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6 留学生

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それから毎日、バルドゥイーン様の部屋に寝泊まりすることになり、料理はしなくて良くなってしまった。しかも食費は無料!

魔力譲渡のお礼だって。

もっとくれるって言われたけど、受け取ってもどうしたらいいか分からないので、何か困ったときに助けてもらう約束をした。

そして当然、おかしな噂が立つわけで……。

どうやって取り入ったのか、はともかく
ラナはバルドゥイーン様の愛人候補だとか。お前ら10歳のクセに!!

いくら権力があっても、うちの天使はあげません!!

て、ぼくにはなんの権力もないけどさ。

いつか、かわいいお嫁さんもらうんだろうなぁ。いや、しっかり者の姉御肌でも良いな。幸せそうにする天使を眺められるよう、しっかり勉強して補佐にならなきゃ!!

がんばるぞー!!


*******


「おまえ、ライヒレント領の出身なら、黒髪の者について知ってるか?」

ぎゃーっ!!
アホが気づいたぁぁぁぁっ!!

「し、しりません……」
「知ってるはずだ」
「しりません!」

知ってたらどうするつもりだよ!!

「……どれだけの魔力があるのか、気になるだろう?」
「まぁ、そうかもしれませんが」

おまえには知られたくない!!
それにしても町の名前と黒髪しか覚えていないようで良かった。

その後はなんとなく視線を感じるものの、直接何か言われることはなかった。


*******


「「バルドゥイーン様、キュアノス様、お願いがあります!」」

困った時に助けてもらう約束なので、今お願いする。試験が! ダンスの試験が来週なのだ!!

お2人は初めから上手で、すぐに授業を免除された。バルドゥイーン様が家から出られなかったから、家でできることは大抵できるという。さすがです!!

で。

ぼく達はダンスがとても苦手。
だってやる気にならないじゃない?
領主様や家庭教師の先生には真面目にやらないと困るよ、って言われたけど、モテたいとか、好きな女の子がいる、とかじゃないからね。

でも試験は落ちたら困るんだよぅ!

「ははは、いいよ。教えるよ」

バルドゥイーン様が笑顔でそう言ってくれた。

基本は体を寄せ合ってくるくる回るダンス。簡単そうなのになぜかよろける。むぅ。

「姿勢が悪い」
「相手と息を合わせて」
「恥ずかしがらない」
「楽しめ」

んぎぎぎぎ……!
姿勢はともかく、他は無理難題!

ラナ以外とこんなに密着して恥ずかしがるな、って無茶を言う。ラナも小さい頃はぼくが抱きつくの、恥ずかしがってたなぁ。今は裸の付き合いできるほどになったけど。

1週間、みっちり付き合ってくれて、テストにはちゃんと合格できた。

「「ありがとうございます!」」
「毎日魔力を分けてもらっているのだから、このくらいではまだ、借りを返しきれないよ」
「そうだ。同属性からの魔力供給は、可能ではあるが効率は芳しくない。アーテルの能力の希少性を考えたらもっと多くを要求して当然だろう」
「うーん……?」

前世でアレバダスの法則を刷り込まれたせいか、持ってるものを出し惜しみするのは気が引けるんだよねぇ。お金以外は。

誰に刷り込まれたんだっけ?
アレバダスあれば出すの法則って。

……おじいちゃんかな?

「いつか不作や災害が起きたら、ライヒレントを助けて下さい」
「それは貴族の義務だろう」
「そうかも知れませんが、真っ先に思い出していただけると嬉しいです」
「私が将来どうなるか、まだ分からないが、できる限り支援すると約束しよう」
「「ありがとうございます!」」

卒業したらそれぞれの家に帰る。
ラナは跡取りだから年に2ヶ月だけ王都に行って、後はライヒレントで過ごすはずだ。でもバルドゥイーン様は三男だから……。どうなるんだろう?

功績があれば叙爵もあるけど、そうでなければ役人とか学者とか? 商売もあり得るけど、向いてなさそう。芸術家の可能性もあるかな。



それからも、何かと勉強を見てもらったり、クラスメイトとのあれこれを仲裁してもらったりして、とても助かった。

むしろぼく達の方が借りが多い気がするんだけど、量より質らしい。

……カツラ、邪魔だもんねー。



*******


けっこう楽しく学生生活を送り、1年がたったある日。留学生がやってきて、ぼく達の日常をほんの少し変えた。

髪をすっぽりと布で覆った金の瞳の褐色の美少年。眉毛とまつ毛が黒いから黒髪の可能性もある。

眉毛だけ色の濃い人もいるから、絶対じゃないけど。

砂漠の国の第二王子で、挨拶のときに彼が言った言葉で、ぼく達のファッションが変わったのだった。

「この国に我が国の流儀を押し付けるつもりはない。だが、私がいる間だけは歩み寄って欲しい」

かの国では、能力の証である髪を人に見せることは、肌を晒すことに等しいという。そこで全員に絹布が配られ、装着の仕方を教えられた。

カツラが外せる?

と、思ったけど怖いからやめておこう。

王子様のお相手は基本的に侯爵家がするので、バルドゥイーン様とエッケンハルト様が交代でお相手しているのだけど、興味を持てば男爵とも交流してくださる気さくな方だった。

そして事件が起こってしまった。

側仕えの子がうっかり躓き、袖のボタンが絹布に引っかかって髪が半分、見えてしまったのだ。きれいな黒い巻き毛。

髪の毛を人目に晒すことは肌を晒すのに等しい。

つまり、クラスのみんなの前でパンツをずり下ろされたような恥ずかしさだったのだろう。王子様は真っ赤になって髪を隠し、側仕えに支えられて寮の部屋に篭ってしまった。

1週間経っても登校せず、部屋に引きこもっているので粗相をした子は死のうとするし、その子の主人はずっと泣いてるし、バルドゥイーン様もエッケンハルト様も先生方も、困りきっていた。

ぼくは王子様の国の文化を学ぶべきだと考え、バルドゥイーン様達に相談した。図書室の本では大雑把な国の歴史と、ほとんどが砂漠で友好国としか交流をしない、閉鎖的な国だということしか判らなかった。

「彼の国の商品を売る店に渡りをつけた。共に行こう」

バルドゥイーン様はぼく達の他にエッケンハルト様も誘い、学校を休んでその店に向かった。

「言いにくいのですが、我が国では黒髪の人間は親が悪魔と契約した証と言われております」

魔力に頼らず、知恵や力で砂漠の過酷な自然に立ち向かうのが美徳とされる国。魔力は健康でいられれば充分とされる。だから、髪を隠す文化になったようだ。

「王族が髪色を誤魔化すために決めたとも言われておりますが、砂漠で頭を出していたら日射しにやられて死んでしまいますからね。自然に受け入れられました」

つまり、パンチラ的に恥ずかしかったのではなく、コンプレックスである髪を見られたのが恥ずかしいのか。この国ならそれは隠さなくていいんだ、って教えてあげたら、元気になるかな?

ぼく達は寮に戻って、王子様をお茶会に誘った。


*******


「シファーァ王子はいまだ気分が悪く、お会いできないそうです」
「シャクール様はそれで良いのですか? せっかく留学していらして、こちらの文化も学ばずにおかえりになってしまうのですか?」

バルドゥイーン様が食い下がると、シャクール様は俯いて考え込み、部屋に入れてくれた。

侯爵寮なのでバルドゥイーン様の部屋と同じ作り。それなのに持ち込まれたふかふかの絨毯や観葉植物で、まるで違う部屋に来たような気持ちになる。

絨毯の手前で靴を脱いで座るらしい。

寝室から外国の言葉での怒鳴り声が何度か聞こえた。

それから静かになったので、たぶん支度をしているのだろう。ぼく達は主より先に座る訳にはいかないので、部屋に並んで待っていた。
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