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1章 始まりの物語
第7話 僕は冒険者登録がしたい
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「すみません、冒険者登録はできますか?」
その時、一陣の涼やかな風が室内に舞い込んできた。
ニヤニヤ笑ってオージンを見ていた冒険者たちは一斉に振り返り、戸口から入って来るすらりとした青年を見る。
ローブを纏った魔法職風の青年は、音もたてずに静かに歩いて来ると、オージンの横に並んだ。オージンよりも背は低いが、オージンが規格外なので高身長な部類だろう。
引き締まった口元は知的で、穏やかだが奥に鋭さを隠した瞳は凛々しく、サラサラした黒髪はイケメンの証。
これには思わずオージンも、窓口嬢も食い入るように見入った。
(び、美青年っ! こんな異世界美青年を眼前に拝むことができるなんて、転生してよかった~)
「あの、登録はできますか?」
「あっ、はいはい、ごめんなさいね、こんな辺鄙な町では珍しいほどの美形だったから、つい見惚れちゃったわ」
窓口嬢は慌てて仕事モードに戻った。
邪魔だとばかりにオージンを「しっしっ」と手で追い払い、美青年の申請を先に受け付ける。
「まずは仮登録書の提出が必要です。あっ、口頭で構いませんよ、私が代わりに記入しますね」
オージンには「自分で書いて持ってきて」とぶっきらぼうに言ったのだが、なんという待遇の違い。
どこの世界でも美男美女は優遇されるのかと、オージンは苦笑いしつつ横でそれを見ていた。
「お名前は?」
「フィアット」
「ファミリーネームをお伺いしても?」
「……平民なので、ありません」
「大丈夫ですよ、登録に支障はありません。では、現在の職業、または希望する職業は?」
「魔法使いです」
「得意な魔法は?」
「……炎と治癒を少し」
「攻撃も治癒もできるなんて、すごいですね!」
「えっと……どちらもまだレベルは低いので……」
「それでは、レベル測定をしますね。利き腕を出してください」
「……」
フィアットは左腕を差し出した。そこに窓口嬢が特殊な宝石がついた魔道測定器をかざしてレベルを計測する。
オージンも先ほど同じように計測されたが、面白い装置があるものだとしげしげ眺めた。
どういう理屈か知らないが、白い宝石が少しずつ色づいてくる。
「この黄緑色は……レベル5ですね。これから挑んでいただく始まりのダンジョンには十分です」
サラサラと仮登録用紙に記入されていく。
それは見たこともない文字だが、神の恩恵のおかげでオージンは読むことができた。
登録の間、フィアットはなぜか落ち着かない様子だった。
それもそうだろう、この突然現れたイケメンに、髭面の冒険者たちが嫉妬の目で睨みつけているからだ。
この町のアイドルとも言える窓口嬢にチヤホヤされている姿を見て、彼らの気分がいいはずない。
「正式登録には、まず二人以上のパーティーを組んで始まりのダンジョンに挑んでいただきます。そこの最奥にある『曙の印』を取って来てください。パーティーの募集申請は――」
「私が組んであげるわ」
甘い匂いがオージンの鼻孔をくすぐった。
そしてジューシーな果実ではなく、たわわに実ったおっぱいという果肉をゆらしながら、静かに様子を見守っていたボンテージ風の女性が近づいてくる。
「えっ、タリアさんが?」
「あら、いけないかしら?」
驚いたように窓口嬢が声を上げた。
妖艶な雰囲気を纏う女性は微笑み、カウンターに軽く腰を預けるように斜めになり、色っぽくフィアットの顔を横から覗き込む。
「初めまして。私は魔法使いのタリアよ。よかったら私がパーティーに入ってあげる」
胸を強調するように腕組みをし、上目遣いで色気を振りまく。
(こ、これは、男性読者が好むエッチなお姉さんキャラの登場シーンってやつね。美男美女で、なんて絵になるの!)
