢いている。

入れたまま後ろから抱きしめて終わりを待った。

「ピオ……、ニール、すごかった……」
「プロチオーネも最高だった。……オレが初めてで、本当に良かったのか?」
「他の人なんて、考えただけでイヤ! 最初で最後で、唯一が、ピオニール、で、嬉しい……」
「最初で最後で唯一の伴侶か。最高だな」
「ん。キス、して欲しい……」
「あぁ、次は向かい合わせでしてみるか」
「うん。今度はキスしながらかわいがって?」
「積極的だな」
「……はしたない?」
「いいや、まったく」

恥じらって後背位しかさせてくれないやつもいると聞くが、いろんな対位を試したい。

……抱き合ってすると毛皮を堪能できる、プロチオーネの陰茎がオレの腹に擦れてとても気持ちがいい、と照れながら教えてくれた。

終わった後に放置すると毛がカピカピになるのには苦笑したが、丁寧に洗われてまた臨戦態勢になり、もう1度睦み合えて幸せだ。

砦は3日ほど休暇扱いになっているので、心ゆくまで堪能し、話し合いの結果、プロチオーネはこのまま砦に暮らすことになった。

家に帰ったら他の男とつがわなくてはならない、なんて言われたら、帰せるはずがなかった。

今までは独身用の部屋にいたが、家族用の部屋もあると言うので、部屋の移動を申請した。獣人は人のつがいに手を出さないので、浮気の心配もない。

完全獣人ヴェーシを差別する人間のいないこの砦は、オレにはとても居心地が良く、過酷でも何でもない。

と、思ったらここに誘われた時に聞いたアレは完全獣人ヴェーシを誘うための嘘だったようだ。まぁ、楽しいとか幸せな場所とか言われたら胡散臭くて断っていただろうから、納得するしかないが。

「プロチオーネはこんな、田舎とさえ呼べない場所で大丈夫なのか?」
「ぼくはピオニールさえいればどこでもいいんです! あ、暑すぎたり沼地だったりしたら嫌だけどね」
「ははは、それはオレも嫌だな。冬は厳しいらしいぞ」
「温めてくれるんでしょう?」

あざとく甘えてくるつがいのために、寒さを凌ぐ毛皮と薪と食料をせっせと狩った。

そしてたまに町への買い出しを口実にデートをし、町の人間から羨ましがられたり冷やかされたり、幸せに過ごしている。

生まれた子供は揃いも揃って美形な半獣人パラヴィーナで、天国だ。だがこの子たちが嫁にいくことを思うと心配で仕方がない。

獣人は10歳頃には成人するから、本当にあっという間だろう。

どんな奴とつがうのか、不安はあるが願うのは子らの幸せだ。好きに生きて欲しい。

「まだ先だよ?」
「だが……」
「子供よりぼくをかわいがって」
「6人目を作るか?」
「うん! 今度こそ完全獣人ヴェーシを産むんだから!」
「では今夜も奥の奥まで、可愛がらないとな」

年2回の発情期に毎回孕んでくれるので、つがいにして3年たった今、すでに5人の子供がいる。

低く見られる完全獣人ヴェーシであっても、幸せへの道は拓かれている。幸運だった。

プロチオーネも子供達も、大切にして、誰よりも幸せにする。オレは誰にともなく、勝手に誓った。

----- fin -----
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皇洵璃音
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魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

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