十字架のソフィア

カズッキオ

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第三章

海蛇2

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  「これまでが俺の話、それから俺は海賊団から抜け出して強くなるためにいろんな国の名のある剣士に剣術を教えてもらう旅をしたんだ 」

ライルの話が終わると辺りは日が落ちて薄暗くなっていた。

「それがライルが父親を恨む理由…… 」

「ああ、仕方がないのは分かっている。だけど……一度話し合わないと、いや……剣を交えないとこの感情は抑えられない 」

「そうですか、でしたら私も全力で協力します。ライルが父親と分かり合えるように 」

ソフィアはニコリと笑う。

「ソフィアは優しいな……ありがとう 」

「いえ、いつもお世話になっているお礼です 」

「そっか……さ、そろそろ時間だ配置に着こう 」

「ええ、それではライルご武運を 」

「ああ、ソフィアも 」

こうして二人はそれぞれの配置についた。


  そしてあたりがすっかり暗くなり松明の明かりだけが頼りになった頃、ついに大海賊海蛇の襲撃が始まった。

「海賊団海蛇のさんじょーう!金と食糧と女を置いてきゃ命はとらねえ、命が惜しけりゃとっとと逃げなあ~! 」

片目を刀傷で塞いだ男達がゲラゲラと笑いながら街に入って来る。
それを見て人々は悲鳴を上げ逃げ惑う。
すると海賊の一人が逃げ遅れた少女を見つけ言う。

「お、かわい子ちゃんみっけ~ 」

「いや、助けて! 」

男は下卑た笑みを浮かべ少女の言葉を無視し掴みかかったその時だ。

「そこまでです! 」

凛とした声が響く。
海賊達が声の方を向くとそこには金糸を溶かしたような綺麗な髪の少女が数人の兵士を連れて立っていた。

「なんだい、嬢ちゃんも俺達と遊びたいのかい? 」

「いえ、貴方達を捕まえに来ました 」

すると男達は顔を見合わせ笑う。

「はははははは!嬢ちゃんとそれっぽっちの兵でどうやって俺たちを捕まえるんだい!はっはっは! 」

それをソフィアは細く笑んで返す。

「では試しましょうか……  」

ソフィアは腰の剣に手を掛ける。
それを見た男の一人が剣を抜き言う。

「へへへ威勢がいいな、いいぜ俺が味見してやるよ! 」

男は一度地を蹴り距離を詰めて来る。その動きはライルやアレクシスのものと比べるとかなり遅い。

今のソフィアにとって躱すのは容易い。

ソフィアは一歩引いてから一気に剣を鞘から引き抜く。

「たあぁぁぁぁ! 」

ソフィアの剣が甲高い音を上げ男の剣を弾き飛ばす。

「なっなに!  」

海賊の男は目を見開く。

「次、誰ですか? 」

ソフィアは動揺して動けない海賊達に剣を向ける。
 
「くそッ全員でやっちまえ! 」

海賊達は一斉に剣を抜き向かってくる。しかしそれを女性の声が制す。

「やめなお前ら、そいつはお前達が相手にできるもんじゃないよ! 」

ソフィアは声の方を見る。すると海賊達の集団を掻き分け一人の女性が現れる。褐色肌に左目に眼帯を付けた女性。

「貴女はヘレン・サレージですね? 」

「いかにも、そういう嬢ちゃんはどこの誰だい? 」

「私はソフィア・アルグレーです 」

「へー聞かない名前だねぇ、見たところ街の衛兵って訳じゃなさそうだし。なんでアタシ達の邪魔するんだい? 」 

「貴女達をこのまま放置すると多くの人々が悲しむからです! 」

ソフィアは強く言う。しかしヘレンは鼻で笑う。

「はっ!ならあんたのしてる事では誰も悲しまないってのかい?アタシ達もね、仕事でやってるんだよ、船で待ってる家族の為に盗みやってんだ。アタシ達の中にはね、貧しい暮らしから抜け出す為に来てるやつもいる、戦争から追われてるやつもいるんだよ。そんな奴らを嬢ちゃんは知らないだろう? 」

「それは…… 」

ソフィアはヘレンの言葉に俯いてしまう。彼女たちをただ捕まえるだけでは、意味がないのだ。ソフィアが目指すべきは誰も悲しまない世界だ。その為に戦争を止めるのだ。

そして、そんな様子を見たヘレンはニヤリと笑うと言う。

「首がお留守だよお人好し! 」

「はッ! 」

ソフィアが気付いた時には遅かった。いつの間にか背後に回り込んでいた彼女の仲間がソフィアのうなじを木の棍棒で殴りつける。

「ぐッ! 」

ソフィアはそれで気絶してしまう。

  

  そしてその頃ライルは、港で一人海賊と対峙していた。

その相手はというと暗がりで顔はよく見えない。しかし体格はおおよそ判断できた。
広い肩幅に服の上から分かるほどに隆起した筋肉、そして身長は二メートルを超えるであろう大男。

その男は腰から反りのある幅広の剣、カトラスと呼ばれる剣を抜く。
そして闇の中でニヤリと笑いドッと石で舗装された地面を蹴るとライルに肉薄する。
その速さはかなりの速さだ。

そして振るわれた剣は剛剣と呼ぶに相応しい勢いだ。

ライルはそれを右手のサーベルの反りで流す。そして左のサーベルで追撃。

本来ならそれで終いだ。この速さで放たれた一撃は並の人間では避けることは出来ない。しかし男はそれを容易く躱してしまう。

しかも続けて拳打を崩れた態勢から放つ。同じく態勢を崩しているライルはそれを避けることができず腹に直撃する。

「ぐッ! 」

ライルは苦悶の声を上げ数歩下がる。

『この剣技は…… 』

互いは今の攻防で思い当たる節があるように距離を取る。

ライルは剣を担ぐように構える。すると男もライルと全く同じ構えを取る。

それで互いの感が的中する。

そして両者が同時に踏み出した瞬間に、街から火の手が上がる。

互いの顔が分かるようになった刹那、剣が甲高い音を響かせた時、二人は同時に言った。

「よぉ糞親父! 」

「久しぶりだな馬鹿息子! 」

それは互いの十一年間をぶつけ合うように—————。



































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