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じじゅうのおしごと
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「なんで!?」
「共に体験していただく方が良いだろうとの旦那様のご判断です」
「そ、それは良いんだけどこの服、めちゃくちゃ高級じゃない!?」
だってこの手触り! 絶対高級品だ!! 化学繊維なんてある訳ないし、絹だよね? 蚕って絹の手触りなんだよねー、って現実逃避してる場合じゃない!
なんでおれまで実地体験と言われて着替えをさせられているのか。
「働くのにこれ着て汚したら!」
「汚さないよう、きちんとした所作を学んでいただきます」
「しょさってなぁに?」
「動き方の事です」
山育ちの田舎者に無茶言わないでぇ~~~っ!
レースとフリルのついたシャツ?ブラウス?に膝下のズボン、靴下に革靴、腰には幅広のベルトをしてベストを着た。着替えをしたら顔を拭かれて髪を整えられて、ギゼラは美少女っぽい美少年に、おれは七五三。もしくはコスプレ。
「ギゼぇ~……」
「ふわぁ……チサト先生、かわいい……」
「背筋を伸ばす! 顎を引く! 踵を揃える! 仰け反らない!」
「「は、はいぃっ!!」」
立ち方、歩き方だけで小1時間……
「それから……チサトは言葉遣いを直しなさい」
「え? ちゃんとできてませんか?」
「正しくできておりませんか? です!」
「すみません!」
「申し訳ございません!」
「も、申し訳ございません!」
うぅ…… ちゃんとした話し方ってこんなに堅苦しいのか……。
「掃除、料理、洗濯はそれぞれ別の者の仕事ですが、侍従は季節に合わせて主人の服と装飾品を選び、仕事の補助をし、お茶を淹れます。お客様をもてなし、ご満足いただけるよう気を配ります」
「……むずかしそう」
「はい。大変難しく、しかしとてもやり甲斐のある仕事です」
おれ達はお茶運びをさせてもらった。
同じ部屋で淹れたお茶を主人の元まで運ぶ。
「手元ばかり見ない。音を立てない。こぼさない!!」
「まぁまぁ、体験でそんなに厳しくしたら萎縮してしまうよ。私はこの子を立派な侍従に育てたいんだ」
「あの…… もうじじゅうさんはいるのに どうしてあたらしいじじゅうさんを そだてる……ですか?」
「それはね、侍従が1人では休みがなくて大変だろう? 侍従だって恋をしたり結婚したりしても良いと私は考えているんだ。だから、2人か3人で交代で休みを取れるようにしたいんだよ。執事だけはそれができないけどね」
「しつじさん……?」
「執事は私の代理で家のこと全てをまとめてくれるんだ。それはとても頭が良くないとね」
「けっこん……」
「好きな人と結婚して幸せになってくれるのは私も嬉しいんだよ。では、私は出かけるから着替えを手伝ってくれ」
「はい」
教育係の人に教えてもらいながら着替えを手伝った。
貴族の服ってパーツが多くて大変! これは一人じゃ着れないな。
……あと、旦那様の下着はロングトランクスだった。
おれも孤児院の子供達も越中褌なのに……トランクスあるじゃん!! そう言えばデーメルさんはどうだったっけ? ……覚えてないや。
「君、可愛いね。良ければ私の恋人にならないかい?」
「へ?」
「ダメ! チサトせんせは ギゼのこいびとになるんです!」
「なるほど、それも良いね。こんなに可愛いらしい2人が仲良くしているのは見ていて幸せになれるよ。迎えが来るまでチサト君とギゼラ君で仲良くしている所を見せてくれるかい?」
変わったお願いだけど、べつに問題ないので承諾する。
玄関ホールのソファにギゼラとくっついて座ると、伯爵様はうっとりとおれ達を眺めた。
「ギゼラ君、チサト君に腕を回して…… そう、チサト君はギゼラ君を抱き寄せて…… 良い! 実に良い!! 眼福だ!!」
なんだか分からないけど主人を喜ばせるのも侍従の仕事らしいので、ギゼラの頭に頬をくっつけてすりすりしたり、ぎゅーっと抱きしめたり、頭なでなでして見せた。するとギゼラがおれにほっぺちゅーするからお返し。
いつも通りのいちゃいちゃだ。
伯爵が顔を赤くして震えながら目を潤ませて見ている。
「旦那様、迎えの馬車が参りました」
「……ご苦労。そうだ、彼にもこの2人を見せてあげよう!」
迎えに来た人はデーメルさんだった。
「あ! たいちょうさん!」
「……ギゼ、か?」
「はい!」
「ギゼラ君はデーメル隊長と知り合いかね?」
「はい! チサトせんせいを つれてきてくれて、おやつもくれるひとです」
おれとおやつは同列。(笑)
「でも、よるは つれてっちゃうの」
「ほう。つまり、デーメル隊長はこのチサト君と暮らしている、と?」
あれぇ? なんだかめちゃくちゃ恥ずかしい。ギゼ、個人情報喋りすぎ!
「私の個人的な話はそのくらいにしていただきたい。さぁ、フィッツェンハーゲン伯がお待ちですよ」
「愛する人の事はいくらでも聞きたい所だが、親友を待たせてはいけないな」
「……あいするひと?」
ギゼの疑問を残してツィーゲ伯爵は出かけてしまった。
ツィーゲ伯爵の「愛する人」発言、おれも気になるんだけど……。
「共に体験していただく方が良いだろうとの旦那様のご判断です」
「そ、それは良いんだけどこの服、めちゃくちゃ高級じゃない!?」
だってこの手触り! 絶対高級品だ!! 化学繊維なんてある訳ないし、絹だよね? 蚕って絹の手触りなんだよねー、って現実逃避してる場合じゃない!
