8 / 134
喋れるって素晴らしい!
しおりを挟む
ーー ちさとside ーー
おれが喋れる日はもしかして。
カイと一緒に寝た日かも知れない。
最初に喋れた日も今日も、カイはおねしょをしておれのベッドに潜り込んで来た。着替えてもベッドは濡れてるもんね。
カイと寝るのが理由なのか、誰とでも一緒に寝れば喋れるようになるのか。今夜、他の誰かに一緒に寝てもらえるよう、相談してみよう。
デーメルさんの所へ行って捕まった犯罪者の顔を確認したけど、当然見覚えはない。西洋人ぽくもあり、東洋人ぽくもある顔立ち。あの集落は知り合いしか居ないから日本人でも外から来れば目立つ。
こんな顔立ちの人なんて、まるっきり知らない。
そう告げればデーメル隊長は安心したようにほっと息を吐いた。
「お役に立てなくてすみません」
思わず謝ったけど、おれが犯罪に巻き込まれたのでなければ良い、と優しい事を言われた。
「それにしても、突然これほど流暢に話せるようになるなんて不思議だな」
「はい。でも理由が分かれば対策が立てられますので、可能性のある事を考えてみます」
「私に出来る事があれば何でもする。どんな些細な事でも相談してくれ」
どこまでもイケメンなデーメルさんは力強くおれの手を握ってそう言ってくれた。
ーー デーメルside ーー
「なんで会えて喋れたのに落ち込んでいるんだ?」
「戸籍ができたら共に暮らそうと言いそびれた……お前が割り込むから!!」
「そりゃ悪かったな。院長に伝言頼んだんだろ?」
「……頼んでいる。すでに伝わっているかも知れないが自分の言葉で伝えたかった!」
「ま、次の機会でいいだろう」
ほぼ言いがかりの八つ当たりなのでオルトには適当に流された。
それにしても随分しっかりしていた。
喋れなかった時の子供らしい愛らしさはなりを潜め、確かに成人していそうな感じだった。従卒だってできるのではないか?
……従卒。
チサトが従卒になってずっと側にいてくれたらどれだけ仕事が捗るだろう。だが、従卒になるには最低でも2年は全寮制の騎士養成所に行かなければならない。
無理だ。
私が壊れる。
それに言葉が不安定では2年で卒業はできないだろう。従卒は無理だな。
「……おい!」
「なんだ?」
「被害者の中に俺の知り合いがいる。彼の担当にしてくれ」
「知り合いが? なら構わない。全ての被害者の身元が分かり次第報告を。薬物の売買ルートはこちらでも調べるが、貴族が絡んでいるから騎士団の方が主体になる。向こうにも報告をあげるように」
「了解致しました!」
1週間が過ぎ、被害者達が回復した。子供6人のうち4人は攫われたらしいが2人は孤児で預け先から売られたらしい。そして1人は子爵家の子息で、副隊長の知り合いと話をしている所をまとめて攫われたそうだ。
副隊長の知り合いはたまたま納品に行っていた食料品店の息子だった。
人身売買の方はそれほど大掛かりではなく、すぐに調べがついた。家が分かった子は返し、孤児は孤児院へ、後の大人3人は経済奴隷だったので判事に任せた。
「被害者の親の子爵は、金に困って違法薬物の運び屋をしていた男爵の友人で、違法行為を諌め、自首を勧めていたため、組織の方から脅迫の材料として子供が拐われたようです。男爵はすでに捕縛されました」
これで報告書をまとめて提出してとりあえずの解決だ。薬物についてはまだまだ調べるが、そちらは騎士団が頑張るだろうから責任は軽くなる。よし!
