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35.幸せな異世界生活はまだまだ続く

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ベイセルに指輪を贈りたいことと、その理由を告げたら受け入れてもらえて、嬉しくて号泣してしまったオレ。

ひとしきり泣いて、我に返って鼻をかみ、顔を洗ってやり直し!!

水で冷やして目の腫れひけ~、って願ったらちゃんと腫れがひいた。治癒万歳!

「それでは改めて。タカラ、私のものになってくれるか?」
「はい! ベイセルもオレのものになってくれる?」
「あぁ、もちろんだ」

指輪を贈り合って互いの指にはめ、イヤーカフも付け合った。指輪のサイズはバッチリでした。ただ、指が太いのに合わせてリングの幅も広くしたのにまだ華奢に見える。まぁ、いいか。

「タカラは結婚したいとは考えていないのか?」
「んー、好きな人とイチャイチャできればそれでいいかな、って考えてる。それ以上はなんていうか想像できないんだよね」
「想像できない……」

だって恋人いない歴=年齢だよ?
エロい妄想ならたくさんしたけど、好きな人(同性)との結婚生活なんて想像できないって。

でも。

笑い皺の刻まれたベイセルはやっぱりかっこいいんだろうなぁ。そんな人の隣にずっといられたら幸せだろうな。

はっ!!

その頃には勃たなくなっちゃう?
そうしたらオレが頑張って気持ちよくしてあげた方がいいかなぁ? リバは考えてなかったけど、うーん。

「タカラ、おかしなこと考えてないか?」
「ふぇっ!? い、いや、たぶん大丈夫……?」

くつくつ笑いながら近づいてきて、優しい口づけをくれる。ゆっくりと深くなる甘い交わりに身も心も蕩けていく。

大型肉食獣を思わせる体躯、それに見合った大きな手。野生的な視線、甘やかな吐息。低くて心地よい声は耳に流れ込む媚薬。

運命の赤い糸があるのなら、きっとオレとベイセルは繋がっているのだろう。世界の境界を越えて手繰り寄せられたオレはきっとがんじがらめにされる。

愛に、執着に、欲望に、優しさに。

異世界に来るなんて幸運に恵まれて、この上なく幸せになったオレはこの世界に何を返していけるだろうか。

技術チートはもうあまり引き出しがないけど、何かあるかな?

いつかまだ見ぬこの世界をベイセルと2人で旅したい。師団長だから国を離れるわけにはいかないだろうけど、引退したら行けるよね。

その時によぼよぼじゃ足手まといになってしまうから、今からしっかり鍛えよう。乗馬も習って、船に乗せてもらって、通訳なら言語チートがあるから大丈夫。

やりたいことがたくさんある。
to do リストを作ろう。情報収集もしなくちゃ。

楽しくて幸せな毎日のために、できることはなんでもやろう。

あっ、ちょっ!
待って!
まだ考えが……。

そんなしょんぼりした顔して待ちきれないとか言わないでよ。きゅんきゅんして後ろが濡れちゃうでしょ。

あぁ、んん、ふゃん……!

オレは毎日異世界で、明るく楽しく過ごします。





*******
   後日談
*******



「おめでとう」
「おめでとう!」
「めでたいですな」

西方師団のみんなに祝われてガーデンパーティー。

この世界に来て2年。結婚しました。
だって王様がうるさいんだもん。

なんでオレとベイセルの結婚に王様が口出してくるの? 個人的に気に入ったから? なにそれ!!

まぁ、嫌じゃないからいいけどね。
生活は今までと何一つ変わりませんでした。



第二王女と第二公子の結婚式は両国でそれぞれ行われた。先にユピピアでその後キアトリル。新婚旅行とかないのでうちの国での式が終わったらすぐユピピアの辺境伯の領地に本格的に輿入れ。

輿入れでは以前、トルスティ殿下を送ったときより護衛も多くて盛大だったけど、何故かご指名で2人の馬車に引き摺り込まれたオレ。

今はちゃんとした侍女さんいるでしょ!!

怪しいとは思ったんだよ。
またしても女装させられたからね。

けど、なんで第二王子までいるの!?

「かわいい妹の嫁ぎ先が一目見たくてね」
「なら何故護衛の服なんですか?」
「かっこよかったからかな?」
「絶対、嘘だ!!」

気さくな人柄なのは知ってるけど、水飴工房の責任者が何故ここに!!

