ほんのちょっと言語チート、くっださーいな!

香月ミツほ

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ーー デーメルside ーー

チサトを迎えに行くと、馬を見た事がないのか、少し怖がっていた。リタはとても賢くて優しい子だと伝えると、おっかなびっくり近づいた。

腕を鼻面で撫でられ、手の匂いを嗅ぐ馬の様子に目を輝かせる。動物が嫌いな訳ではないようだ。

「耳の付け根を掻いてやると喜ぶよ」

そう言うと素直に手を伸ばす。
リタも気持ち良さそうだ。

孤児院の子供達も集まって来たが、触らせていてはキリがないだろう。職員も近づけさせないよう気を使ってくれている。

頃合いを見てチサトを抱き上げ、馬に跨がらせると上手にバランスをとりつつ、子供達に手を振っている。初めてだと言っていたのに余裕がありそうだ。

チサトの後ろに乗り、腰を支えながら片手で手綱を扱うが、リタは心得たものでほぼ揺れずに歩を進める。

「全然揺れない!」

チサトが声を抑えつつ呟くと、その賞賛の声を聞き取ったリタが更に速度を上げた。

「デーメルさん、人が馬に乗ることは少ないんですか?」
「あぁ、少ないな。馬車ならともかく、馬に乗るのは急ぎの用がある者だけだ」
「じゃあ、ぼく達も急がないとじゃないんですか?」
「走らせるほどじゃない。それにこれでも人間が走るくらいの速度が出ているんだよ」

心配してくれているが、リタは上機嫌で大人がかなり本気で走るくらいの速度を出している。だから大丈夫だと伝えた。



詰所に着き、馬を厩番に預けて応接室に通し、監査官殿を呼んだ。

「例の男か」
「成人しているとはいえ、16歳の少年です。お手柔らかにお願いします」
「王族の抜け道に潜り込む特殊技術を持つ者がただの少年である訳がなかろう」
「潜り込んだのではなく、迷い込んだのです」
「そんなはずがあるか!」
「……会えば分かります。危機感のなさ、純粋さ、気遣い。それに副隊長を見て怯えて漏らし、私に服を脱がされても抵抗もしなかったのです。どこかの刺客であるなら服を脱がされる事に抵抗するでしょう?」
「武器は持っていなかったのか?」
「火の魔道具、光の魔道具、カトラリー、笛、食糧。他は衣類だけでした」

つるりとした板もあったが使い道が分からなかった。

「まぁ良い。私が見極めれば良い事だ」





応接室に入り、監査官とチサトを引き合わせた。

「……デーメル隊長、16歳の成人だと聞いたのだが?」
「その通りです。チサト、こちらギーレン監査官殿だ」
「ははは、初めまして! 百々知里どうどうちさとと申します。16歳で間違いありません!」
「身寄りもなく、どこから来たのか分からぬのでは年齢も証明できぬではないか」

監査官として当然の行いではあるが、チサトが怯えるので口を挟みたくなる。だが先ずは魔力量判定検査だ。チサトは光属性の極小。危険がない事が証明された。

悪人でなければ良いだろう、私とイーヴァイン院長が後見する、と告げると表情が和らいだ。ギーレン監査官はイーヴァイン院長と懇意にしているので彼の名を出せば態度が軟化する事は分かっている。私と暮らす事も経過観察の一助になるはずだ。

ギーレン監査官に睨みつけられ、チサトが青褪めている。そこまで疑わなくても良いだろう、泣かせるな! と言いそうになったが、チサトは歯を食いしばり、涙目になりながらも監査官を見つめ返している。

……健気な。


「ふっ…… 私に睨まれて泣き出さないのならそれなりの年齢になっているんだろう。では今後も要観察ではあるが籍を作ることを許可しよう」
「私が面倒を見ます。お任せください」
「デーメルさん、ぼく、信じてもらえるように頑張ります!」
「チサトはいつも通りで大丈夫だ」

……監査官に言いたい事はあるが許可が出たので余計な事は言わずにおこう。そしてチサトを励まそうと手を取っていつも通りでいいと言うと、監査官が疎外感を感じたのか咳払いをした。

「ではこの書類にサインを」

そう言って戸籍申請書と就労契約書を取り出し、サインをさせた。
チサトの書く文字は複雑で興味深い。これなら簡単に筆跡を真似られることもないだろう。
就労契約書にサインしたことで明日からは職員として働くことになる。そして仕事が終わる頃には新居は掃除を終えて家具が運び込まれ、2人で暮らす準備が整っているはずだ。

「明日は帰りに迎えに行くから。一緒に新しい家に帰ろう」

一瞬驚いた顔をしたチサトはすぐに笑顔になってよろしくお願いします、と頭を下げた。その生真面目な仕草が愛らしくて頬が緩むのを止められない。監査官に生暖かい目で見られるのはシャクだが、こればかりは仕方がない。

監査官が部屋を出た後、よく頑張ったと頭を撫でたら怖かったと泣き出してしまった。かなり我慢をしていたようだ。チサトが落ち着くまで抱きしめていてやりたかったのに、仕事しろ、と副隊長に邪魔された。

チサトは隊員の1人が送って行った。
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