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30.秘密の水飴工房

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「それは?」
「えへへ、食後のお楽しみ~!」

着替えてきたベイセルが不思議そうな顔で聞いてくる。オレは食堂の隅でゼリーを冷却中。銀のボウルに濡れ布巾を巻きつけて小さなつむじ風を起こしている。

よし、かなり冷えた。

「じゃあ食べようか」

ベイセルは貴族と言っても平民からの叩き上げで騎士爵なだけなので、普段はコース料理にしていない。盛り付けは綺麗だけど基本的に家庭料理で、まとめて出てくる。

基本はサラダと肉料理、スープとパン。
それらを美味しくいただいて、いよいよデザート!!

食べている間に料理長が盛り付けてくれたので、ケーキみたいなフルーツゼリーになっている。お皿の真ん中にドーム型のフルーツゼリー、周りに飾り切りしたフルーツを飾ってある。

カラフルな果物のおかげでうっすらついた水飴の色も気にならない。

「ほう。美しいな」
「水飴の使い方を研究してるんだよ」
「タカラ様の手料理でございます」

いや、手料理なんてほどのもんじゃないから!! 料理長の飾り付けのおかげだよ!

切り分けてまた綺麗に盛り付ける。料理長すごい! 残りはみんなで食べてもらって、今後に活かしてもらおう。

「美味い! ひんやりしているのもつるりとした喉越しもいいな」

砂糖が少なくて済むように甘い果物を使ったけど、程よい酸味もあってさっぱりしている。これは成功だな。

「旦那様、おかわりはいかがですか?」
「いくらでも食べられそうだが皆も気になるだろう。タカラ、皆に分けてもいいか?」
「うん! そのつもりだったよ。色々な意見が聞きたいし」
「と、いうことだ」

ベイセルがそう言うと、扉の外から喜びの気配が伝わってきた。気になってたんだね。



*******



1ヶ月経ち、勤勉……、というか食いしん坊キャラだったカロリーナ様が上手に水飴を作れるようになり、立派な指導者になった。

そして工房の試運転(?)が3日前から始まった。あちこちから人を集めると情報が広がってしまうのでまずは2つの孤児院から働き手を雇用する。

普通なら見習いでも12歳以上なのだけど、職業訓練として希望すれば10歳から働ける。……あの姉妹、妹はまだ9歳だったなぁ。

様子を見に行ってみようか。



「神のお導きに感謝を」
「神のお導きに感謝を」

いつも通りの礼拝、勉強。そして神官様に言って孤児院にお邪魔させてもらった。お土産は果物。

「おにいちゃん、こんにちは!!」
「こんにちは。元気だった? お姉ちゃんは?」
「げんきだよ! あのね、おねえちゃんおしごといってるの」

元気になったなぁ。
お姉ちゃんはちゃんと雇用され、働きに行っているようだ。まだお小遣い程度だけど給与も出ているらしい。日当なので帰りにお土産を買ってきてくれたと笑顔で教えてくれた。

「かいさ、まだ?」
「あしょぼ!」
「あ、ごめんね。いまいくね」

妹のカイサはこの孤児院で小さな子の面倒を見ているのかな? 子供達を見送り、眺めていたら院長がきて話を聞かせてくれた。

「お待たせして申し訳ありません。カイサもセルマもとてもいい子で、よくお手伝いしてくれます。あの子達を連れてきてくれて、ありがとうございました」
「そんなこと!! オレは何もしていません。こちらで引き取ってくれて感謝しています」
「ふふふ、来たばかりの頃は姉のセルマに隠れてばかりいましたが、小さな子たちのお世話をお願いしたら喜んで引き受けてくれて……」

末っ子は弟妹を欲しがるもんね。

2人ともここに馴染み、姉は先週から工房へ働きに行き、妹は弟妹をお世話をしている。一安心だな。午後は工房に顔を出してみよう。



「こんにちはー」

工房は城壁の中の特別な場所にある。
分厚い城壁だなぁ、と思ってたら中が衛兵のための施設になってた。

仮眠室や執務室、事務室、医務室。地下には牢屋もあり、犯罪者から聞き取り調査することもあるらしい。数ヶ所ある出入り口で街の色んなところに出られるのが便利だと思ったけど、外周だから面倒くさそう。でも隠し通路感!

