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第22話
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ーー リーフ side ーー
「リーフ、遅かったな」
郷長の館の広間では、郷長と、姉を含む若手が4人ほど集まっていた。エルフは誰でも魔法に長けているが、戦いを厭う者も多いため何かあるとまず、志願者を募る。
魔法の研究をしている者達が、実践したくて志願するのだ。森の中で火属性攻撃をする時の効率良い結界について、複合魔法の練り方、森の植物の効率的な利用法等。
「あの子は薬物に耐性がないようで、症状が重かったのです」
「ふむ、ニンゲンは弱いからな」
「リーフ、後であのニンゲンを貸してくれ」
「お断りします」
姉が検証実験にイーノを使いたがるが、貸したら心が壊れてしまうかも知れない。恐怖心を煽る幻惑魔法の研究など、森の外に出ればいくらでも被験者が見つかるだろうに。
話し合いは猩々が出た場所と仕掛けてきたイタズラの情報共有だった。巣の場所は判っていない。
「とにかく目障りで、縄張りを主張する糞が臭い。香蜜桃の実を好んで食べるせいか浄化でにおいが消えないのだ。我らが仕掛けた罠を壊すのを楽しんでいるようでもある」
「厄介な」
以前は森の東にしかいなかった猩々。つまり縄張り争いに敗れた個体か? いや、好んで罠を壊すならそれほど弱い個体ではないはず。
「討伐でも構わないが、なるべく郷から離れた場所で頼む。無論、追い払うのでも構わない」
「では今日の内に縄張りの確認をしておきます」
討伐はそれぞれで動くので自分の目で縄張りの確認をしておかなくてはならない。イーノは朝まで眠るだろうから、今のうちに行ってしまおう。
食事をして装備を整え、日が暮れ始めた森の中へ、猩々の痕跡を探しに足を運んだ。
ーー イーノ side ーー
目が覚めたら大きな寝心地の良いベッドに寝かされていた。リーフ様はいない。心細いけど勝手にうろつくのも憚られるので、トイレを探すだけにした。
部屋に2つあるドアの内の1つがトイレだったので、ほっとしながら用を足し、備え付けの水差しの水を飲んで喉の渇き潤した。……腹の虫が鳴いている。
1人で食べるのもなぁ、と迷いつつ携帯食料を取り出そうか迷う。
ガチャ
「あっ! リーフ様!!」
「起きていたのか。身体は辛くないか?」
「は……、はい……、その、おかげさまで……」
いっぱい触ってもらったのをはっきり覚えているから、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「腹が減ったろう。歩けるか? 持って来させようか?」
「大丈夫です! 歩けます!!」
体は怠いが歩ける。
連れて行ってもらったエルフの食事処は、小さな光が飛び回る、不思議な店だった。
「これは……、小精霊ですか?」
「そうだ。イーノについたのと同じ存在だ」
「へぇ、小精霊に好まれるニンゲンか」
店長らしきエルフ様声をかけてくれた。すごい! エルフ様が並んでる!! 眼福!
「イーノ、彼は料理研究家のコクトゥーラだ。エルフ料理の他に創作料理も研究している」
「ニンゲン向けの料理は研究した事がないんだ。あとで教えてくれる?」
「あ、ありがとうございます」
おれが空腹だからと説明し、すぐに食べられる物と、しっかりと腹にたまる物を注文してくれた。
「リーフ様は食べないのですか?」
「イーノが眠っている間にする事があったので、悪いが先に食べた」
「え!? なら、その、仕事……」
「あぁ、調査なのでポーターは不要だったのだ。イーノが必要になるのは猩々を追い払った後だな」
「猩々!! リーフ、早く追い払ってくれ。あいつがそこら中にマーキングするからせっかくの食材がダメになるんだ!」
つまみを持ってきたコクトゥーラ様が怒り心頭に語った。
「明日、志願者達で追い払いに行くが、イーノは留守番だ。郷の中なら自由に出歩いて構わないが、ニンゲンを嫌う者もいる。そこだけ気をつけてくれ」
「はい!」
リーフ様に心配かけないよう、なるべく大人しくしていよう。
「もしする事がないのなら、ここにおいで。小精霊が喜んでいるから、歓迎するよ」
「ありがとうございますっ!!」
喜んでくれてるの?
小精霊はゆっくりと明滅しながら、ふわふわ飛び回っているだけだけど、感情があるのか。不思議だなぁ。
「イーノ……、餌付けされてここに残りたいと言い出さないだろうな?」
「餌づっ!? ……確かに美味しいですが、リーフ様と離れたくはありません!」
おれの答えに安堵の表情を見せるリーフ様と、クスクス笑うコクトゥーラ様。
……リーフ様って、おれの事、よっぽど食いしん坊だと思ってる? いくら美味しい料理でもリーフ様のそばを離れるくらいなら諦めるのに……。それにしても美味しい!!
リーフ様はお酒を飲みながらおれが食べ終わるのを待っていてくれた。
店を出ると怠さがなくなっていて、とても体が軽い。元気が出るハーブを使ってくれたのかも知れない。
「夜なのに明るいのですね」
「夜光虫を集める行灯草を植えて育てているんだよ」
道の両側と建物の扉の周り、壁のあちこち、柵や看板。随所にぼんやりとした光を放つ釣鐘型の白い花が咲いている。蔓植物なのでお店の前のアーチに這わせている所まである!!
