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第11話

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昼食兼用の遅い朝食を食べてガナドールの町を出発する。
挨拶の時、エスグリさんがジト目になってたけどなんでだろう?
まぁ、良いか。

乗合馬車を乗り継いで進む。
他のお客さんたちがリーフ様をチラチラ見て頬を染めている。眼福だよねぇ。

エスグリさんは誰とでも仲良くなっておしゃべり好きなんだなぁ、って思ってたら情報収集だって。話が聞けるなら酒場に拘る必要はない、って本当だ!!
お酒とつまみとお菓子を振舞いながら、楽しい道中になった。エスグリさん、見直した!!

道中、ヘラジカと言う魔獣も出たけどエスグリさんがサクッとやっつけてたのも格好良かった! その肉をリーフ様が浄化魔法で血抜きして、同乗していた家族のお父さんが捌いて携帯コンロで焼きながら焼肉パーティーとなった。

旅ってこんなに楽しいの?

「んな訳あるか! 今回は運良く美味い鹿型魔獣が出て、運良く俺様がいたからサクッと倒せて、リーフの血抜きが上手くて、この親父の腕が確かだっただけだ」
「ええ、本当に運が良かったです!」

意外と謙虚なエスグリさんにうっとり見惚れる料理人見習いの若者。……おや?

「うわぁっ!! ク、クサリトカゲだぁっ!!」
「うげっ! リーフ、任せた!」
「仕方ないな」

クサリトカゲ?

馬車が止まり、みんなではてなマークを浮かべているとリーフ様が馬車から降りる。後を追おうとしたら止められ、馬車の側から見学することになった。

「あそこにいるトカゲが見えるか?」

背中が空色、胴体の腹側3分の1が草色の大トカゲ。色の境目に銀色っぽい鎖のような模様がある。だから鎖トカゲなのか。

体高は低いが全長はウマより大きくないか?

「あいつは体臭が強いから必ず風下から来る。だが臆病なウマはいち早く気づく」

街道を縄張りにすると討伐されるので滅多に遭遇する事はないらしいのだが、縄張り争いに負けた個体か、とエスグリさんが説明してくれる。

「……なぜリーフ様に任せるんですか?」
「言っただろう? あいつは体臭…… 血も肉も何もかも臭くて浄化魔法でも臭いが残る。触れると3日は臭いままなんだ。だから風魔法で閉じ込めて切り刻み、吹き飛ばすのがセオリーだ」

と、言う事は!
リーフ様の魔法攻撃が見られる!!

「リーフ様、頑張って下さい!」

俺が応援すると美しい微笑みで頷き、向き直って詠唱を始めた。

聞き取れないけど!

リーフ様は馬車がすっぽり入るほどの大きな空気の渦らしき物を作り、クサリトカゲに向けて放った。

ばしゃっ! っとトカゲが液体に変わり、向こう側へ吹き飛ばされて行く。

あっと言う間に片付いた。

「リーフ様すごい! かっこいい!!」
「イーノ、馬車の中にいた方が安全だよ?」
「そんな事言ってめちゃくちゃ張り切ってたじゃねぇか」

いつもと違う派手な魔法だったらしい。
そんなすごいのを見せてくれたなんて優しいなぁ。

リーフ様はみんなから感謝され、俺たちの運賃がタダになり、料理人からは良いお酒をもらった。おこぼれに預かっちゃった♡

あ、鎖トカゲじゃなくて腐りトカゲだそうです。


ーー リーフ side ーー

のんびりと出発し、エスグリの情報収集と言う名の馬車旅暇つぶしにすら感心するイーノを眺めて楽しんでいると、ヘラジカが出た。怒りの女神ヘラの呪いにかかり、常に怒りを撒き散らしていると言われている魔獣だ。

これを軽く仕留めたエスグリを見て褒め称えるイーノ……。次に何か出たら私がやろう。

と、考えていたらクサリトカゲが出た。

私の見せ場だ。
何事かと後に続こうとするイーノをエスグリが安全な場所に引き止めてくれた。

声援を受け、押しとどめてただ切り刻んだのではイーノを驚かせる事ができないかも知れない、と高位の『鎌鼬の巣』を放ち、瞬殺した。

イーノの尊敬の眼差しが心地良い。

他の者からの感謝などどうでも良いがイーノが誇らしげなので良しとしよう。酒は宿でイーノと飲もう。



街に着いて宿を取り、食堂で軽く飲んだだけでご機嫌なイーノ。もらった酒はまだ飲んでいないのだが。

「リーフ様、綺麗で格好良くて強くて本当にすごいです!」

エスグリは料理人見習いとどこかへ行ったのでイーノと2人の楽しい食事だ。時折割り込もうとする輩がいるが、ひと睨みで素直に引っこむ。分かれば良い。



ーー ??? side ーー

「おい! やめとけって!」
「けどよ、人間にあんなに優しく笑いかけるエルフなんぞ見た事あるか?」
「そりゃ優しそうだけどさ。エルフだぞ?」
「一杯飲む間だけオハナシさせてもらいてぇだけだ。頼む価値はあるって!」
「……エルフは遠くから拝むものだ」

ダチの忠告を振り切って近づいたものの、散々嬲ってから射殺すぞ、と言わんばかりに睨まれ、すごすごと席に戻る。

「エルフの笑顔なんてここから眺められるだけで満足しておけって」
「……美形の怒った顔、ってキレイだよなぁ」
「懲りないな」
「懲りたよ! 遠くから拝むよ! だって、これ……」

オレは片足に絡みつくナニかをダチに見せた。睨まれた瞬間に走った痛みは膝下に絡みついた『エルフの荊』だ。噂で聞いた事がある。

エルフの気分を害するとつけられ、最低3日は痛み続けるらしい。術者の怒りの度合いで痛みも変わるのでこれは軽い方だろう。

近づかなければ大丈夫そうだ。

エルフ、キレイだなぁ……。
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