40 / 134
魔女の一撃
しおりを挟む
ーー チサト side ーー
ずるい!
おれとほとんど同じデザインなのに!
ズボンの丈が違うだけなのに!!
フィールはかっこいい。
おれは……見た目も持って生まれた才能みたいなものだよな。……はぁ。
「それではごあんないいたします」
残念な気持ちを抑え込み、領主様のいる母屋(?)の立派な食堂になぜか案内されて着席して少し待つと、領主様がやって来た。
「ツィーゲ伯爵はまだ身体が辛いそうなので私達だけでいただこう」
「かしこまりました」
ギゼが一礼して入って来たのと違うドアをノックすると、食事が運ばれて来た。当たり前だけど給仕は他の人がして、ギゼは立って見てるだけ。にこにこしてるけど、なんだかこう……
「お口に合いましたでしょうか?」
「はっ、はい! 美味しかったです!」
……たぶん。
給仕の人に聞かれてこう答えたけど、ギゼが心配で味がよく分からなかったなんて言えない……
食事を終えてギゼがいつ夕飯を食べるのか聞いたらこれからだって。部屋で寛ぐからゆっくり食べてから来てね、と念を押した。
「フィール……」
「どうした?」
「ギゼが頑張ってるのを喜ばなくちゃいけないのに、一緒にご飯を食べられないのが悲しくて……まだ8……9歳なのに働くのって……この世界では普通の事かも知れないけど、おれの世界ではまだまだ遊びながら勉強してる歳なんだよ。だから……もっと子供らしく甘やかしてやりたかったのに……」
「だが、決めたのはギゼだ。チサトに出来る事はギゼを応援し、もしここが嫌になったらいつでも温かく迎えてあげる事だと思うよ」
トントントン
「ギゼラです。はいっても よろしいでしょうか」
「どうぞ」
「せんせい! どうしたの!? ……ですか?」
「こっ、これは! ぐすっ……あの……」
「一緒に食事ができなかったから心配しているんだよ」
「おしょくじ、おいしいですよ? りょうりちょうも めいどがしらのヒルトさんも しごとにはきびしいけど やさしくしてくださいます」
「寂しくない?」
「……よるはすこしさびしいけど、ふたりべやだから すこしだけです」
「そっか。大丈夫ならいいんだ」
「せんせい、よるはおしごとおやすみなの。あそびにきても よろしいですか?」
「うん! 良いよ! 一緒に寝る?」
「チサト!?」
「ライナーさんにきいてみます!」
ぱぁぁぁっと顔を輝かせ、走るように飛び出して行ったギゼは、思いの外早く帰って来た。
「せんせい、いっしょに ねていいって!」
「やった! 一緒に寝よう! フィールも一緒に!」
「あ、あぁ」
シャワーはさっき浴びたけど、ギゼがまだだったので一緒にもう一度浴びた。それから寝間着に着替えてベッドに入る。フィールとギゼが揉めたけど、おれのたっての希望でギゼを真ん中にして川の字になった。
「せんせい、あのね……」
ギゼはここに来てから教えられた事や驚いた事、難しかった事、色々話してくれた。そしておれに抱きついて眠った。
「チサト、ギゼは寝た?」
「ん……頑張ってるのが分かって良かった」
「そうだな。まずはギゼを信じて応援しよう。ところで……」
「?」
「なぜギゼを真ん中にして寝たかったんだ?」
「あぁ、川の字って言ってね、その……夫婦で子供を挟んで眠るのが……幸せの象徴って言うか……」
「夫婦……?」
「あっ! あの! おやすみなさい!!」
恥ずかしい事を言ってしまって慌てて眠ろうとしたけど、フィールが声を潜めておやすみのキ口づけを要求して来た。ギゼの上でギゼを起こさないようにそっと舌を絡める背徳感と言うか罪悪感と言うか!?
「おやすみ」
「お……おやすみなさい……」
「……んん……あ……ちさとせんせい、おはようございます。ちゅっ」
「ちゅ……ふぇ? せんせい? あ、ギゼ、おはよう」
「チサト、ギゼ、おはよう。それからツィーゲ伯、客の部屋に忍び込むとはどんな了見ですか?」
「忍び込むだなんて!! 私はギゼラを起こしに来たんだ。仕事だよ、と」
「ごしゅじんさま!! ねぼうしてしまって もうしわけございません!」
「寝坊ではないから安心しなさい」
「そうだよ、ギゼ。ツィーゲ伯はチサトとギゼの寝顔を見に来ただけだ」
「おれ達の寝顔?」
「テオフィールの寝顔だって見たかったとも! ……こほん。そうだ、愛らしい3人が寄り添う寝姿を見れば私も全快できるからね」
なんだかよく分からないけど元気そう。
「具合は良くなったのですか?」
「君たちのおかげでね。だがまだ長くは歩けないのでライナー、運んでくれ」
「かしこまりました」
背負子……
主人を背負子に乗せて運ぶ姿に驚けばいいのか、背負子に乗ってまで寝顔を見に来た領主様に驚けばいいのか。
「ツィーゲ伯は怪我をしたのですか?」
「魔女の一撃です」
魔女!? 魔法攻撃??? 何やらかしたんだろう? ロリショタ魔女っ子だったのかな?
「素直にぎっくり腰と言えば済む事を」
あぁ、なるほど。異世界だし、魔法あるから言葉通り信じちゃったよ。でも車椅子はないのかな?
フィールとギゼに車椅子の事を話したらギゼが執事さんに教えて来る!と大喜びで飛び出して行った。そして少ししてからしょんぼりしながら戻って来た。着替えもせずに!って注意されたらしい。ついでにおれも一緒に着替えたら昨日とは違うけどやっぱりフィールとペアルック的な服だった。
見劣りするの、辛い。
ずるい!
おれとほとんど同じデザインなのに!
ズボンの丈が違うだけなのに!!
フィールはかっこいい。
おれは……見た目も持って生まれた才能みたいなものだよな。……はぁ。
「それではごあんないいたします」
残念な気持ちを抑え込み、領主様のいる母屋(?)の立派な食堂になぜか案内されて着席して少し待つと、領主様がやって来た。
「ツィーゲ伯爵はまだ身体が辛いそうなので私達だけでいただこう」
「かしこまりました」
ギゼが一礼して入って来たのと違うドアをノックすると、食事が運ばれて来た。当たり前だけど給仕は他の人がして、ギゼは立って見てるだけ。にこにこしてるけど、なんだかこう……
「お口に合いましたでしょうか?」
「はっ、はい! 美味しかったです!」
……たぶん。
給仕の人に聞かれてこう答えたけど、ギゼが心配で味がよく分からなかったなんて言えない……
食事を終えてギゼがいつ夕飯を食べるのか聞いたらこれからだって。部屋で寛ぐからゆっくり食べてから来てね、と念を押した。
「フィール……」
「どうした?」
「ギゼが頑張ってるのを喜ばなくちゃいけないのに、一緒にご飯を食べられないのが悲しくて……まだ8……9歳なのに働くのって……この世界では普通の事かも知れないけど、おれの世界ではまだまだ遊びながら勉強してる歳なんだよ。だから……もっと子供らしく甘やかしてやりたかったのに……」
「だが、決めたのはギゼだ。チサトに出来る事はギゼを応援し、もしここが嫌になったらいつでも温かく迎えてあげる事だと思うよ」
トントントン
「ギゼラです。はいっても よろしいでしょうか」
「どうぞ」
「せんせい! どうしたの!? ……ですか?」
「こっ、これは! ぐすっ……あの……」
「一緒に食事ができなかったから心配しているんだよ」
「おしょくじ、おいしいですよ? りょうりちょうも めいどがしらのヒルトさんも しごとにはきびしいけど やさしくしてくださいます」
「寂しくない?」
「……よるはすこしさびしいけど、ふたりべやだから すこしだけです」
「そっか。大丈夫ならいいんだ」
「せんせい、よるはおしごとおやすみなの。あそびにきても よろしいですか?」
「うん! 良いよ! 一緒に寝る?」
「チサト!?」
「ライナーさんにきいてみます!」
ぱぁぁぁっと顔を輝かせ、走るように飛び出して行ったギゼは、思いの外早く帰って来た。
「せんせい、いっしょに ねていいって!」
「やった! 一緒に寝よう! フィールも一緒に!」
「あ、あぁ」
シャワーはさっき浴びたけど、ギゼがまだだったので一緒にもう一度浴びた。それから寝間着に着替えてベッドに入る。フィールとギゼが揉めたけど、おれのたっての希望でギゼを真ん中にして川の字になった。
「せんせい、あのね……」
ギゼはここに来てから教えられた事や驚いた事、難しかった事、色々話してくれた。そしておれに抱きついて眠った。
「チサト、ギゼは寝た?」
「ん……頑張ってるのが分かって良かった」
「そうだな。まずはギゼを信じて応援しよう。ところで……」
「?」
「なぜギゼを真ん中にして寝たかったんだ?」
「あぁ、川の字って言ってね、その……夫婦で子供を挟んで眠るのが……幸せの象徴って言うか……」
「夫婦……?」
「あっ! あの! おやすみなさい!!」
恥ずかしい事を言ってしまって慌てて眠ろうとしたけど、フィールが声を潜めておやすみのキ口づけを要求して来た。ギゼの上でギゼを起こさないようにそっと舌を絡める背徳感と言うか罪悪感と言うか!?