同じ女でも称賛を送りたくなるほどの見事なおっぱいを見て、慌ててオージンは目を背けた。
(だめだめ、今の私はおじさんなんだから、女の子の胸をじっと見たらセクハラよ!)
視線を移動させると、横にいるフィアットの耳の先が赤くなっていくことに気付いた。
美青年もこの巨乳美女にメロメロのようだ。
(くぅぅ、私だってパーティーを募集してるのに、その時は声もかけてくれなかったじゃない! でも仕方ないわね、向こうはインテリイケメンで、こっちは怪しいゴリマッチョのおじさんなんだから。どうにか三人でパーティーを組めないかしら。オマケでも何でもいいから、私も混ぜて!)
存在をアピールしようとオージンは小さく咳払いをしてみたが、タリアはフィアットに夢中でうっとり見つめている。
フィアットは気まずそうに天井の方に視線を向けていた。
(こっちよ、こっちを見て! さぁ、この筋肉を見なさい!)
オージンは腕まくりをすると、マッチョポーズでアピールしてみせた。それを窓口嬢がジト目で睨みつける。その顔には「邪魔」と書いてあるようだ。
「でもタリアさんはレベル25で、始まりのダンジョンにいるような雑魚相手だと経験値入らないですよ?」
「いいのよ。困っている人がいるんだもの、助け合わなきゃ」
タリアはこの近辺にある高位ダンジョン目的でこの町にやって来た冒険者であり、今さら始まりのダンジョンに潜るなんてただの時間の無駄である。
だが、彼女の目的は火を見るより明らかだ。
ますます荒くれ者の冒険者たちは、フィアットを睨みつけて鼻息を荒くする。
(はいはーい、ここにも困ってるおじさんがいますよ~私に気付いてくださーい!)
オージンは必死にアピールを続けるが、タリアの視界には入らないようだ。
なんとか間を取り次いでくれないかと、オージンが窓口嬢に目配せすると「キモっ」と小さく呟いて舌打ちされる。
「僕は魔法使いなので、こちらの戦士と組んだ方が相性がいいと思うんですが」
その時、すっかりカヤの外になっていたオージンをフィアットが振り返った。
その時、一陣の涼やかな風が室内に舞い込んできた。
ニヤニヤ笑ってオージンを見ていた冒険者たちは一斉に振り返り、戸口から入って来るすらりとした青年を見る。
ローブを纏った魔法職風の青年は、音もたてずに静かに歩いて来ると、オージンの横に並んだ。オージンよりも背は低いが、オージンが規格外なので高身長な部類だろう。
引き締まった口元は知的で、穏やかだが奥に鋭さを隠した瞳は凛々しく、サラサラした黒髪はイケメンの証。
これには思わずオージンも、窓口嬢も食い入るように見入った。
(び、美青年っ! こんな異世界美青年を眼前に拝むことができるなんて、転生してよかった~)
「あの、登録はできますか?」
「あっ、はいはい、ごめんなさいね、こんな辺鄙な町では珍しいほどの美形だったから、つい見惚れちゃったわ」
窓口嬢は慌てて仕事モードに戻った。
邪魔だとばかりにオージンを「しっしっ」と手で追い払い、美青年の申請を先に受け付ける。
「まずは仮登録書の提出が必要です。あっ、口頭で構いませんよ、私が代わりに記入しますね」
オージンには「自分で書いて持ってきて」とぶっきらぼうに言ったのだが、なんという待遇の違い。
どこの世界でも美男美女は優遇されるのかと、オージンは苦笑いしつつ横でそれを見ていた。
「お名前は?」
「フィアット」
「ファミリーネームをお伺いしても?」
「……平民なので、ありません」
「大丈夫ですよ、登録に支障はありません。では、現在の職業、または希望する職業は?」
「魔法使いです」
「得意な魔法は?」
「……炎と治癒を少し」
「攻撃も治癒もできるなんて、すごいですね!」
「えっと……どちらもまだレベルは低いので……」
「それでは、レベル測定をしますね。利き腕を出してください」
「……」
フィアットは左腕を差し出した。そこに窓口嬢が特殊な宝石がついた魔道測定器をかざしてレベルを計測する。
