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25.本能的に警戒中
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芽を出してしまった麦を利用して水飴を作ろうと、材料にクズ芋を買った。澱粉があればいいし、売れない芋が売れるなら原材料が抑えられると考えたからだけど、それを分けてもらって糊口を凌いでいる幼い孤児の姉妹がいた。
知らずにオレが買ってしまい、2人は飢えた。
そして間に立ってくれたレーチェの父の後をつけ、オレにたどり着いて詰った。
芋泥棒、と。
話し合いの末、水飴工房で働けるよう口を利く約束してここの孤児院に預かってもらった訳だが、居心地は悪くない、よな?
「こんにちは!」
「こ、こんにちは……」
元気な姉と恥ずかしげな妹。
前に会った時より顔色も良く、服もきれいになっている。
「こんにちは。元気だった?」
「ええ! ここはとても良くしてくれるわ」
「きれいなベッドがあるの! 温かいご飯も毎日食べられるし、着替えもあるのよ」
お、妹が元気になった。
よしよし。
「オレも2人が元気になって良かったよ」
オレのせいで食べ物がなくなってしまったんだもんな。すべての孤児の生活に責任持てないけど、知り合ってしまったら知らないフリはできない。自己満足だとしても、できる範囲で何かしたい。
今回は上手くいったみたいで良かった。
「はい、これみんなで食べてね」
「ありがとう!」
「お姉ちゃんありがとう!」
……はい?
「お姉ちゃん……? オレ?」
「ちがうの? じゃあ、おくさま?」
「男だよ!!」
「「えぇっ!?」」
一人称オレだし、女装もしてないのになぜ?
前に会ったときは……、あっ! 女装したまま来たな、ここ。姫様達にくっついて来たとき、兄弟って言ったかも。
「オレはお兄ちゃんの方な?」
動揺してコクコクと頷くだけの2人。
そこまでじゃないと思うんだけどな。
あ、もしかして後ろが濡れるだけじゃなくて見た目も女性寄りに変わってる?
帰ったらしっかり確認しよう。
「レーチェ、いる?」
家まで訪ねて来たけど返事がない。留守か。
「おや、レーチェの友達かい? レーチェなら親父さんと2人で仕入れに行ってるよ」
「そうなんですか? ありがとうございます」
「レーチェもきれいな子だけど、アンタもきれいだねぇ。お似合いだよ」
「友達です!」
照れなくたっていいのに、とか笑いながらおばちゃんは帰っていった。急ぎの用じゃないけど、いつ帰って来るのかな? お土産はドライフルーツだから日持ちがするけど。
まだ日が高いので市場をそぞろ歩く。
面白いものないかな?
何でも屋発見!!
いや、雑貨屋?
「こんにちは。何を売ってるの?」
「らっしゃ……、こりゃまた……。うちは何でも屋だ。売れそうなものを見つけたら仕入れて他の場所で売る。これなんかどうだ? 貴族の御令嬢がお忍びをしたときにつけたペンダントだ!」
それは平民の普通のアクセサリーでは?
「ならこれ! 幸運を測る干し肉」
「痛みかけじゃないか!!」
運が良ければ腹を壊さない、ってアホか!
「アンタきれいなのにノリがいいな。艶の木の実から搾った油なんてどうだ?」
「艶の木?」
「種から油が搾れるんだが、葉が艶々してるんだ。だから艶の木」
椿みたいなものか。
「アンタのきれいな黒髪が濡れたようになって色気がえらいことになるぞ?」
「色気」
「どんな男もイチコロだ」
それがなくてもベイセルは誘えば応じてくれるけど、盛り上がるかな?
「いくら?」
「お! ありがとよ! こいつは銀貨20枚だ。けど、アンタなら大負けに負けて銀貨18枚でいいや」
瓶の大きさからして150ml。18000円は高くない?
