悩める身体を慰め合って

香月ミツほ

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溢れる魔力は行き場を見つけ(攻め視点)

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……虚しい。

第二次性徴の少し後に発症した魔力過多症により、私は毎日の射精を余儀なくされている。毎日出さねば体調を崩す上に、人に注げば相手が魔力酔いを起こすので性行為もできない。

大規模魔法を使えばその代わりになるが、平和なこの国で大規模魔法といえば結界くらいだ。半年に1度で事足りる。

毎日毎日、浅ましく自慰をして生き永らえる自分に果たして生きる意味があるのか。

虚しさに蝕まれていく。

いっそ森の奥にでも分け入って命尽きるまで彷徨ってみたら楽になれるのだろうか。

魔力過多症は死の間際に魔力暴走を起こすというのは本当だろうか。



私の仕事は魔術研究所の魔力補充係だ。
魔力さえ多ければ誰にでもできる仕事で、日々空の魔石に魔力を注ぐ。

さまざまな実験や調薬に使われるため、人の役に立つ仕事ではあるがやりがいはない。

知り合いの宿屋や食料品店の魔道具に魔力を補充する方が直接感謝される分、救われる。ついでに屋根の修理など頼まれたりもするが。

そんな風に悩みながら虚しく迎える30歳の誕生日。変化が起きた。

「これは一体……?」

ベッドに横たわり、陰茎に媚薬入りのローションを塗って無理やり勃たせたところ、人の形をしたモヤのようなものがまるで私の陰茎を胎内に飲み込むようにしゃがみ込んでいた。

魔力は感じないからレイスやゴーストの類いではなさそうだ。

それは淫らに身をくねらせて思いがけず快感を齎す。なにが起きているのか。

狼狽えて何もできまいまま、快楽の導くままに射精すると私の精液とともにその人型の何かは消えた。

腰が痺れるほどの快感。

味わったのとのない快感。

私は夢を見ているのだろうか。



*******



それは夢ではなかった。
人型は私の準備が整うと現れ、快楽の対価として私の精を奪っていく。手で触れることのできない靄であるのに、消えた後に私の吐き出したものがどこかへ消える。彼の中に吸収されているのだとしか考えられない。

そして初めは靄のようだったものは徐々に実体を持ち始め、今ではかなりはっきりと視認できるようになった。さらに声まで聞こえる。

肩まで届く銀髪の、美しい男だった。

《あっ、はぁ……、んんっ、きもちい……》

艶声と痴態に煽られ、触れようとするがその存在に触れることは敵わない。確かに繋がっているのに。

だが。繋がっている部分なら、と私は腰を突き上げた。

《あぁっ!!!! な、なんで? あんっ! うご、動くヤツじゃないのに、あぁん……》

身体には指一本触れられないのに、陰茎は中を抉ることができるらしい。締め付ける感触も、熱くうねる感触も、日々鮮明になっていく。

いつか触れ合える日が来るだろうか。



*******



三月も経つとその姿ははっきりとして、とうとう触れることができるようになった。しかし、向こうからは見えていないらしい。

仰向けか、あぐらをかいて座った状態で繋がるので、座位で身体をまさぐる。耳と鎖骨、胸、腰が弱いようだ。当然、陰茎も。

《気持ちいい、よぅ。乳首、舐めてぇ……。ふぁっ、おちんちん擦っちゃダメェ……っ!!》

向こうが達しても私が射精しなければ終わらないことが判り、なんとか堪えて彼を3回はイかせている。治療のための搾精が目的であったはずのに、楽しんでしまっている自分がいた。

《誰なの? ねぇ、もっとあなたを感じたい。お願い、僕を喚んで》

最近、彼からそう言葉をかけられるようになった。私だって喚びたい。だが喚んでしまったら……。精を放てば彼が魔力酔いしてしまうだろう。彼と繋がることができなくなってしまう。

そう考えると辛い。

けれどとうとう。
うっかりと言葉にしてしまった。

「会いたい……」

身体を繋げ、快楽を極める瞬間抱きしめた瞬間、溢れた言葉が力を持った。

仮初めの彼は眩く光り輝き、収束して肉体を得る。現実味のある重さが確かに私の腕の中にあった。

彼に、会えた。



*******



「え……? ここは……」
「初めまし……、て……?」

対面座位で繋がったままの間抜けな挨拶。

初めて目の前に姿を現した彼はやはり美しく、目を奪われて身動きができない。だが、私はせいぜい人並みの容姿で、草臥れた中年だ。30を過ぎたばかりなのに50近くに見られることもある。

こんな私が美しい彼を暴くなんて、冒涜ではないだろうか。

徐々に不安になりながらも、目の前のなめらかな肌と初めて感じる体温、そして好ましい香りに再び己自身が硬さを取り戻すのを止められない。

戸惑っていると彼が口を開いた。

「あふ……、あ、あなたがぼくに、魔力を注いでくれていたの?」
「う、いや、そう……、なるのか?」
「あの、大丈夫なら、もう少し、魔力をもらえますか?」
「だ、大丈夫なのか……?」
「ぼく、魔力枯渇症で」

それを聞いた私は歓喜した。

魔力枯渇症!!
魔力過多症の対極にある病で他人からの魔力譲渡がなければ生きていけないという。それならば。

「私は魔力過多症だ。君が良ければ喜んで魔力を譲渡しよう」
「あぁ! 神様!!」

頬を染め、目を潤ませて微笑む彼は果てしなく蠱惑的で、私はすぐに律動を開始した。今まではできなかった口づけができる。その唾液は甘く、頭の中を官能が支配した。

口づけとは、こんなにも……!!

我慢することなく精を放つと、彼も身を震わせて感じ入っていた。



*******



何一つ身につけずにここへ来てしまった彼に、なるべく清潔なシャツを着せ、腰にはシーツを巻きつけた。下着は明日、一番に買ってこよう。

「改めて、私はリガ」
「ぼくはフィール」

フィールは遥か東の大陸の療養施設で暮らしていて、新しい魔力補充用の張り型の使用実験中だったらしい。

どんな理屈か解らないが、その張り型は3ヶ月前から私と繋がり、魔力供給効率が上がっていたという。姿が見えた頃だな。

日を改めて療養施設に連絡を取ろうとしたが、なぜかその施設は見つからなかった。



フィールは私が後見となって住民登録をし、魔力研究所内のカフェで働くことになった。その美貌で大変な人気だが、魔力枯渇症だと告げるとほとんどの人間は距離を置く。

彼と性行為をすると通常の数倍、魔力を失うからだ。ほとんどの人間は魔力量が安定しているので、受け取るのも渡すのも多いと不具合が出るのだ。

その点、私は彼のために存在しているのではないか。なぜなら彼と私は毎日数回、魔力譲渡を行なっているが、体調は良くなる一方で不具合がまるでないからだ。なにより素晴らしく気持ちがいい。

私の容姿が平々凡々なため、不安を感じたこともあるが、フィールは私を好ましいと言ってくれる。幸せだ。

ただ、彼には自分の容姿が優れている自覚がないので心配が尽きない。もう少し警戒してくれ。

今まであまり交流してこなかった同僚に相談して彼へ贈り物をしたり、一緒に出かけたりしていたら、同僚との関係も気安いものとなり、日々の生活がとても心地良くなった。

そろそろ求婚したらどうだと上司からいらぬ世話を焼かれることもある。けれどフィールと繋がった日から1年後に籍を入れると決めているので、あいまいに笑って受け流している。



数十万人に1人といわれる魔力過多症と魔力枯渇症の患者のために、世界的なマッチングサービスを提案しているが実現は難しそうだ。ならば民間のサービスより国営の医療機関が主導してくれればいいのだが、お役所はどこも腰が重い。

それでも同じ悩みを持つ者に希望を与えたい。



いつかどこかで、私達のような奇跡を。

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