「孤児院へ行ってくる」
今回の被害者2人もチサトと同じ孤児院に預けたのでまとめて会いに行ける。今日の差し入れは何にしようか。
「隊長さん!」
「たいちょ!」
「ありがと!!」
出迎えた子供がすでにお礼を言っていて笑ってしまった。
「今日は果物だよ」
「プーチェだ!」
「プーチェ?」
「美味しいんだよ!」
「ぶど!」
食べた事がない子もいるようだ。チサトはまた喋れなくなっている。 院長に話を聞こう。
「ミュラーとドロテアはまだ少し不安定ですが、兄弟2人一緒だから大丈夫でしょう。チサトは……どうもカイと寝た時だけ喋れるようです。他の子と眠った時はダメでした」
「カイの能力……と言う事か?」
「それはまだ分かりません。こちらとしても彼はとても優しくて優秀で、すでに皆と打ち解けているので話ができればすぐに職員としてここで働いてくれても良いのですが」
「このまま働く……」
成人しているのだし、なれない職場を探すよりここで働く方が良いかも知れない。
そこでふと初めて会った時を思い出してしまった。ほとんど生えてなかっ……いや、ダメだ。子供なら微笑ましいが成人しているなら思い出すのは不埒と言う他ない。
……アレで成人済み。
違う色を帯びてきた記憶を振り払いながら、真面目な顔を作って引き続き彼らの観察を頼み、私は詰め所に帰った。
おれが喋れる日はもしかして。
カイと一緒に寝た日かも知れない。
最初に喋れた日も今日も、カイはおねしょをしておれのベッドに潜り込んで来た。着替えてもベッドは濡れてるもんね。
カイと寝るのが理由なのか、誰とでも一緒に寝れば喋れるようになるのか。今夜、他の誰かに一緒に寝てもらえるよう、相談してみよう。
デーメルさんの所へ行って捕まった犯罪者の顔を確認したけど、当然見覚えはない。西洋人ぽくもあり、東洋人ぽくもある顔立ち。あの集落は知り合いしか居ないから日本人でも外から来れば目立つ。
こんな顔立ちの人なんて、まるっきり知らない。
そう告げればデーメル隊長は安心したようにほっと息を吐いた。
「お役に立てなくてすみません」
思わず謝ったけど、おれが犯罪に巻き込まれたのでなければ良い、と優しい事を言われた。
「それにしても、突然これほど流暢に話せるようになるなんて不思議だな」
「はい。でも理由が分かれば対策が立てられますので、可能性のある事を考えてみます」
「私に出来る事があれば何でもする。どんな些細な事でも相談してくれ」
どこまでもイケメンなデーメルさんは力強くおれの手を握ってそう言ってくれた。
ーー デーメルside ーー
「なんで会えて喋れたのに落ち込んでいるんだ?」
「戸籍ができたら共に暮らそうと言いそびれた……お前が割り込むから!!」
「そりゃ悪かったな。院長に伝言頼んだんだろ?」
「……頼んでいる。すでに伝わっているかも知れないが自分の言葉で伝えたかった!」
「ま、次の機会でいいだろう」
ほぼ言いがかりの八つ当たりなのでオルトには適当に流された。
それにしても随分しっかりしていた。
喋れなかった時の子供らしい愛らしさはなりを潜め、確かに成人していそうな感じだった。従卒だってできるのではないか?
……従卒。
チサトが従卒になってずっと側にいてくれたらどれだけ仕事が捗るだろう。だが、従卒になるには最低でも2年は全寮制の騎士養成所に行かなければならない。
無理だ。
私が壊れる。
それに言葉が不安定では2年で卒業はできないだろう。従卒は無理だな。
「……おい!」
「なんだ?」
「被害者の中に俺の知り合いがいる。彼の担当にしてくれ」
「知り合いが? なら構わない。全ての被害者の身元が分かり次第報告を。薬物の売買ルートはこちらでも調べるが、貴族が絡んでいるから騎士団の方が主体になる。向こうにも報告をあげるように」
「了解致しました!」
1週間が過ぎ、被害者達が回復した。子供6人のうち4人は攫われたらしいが2人は孤児で預け先から売られたらしい。そして1人は子爵家の子息で、副隊長の知り合いと話をしている所をまとめて攫われたそうだ。
副隊長の知り合いはたまたま納品に行っていた食料品店の息子だった。
人身売買の方はそれほど大掛かりではなく、すぐに調べがついた。家が分かった子は返し、孤児は孤児院へ、後の大人3人は経済奴隷だったので判事に任せた。
「被害者の親の子爵は、金に困って違法薬物の運び屋をしていた男爵の友人で、違法行為を諌め、自首を勧めていたため、組織の方から脅迫の材料として子供が拐われたようです。男爵はすでに捕縛されました」
これで報告書をまとめて提出してとりあえずの解決だ。薬物についてはまだまだ調べるが、そちらは騎士団が頑張るだろうから責任は軽くなる。よし!
「孤児院へ行ってくる」
今回の被害者2人もチサトと同じ孤児院に預けたのでまとめて会いに行ける。今日の差し入れは何にしようか。
「隊長さん!」
「たいちょ!」
「ありがと!!」
出迎えた子供がすでにお礼を言っていて笑ってしまった。
「今日は果物だよ」
「プーチェだ!」
「プーチェ?」
「美味しいんだよ!」
「ぶど!」
食べた事がない子もいるようだ。チサトはまた喋れなくなっている。 院長に話を聞こう。
「ミュラーとドロテアはまだ少し不安定ですが、兄弟2人一緒だから大丈夫でしょう。チサトは……どうもカイと寝た時だけ喋れるようです。他の子と眠った時はダメでした」
「カイの能力……と言う事か?」
「それはまだ分かりません。こちらとしても彼はとても優しくて優秀で、すでに皆と打ち解けているので話ができればすぐに職員としてここで働いてくれても良いのですが」
「このまま働く……」
成人しているのだし、なれない職場を探すよりここで働く方が良いかも知れない。
そこでふと初めて会った時を思い出してしまった。ほとんど生えてなかっ……いや、ダメだ。子供なら微笑ましいが成人しているなら思い出すのは不埒と言う他ない。
……アレで成人済み。
違う色を帯びてきた記憶を振り払いながら、真面目な顔を作って引き続き彼らの観察を頼み、私は詰め所に帰った。
46
お気に入りに追加
841
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる