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記憶喪失……?

2-25 お別れパーティー

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船長達との話を終え、帰る道々依頼中の浄化プラグの進捗を確認しに行ったらまだできてなくて、完成したらキアトリルに送って貰うことにした。そして完成していなかったことを残念がったらベイセルに揶揄われて腰くだけになりましたとさ。

イケボの乱用、らめぇ。

イシドロさんのお店は作業に入っているので立ち入り禁止、と注意書きがあり、鍵が閉まっていた。明日中には受け取れないかな?

それから雑貨屋のお爺ちゃんに挨拶をして、磨いた翡翠が半分白くて値段がつけづらいと言われたので磨いた手数料を払って売らずに引き取って来た。それから顔馴染みになった屋台の店主達にも挨拶して、アニタさんのお店に顔を出した。ハリーはちゃんと明日の予約を伝えていた。

「貸し切りの予約、ありがとう!」
「こちらこそ突然のお願いを聞いてくれてありがとうございます」
「いやいや、貸し切りとか言いながら常連さんも招いてくれるんだろ? しかも仕込みの手伝いもしてくれるとか。つまみも食事もたくさん作るから好きなようにしておくれよ」
「はい!」

実はオレ、お金持ちだった。
知らなかったけど水飴の作り方を教えたのがオレで、売り上げの一部が入ってきているし、顧問料とか色々あって貯蓄が金貨数百枚になっているらしい。金貨1枚が約十万円だから100枚なら一千万、数百枚なら数千万円だ。

計算が雑なのは実感がないからだね!!

それが分かったのでウ……、ベイセルに出してもらうことなく、自分のお金でお礼ができる。貸し切りは一晩金貨2枚って言われたけど、みんなお酒をたくさん飲むだろうから金貨3枚を渡して、金貨1枚分はお酒を仕入れてもらった。

足りるよね?

足りなくたってまぁいいか。

タダ酒タダ飯なんだからきっと満足してくれる。そもそもこのお店の料理はとっても美味しいもんね!



*******



翌日は朝食を食べたらすぐにアニタさんちに行って仕込みの手伝い。朝市で仕入れたという野菜を洗い、魚を捌き、肉を切る。大根はないけどカブがあったので葉っぱの根元を利用して魚の鱗取りをして見せたら喜ばれた。

テレビで見たライフハックなんですけどね。

鱗が飛び散らなくて便利!!

パーティー用の魚は1mくらいで、このライフハックのおかげで鱗取りが楽しい。でも10匹もできないって! 腕が死ぬ!!

バルトサールが代わってくれた。

ちなみにオレは3匹、バルトサールが7匹の鱗を取った。ウ……、ベイセルは肉を切り、ロニーは根菜を洗ってみじん切り、ハリーはレタスみたいな野菜を千切ってサラダを作り、アニタさんはイカを解体する。

イカってパーツ分けできるのがプラモデルみたいだと思ってるんだけど、今まで同意してくれた人はいない。別にいいんだけどさ。

「ロニー、バルトサール、手伝わせてごめんね」
「……世話になった人達に礼を尽くすのは人として当然ですから、不満はありません」
「でもお世話になったのはオレだし、ロニー達は関係なくない?」
「護衛なのにおふたりを見失い、探し出すまでこんなに時間がかかってしまいました。己の不甲斐なさに歯噛みしているんです。せめて僕からもお礼をさせてください」

こくこく頷くバルトサール。
うん、仕事を全うできなかったのって悔しいよね。

「なるほど。ならごめんじゃなくてありがとうと言うべきだね」

オレがそう言うとロニーが神妙な顔で頷いた。

かわいい。

「……タカラ様、ロニーはおれのです」
「はっ!? いやオレ、バリネコだしっ!!」
「バリネコ?」
「えーっと、嫁しかできないってこと」
「貸し出しもしません」

なっ、なんだってー!?
ということは、キラキラ美少年×長身細マッチョ青年!!

「いや、ベイセル以外はいらないから!!」
「バルトサール……?」

ほら、ロニーが怒った!!
笑顔で怒ってるよ!
どこかの個性派俳優みたいだよ!!

それにしてもこのオレのベタ惚れっぷりを見ても恋人をつまみ食いされると思いつくのがすごいな。若さかな?

