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ヴィクトリアの恋

炎の御者

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 ディンダーデンがテラスに戻ると、アシュアークがその可愛らしい面を上げる。
戦闘中の、もしくは右将軍アルフォロイスの横で済まし返った奴しか知らないから、こんな私的な雰囲気の、喉を鳴らした子猫のような様子に、正直ディンダーデンはごくり。と喉を鳴らした。
『どっちが奴の本性だ………?』
ローランデと剣を交え、負けた…。
体格は彼と、変わらないだろう。
上背の力自慢の男達と違い、ローランデもスピードで勝負していたが…ローランデのそれは風や水に人の意志が入り込んだような、流麗そのものの洗練され、自然で捕らえがたい動きだったがアシュアークのそれは…剥き出しの煌めく野生…とでもいおうか………。
しなやかな身のこなしで、一瞬で間を詰める。
がその、剣を振る姿はまさしく、野獣が前足を振る様を彷彿とさせた。
走り、唸り、そして一撃の元仕留める。
その、早業。
一瞬で剣を振り上げ、唸りと共に僅か一時“気"を溜め、一撃で斬り付ける。
「早いな…」
俺が言うと、ギュンターが唸った。
それを聞き尋ねる。
「お前とどっちが俊敏か、試すか?」
ギュンターは首を竦めたが。

一時も足を止めず、常に獲物を追い、間を詰め襲いかかりそして次………。
小柄な身が金の長い髪を残像に残し、もう次の獲物に銀の閃光を降らせ、血を吹かせ仰け反らせていた。
がその場から奴の姿は既に消え………。
気配を消しあっという間に獲物の前に突然姿を現し、驚く顔に笑みを浴びせ剣を振る。
その…余裕に満ちた狩猟。圧倒的な、早さと強さ。
背を向け丸め、一瞬で駆け出す姿はしなやかな金の野獣を思わせ…そして敵の前に立つと途端、大きく胸を開け剣を後ろに振り下げ、牙を剥く野獣のごとく相手を瞬時に射竦める。
その、迫力。小柄な体が大きく見える。
威嚇に竦む相手に躊躇う事無く大きく振りかぶった一撃を喰らわす。
ばっさりと。
奴がし損じた場を、見た事が無い。
剣を握りしめ、倒れる敵を見据える奴の明るい青の瞳は身じろぎせず煌めき、その怯む様子の無い戦い振りは鬼神を思わせる程だ。

………なのに今目前に居る奴はしなを作り、可愛らしく顔を傾け、見惚れるように頬を染めたりしていた。
グラスを手渡してやるとこっちの顔を見つめたまま、うっとりした表情でグラスを手に、軽く感謝を告げる。
がそれを口に運ぶ様子が無い。
ディンダーデンは心の中で首をすくめながらグラスを口に、運ぶ。
「近衛に入隊してからずっと…貴方に憧れていた」
アシュアークのそのつぶやきに、ディンダーデンは飲み込んだ酒を吹き出しそうに成ったが背を揺らし、耐えた。
口の端に零れる酒を手の甲で拭い、今だ自分に見惚れたままのアシュアークを見つめる。
「だが、ギュンターがいいんだろう?」
アシュアークは無邪気に微笑む。
「だから…二人一緒の時はずっと貴方方を見つめて、向かい来る人にぶつかってばかりで…ラフォーレンに『前を見て歩け!』と怒られた」
ディンダーデンはさっき会ったばかりの、好感の持てる世話役が苦労する筈だ。とじっと見つめ続けるアシュアークの整った綺麗な顔を見つめ返す。
だがアイリスが『可愛い』と言ったのは確かだ。と思える程、頬を染めて首を傾けてるアシュアークはとても愛らしかったから、ディンダーデンはつい顔を寄せる。

近づけ、傾けてやると目を閉じる。
それでそっ…と被さって口付けてやった。
つい…その唇が蜜のように甘く感じ、いつもの習慣で顔の角度を変えながらゆっくり貪っていたら、いつの間にか奴の体はすっぽり腕の中に収まっていて、それが…脈動に波打ち、催促されてる気がし、つい被さるとそのまま…衣服の上から手を這わせる。
布の上からでもその包まれた熱い体が解き放たれるのを焦れて待ってるように感じ、ディンダーデンは正直、煽られ切った。
が…つい顔を上げ、とろん。とした濡れたスカイ・ブルーの瞳で見つめ返す奴の赤く熟れた唇に再び唇を重ねる。
大抵自分の印を付けるように、ディンダーデンはいつも舌を滑り込ませて絡め取り、腕の中の相手の反応を伺う。
こっちが煽られ続けるのは嫌いだった。

相手がしなだれかかり、こちらに主導権を全て明け渡すと確認出来る迄…ディンダーデンは腕の中に相手を絡み取ったまま、その巧みな口づけを続ける。
まったり…と塞ぎ熱い舌を捻りこませ…絡み、吸い取り…決して性急にはしなかったから、大抵の相手はその先を望んで身を寄せしがみついて来る。
が、アシュアークも直ぐだった。
その手が胸の衣服に喰い込む感触に、猛獣に前足掛けられたように一瞬身が竦んだが、これは奴が望んでる事だ。と自分に言い聞かせ、更に両腕でくるみ上げて抱きしめ、深く唇を重ねる。
顔をそっ…と上げてやるとアシュアークの瞳は濡れきっていて、頃合いか。と腕を解いて背を促す。
ディンダーデンに続きアシュアークは立とうとし…突然足がもつれ、咄嗟に差し出されるディンダーデンの腕に抱き止められ、真っ赤な顔を上げる。