「品質も分からないのにその値段は高いでしょ」
「領主の奥方が好んで使うんだぞ?」
「ここまで運ぶのに古くなってるかも知れないじゃない」
「よく見ろって! ほら、しっかり蝋封してあるだろ? これで安心だ」
透明度の低いガラス瓶には同じガラスの蓋があり、繋ぎ目は確かに蝋で密閉してあった。悩む。
「では私が贈りましょう」
「え?」
「毎度ありぃっ!!」
知らない男が割り込んできた。生成りのフェイスベールで目と眉しか見えないが、なかなか整った顔立ちをしているように見える。そしてその目は鋭く観察するような細い目。敵意は感じないけど、落ち着かないなぁ。
「他の方から贈られた物を身につけて恋人を誘う気はありません」
「おや、それは残念です」
せっかく面白い露店だったのに変なのに絡まれてしまった。仕切り直しに他の店を見よう。
「……なんでついてくるの?」
「偶然ですよ。私もこの辺りを見て楽しんでいるのです。美しい方も含めた街並みをね。あなたさえ良ければ飲み物でもいかがです?」
うわぁ、鳥肌たった!!
なんなんだこの胡散臭さは。
「タカラ?」
「えっ!? レーチェ!」
人混みで声をかけてくれたのはレーチェ。帰ってきたのか!
『知り合い?』
『いいや。絡まれてるだけ』
『おや、キアトリル語だけでなく、アークシナーン語がお上手ですね』
バッ! とレーチェがナンパ男に向き直る。
『……モーゼス?』
『これはこれは。レーチェ、久しぶりだね』
どうやらナンパ男はレーチェの知り合いらしい。以前世話になったというので少しだけ話を聞くことにした。レーチェを心配したとも言う。
とは言っても屋台の前にテーブルとイスを置いただけの店。ちゃんとした店なんて怖くて入れない。
『タカラ、この人はモーゼス。うちの家族が国を出てこちらへ渡る船で世話になった人だ。モーゼス、こちらはタカラ。神殿で知り合った友人だ』
『ご紹介に預かりましたモーゼスと申します。美しい方々との縁を結べたことを神に感謝いたしましょう』
ちょっと何言ってるか分かりません。
『オレはタカラ。……レーチェの友達』
ジト目で超簡単な挨拶をして睨みつける。レーチェはこいつを信用してるのか?
『タカラ、モーゼスは船主なんだ。具合の悪くなった母のために予定外の港に停泊してくれて、予定を5日も遅らせてくれたんだよ』
『え!?』
家にお邪魔したとき、お母さんがいる気配はなかった。まさか……?
『母は……、商売の地盤が築けたら迎えにきてくれ、と僕たちを送り出したんだ』
まさか、そのまま……!?
『今は船から降りた街で元気に子供相手の算術教室を開いているって手紙が来た』
『元気だな!!』
『船酔いだったらしい』
亡くなったかと思ったじゃないか!
いや、元気で良かったけど。
……船酔い辛いもんね。
『ふっ、ふふふ、タカラ様も元気がよろしいのですね』
『言っておくけど男装した女じゃないからな』
『そうでしたか。どちらか迷っておりましたので、教えてくださり感謝いたします』
『なんでみんな間違えるの……?』
なんでだよ!
バリネコだけど女扱いされるのは違うんだよ!
『まぁ、そういう流れで母の住み込み仕事もモーゼスが世話してくれたんだ』
『あちこち行くので顔が広いのですよ。大したことではありません』
どうにも胡散臭いけど、レーチェが助けられたのは事実だし、オレがとやかく言うべきじゃないな。
『それじゃ、もう帰る。ごちそうさま』
果実水を飲み終わったので、一応モーゼスにも礼を言って帰ることにする。神殿は明後日だから明日は研究室に行こうかな。
後をつけられたら嫌なので警備隊の詰め所に寄り、ベイセルの家紋入りペンダントを見せて裏口から馬車で送ってもらった。しつこいナンパに困っていると言ったら快く馬車を出してくれたよ。
家に帰ると珍しいことにベイセルがもう戻っていた。まだ夕方なのに!
