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1章 始まりの物語
第2話 私は仕事がしたい
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マナー講師『社会人になったら、女性は化粧必須です』
上司『君、若いんだからもっと脚出さなきゃだめだよ~〇〇先生の機嫌取りのために同行させるんだからさ。もっと女の武器使わなきゃ』
先輩・女『なにチャラチャラした服着てるのよ。仕事覚える前に色気づいちゃって。男食いに会社に来てるわけ?』
同期・男『あ~あ、女はいいよな。失敗しても尻差し出せばご機嫌取りできるんだからさ』
上司『絵里ちゃん、お茶淹れてくれる? こういうの頼むと最近はセクハラだとかぐちゃぐちゃ言われるけど、やっぱりこういうのは若くて可愛い女の子に淹れてもらった方が美味しいから~褒めてるんだよ』
先輩・男『仕事で悩んでんの? じゃあ、このあと飲みに行かない? 相談に乗ってあげるよ。もちろん二人っきりで――』
同期・男『俺も生理休暇欲しいぜ。気に食わないことがあれば生理痛で情緒不安定なんですって言えばヨチヨチされるし、女ってズルいよな』
先輩・女『生理痛なんかで休む女がいるから、私たち女性の地位が下がるのよ。痛いなら薬飲めばいいじゃない』
上司『絵里ちゃん、明日の夜ヒマ? 業界の偉い人が何人か集まるから、接待に付き合って欲しいんだよね。あ、ミニスカートでおっぱいモリモリで来て。お酌したり、お話するだけだから。くれぐれも失礼のないように!』
先輩・女『色気使って上司に取り入って、いい気にならないでよね!』
同期・男『俺が女だったら、枕営業でバンバン出世するのに~女はいいよな~失業してもフーゾクで働けばいいんだし』
先輩・男『一緒に食事するってことは、ヤってもいいってサインだろ? こっちはお前の愚痴を我慢して聞いてやってたのに、ガッカリだよ』
大学を卒業し、なんとか内定をもぎ取った大手の出版社。
私はそこで新社会人としての洗礼を受けた。
それは仕事に対する悩みではなく、自分が女であることに対する悩みの方が多かっただろう。
一、二年目はとにかく周囲の意見に振り回され、何を言われても我慢することに徹した。
私は昔から我慢強い方だと言われていたから、悔し涙を流しても、愛想笑いを続けることができた。
仕事もそれなりに覚えた三年目――。
私は自分を守る方法を見つけた。
上司『あれ、最近なんか地味になってない? 女は三十までなんだから、もっと遊ばなきゃ』
先輩・男『ちゃんとしてれば美人なのに、もったいない』
同期・男『久保田って女っけゼロだから気が楽だわ~』
先輩・女『今年の新入社員はチャラチャラした子ばかりでイヤになるわ。でもあなたを見ると落ち着くのよね~最初はどうなることかと思ったけど、最近いい感じよ』
痴漢されるのは、着飾っているのが悪いと言われるこんな世の中。
私がとった防衛策は「おじさん化」だった。
華やかな暖色系の服は全て封印し、くすんだドブ色の服で身を守る。
体のラインの出ないようなオーバーサイズの服を着て、スカートはくるぶしまであるような流行を無視したもの。
化粧は最低限、眉毛はもっさり、ダサい黒ぶちメガネ。
好物はビールと焼き鳥だと吹聴し、下心のありそうなオシャレなバーへの誘いを「趣味じゃないな~」で断っても角が立たない。
それでもしつこく誘われた時は、おじさん連中を集めて居酒屋宴会にしてしまう。
そうすることで、やっと仕事に集中できるようになっていった。
編集という仕事はキツいことも多いけど、ずっと憧れていた仕事だからやりがいがあり、担当した作品が本となって店頭に並ぶのを見る時は自分のことのように嬉しかった。
作家の中には老害と呼ばれるような女性蔑視発言をする人もいたけど、冗談だと受け止めて笑ってやりすごす術も身に着けた。
週末に自宅でこっそり食べるケーキが、私の心のよりどころ。
気付けばすっかりおじさん化していた私は、華の二十代を灰色の日常で送り、29歳と11ヶ月を迎える。
