上 下
24 / 33

第24話

しおりを挟む
ーー イーノ side ーー

リーフ様を見送り、郷をふらふらと見て回ってからコクトゥーラ様のお店に行った。お手伝いさせてもらえたら嬉しいな。

「こんにちは」
「やぁ、イー……、キーノ? だっけ?」
「イーノです」

合ってたのに!!

「あぁ、そうそう。リーフが連れてきたニンゲンだ」
「はい!」
「食事に来てくれたの?」

あれぇ?
ニンゲン向けの料理の研究って言ってたのは社交辞令だったの?

「あ! 思い出した。ニンゲン向け料理の味見してくれるんだった」

小精霊マールィに怒られちゃった、って笑ってる。こんなに綺麗なのにちょっとおっちょこちょいとか、レア!

早速、人間の料理について質問攻めにされた。

「基本は同じだね。熟成の仕方が自然任せなくらいかな?」
「コクトゥーラ様はどうやって熟成させるんですか?」

自然任せでない熟成って、見当もつかない。

「味付けをしてから全体を魔力で包むと熟成が進むんだよ。そして程よいところで魔力を抜き取って保存する」
「魔力で包むんですか」
「そう、魔力を栄養にする微精霊の活動が活発になって……」

微精霊……?
ごく微かな魔力を感知できないと存在を感じられない存在?

「何だかいじらしいですね」
「……そう考えたことはなかったな。だがニンゲン達が自然任せで行なっている熟成も、結局は同じだろう。それを魔力を与えずに状態を見ながら調整するのは、かえって難しいんじゃないかな。いつか、森の外に行ってみるか」

楽しそうなコクトゥーラ様にうっとり♡



「あれ? ちょっとごめんね」

今までなかった紙がコクトゥーラ様の前に置かれている。転送されて来た手紙とか?

「リーフ達、上手くいかなかったみたいだ。郷長の館で話し合いするから僕にも来いって」
「まさかどなたが怪我とか!?」
「それなら僕は呼ばれないから大丈夫だよ」

話し合いが長くなりそうだからお酒とツマミを持って来い、って言われたらしい。おれも連れて行ってもらえるそうなので、給仕のお手伝いをすることにした。


───────────────────


「お前、ニンゲンじゃなくてブラウニーだったのか?」
「ニンゲンですよ?」
「ならなぜ給仕なんかしているんだ」
「えっと……、働くのが好きだから、でしょうか」
「変わり者だな」

そうかなぁ?
結構いると思うけど。

「イーノ、姉上はニンゲンの事などろくに知らないから気にしなくて良い」
「何だと? ニンゲンは魔力は少なく、できればぐうたらしていたくて、隙あらばエルフの服を脱がせようとするものだろう」
「それはエスグリです」

エスグリさん……。(涙)

「フォーリャ、欲深くて身の程知らず、を忘れているぞ」
「そんな人は少数派です! ……たぶん」
「ニンゲンの貴族たちには多いな」
「それは……」

確かに貴族はエルフを友人扱い、というか身を飾るジュエリーみたいな扱いをしたがるけど。……ごめんなさい。

「イーノも、叔父上の伴侶もニンゲンだが、悪意がないだろう。客観的事実を無視するべきではない」

リーフ様が庇ってくれたけど、エルフ様たちの小馬鹿にした態度は変わらなかった。まぁ、話には聞いていたけど……、でも。

よし!
身を持って証明しよう!!

と、意気込んだものの、ツマミは並べるだけ、お酒は手酌。空いたお皿はブラウニーが片付けてしまう。

「する事がない……」
「帰るか」

おれはリーフ様に連れられてお屋敷を後にした。


ーー リーフ side ーー


対策会議といってもやる事は決まっている。繰り返し攻撃してここは居心地が悪い、と思わせるだけだ。

エルフ達のニンゲンへの態度はだいたいこんなものだが、何故か張り切るイーノ。落ち込まず、良いところを見せようとするのが微笑ましい。

だがする事がないようだ。
明日も今日と同様に出かける事を確認して家に帰った。

「すみません、おれ……、役立たずで……」
「あの場で役に立つ必要はない。イーノは私のポーターだろう」
「そうですが、良いニンゲンもいる、って思ってもらえたら……、翠珠街のハーフエルフ達の扱いがもっと良くなるような気がしたんです」
「何故そうなる?」
「えっと……」

イーノの考えは不思議だ。直接、繋がっていない事象が回り回って改善されてゆくなど、有り得ない事ではないが随分回りくどい。しかも己のためではなく、少し知り合っただけのルーのために?

「よっ、余計なお世話だとは分かっているんです! でも、エルフ様達への憧れは他人事じゃない、っていうかおれだけリーフ様に良くしてもらってるのが申し訳ないっていうか!!」

なるほど、親近感と罪悪感か。
だが。

「エルフによるニンゲンへの偏見は根強いし、すぐに変化するものではない。だが私やコクトゥーラのように興味を持つ者もいる。イーノが焦ることはない」
「そう、ですよね。はい! 焦らず尽くしたいと思います!」
「私以外に尽くしたら妬いてしまうよ」
「ぅえっ!? や、妬いて……?」

からかわないで下さい、なんて狼狽えているのは可愛らしいが、何故本音だと考えてくれないのだろうか。

そろそろ本気で手を出すべきか?
しおりを挟む

処理中です...