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第25話

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ーー イーノ side ーー

猩々しょうじょう討伐は少し時間がかかるようで、リーフ様達は3日目の今日も同じ時間に出かけて行った。

昨日、一昨日と同じように見送った後、今日はどうしようかと考えながら郷の中を歩いていたら、リーフ様の声が聞こえた。

『 イ ー ノ 』

忘れ物でもしたのかと振り返るも、姿はない。
聞き間違いかも知れないが、心配になって郷の出入り口ギリギリまで行き、外へと目を凝らす。すると木々の向こうに見慣れた淡い色の金髪が見えた。

「リーフ様? 忘れ物ですか?」

声をかけても返事はなく、戻っても来ない。枝葉の隙間から覗く美しい横顔は、辛そうに歪んでいる。どうしたんだろう? まさか、怪我?

心配になり、すぐそこだからと郷から出ると、リーフ様は身を翻して歩いて行ってしまう。

「リーフ様!!」

呼んでみても反応はない。
いつもとまるで違う反応に言いつけを守っている場合じゃない、と判断し、リーフ様の後を追った。


ーー リーフ side ーー

猩々討伐3日目。

「リーフ様!!」
「イーノ?」
「怪我は!? はぁ、良かったぁ……」

郷から出ないよう言いつけてあったのに、何故イーノが森にいるのか。しかも私の心配をしている……?

「そいつ、囮りに使えそうだろう?」
「姉上?」

どうやら姉がイーノを幻覚で誘い出したようだ。
ここは森の奥だからイーノには危険だ。すぐに連れて帰らなくては。

「フォーリャ、どうやって使うって?」

ラオブが私を無視して姉上に計画を尋ねる。
香蜜桃をぶつけられたのはイーノだけだから、使えるのではないか、と言う。あの猿酒の効果を考慮すれば雌として欲しがっている可能性がある。 ……いや、あの猩々が雌で、イーノを雄として欲しがっている可能性もある……、のか?

「最近判ったことだが、猩々は雌雄を自在に変えられる。だから現在の雌雄を気にしても仕方ない」
「なおさら危険じゃないか!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」

姉と言い合いをしていたらイーノが叫んだ。

「イーノ!? ピュロン!!」
「あ? 服しか燃やしてないぞ。この方が猩々が喜ぶだろう」
「うわうわうわ! あ、熱くないけど!! 服! 裸!!」

ベルトに魔法防御を付与していたが、炎の魔法を研究しているピュロンには効果がなかったようだ。裸にベルトと靴だけになったイーノが体を隠そうと慌てているが、前に気を取られて尻が丸出しだ。

「ふむ、これでどうだ!」
「どえぇぇぇぇぇぇ!?」
「姉上!!」

幻覚魔法でイーノにそっくりな幻を作り出す。いや、完全に同じではないが。3人の偽イーノは少しずつ様子が違った。しかも性器はみな、エルフサイズだ。

「雄を誘うなら股間は重要だ。見せろ」
「むりです!」
「それくらい適当でよくない?」
「いいや、私は完璧を目指す主義だ」

わが姉が阿呆だったとは、今の今まで知り得なかった。
私のイーノの肌を勝手に晒すなど許せるものではない。ピュロンも同じく。

「2人とも、本気で私を敵に回したいのか……?」

私が攻撃魔法を放つために魔力を練り始めるのと同時に、幻影の1つが揺らいだ。

「ははは! 効果覿面だな!」

まんまと誘い出された猩々が偽イーノに襲いかかる。幻影なので触れないのだが、それに気づかれぬよう、偽イーノが身を躱す。

姉に向けた攻撃魔法を止め、イーノに風の結界を張る。これでうっかり猿酒を口にする事はなくなるだろう。

それにしても。
イーノの幻影を見て興奮する猿に腹が立つ。私のイーノに欲情するんじゃない!!

姿を現した猩々に、全員で攻撃を仕掛けた。
火と水と弓と、能力低下。
能力低下で素早さと防御力を下げ、水魔法を付与したレイピアで突き、火魔法を付与したムチで拘束する。

弓の攻撃は致命傷にはならないが、傷がつけばかすり傷でも火や水のダメージが入りやすくなる。

追い詰められた猩々は遂に、力尽きたかに見えた。

ばふぅっ!!!

「ぐっ!」
「リーフ! 結界を!!」
「結界はイーノのために使っている!」
「いやいやいや、猩々を包めって!!」

猩々の最後っ屁。
イタチのそれもかなり強烈で厄介だが、猩々のものは遥かに酷い。

近くの植物は枯れ、小動物は息絶える。直接吸い込めば大型魔獣でさえ死ぬ場合がある。

私は姉とピュロンに言われ、しかたなくイーノの結界を解き、旋風つむじかぜで撒き散らされた臭素をひとまとめにして猩々の周りを包んだ。

自分の匂いでありながら暴れる猩々。
目に染みるのだろう。

やがて大人しくなったソレ・・をピュロンに押しつけ、イーノを連れて帰ろうと振り返った。

「イーノ……?」

辺りにイーノの姿はない。
ベルトに仕込んだしるべを頼りに探れば、すぐ近くにいた。

「上だ!!」

姉の声で見上げれば、タネツケカズラに絡み付かれたイーノが高所に連れ去られるところだった。

絡みついて麻痺毒を注入し、本人が気づかぬうちに胎内に種を植え付け苗床にする種。動物であればどんな種も狙われる。

発芽前に取り出せれば問題はないが、発芽と同時に内臓に根を下ろすため、発芽後では取り除くことができても後遺症が残りやすい、危険な植物だ。

蔓を切り刻んで取り戻したイーノを担ぎ、またしても身体強化をして郷に戻る羽目になった。

姉め……!!
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