「客が来ると知らせがあってな」
「お客様?」
オレは引っ込んでいた方がいいのかな?
「旦那様、お客様がお見えです」
間をおかずヴァルターが来客を告げた。
知らずにオレが買ってしまい、2人は飢えた。
そして間に立ってくれたレーチェの父の後をつけ、オレにたどり着いて詰った。
芋泥棒、と。
話し合いの末、水飴工房で働けるよう口を利く約束してここの孤児院に預かってもらった訳だが、居心地は悪くない、よな?
「こんにちは!」
「こ、こんにちは……」
元気な姉と恥ずかしげな妹。
前に会った時より顔色も良く、服もきれいになっている。
「こんにちは。元気だった?」
「ええ! ここはとても良くしてくれるわ」
「きれいなベッドがあるの! 温かいご飯も毎日食べられるし、着替えもあるのよ」
お、妹が元気になった。
よしよし。
「オレも2人が元気になって良かったよ」
オレのせいで食べ物がなくなってしまったんだもんな。すべての孤児の生活に責任持てないけど、知り合ってしまったら知らないフリはできない。自己満足だとしても、できる範囲で何かしたい。
今回は上手くいったみたいで良かった。
「はい、これみんなで食べてね」
「ありがとう!」
「お姉ちゃんありがとう!」
……はい?
「お姉ちゃん……? オレ?」
「ちがうの? じゃあ、おくさま?」
「男だよ!!」
「「えぇっ!?」」
一人称オレだし、女装もしてないのになぜ?
前に会ったときは……、あっ! 女装したまま来たな、ここ。姫様達にくっついて来たとき、兄弟って言ったかも。
「オレはお兄ちゃんの方な?」
動揺してコクコクと頷くだけの2人。
そこまでじゃないと思うんだけどな。
あ、もしかして後ろが濡れるだけじゃなくて見た目も女性寄りに変わってる?
帰ったらしっかり確認しよう。
「レーチェ、いる?」
家まで訪ねて来たけど返事がない。留守か。
「おや、レーチェの友達かい? レーチェなら親父さんと2人で仕入れに行ってるよ」
「そうなんですか? ありがとうございます」
「レーチェもきれいな子だけど、アンタもきれいだねぇ。お似合いだよ」
「友達です!」
照れなくたっていいのに、とか笑いながらおばちゃんは帰っていった。急ぎの用じゃないけど、いつ帰って来るのかな? お土産はドライフルーツだから日持ちがするけど。
まだ日が高いので市場をそぞろ歩く。
面白いものないかな?
何でも屋発見!!
いや、雑貨屋?
「こんにちは。何を売ってるの?」
「らっしゃ……、こりゃまた……。うちは何でも屋だ。売れそうなものを見つけたら仕入れて他の場所で売る。これなんかどうだ? 貴族の御令嬢がお忍びをしたときにつけたペンダントだ!」
それは平民の普通のアクセサリーでは?
「ならこれ! 幸運を測る干し肉」
「痛みかけじゃないか!!」
運が良ければ腹を壊さない、ってアホか!
「アンタきれいなのにノリがいいな。艶の木の実から搾った油なんてどうだ?」
「艶の木?」
「種から油が搾れるんだが、葉が艶々してるんだ。だから艶の木」
椿みたいなものか。
「アンタのきれいな黒髪が濡れたようになって色気がえらいことになるぞ?」
「色気」
「どんな男もイチコロだ」
それがなくてもベイセルは誘えば応じてくれるけど、盛り上がるかな?
「いくら?」
「お! ありがとよ! こいつは銀貨20枚だ。けど、アンタなら大負けに負けて銀貨18枚でいいや」
瓶の大きさからして150ml。18000円は高くない?
「品質も分からないのにその値段は高いでしょ」
「領主の奥方が好んで使うんだぞ?」
「ここまで運ぶのに古くなってるかも知れないじゃない」
「よく見ろって! ほら、しっかり蝋封してあるだろ? これで安心だ」
透明度の低いガラス瓶には同じガラスの蓋があり、繋ぎ目は確かに蝋で密閉してあった。悩む。
「では私が贈りましょう」
「え?」
「毎度ありぃっ!!」
知らない男が割り込んできた。生成りのフェイスベールで目と眉しか見えないが、なかなか整った顔立ちをしているように見える。そしてその目は鋭く観察するような細い目。敵意は感じないけど、落ち着かないなぁ。
「他の方から贈られた物を身につけて恋人を誘う気はありません」
「おや、それは残念です」
せっかく面白い露店だったのに変なのに絡まれてしまった。仕切り直しに他の店を見よう。
「……なんでついてくるの?」
「偶然ですよ。私もこの辺りを見て楽しんでいるのです。美しい方も含めた街並みをね。あなたさえ良ければ飲み物でもいかがです?」
うわぁ、鳥肌たった!!
なんなんだこの胡散臭さは。
「タカラ?」
「えっ!? レーチェ!」
人混みで声をかけてくれたのはレーチェ。帰ってきたのか!
『知り合い?』
『いいや。絡まれてるだけ』
『おや、キアトリル語だけでなく、アークシナーン語がお上手ですね』
バッ! とレーチェがナンパ男に向き直る。
『……モーゼス?』
『これはこれは。レーチェ、久しぶりだね』
どうやらナンパ男はレーチェの知り合いらしい。以前世話になったというので少しだけ話を聞くことにした。レーチェを心配したとも言う。
とは言っても屋台の前にテーブルとイスを置いただけの店。ちゃんとした店なんて怖くて入れない。
『タカラ、この人はモーゼス。うちの家族が国を出てこちらへ渡る船で世話になった人だ。モーゼス、こちらはタカラ。神殿で知り合った友人だ』
『ご紹介に預かりましたモーゼスと申します。美しい方々との縁を結べたことを神に感謝いたしましょう』
ちょっと何言ってるか分かりません。
『オレはタカラ。……レーチェの友達』
ジト目で超簡単な挨拶をして睨みつける。レーチェはこいつを信用してるのか?
『タカラ、モーゼスは船主なんだ。具合の悪くなった母のために予定外の港に停泊してくれて、予定を5日も遅らせてくれたんだよ』
『え!?』
家にお邪魔したとき、お母さんがいる気配はなかった。まさか……?
『母は……、商売の地盤が築けたら迎えにきてくれ、と僕たちを送り出したんだ』
まさか、そのまま……!?
『今は船から降りた街で元気に子供相手の算術教室を開いているって手紙が来た』
『元気だな!!』
『船酔いだったらしい』
亡くなったかと思ったじゃないか!
いや、元気で良かったけど。
……船酔い辛いもんね。
『ふっ、ふふふ、タカラ様も元気がよろしいのですね』
『言っておくけど男装した女じゃないからな』
『そうでしたか。どちらか迷っておりましたので、教えてくださり感謝いたします』
『なんでみんな間違えるの……?』
なんでだよ!
バリネコだけど女扱いされるのは違うんだよ!
『まぁ、そういう流れで母の住み込み仕事もモーゼスが世話してくれたんだ』
『あちこち行くので顔が広いのですよ。大したことではありません』
どうにも胡散臭いけど、レーチェが助けられたのは事実だし、オレがとやかく言うべきじゃないな。
『それじゃ、もう帰る。ごちそうさま』
果実水を飲み終わったので、一応モーゼスにも礼を言って帰ることにする。神殿は明後日だから明日は研究室に行こうかな。
後をつけられたら嫌なので警備隊の詰め所に寄り、ベイセルの家紋入りペンダントを見せて裏口から馬車で送ってもらった。しつこいナンパに困っていると言ったら快く馬車を出してくれたよ。
家に帰ると珍しいことにベイセルがもう戻っていた。まだ夕方なのに!
「客が来ると知らせがあってな」
「お客様?」
オレは引っ込んでいた方がいいのかな?
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