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4 お出かけ
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「あ、あそこだ!」
「2人でお店でご飯食べるの、初めてだね」
「わ、本当だ!! えへへ、楽しいね」
寮長おすすめのお店はおしゃれなカフェだけど、平民にもお手頃価格で、ボリュームが選べるお店。無口なシェフと元気なおかみさんが2人でやってるお店。
いざ、おすすめ定食カモン!!
「「ほわぁぁぁ……。美味しい~!!」」
「あははははっ! 仲良いねぇ。あ、悪いけどここでは、お貴族様も平民も同じ扱いするからね」
「はいっ! ぜひそうしてください!」
「アーティ、それボクが言うセリフじゃない?」
「でも同じ気持ちでしょ?」
「それもそうか」
ぼくたちのやりとりに吹き出したおかみさんは、ベリーを2つずつおまけしてくれて、またおいで、って言ってくれた。
*******
「あ! フランク寮長、美味しいお店教えてくれてありがとうございました!」
「美味かったか?」
「「はいっ!!」」
部屋に戻って図書館で借りた本を2人で読む。伝説の双黒の物語だ。
相棒の剣士と共に無尽蔵の魔力で凶悪魔獣を討伐する冒険譚。人の役に立とうと自分から旅に出て、剣士と神官を仲間にして旅をしながら魔獣の被害で困っている人を助けていく。
ありきたりだけどやっぱりワクワクする!
これぞ王道!!
「絵本が詳しくなっただけで、魔力を人に分け与えたりはしてないね」
「あ、そうか。それを調べるんだったっけ。物語を楽しんじゃった」
「のんきだなぁ」
ラナは魔力を与え続けるぼくを、ずっと心配している。ラナの髪がハニーブロンドになってもぼくの髪色は変わらないのに。ほんの少しだけ茶色くなっているような気もするけど、光の加減だろう。
「ラナが心配しすぎなんでしょ? まぁ、ラナに魔力をあげられるように健康には気をつけるよ」
夕飯のシチューは少し焦げた……。
*******
翌日、図書館に本を返してから街へ散策に行くと、物陰に手を入れて何かを探しているようなそぶりの人がいた。
(ラナ、関わらないようにしよう)
(でも困ってるみたいだよ。それにほら、同じ学校の生徒だ)
見れば襟に校章をつけている。
しかも同じ学年のようだ。
仕方ない。
「あの、どうかされましたか?」
「んんっ!? あぁ、ちょっとここにお金を落としてしまってね」
「お手伝いしましょう」
ぼくは土属性の魔力で金属の塊を探ってみた。この人が探っていたのと別方向の、割と手前にあるのを感じ取り、そちらへ手を入れた。
「え? そんなところにあったの?」
「そのようです。……初めて見るコインですが、外国の方ですか?」
「あっ、アーティ! それ白金貨!!」
「しーっ! 声が大きい!!」
白金貨……、だと?
今日のランチが銅貨5枚。銅貨25枚で銀貨1枚。銀貨50枚で金貨1枚。白金貨は金貨50枚分だ。
分かりづらいけど、この世界のお金はこんな感じ。
金貨50枚分だよ!
「ありがとう。1ヶ月何も食べられなくなるところだったよ」
1ヶ月!?
1年分じゃないの? それでも多いよ!!
平民の平均年収が金貨30枚だよ!?
やばい、この人上位貴族だ。
ワインレッドの髪に金の瞳。
汚れてるけど上質な服。
……はぁ。
「私はバルドゥイーン=フォン・ヴィターハウゼン。侯爵家の三男だ。側仕えを撒いてきたものの、白金貨がどこで両替えできるか、悩んでいたのだ」
これ、きっと側仕えの人はわざと大きなお金を渡したんだな。そうすれば後を追いやすいし。でもそれだとこの人が危なくないかな?
って!!
ヴィターハウゼンて、侯爵家筆頭じゃないか!!
