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モテ期(?)到来
しおりを挟むーー チサト side ーー
まったくデーメルさんてば!
「愛してる」ってものすごく特別な言葉なのに、あんなに軽く冗談にするなんて! ……まぁ、友達に大げさに感謝する表現として使う事もあるみたいだけど、そんな友達いなかったし。
ここはそう言うノリの国なのかな?
それとも実は遊び慣れてるのかなぁ? 人付き合いが苦手とか言ってた気もするけど。
……すぐからかうんだから。
あんな泣きそうな顔まで作って!!
普通にからかわれるのは楽しいから嬉しいけど、「愛してる」は…… もっと大事にして欲しいなぁ。
「チサト、どこまで行くんだ?」
「あ……教えてくれてありがとうございます。デーメルさん、行ってらっしゃい」
考え事をしながら歩いていたら孤児院を通り過ぎそうになった。その上、せっかく教えてくれたデーメルさんへの言葉にトゲが生えちゃった。
ちょっとからかわれただけでこんなにイライラしちゃうの、なんでだろ?
「チサト先生、おはようございます」
「ちしゃとしぇんしぇー、おはよーごじゃましゅ!」
「ギゼラ、カイ、おはようございます!」
「ぎじぇのばか! カイがさいしょに ちしゃとにおはよーいいたかったのに!」
「知らないもん。ギゼだって最初にあいさつしたいもん! あっ! カイ、先生なのに呼び捨てにした!」
おれを取り合って(?)ケンカが始まるとは! モテ期到来?(笑)
「2人とも大好き!!」
左右の手でぎゅーっと抱きしめて言えば、ほっぺにちゅーが返ってきたので、おれも2人のほっぺにちゅーした。
「ギゼ、チサト先生と一緒に寝る!」
「ちしゃとしぇんしぇーと寝るのはカイ!」
職員は子供達と一緒に寝ないものだけど、禁止されてる訳ではない。来たばかりで不安定な子や小さな子は職員と寝ることもある。
お風呂も同じく禁止されていないが、一緒に入りたがって駄々を捏ねる子がそもそもいなかったそうだ。
今日からは泊まりの日と、帰りが遅くなる日におれはみんなと一緒にお風呂に入る事になり、夜も職員用ベッドを2つくっつけて寝る事になった。そして構造上おれのベッドに1人、くっつけたベッドに1人、となるので揉めている。どっちも隣なのになぁ。(苦笑)
「じゃぁ、ベッドはカイと一緒、掛け布団はギゼと一緒にする! 決定! 次は交代な?」
「「はーい」」
………………?
温かい……?
「あ! カイ、おねしょ!」
「んにぇ? なぁ……に? ……!!」
「えーっと、着替え持ってきてたよな? シーツを丸めて布団を叩いて吸わせて……あ、カイ冷たいだろ?先に着替えなきゃな」
「ぐすっ……カイ……おねしょ……かっこわるい……えぐっ……」
「まだ3歳なんだから大丈夫。12歳でおねしょする子もいるんだぞ」
「12しゃい……? だぁれ?」
「それは聞かないで!」
「ぷっ! あはは! なんでー?」
ギゼラはぐっすり寝ていて気づかないので、おねしょの片付けをした後、ベッドに入らせてもらった。狭いけど。(笑)
起きた時驚きながらとても嬉しそうで、喋れなくなってるおれにしっかりとべろちゅーしてくれた。いつの間にちゅーのレベルを上げたのか!? いや、レベルが上がったと言うより遠慮がなくなった感じかな? 「ぺろん」が「ぺろぺろぺろ」になっていた。
カイの寝間着と、巻き込まれたおれの寝間着、シーツと毛布を洗い、ベッドマットを干す。晴れて良かった。
おねしょをからかう10歳のパウルとカイがケンカしたので仲裁したり、字と裁縫と料理を習いながら1日を過ごした。
そして迎えに来てくれたデーメルさん……と副隊長さんとこの前送ってくれた隊員のエルマーさん。
「よう! 引越し祝いに来てやったぞ」
「副隊長、私は無理にとは……」
「2人とも来なくていいのだがな」
じーちゃんちでも近所の人がちょいちょい上がりこんで酒盛りしてたな。みんな親戚みたいなものだから遠慮もなくてツマミもお酒も持参して。
「楽しそうですね。でも夜勤明けで飲んで大丈夫なんですか?」
「鍛えてるからな!」
「私は明日非番だからいいんですが、チサトくんは嫌じゃないですか?」
「ぼくは賑やかなの好きですから、嬉しいです。でもデーメルさんは?」
「……チサトが良いなら構わない」
と、言う事で今夜は宅飲みが決まった。
持って帰る夕食は2人分なのでツマミが足りないと思ったが迎えにくる途中で串焼きとか魚の干物とか買って来たそうだ。お酒も注文してあるから届いてるはずだ、って。
帰って見たら樽が届いてた。
……たる。
生まれて初めて生で見た。
ちゃんと蛇口がついてる!
異世界でも蛇口の構造は変わらない。家の水道には魔術が使われているけど、酒樽には必要ないらしく、シンプルな蛇口だった。
「チサトは飲んではいけないよ?」
「飲みません」
「これは強いからその方がいいだろう。チサト用の甘いのはどうした? もう飲みきったのか?」
「まだありますが二日酔いが辛かったので……」
「加減を覚えりゃ良いだろ」
「そうですよ。加減を知らない方が危険です。すこ~しずつ試しましょう?」
「だがっ!」
「過保護だぞ、テオフィール」
知らない名前だけど、流れから言ってデーメルさんの名前なんだろうな。
「……お前、名前も教えてなかったのか? テオフィール・デーメル第二騎士団所属第一部隊隊長殿」
「喋れなくなった時のチサトには難しいと思って……」
確かに発音難しそう。
「まぁ、まぁ、我々はあまり長居せずに適当に切り上げますから、まずは乾杯しましょう!」
エルマーさんに促され、引越し祝いの宴会が始まった。
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