衛兵は体力があるから大丈夫なんだろう。

そして貴族街と平民街を隔てる城壁の中の部屋が工房だ。麦芽は日当たりのいい城壁の上で萌やしている。

出入りのチェックも厳しくできるし、納得の場所選びだった。

まぁ、子供が出入りするのは多少違和感がある気もするけど。

出入りチェックの衛兵に挨拶をして中に入る。顔パスです。

「あらタカラ様。ごきげんよう」
「カロリーナ様、ごきげんよう。様子を見に来ました」
「ありがとうございます。おかげで順調ですのよ」

王子様は今日は他に仕事があるらしく、子供達とカロリーナ様が楽しそうに作業をしていた。まだ始まったばかりなので、麦を萌やしている段階だ。

作業に慣れるための練習用の麦芽はオレが提供したものとカロリーナ様が持ち込んだもの。

「あ! お兄ちゃん!!」
「カイサのお姉ちゃんの……セルマだよね。元気?」
「うん! あの、前はごめんなさい」
「いいよいいよ。オレの考えが足りなかったんだし。それよりここはどう?」
「あのね! ちゃんとお仕事してるよ。ラーシュ様もカロリーナ様もね、優しいの!」

目をキラキラさせながら仕事をしていると言う。しかも作業内容を言わない。

えらい!!

聞くところによるとラーシュ殿下は3日に1度、カロリーナ様は毎日来ているって。貴族って仕事あるんじゃないの? 大丈夫?

「おいセルマ、サボってるんじゃねぇ」
「なによ! 私はもう終わりましたぁ~」
「ふん。終わったなら掃除や道具の点検ができるだろ」
「掃除も終わったし、お客様のお相手だってお仕事だもん!」
「ここの仕事は秘密だぞ。客なんて来るかよ」

少年、確かにオレは客じゃない。けどここに入れるんだから関係者だと考えた方がいいぞー。

「タカラ様、わたくしが作った琥珀飴を味見してくださいませんか?」

カロリーナ様乱入。ケンカの仲裁かな?

「……様?」
「お兄ちゃんのお姉ちゃんは王女様の侍女なんだから偉いのよ!」

いや、その通りの設定だけどちょっと待とう。王女様の侍女って偉いのか? あ、王族の側仕えは貴族なのか。でもどう説明していいものか、判断がつかない。よし! カロリーナ様に丸投げしよう!!

視線で助けを求めると、心得たとばかりに頷いてくれた。

「リネー、こちらのタカラ様はこの工房の相談役で、指導者ですのよ。わたくし達にこの素晴らしい技術を教えてくださった尊いお方なの。だから失礼のないようにね」
「えっ……! しつっ、ごめ……っ!」

動揺して言葉が出てこないようだ。知らなかったもんな。大丈夫、大丈夫。

「気にしなくていいよ。たまたま知ってたから教えただけだよ。でもセルマはいい子だから優しくしてくれると嬉しいな」
「………………………………はい」

にっこり笑って言ったら、顔を真っ赤にして狼狽えた後、どうにか返事を絞り出した。
微笑ましくてにやけてしまう。

「うふふ、やっぱりタカラ様はお優しいのですね」
「カロリーナ様、オレはただの平民だって言いましたよね? 尊いなんてやめてくださいよ」
「あら、そこは譲れませんわ。だってこんなに美味しいものを作る技術をもたらしてくださったのですもの。タカラ様は創造神の御使いに違いありませんもの!!」
「買い被りにも程がある!!」

カロリー甘いもの大好きカロリーナ様。
食いしん坊なのですね……。

リネーは12歳で、セルマがいるのとは別の孤児院の子なせいか対抗意識があるらしい。セルマが何かにつけて突っかかってくる、と言っていた。

甘酸っぱいナニかを期待したけど、違うのかな?
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