「貴族向けのお店なら両替えできると思いますが」
「見張られているんだ」
あぁ、貴族向けのエリアは見張られているのか。学校を挟んで北が貴族街、南が平民街だから、学校前で見張っていれば捕まえられる、と。
「あの、ボクはラナリウス・ライヒレント、子爵家の長男です。こちらは側仕えのアーテル。ヴィターハウゼン様はどちらへ行きたかったのですか?」
「……バルドゥイーンでいい。庶民の食事に興味があるのだ。良い店を知らないか?」
これは諦めるしかないか。
「ボク達も昨日初めて入ったお店ですが、よろしかったらご一緒しませんか?」
「おお! 良い店があるのか。ぜひ連れて行ってくれ。……っと、私は持ち合せが……」
「今日はぼく達が払います」
昨日の店なら安いから金銭的には大丈夫。とはいえ、おごることになってしまった。
うぅ……、関わりたくなかった。
「こんにちは!」
「おや、また来てくれたのかい? 嬉しいねぇ」
「今日は3人なんです」
「あいよ! おすすめ定食3つだね。並盛りかい? 大盛りかい?」
「えっと……、ぼく達は並盛りで。バルドゥイーン様はどうしますか?」
「並、ということはそれが一般的なのだな? それにしてくれ」
同じ10歳とは思えない話し方だけど、上位貴族ってみんなこんな感じなのかな?
おかみさんは笑顔で奥に入った。
「バルドゥイーン様、側仕えの方はよろしいのですか?」
「うむ。あやつは私が1人で食事ができないだろうと言うのだ。だから1人で来たのだが、道案内はさせてしまったな……」
「それくらいはいいと思いますが」
「そうだろうか」
「はい」
「はいよ、お待たせ!」
いい人っぽいけど、いかにも箱入りおぼっちゃまだよなぁ、と心配が頭をよぎったとき、おかみさんが定食を持ってきた。
「……庶民はずいぶん食べるのだな」
「そうですか?」
「前菜がこれではメインディッシュが食べられそうもない……」
この見た目で前菜だと思うの!?
「あっはっはっ! これは前菜からメインディッシュ、デザートまで全部まとめて盛り付けているんだよ。だから、これで全部さ」
「なんと! それは本当か?」
「本当だよ。お貴族様には馴染みがないだろうけど、庶民の当たり前だよ。あたし達の生活を知っておくれ」
「うむ。私はあらゆる事を学ばねばならぬ。ご婦人、どうか庶民の当たり前を教えてくれ」
「あぁ、よろこんで。ふふふっ、大物になりそうだねぇ」
高位貴族とはいえ、まだ10歳の子
供だ。いい気になっていてもおかしくないのに、バルドゥイーン様は謙虚で勤勉らしい。この人となら関わっても大丈夫かも知れない、と思ったところに新顔登場。ロイヤルブルーの髪と瞳、って派手だな。
「おかみ、私にも同じものを頼む」
うぅむ、話し方が渋い。
この子がバルドゥイーン様の側仕えか。高位貴族の側仕えは貴族、って話だからラナと同じ子爵あたりかな?
「……私だって1人で食事ができただろう」
「案内させておりましたね」
「見ていたのか!」
「当然です」
悪いやつに狙われないか、おぼっちゃまが何かやらかさないか、心配だろうしね。隠れて見てたんだね。
「あっ、あの、ラナリウス・ライヒレントと申します。はじめまして」
「キュアノス・ツァイス。バルドゥイーン様の側仕えだ。ライヒレント子爵家の1人息子か。小さい頃は身体が弱かったと聞いているが、元気そうだな」
「ボクをごぞんじなのですか?」
「貴族の系譜を覚えるのは当たり前だろう。まさか、私を知らないのか?」
「いえっ! キュアノス様のことはもちろん、ぞんじあげておりましゅ!」
うちの天使が噛んだ。
いや、下の者は失礼があっちゃいけないから上の爵位の人を必死で覚えるけど、雲の上の人が下級貴族の子供まで覚えているとは考えてなかったなぁ。
爵位を継いだ後ならまだしも。
「魔力が少なすぎて成人できないと思われていたのに、ある日突然健康になったなど、にわかに信じがたいからな」
「そっ、そうなんですか? 成長と共に魔力が安定したんだろう、ってお医者様が……」
思わず口を挟んでしまった。
けど、つまりとっくに目立ってた、ってこと? どどど、どうしたら!?