「おやすみ」
「お……おやすみなさい……」
「……んん……あ……ちさとせんせい、おはようございます。ちゅっ」
「ちゅ……ふぇ? せんせい? あ、ギゼ、おはよう」
「チサト、ギゼ、おはよう。それからツィーゲ伯、客の部屋に忍び込むとはどんな了見ですか?」
「忍び込むだなんて!! 私はギゼラを起こしに来たんだ。仕事だよ、と」
「ごしゅじんさま!! ねぼうしてしまって もうしわけございません!」
「寝坊ではないから安心しなさい」
「そうだよ、ギゼ。ツィーゲ伯はチサトとギゼの寝顔を見に来ただけだ」
「おれ達の寝顔?」
「テオフィールの寝顔だって見たかったとも! ……こほん。そうだ、愛らしい3人が寄り添う寝姿を見れば私も全快できるからね」
なんだかよく分からないけど元気そう。
「具合は良くなったのですか?」
「君たちのおかげでね。だがまだ長くは歩けないのでライナー、運んでくれ」
「かしこまりました」
背負子……
主人を背負子に乗せて運ぶ姿に驚けばいいのか、背負子に乗ってまで寝顔を見に来た領主様に驚けばいいのか。
「ツィーゲ伯は怪我をしたのですか?」
「魔女の一撃です」
魔女!? 魔法攻撃??? 何やらかしたんだろう? ロリショタ魔女っ子だったのかな?
「素直にぎっくり腰と言えば済む事を」
あぁ、なるほど。異世界だし、魔法あるから言葉通り信じちゃったよ。でも車椅子はないのかな?
フィールとギゼに車椅子の事を話したらギゼが執事さんに教えて来る!と大喜びで飛び出して行った。そして少ししてからしょんぼりしながら戻って来た。着替えもせずに!って注意されたらしい。ついでにおれも一緒に着替えたら昨日とは違うけどやっぱりフィールとペアルック的な服だった。
見劣りするの、辛い。
24
お気に入りに追加
837
あなたにおすすめの小説
俺は勇者のお友だち
むぎごはん
BL
俺は王都の隅にある宿屋でバイトをして暮らしている。たまに訪ねてきてくれる騎士のイゼルさんに会えることが、唯一の心の支えとなっている。
2年前、突然この世界に転移してきてしまった主人公が、頑張って生きていくお話。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
こうもりのねがいごと
宇井
BL
美形な主と二人きりの世界で、コウは愛され生きる喜びを知る。
蝙蝠のコウは十歳でじいちゃんを亡くしてからは一人きり。辛い環境の中にあっても誰を恨むことなく精一杯に生きていた。
ある時、同じ種族の蝙蝠たちに追われ、崖の先にある危険な神域に飛び出してしまう。しかしそこでコウの人生が大きく変わることになった。
姿が見えない人に頼まれたのは、崖下にいる男のお世話。木々に囲まれ光あふれる箱庭で新たな生活が始まる。
森の中の小屋の脇には小花、裏には透き通る泉。二人を邪魔するようににやってくる珍客達。
出会ってすぐに両想い。困難が次々とやってきますが基本はほのぼの。
最後まで死という単語が度々出てきますのでご注意を。
ご都合主義です。間違いが多々あるでしょうが、広い心をでお読みいただけますように。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる