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ほんの番外編①

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ーー チサト side ーー

約束通り、ハルトが1歳になったのでフィールの実家に来ています。爽やかな秋の風に乗った潮の香りがとても贅沢な感じ!

家も広いけど庭が広々してて家族揃って朝稽古してる……おれは少しだけ朝食作りを手伝わせてもらってます。



そして海!
初めての海!!
広くて、キラキラしてて、見ているだけでもウキウキする!!
潮風ーーーーー!!

この国は内陸の鉱山国からの輸出品とこの国の様々な品物を海外に運ぶ大きな港があるため、とても賑わっている。もちろん輸入品もここを通る。

ちなみにおれが住んでる町は鉱山国からの通り道だった。そう言えば通行料で潤ってる、って聞いたっけ。

で!

海と言えば海鮮! シーフード!
ハルトはもう大人と同じものを食べるので分けっこして食べている。まだ前歯しか生えてないのに驚くほど食べる。

カフェのテラス席でお昼を食べて、お昼寝を始めたハルトを父方の祖父母が連れ帰ってくれた。ここからはフィールと2人でのデート。磨いた貝や魚の鱗のアクセサリー、真珠はこちらでも高級品。魚の皮を鞣して作ったバッグや防具。色々なお店を見て回った。

店の人にそそのかされて魚の皮と鱗でできた髪飾りをつけられた……。透き通った鱗でできた花がついていて遠い目をしてしまう。

綺麗だけどさ。
つけるのはどうよ?
髪を伸ばして欲しいって言われたのはこのためだったの?
めっちゃ恥ずかしいよ!!

ドラの音が響き渡り、大きな船が入港した。少し沖に停泊し、小さな船で人や積み荷を陸に運ぶのを眺める。帆船だ!

かっこいいなぁ。

のんきに眺めていたら強い風が吹いて、船が大きく揺れ、人が落ちそうになったり積み荷が崩れたりと大騒ぎになった。危ないからそこを離れようとした時、フラグが立ちました。(涙)

袖が何かに引っかかって引き倒され、フィールと手が離れてしまった。必死に手を伸ばしたんだけど、救助に行く人や怪我人を運ぶ人達に遮られ、大きな人達には揉みくちゃにされ、よろけて転び、方向が分からなくなってしまった。

ちょっと落ち着けば帆船の方角で分かったはずなのに。山の中ならちゃんと方角が読めるのに!

「こっち!」

オロオロしてたら誰かに腕を引かれた。
見れば同じデザインの服を着た若いイケメンくんが2人。学生かな?

「いたっ!」
「怪我をしたのか?」
「うぅ……そうみたい」
「ここの救護所は手一杯だろう。学院の医務室に連れて行ってやる」
「でも! 迷子はその場を動いちゃダメなんだよ!」
「迷子か」

自分で言ってしまって悔しい。ぐぬぬ……

「連れがいるなら連絡係を残して行こう。ハラルド、頼む」
「え~、おれもこのかわいい子抱っこした~い」
「ハラルド……」
「了解致しました!」

焦げ茶色の短髪で日に焼けた肌の真面目そうな子がひと睨みすると、お調子者っぽい子が真面目になった。
おれは足首をかなり酷く捻ったみたいで痛みが増してくる。お尻も痛いから尻もちついた時に打ったかな?立ち上がろうとしてまた転んだ時にヒザも擦りむいている。しかたないのでこの子達に甘える事にした。

軽々お姫さま抱っこされたけど、遠くない?

「あの、ありがとう。おれはチサト」
「私はディトマール、王立学院騎士科の3年だ」
「騎士になるの? かっこいいね」
「んんっ! か、かっこいい、ではなく人を守るために日々鍛錬を……」

学院はすぐそこで10分で門についた。
白い壁に赤い屋根の絵葉書になりそうな大きくて立派な建物。

「ディトマール、ただ今戻りました!」
「その子は?」
「港で怪我をした迷子であります!」
「迷子なのに連れてきたのか」
「連絡係としてハラルドを待機させてあります!」
「まずまずの判断だな。よろしい、医務室へ行きなさい」
「ありがとうございます!」
「あの! ご迷惑おかけします」
「君は気にしなくて良い。救護の訓練にもなるしな」

日焼けした肌に赤い髪の男らしいこの人は、先生かな?副隊長さんくらいガッチリしてる。イケメンだらけだなぁ。

医務室にはのほほんとしたお爺さん先生がいた。

「そこに座りなさい」
「はい、あっ! 痛!」
「なんじゃ尻が痛いのか?」
「あの……尻もちをついたから……」
「うむ、尻と膝と足首、それに掌か。足首は酷く捻っとるが骨には異常がないな。湿布して固定して……2、3日は歩いてはいかんぞ。手とヒザも洗浄しておこう」
「2、3日……」
「用事があるのかね」
「いえ、親戚の家に遊びに来てるのでお手伝いできなくなっちゃうな、と思って」
「怪我人に働かせる家なのか?」
「いいえ! とても優しい人達なので、それはありません。おれが手伝いたいってだけです」
「良い子じゃな。次は尻を診るからディトマールは外で待ちなさい」
「は、はい!」

ディトマールくんの顔が少し赤いように見える。お姫様抱っこで運んで疲れたのかな?
若いから「尻」と言うキーワードが恥ずかしいのかな? 真面目そうだけど男の子だもんね。

「おお、こりゃかなり腫れとるな。擦り傷はないようじゃから湿布を貼るぞ。……下着は付けない方がいいじゃろ」
「パンツ履いちゃダメなんですか!?」
「湿布が剥がれてしまうからな。ズボンもやめてこれを巻いておきなさい」

大きな布をくるくるっと巻いて腰で結ぶ。
巻きスカートだよね。(涙)

「ディトマール、入って良いぞー。では家に連絡をしよう。名前は?」
「チサト・デーメルと言います」
「「デーメル!?」」
「はい。ギュンター・デーメルさんのお家にお邪魔しています」

お兄さんが家を継いだんだからギュンターさんち、で良いんだよね? おじいちゃんちじゃないよね?

「そうか、テオフィールの嫁か。ギュンターとテオフィールは元気か?」
「はい! ……ご存知ですか?」
「2人もあいつらの両親もここの卒業生じゃ。あそこんちの人間は骨折しても顔色を変えないような可愛げのない学生じゃったよ」
「骨折……」

おれは捻挫と打ち身で涙目です。
でも2~3日で治るの? パンツはいつから履いて良いの?

「治る訳ではない。が、トイレと食事くらいは歩いて良い、と言うだけじゃ。下着は腫れが引けば履いて良いぞ。風呂も我慢じゃぞ。ま、デーメルの家の者ならしっかり判断してくれるじゃろう」

きっとこの学院で応急処置の心得を教えるんだろうな、と考えていたら廊下から忙しない足音が聞こえてきた。
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