恋人もなく、女を捨てて人生を仕事に徹してきた私は――あっけなく過労死した。
上司『君、若いんだからもっと脚出さなきゃだめだよ~〇〇先生の機嫌取りのために同行させるんだからさ。もっと女の武器使わなきゃ』
先輩・女『なにチャラチャラした服着てるのよ。仕事覚える前に色気づいちゃって。男食いに会社に来てるわけ?』
同期・男『あ~あ、女はいいよな。失敗しても尻差し出せばご機嫌取りできるんだからさ』
上司『絵里ちゃん、お茶淹れてくれる? こういうの頼むと最近はセクハラだとかぐちゃぐちゃ言われるけど、やっぱりこういうのは若くて可愛い女の子に淹れてもらった方が美味しいから~褒めてるんだよ』
先輩・男『仕事で悩んでんの? じゃあ、このあと飲みに行かない? 相談に乗ってあげるよ。もちろん二人っきりで――』
同期・男『俺も生理休暇欲しいぜ。気に食わないことがあれば生理痛で情緒不安定なんですって言えばヨチヨチされるし、女ってズルいよな』
先輩・女『生理痛なんかで休む女がいるから、私たち女性の地位が下がるのよ。痛いなら薬飲めばいいじゃない』
上司『絵里ちゃん、明日の夜ヒマ? 業界の偉い人が何人か集まるから、接待に付き合って欲しいんだよね。あ、ミニスカートでおっぱいモリモリで来て。お酌したり、お話するだけだから。くれぐれも失礼のないように!』
先輩・女『色気使って上司に取り入って、いい気にならないでよね!』
同期・男『俺が女だったら、枕営業でバンバン出世するのに~女はいいよな~失業してもフーゾクで働けばいいんだし』
先輩・男『一緒に食事するってことは、ヤってもいいってサインだろ? こっちはお前の愚痴を我慢して聞いてやってたのに、ガッカリだよ』
大学を卒業し、なんとか内定をもぎ取った大手の出版社。
私はそこで新社会人としての洗礼を受けた。
それは仕事に対する悩みではなく、自分が女であることに対する悩みの方が多かっただろう。
一、二年目はとにかく周囲の意見に振り回され、何を言われても我慢することに徹した。
私は昔から我慢強い方だと言われていたから、悔し涙を流しても、愛想笑いを続けることができた。
仕事もそれなりに覚えた三年目――。
私は自分を守る方法を見つけた。
上司『あれ、最近なんか地味になってない? 女は三十までなんだから、もっと遊ばなきゃ』
先輩・男『ちゃんとしてれば美人なのに、もったいない』
同期・男『久保田って女っけゼロだから気が楽だわ~』
先輩・女『今年の新入社員はチャラチャラした子ばかりでイヤになるわ。でもあなたを見ると落ち着くのよね~最初はどうなることかと思ったけど、最近いい感じよ』
痴漢されるのは、着飾っているのが悪いと言われるこんな世の中。
私がとった防衛策は「おじさん化」だった。
華やかな暖色系の服は全て封印し、くすんだドブ色の服で身を守る。
体のラインの出ないようなオーバーサイズの服を着て、スカートはくるぶしまであるような流行を無視したもの。
化粧は最低限、眉毛はもっさり、ダサい黒ぶちメガネ。
好物はビールと焼き鳥だと吹聴し、下心のありそうなオシャレなバーへの誘いを「趣味じゃないな~」で断っても角が立たない。
それでもしつこく誘われた時は、おじさん連中を集めて居酒屋宴会にしてしまう。
そうすることで、やっと仕事に集中できるようになっていった。
編集という仕事はキツいことも多いけど、ずっと憧れていた仕事だからやりがいがあり、担当した作品が本となって店頭に並ぶのを見る時は自分のことのように嬉しかった。
作家の中には老害と呼ばれるような女性蔑視発言をする人もいたけど、冗談だと受け止めて笑ってやりすごす術も身に着けた。
週末に自宅でこっそり食べるケーキが、私の心のよりどころ。
気付けばすっかりおじさん化していた私は、華の二十代を灰色の日常で送り、29歳と11ヶ月を迎える。
恋人もなく、女を捨てて人生を仕事に徹してきた私は――あっけなく過労死した。
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