そんな呑気なやりとりをしながら、頑張って大量の下ごしらえをした。



*******



「ノア船長をはじめ、アルカ号の乗組員、アニタさん達ハリーのご家族、常連の皆様、大変お世話に……」
「固いわっ!!」
「腹減った!」
「早く飲ませろー!!」

欲望に忠実な参加者達に遮られ、感謝の言葉も言えなかったけどまずは乾杯。

「楽しんでください! 乾杯!!」
「「「「「乾杯!」」」」」

乾杯した後はそれぞれ好きなものを取って食べ、飲む。いつもと違ってアニタさん夫婦も店内で飲み食いしている。もちろんお母さんや子供達もいる。あ! ハリーのお父さん初めまして!!

漁から今日、帰ってきたお父さん。
遠くまで行ってるって言ってたけど捕鯨してたらしい。10mくらいの小型の鯨を捕ってきたんだって。帰ってきたら貸切なのに店に連れてこられて何事かとおもったって。

お世話になってます!
そしてハリーは命の恩人です!!

会えたと思ったらお別れだけど、お土産に鯨のジャーキーをくれた。船で戻りながら干して来たので半生で柔らかくて食べやすい。味もいい。美味しいものをくれる人は良い人!!

お別れパーティーでは筋肉自慢の常連さんがバルトサールに腕相撲を挑んで負け、筋肉お姉さんがベイセルと睨み合って負けを認め、役者のアクトールは本物だったベイセルに感激している。でも記憶がまだ戻ってないから活躍した時の話が聞けなくて少し残念そう。

オレは船員達から釣り迷人とからかわれ、ハリーからは泣きながら裏切り者と詰られる。いや、オレ拾われた時から『嫁』だったよね? それにハリーってば泣き上戸だったの? まぁ、しんみりするよりわいわいガヤガヤする方が良いか。

ちびちゃんたちが1人2人と撃沈し、ハリー母さんが引き揚げた。海の男達の飲み比べは際限がなく、アニタさんも一緒になって飲みまくっている。すげぇ……。

「タカラ! 飲んでるか!?」
「飲んでるよ~。甘いお酒をね」
「そーかそーか。旦那が見つかって良かったなぁ!」
「全然探してなかったけどな!」
「「「ぎゃははははっ!」」」

もう!
覚えてないんだから仕方ないじゃん!

「知らずに探していたんだろう?」
「……ベイセル、その、どうだろう……?」
「いや、そこは旦那に乗っかれよ!」
「そうだぞ、タカラ。嫁は旦那に乗るものだ」
「おまっ! 下ネタなんて言ったら師団長サマに怒られるぞ!」
「違いねぇ!!」
「「「ぎゃははははっ!」」」

完全にカオス。正しい酔っ払い達である。

こんな他人事みたいに考えているけど、オレも結構酔っている。こう、身体にブレーキが効かない感じ?

「ベイセルぅ~、オレぇ、少し酔ったぁ~」
「いやかなり酔ってますよね」
「ん~ん。少しだけ~」

ロニーはマメにつっこんでくれるなぁ。でも早くバルトサールに突っ込んであげないと浮気されちゃうかもよ?

「おれは学生時代からロニー一筋なので気遣い無用です」
「なんだそっかぁ。オレと同じかぁ」
「タカラ、もう休もう」
「でも……、みんなは……?」
「勝手にやらせてもらうから気にせず帰んな!」

お世話になったお礼はみんなに伝わったか。ならもう休んでもいいかな? 料理の下拵えで実は疲れている。よし!

「それじゃ~、みんな、短い間だったけどお世話になりました~! 楽しかった~、ありがとう~!」
「おう!」
「また来いよ!」

挨拶をして宿に帰る。
おおおおお? 地面が柔らかくない? 歩きにくいよ~!!

「ベイセル、抱っこ」
「ふ、はははははっ。タカラはかわいいなぁ」

笑いながら抱き上げてくれて、片手で軽々と抱っこしてくれる。ムキっと硬くなった筋肉にうっとりしながら首に腕を回し、ぺったりはりついて夢見心地で宿へ戻ったけど、途中から全然憶えてない………………。

オレ、寝落ちしたのか。

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