なんでおれまで実地体験と言われて着替えをさせられているのか。
「働くのにこれ着て汚したら!」
「汚さないよう、きちんとした所作を学んでいただきます」
「しょさってなぁに?」
「動き方の事です」
山育ちの田舎者に無茶言わないでぇ~~~っ!
レースとフリルのついたシャツ?ブラウス?に膝下のズボン、靴下に革靴、腰には幅広のベルトをしてベストを着た。着替えをしたら顔を拭かれて髪を整えられて、ギゼラは美少女っぽい美少年に、おれは七五三。もしくはコスプレ。
「ギゼぇ~……」
「ふわぁ……チサト先生、かわいい……」
「背筋を伸ばす! 顎を引く! 踵を揃える! 仰け反らない!」
「「は、はいぃっ!!」」
立ち方、歩き方だけで小1時間……
「それから……チサトは言葉遣いを直しなさい」
「え? ちゃんとできてませんか?」
「正しくできておりませんか? です!」
「すみません!」
「申し訳ございません!」
「も、申し訳ございません!」
うぅ…… ちゃんとした話し方ってこんなに堅苦しいのか……。
「掃除、料理、洗濯はそれぞれ別の者の仕事ですが、侍従は季節に合わせて主人の服と装飾品を選び、仕事の補助をし、お茶を淹れます。お客様をもてなし、ご満足いただけるよう気を配ります」
「……むずかしそう」
「はい。大変難しく、しかしとてもやり甲斐のある仕事です」
おれ達はお茶運びをさせてもらった。
同じ部屋で淹れたお茶を主人の元まで運ぶ。
「手元ばかり見ない。音を立てない。こぼさない!!」
「まぁまぁ、体験でそんなに厳しくしたら萎縮してしまうよ。私はこの子を立派な侍従に育てたいんだ」
「あの…… もうじじゅうさんはいるのに どうしてあたらしいじじゅうさんを そだてる……ですか?」
「それはね、侍従が1人では休みがなくて大変だろう? 侍従だって恋をしたり結婚したりしても良いと私は考えているんだ。だから、2人か3人で交代で休みを取れるようにしたいんだよ。執事だけはそれができないけどね」
「しつじさん……?」
「執事は私の代理で家のこと全てをまとめてくれるんだ。それはとても頭が良くないとね」
「けっこん……」
「好きな人と結婚して幸せになってくれるのは私も嬉しいんだよ。では、私は出かけるから着替えを手伝ってくれ」
「はい」
教育係の人に教えてもらいながら着替えを手伝った。
貴族の服ってパーツが多くて大変! これは一人じゃ着れないな。
……あと、旦那様の下着はロングトランクスだった。
おれも孤児院の子供達も越中褌なのに……トランクスあるじゃん!! そう言えばデーメルさんはどうだったっけ? ……覚えてないや。
「君、可愛いね。良ければ私の恋人にならないかい?」
「へ?」
「ダメ! チサトせんせは ギゼのこいびとになるんです!」
「なるほど、それも良いね。こんなに可愛いらしい2人が仲良くしているのは見ていて幸せになれるよ。迎えが来るまでチサト君とギゼラ君で仲良くしている所を見せてくれるかい?」
変わったお願いだけど、べつに問題ないので承諾する。
玄関ホールのソファにギゼラとくっついて座ると、伯爵様はうっとりとおれ達を眺めた。
「ギゼラ君、チサト君に腕を回して…… そう、チサト君はギゼラ君を抱き寄せて…… 良い! 実に良い!! 眼福だ!!」
なんだか分からないけど主人を喜ばせるのも侍従の仕事らしいので、ギゼラの頭に頬をくっつけてすりすりしたり、ぎゅーっと抱きしめたり、頭なでなでして見せた。するとギゼラがおれにほっぺちゅーするからお返し。
いつも通りのいちゃいちゃだ。
伯爵が顔を赤くして震えながら目を潤ませて見ている。
「旦那様、迎えの馬車が参りました」
「……ご苦労。そうだ、彼にもこの2人を見せてあげよう!」
迎えに来た人はデーメルさんだった。
「あ! たいちょうさん!」
「……ギゼ、か?」
「はい!」
「ギゼラ君はデーメル隊長と知り合いかね?」
「はい! チサトせんせいを つれてきてくれて、おやつもくれるひとです」
おれとおやつは同列。(笑)
「でも、よるは つれてっちゃうの」
「ほう。つまり、デーメル隊長はこのチサト君と暮らしている、と?」
あれぇ? なんだかめちゃくちゃ恥ずかしい。ギゼ、個人情報喋りすぎ!
「私の個人的な話はそのくらいにしていただきたい。さぁ、フィッツェンハーゲン伯がお待ちですよ」
「愛する人の事はいくらでも聞きたい所だが、親友を待たせてはいけないな」
「……あいするひと?」
ギゼの疑問を残してツィーゲ伯爵は出かけてしまった。
ツィーゲ伯爵の「愛する人」発言、おれも気になるんだけど……。
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