オージンも先ほど同じように計測されたが、面白い装置があるものだとしげしげ眺めた。
どういう理屈か知らないが、白い宝石が少しずつ色づいてくる。
「この黄緑色は……レベル5ですね。これから挑んでいただく始まりのダンジョンには十分です」
サラサラと仮登録用紙に記入されていく。
それは見たこともない文字だが、神の恩恵のおかげでオージンは読むことができた。
登録の間、フィアットはなぜか落ち着かない様子だった。
それもそうだろう、この突然現れたイケメンに、髭面の冒険者たちが嫉妬の目で睨みつけているからだ。
この町のアイドルとも言える窓口嬢にチヤホヤされている姿を見て、彼らの気分がいいはずない。
「正式登録には、まず二人以上のパーティーを組んで始まりのダンジョンに挑んでいただきます。そこの最奥にある『曙の印』を取って来てください。パーティーの募集申請は――」
「私が組んであげるわ」
甘い匂いがオージンの鼻孔をくすぐった。
そしてジューシーな果実ではなく、たわわに実ったおっぱいという果肉をゆらしながら、静かに様子を見守っていたボンテージ風の女性が近づいてくる。
「えっ、タリアさんが?」
「あら、いけないかしら?」
驚いたように窓口嬢が声を上げた。
妖艶な雰囲気を纏う女性は微笑み、カウンターに軽く腰を預けるように斜めになり、色っぽくフィアットの顔を横から覗き込む。
「初めまして。私は魔法使いのタリアよ。よかったら私がパーティーに入ってあげる」
胸を強調するように腕組みをし、上目遣いで色気を振りまく。
(こ、これは、男性読者が好むエッチなお姉さんキャラの登場シーンってやつね。美男美女で、なんて絵になるの!)
同じ女でも称賛を送りたくなるほどの見事なおっぱいを見て、慌ててオージンは目を背けた。
(だめだめ、今の私はおじさんなんだから、女の子の胸をじっと見たらセクハラよ!)
視線を移動させると、横にいるフィアットの耳の先が赤くなっていくことに気付いた。
美青年もこの巨乳美女にメロメロのようだ。
(くぅぅ、私だってパーティーを募集してるのに、その時は声もかけてくれなかったじゃない! でも仕方ないわね、向こうはインテリイケメンで、こっちは怪しいゴリマッチョのおじさんなんだから。どうにか三人でパーティーを組めないかしら。オマケでも何でもいいから、私も混ぜて!)
存在をアピールしようとオージンは小さく咳払いをしてみたが、タリアはフィアットに夢中でうっとり見つめている。
フィアットは気まずそうに天井の方に視線を向けていた。
(こっちよ、こっちを見て! さぁ、この筋肉を見なさい!)
オージンは腕まくりをすると、マッチョポーズでアピールしてみせた。それを窓口嬢がジト目で睨みつける。その顔には「邪魔」と書いてあるようだ。
「でもタリアさんはレベル25で、始まりのダンジョンにいるような雑魚相手だと経験値入らないですよ?」
「いいのよ。困っている人がいるんだもの、助け合わなきゃ」
タリアはこの近辺にある高位ダンジョン目的でこの町にやって来た冒険者であり、今さら始まりのダンジョンに潜るなんてただの時間の無駄である。
だが、彼女の目的は火を見るより明らかだ。
ますます荒くれ者の冒険者たちは、フィアットを睨みつけて鼻息を荒くする。
(はいはーい、ここにも困ってるおじさんがいますよ~私に気付いてくださーい!)
オージンは必死にアピールを続けるが、タリアの視界には入らないようだ。
なんとか間を取り次いでくれないかと、オージンが窓口嬢に目配せすると「キモっ」と小さく呟いて舌打ちされる。
「僕は魔法使いなので、こちらの戦士と組んだ方が相性がいいと思うんですが」
その時、すっかりカヤの外になっていたオージンをフィアットが振り返った。
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