「2人でお店でご飯食べるの、初めてだね」
「わ、本当だ!! えへへ、楽しいね」
寮長おすすめのお店はおしゃれなカフェだけど、平民にもお手頃価格で、ボリュームが選べるお店。無口なシェフと元気なおかみさんが2人でやってるお店。
いざ、おすすめ定食カモン!!
「「ほわぁぁぁ……。美味しい~!!」」
「あははははっ! 仲良いねぇ。あ、悪いけどここでは、お貴族様も平民も同じ扱いするからね」
「はいっ! ぜひそうしてください!」
「アーティ、それボクが言うセリフじゃない?」
「でも同じ気持ちでしょ?」
「それもそうか」
ぼくたちのやりとりに吹き出したおかみさんは、ベリーを2つずつおまけしてくれて、またおいで、って言ってくれた。
*******
「あ! フランク寮長、美味しいお店教えてくれてありがとうございました!」
「美味かったか?」
「「はいっ!!」」
部屋に戻って図書館で借りた本を2人で読む。伝説の双黒の物語だ。
相棒の剣士と共に無尽蔵の魔力で凶悪魔獣を討伐する冒険譚。人の役に立とうと自分から旅に出て、剣士と神官を仲間にして旅をしながら魔獣の被害で困っている人を助けていく。
ありきたりだけどやっぱりワクワクする!
これぞ王道!!
「絵本が詳しくなっただけで、魔力を人に分け与えたりはしてないね」
「あ、そうか。それを調べるんだったっけ。物語を楽しんじゃった」
「のんきだなぁ」
ラナは魔力を与え続けるぼくを、ずっと心配している。ラナの髪がハニーブロンドになってもぼくの髪色は変わらないのに。ほんの少しだけ茶色くなっているような気もするけど、光の加減だろう。
「ラナが心配しすぎなんでしょ? まぁ、ラナに魔力をあげられるように健康には気をつけるよ」
夕飯のシチューは少し焦げた……。
*******
翌日、図書館に本を返してから街へ散策に行くと、物陰に手を入れて何かを探しているようなそぶりの人がいた。
(ラナ、関わらないようにしよう)
(でも困ってるみたいだよ。それにほら、同じ学校の生徒だ)
見れば襟に校章をつけている。
しかも同じ学年のようだ。
仕方ない。
「あの、どうかされましたか?」
「んんっ!? あぁ、ちょっとここにお金を落としてしまってね」
「お手伝いしましょう」
ぼくは土属性の魔力で金属の塊を探ってみた。この人が探っていたのと別方向の、割と手前にあるのを感じ取り、そちらへ手を入れた。
「え? そんなところにあったの?」
「そのようです。……初めて見るコインですが、外国の方ですか?」
「あっ、アーティ! それ白金貨!!」
「しーっ! 声が大きい!!」
白金貨……、だと?
今日のランチが銅貨5枚。銅貨25枚で銀貨1枚。銀貨50枚で金貨1枚。白金貨は金貨50枚分だ。
分かりづらいけど、この世界のお金はこんな感じ。
金貨50枚分だよ!
「ありがとう。1ヶ月何も食べられなくなるところだったよ」
1ヶ月!?
1年分じゃないの? それでも多いよ!!
平民の平均年収が金貨30枚だよ!?
やばい、この人上位貴族だ。
ワインレッドの髪に金の瞳。
汚れてるけど上質な服。
……はぁ。
「私はバルドゥイーン=フォン・ヴィターハウゼン。侯爵家の三男だ。側仕えを撒いてきたものの、白金貨がどこで両替えできるか、悩んでいたのだ」
これ、きっと側仕えの人はわざと大きなお金を渡したんだな。そうすれば後を追いやすいし。でもそれだとこの人が危なくないかな?
って!!
ヴィターハウゼンて、侯爵家筆頭じゃないか!!