「兄上はユピピアの幻の天馬が欲しくて潜り込んだのであろう」
「幻の天馬?」
「それはですね……」

トルスティ殿下が話を引き受け、説明してくれたところによると。

ユピピアの迷いの森の中にある泉にはごく稀に、真珠色に輝く身体で翔ぶが如く走る姿はまるで天翔ける月の光のようだ、と謳われる天馬がやってくる。彼らと直接交渉し、気に入られれば死ぬまで尽くしてもらえるという。

真珠色に輝く馬か。確かに綺麗だろうけど、1年前に結婚したばかりで新妻を置いて探しに行くのはどうなの?

「カロリーナがね、その、甘いものを食べ過ぎてしまってね……」

シェイプアップの目標として幻の馬を欲しがった、と。それは痩せる気がないだけでは?

「普段ならふくよかな方がかわいいからいいんだけどさ。妊娠中は体重が増え過ぎないようにしないといけないらしくて……」
「ご懐妊!! おめでとうございます」
「ありがとう。だからさ、タカラの力を借りて天馬を手に入れようと……」
「そんな力ありませんよ?」
「いや、きっとある。だから頼む」

なし崩しに連れて行かれた迷いの森の泉。
小さな滝から流れ落ちる清らかな水が、降り注ぐ陽の光に煌めいて幻想的といっていいほどだ。ここなら真珠色に輝く天馬がいても何の不思議もない。……気がする。



待つことしばし。



「来ませんね」
「大人数で来たからじゃないてすか?」
「いや、50人で来ても会える人は会えるらしい。……そうだ、踊ってくれ」
「はい?」

なんと天馬は好奇心が旺盛で珍しいものや不思議なものに惹かれるらしい。いやオレ不思議な踊りなんて踊れないよ!?

盆踊りでも踊ればいいの?

どじょうすくいなんて無理だよ。

「何のために女装させたと思ってるんだ」
「……え? 何のためです?」
「天馬を混乱させるためだ! 女なのか男なのか気になって出てくるかも知れないじゃないか!」

第二王子ぇ……。

そんなアホなことで伝説の馬が出てくるか!!
いや、知らないけどさ。

ガサッ

ん?

ガサガサッ

何かキラキラしたものが見えたような気がする。まさかね。でも好奇心が強いのか。そうだ。

「あの、ここに大きな布を張って……、この高さで……、はいそのまま。そちらの方、見ててくださいね」

護衛の兵士にお願いして、腰より少し高いあたりの高さに布を張り、泉側に陣取る。そこで天馬らしきものにも見える向きで昭和の宴会芸「階段」のパントマイムを披露した。

「おぉ? 階段があるのか?」
「何もないぞ?」
「どう言うことだ?」

王子たちがノリノリです。
エスカレーターを自動階段と称してやったらまたウケた。

次に「壁」、「ハシゴ」、「引っ張られる人」、のパントマイム。

素人芸だけど案外ウケた。

「ヒヒーン! ブルルルルっ」

………………………………。

「来た!」
「天馬だ!」

本当にきちゃったよ、天馬。

話の通りシャンパンカラーの真珠みたいな光沢を持つ、それはそれは美しい馬。

それがパカパカと近づいてきて、オレの匂いを嗅ぐ。首元、脇の下、臍、股間。匂いの強そうな場所だなー、とか考えてたら服を引っ張られた。うおぅっ!!

「タカラ!」

オレが着ている服は前合わせの上着を帯で押さえている形なので、前合わせの襟を引っ張られれば胸がはだける。

はっ!
久々のラッキースケベか!
いや、ラッキースケベられか。

待って、馬って人間のどこを見て男女を区別してるの? 脱がされ損じゃない?

ベイセルが助けに来てくれたけど馬の顎の力は強く、服を離してくれない。いやーん!

「ふひゃははははっ!!」

何を思ったのか胸をペロリと舐められた。ちょっと怖いけど擽ったくて笑ってしまう。でもお陰で服を離してもらえたのでベイセルの後ろに隠れた。

馬と睨み合うベイセル。

「ブフンッ」
「あ゛あ゛ん?」

ベイセル、柄が悪くなってるよー。




*******


異世界に来て「1年」を「2年」に訂正しました。
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