幻想的な夜の街をリーフ様と歩けるなんて、と幸せに浸りながらリーフ様の家に戻った。
「リーフ、遅かったな」
郷長の館の広間では、郷長と、姉を含む若手が4人ほど集まっていた。エルフは誰でも魔法に長けているが、戦いを厭う者も多いため何かあるとまず、志願者を募る。
魔法の研究をしている者達が、実践したくて志願するのだ。森の中で火属性攻撃をする時の効率良い結界について、複合魔法の練り方、森の植物の効率的な利用法等。
「あの子は薬物に耐性がないようで、症状が重かったのです」
「ふむ、ニンゲンは弱いからな」
「リーフ、後であのニンゲンを貸してくれ」
「お断りします」
姉が検証実験にイーノを使いたがるが、貸したら心が壊れてしまうかも知れない。恐怖心を煽る幻惑魔法の研究など、森の外に出ればいくらでも被験者が見つかるだろうに。
話し合いは猩々が出た場所と仕掛けてきたイタズラの情報共有だった。巣の場所は判っていない。
「とにかく目障りで、縄張りを主張する糞が臭い。香蜜桃の実を好んで食べるせいか浄化でにおいが消えないのだ。我らが仕掛けた罠を壊すのを楽しんでいるようでもある」
「厄介な」
以前は森の東にしかいなかった猩々。つまり縄張り争いに敗れた個体か? いや、好んで罠を壊すならそれほど弱い個体ではないはず。
「討伐でも構わないが、なるべく郷から離れた場所で頼む。無論、追い払うのでも構わない」
「では今日の内に縄張りの確認をしておきます」
討伐はそれぞれで動くので自分の目で縄張りの確認をしておかなくてはならない。イーノは朝まで眠るだろうから、今のうちに行ってしまおう。
食事をして装備を整え、日が暮れ始めた森の中へ、猩々の痕跡を探しに足を運んだ。
ーー イーノ side ーー
目が覚めたら大きな寝心地の良いベッドに寝かされていた。リーフ様はいない。心細いけど勝手にうろつくのも憚られるので、トイレを探すだけにした。
部屋に2つあるドアの内の1つがトイレだったので、ほっとしながら用を足し、備え付けの水差しの水を飲んで喉の渇き潤した。……腹の虫が鳴いている。
1人で食べるのもなぁ、と迷いつつ携帯食料を取り出そうか迷う。
ガチャ
「あっ! リーフ様!!」
「起きていたのか。身体は辛くないか?」
「は……、はい……、その、おかげさまで……」
いっぱい触ってもらったのをはっきり覚えているから、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「腹が減ったろう。歩けるか? 持って来させようか?」
「大丈夫です! 歩けます!!」
体は怠いが歩ける。
連れて行ってもらったエルフの食事処は、小さな光が飛び回る、不思議な店だった。
「これは……、小精霊ですか?」
「そうだ。イーノについたのと同じ存在だ」
「へぇ、小精霊に好まれるニンゲンか」
店長らしきエルフ様声をかけてくれた。すごい! エルフ様が並んでる!! 眼福!
「イーノ、彼は料理研究家のコクトゥーラだ。エルフ料理の他に創作料理も研究している」
「ニンゲン向けの料理は研究した事がないんだ。あとで教えてくれる?」
「あ、ありがとうございます」
おれが空腹だからと説明し、すぐに食べられる物と、しっかりと腹にたまる物を注文してくれた。
「リーフ様は食べないのですか?」
「イーノが眠っている間にする事があったので、悪いが先に食べた」
「え!? なら、その、仕事……」
「あぁ、調査なのでポーターは不要だったのだ。イーノが必要になるのは猩々を追い払った後だな」
「猩々!! リーフ、早く追い払ってくれ。あいつがそこら中にマーキングするからせっかくの食材がダメになるんだ!」
つまみを持ってきたコクトゥーラ様が怒り心頭に語った。
「明日、志願者達で追い払いに行くが、イーノは留守番だ。郷の中なら自由に出歩いて構わないが、ニンゲンを嫌う者もいる。そこだけ気をつけてくれ」
「はい!」
リーフ様に心配かけないよう、なるべく大人しくしていよう。
「もしする事がないのなら、ここにおいで。小精霊が喜んでいるから、歓迎するよ」
「ありがとうございますっ!!」
喜んでくれてるの?
小精霊はゆっくりと明滅しながら、ふわふわ飛び回っているだけだけど、感情があるのか。不思議だなぁ。
「イーノ……、餌付けされてここに残りたいと言い出さないだろうな?」
「餌づっ!? ……確かに美味しいですが、リーフ様と離れたくはありません!」
おれの答えに安堵の表情を見せるリーフ様と、クスクス笑うコクトゥーラ様。
……リーフ様って、おれの事、よっぽど食いしん坊だと思ってる? いくら美味しい料理でもリーフ様のそばを離れるくらいなら諦めるのに……。それにしても美味しい!!
リーフ様はお酒を飲みながらおれが食べ終わるのを待っていてくれた。
店を出ると怠さがなくなっていて、とても体が軽い。元気が出るハーブを使ってくれたのかも知れない。
「夜なのに明るいのですね」
「夜光虫を集める行灯草を植えて育てているんだよ」
道の両側と建物の扉の周り、壁のあちこち、柵や看板。随所にぼんやりとした光を放つ釣鐘型の白い花が咲いている。蔓植物なのでお店の前のアーチに這わせている所まである!!
幻想的な夜の街をリーフ様と歩けるなんて、と幸せに浸りながらリーフ様の家に戻った。
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