「貴族向けのお店なら両替えできると思いますが」
「見張られているんだ」
あぁ、貴族向けのエリアは見張られているのか。学校を挟んで北が貴族街、南が平民街だから、学校前で見張っていれば捕まえられる、と。
「あの、ボクはラナリウス・ライヒレント、子爵家の長男です。こちらは側仕えのアーテル。ヴィターハウゼン様はどちらへ行きたかったのですか?」
「……バルドゥイーンでいい。庶民の食事に興味があるのだ。良い店を知らないか?」
これは諦めるしかないか。
「ボク達も昨日初めて入ったお店ですが、よろしかったらご一緒しませんか?」
「おお! 良い店があるのか。ぜひ連れて行ってくれ。……っと、私は持ち合せが……」
「今日はぼく達が払います」
昨日の店なら安いから金銭的には大丈夫。とはいえ、おごることになってしまった。
うぅ……、関わりたくなかった。
「こんにちは!」
「おや、また来てくれたのかい? 嬉しいねぇ」
「今日は3人なんです」
「あいよ! おすすめ定食3つだね。並盛りかい? 大盛りかい?」
「えっと……、ぼく達は並盛りで。バルドゥイーン様はどうしますか?」
「並、ということはそれが一般的なのだな? それにしてくれ」
同じ10歳とは思えない話し方だけど、上位貴族ってみんなこんな感じなのかな?
おかみさんは笑顔で奥に入った。
「バルドゥイーン様、側仕えの方はよろしいのですか?」
「うむ。あやつは私が1人で食事ができないだろうと言うのだ。だから1人で来たのだが、道案内はさせてしまったな……」
「それくらいはいいと思いますが」
「そうだろうか」
「はい」
「はいよ、お待たせ!」
いい人っぽいけど、いかにも箱入りおぼっちゃまだよなぁ、と心配が頭をよぎったとき、おかみさんが定食を持ってきた。
「……庶民はずいぶん食べるのだな」
「そうですか?」
「前菜がこれではメインディッシュが食べられそうもない……」
この見た目で前菜だと思うの!?
「あっはっはっ! これは前菜からメインディッシュ、デザートまで全部まとめて盛り付けているんだよ。だから、これで全部さ」
「なんと! それは本当か?」
「本当だよ。お貴族様には馴染みがないだろうけど、庶民の当たり前だよ。あたし達の生活を知っておくれ」
「うむ。私はあらゆる事を学ばねばならぬ。ご婦人、どうか庶民の当たり前を教えてくれ」
「あぁ、よろこんで。ふふふっ、大物になりそうだねぇ」
高位貴族とはいえ、まだ10歳の子
供だ。いい気になっていてもおかしくないのに、バルドゥイーン様は謙虚で勤勉らしい。この人となら関わっても大丈夫かも知れない、と思ったところに新顔登場。ロイヤルブルーの髪と瞳、って派手だな。
「おかみ、私にも同じものを頼む」
うぅむ、話し方が渋い。
この子がバルドゥイーン様の側仕えか。高位貴族の側仕えは貴族、って話だからラナと同じ子爵あたりかな?
「……私だって1人で食事ができただろう」
「案内させておりましたね」
「見ていたのか!」
「当然です」
悪いやつに狙われないか、おぼっちゃまが何かやらかさないか、心配だろうしね。隠れて見てたんだね。
「あっ、あの、ラナリウス・ライヒレントと申します。はじめまして」
「キュアノス・ツァイス。バルドゥイーン様の側仕えだ。ライヒレント子爵家の1人息子か。小さい頃は身体が弱かったと聞いているが、元気そうだな」
「ボクをごぞんじなのですか?」
「貴族の系譜を覚えるのは当たり前だろう。まさか、私を知らないのか?」
「いえっ! キュアノス様のことはもちろん、ぞんじあげておりましゅ!」
うちの天使が噛んだ。
いや、下の者は失礼があっちゃいけないから上の爵位の人を必死で覚えるけど、雲の上の人が下級貴族の子供まで覚えているとは考えてなかったなぁ。
爵位を継いだ後ならまだしも。
「魔力が少なすぎて成人できないと思われていたのに、ある日突然健康になったなど、にわかに信じがたいからな」
「そっ、そうなんですか? 成長と共に魔力が安定したんだろう、ってお医者様が……」
思わず口を挟んでしまった。
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