熱があるのか…?
しかし自分の口づけの反応だ。と気づくと、ディンダーデンは屈み、膝の下に腕を差し入れ、一気にアシュアークを抱き上げて顔を見つめる。
可愛らしく半開きにした赤い唇に口付けてやると、アシュアークは腕の中で両腕持ち上げ、首に絡めて来る。
そのねだる様子が可愛くて、ディンダーデンはご褒美とばかり、舌を差し入れ絡ませてやるとアシュアークは顔を傾け…その口づけに応えて来た。

ディンダーデンはそっと歩き出す。
普段重めの剣を振り回してるお陰で、腕力には自信があったからアシュアークを抱きかかえ歩きながら時折奴の顔に倒れ込んで唇を奪う。
どん…!
人にぶつかったが、その相手がアルフォロイス派の重鎮の一人だと気づく。
礼を、取るべきか。と考えて居る間に、その重鎮は彼の腕にしなだれかかるように抱かれているアシュアークに目を見開き、口元に手を当て、避けるように背を向け駆け去った。

ディンダーデンは首を竦め、アシュアークを抱いたまま、ギュンターがいつも使う。と言っていた東の離れに足を運ぶ。途中幾人かにぶつかったが、時にアシュアークに顔を傾けてる最中で、相手はディンダーデンが顔を上げた途端、腕の中で口付けを受けていたのがアシュアークだと解ると、一様に口元に手を当て、駆け去るのが常の様子だった。
『他のリアクションは無いのか?』
が、どうやら一様に、驚きに洩れる声を抑え込み、叫びたいのを我慢してるんでいるんだ。と解ると、肩を竦めた。

寝台に横たえそのまま倒れ込んで唇を奪う。
アシュアークは首に腕を巻き付け応えて来て、やっぱりその可愛らしい舌を使うから小生意気に。とディンダーデンはその動きを絡め取って塞いだ。
「んっ…!」
喉を鳴らすアシュアークの金の髪を額から取りのけ、手を衣服に這わせるとアシュアークは背を反らす。
持ち上げた右手でアシュアークは自分の衣服の前合わせを解こうとするから、ディンダーデンはその手を払い退け、自らの手でアシュアークとは違い出来るだけゆっくりと…その合わせを解いて行く。
上着の隠しボタンを外していく間にもアシュアークはじれたようにその足を寝台の上に滑らすから、ディンダーデンは前合わせをそのままに、アシュアークの両脇に手を付き、右手を下げてアシュアークのブーツに手を掛ける。
引き下ろす仕草に気づき、脱がせやすいようにとアシュアークが足を持ち上げる。
この裸の足を背とか腹に滑らされたら、やっぱり奴がケダモノに見える気がする程、しなやかな艶っぽい仕草だった。
が内心の動揺を放り退けるようにはぎ取ったブーツを床に放り投げ、次は左足。
上から横たわるアシュアークを見つめたまま、時折顔を倒し唇を奪いながら…ブーツを引き剥がす。
その間に、両足を奴の広げた足の間に入れ込んだから、奴は広げた両足でそっ…と、腰や腿に触れて来る。
両腕を首に巻き付けようと差しのばすから、ディンダーデンは右手首を掴み寝台の上に釘付けにし、顔を傾け唇を奪うように口付けながらその前合わせの中の素肌へと手を、這わせる。
じれたように身をずらす奴を、まだだ…!と押さえつけながら口付けると、まるで自分が調教師に成った気分で、慌ててその剥いだ裸の胸元を見つめる。

引き締まり盛り上がる筋肉の真っ白な胸の突起は赤く熟れていて、奴はそこが好きだと解る。
……それともこれまでの男にさんざ、仕込まれたに違いない。
顔を傾け唇を押しつけると、のし掛かり下敷きにした奴の体が跳ねる。
「ぅっ…んっ………」
イイんだろう。
それで両手首を捕まえ寝台の上に釘付けて広げた胸元に降りていってやると、アシュアークは甘い吐息を漏らす。
膝で奴の股間を押さえつけてやると、アシュアークは腰をずらしながら擦りつけて来た。
顔を上げて指で赤い突起を摘み握り潰しながら顔を傾け、耳元でささやく。
「もう…欲しいのか?
辛抱の足りない奴だ」
意地悪くそう告げてやると、アシュアークは泣くように顔を歪めた。
そして手首を必死で外そうとするから、ダン!と力尽くで釘付け、再び言い聞かせるように口付けでなだめる。
が今度は鮮やかに顔を傾けアシュアークの方から口付けて来るから、ディンダーデンはついその両手首を解放してその頭を抱き止める。

アシュアークの手が火照りきった自らの身を包む衣服の襟を掴み、肩を振ってそれを滑り落として指先から脱ぎ捨て、そしてズボンの前合わせを性急に解きはだける。
ディンダーデンの胸の衣服の合わせにその白く長い指を絡ませ、解きはだけ、逞しい肩の素肌に触れると傾けた顔を外しそっ…とその、盛り上がる胸と肩に視線を向け、感嘆の吐息を短く漏らし、顔を下げてディンダーデンのはだけた胸元や首筋にその唇を這わせ始める。
つい、ディンダーデンも煽られてその細腰に腕を回し強引に抱き寄せ、顔を上げるアシュアークの唇に、喰らい付くような口づけをする。
貪りあうような…口づけを交わすとお互いの体が火照りきって炎のようだと感じ、ディンダーデンはこの炎の猛獣に手綱を明け渡さないよう自分を鎮めた。

すっ…と顔を上げると、アシュアークはその尊大な青の流し目をくべる美男の顔を見つめ、すっ、と顔を下げ、身を後ろにずらしながらディンダーデンの腰元に顔を沈める。
ズボンの合わせを解くと、その中からまだ半勃ちの大きく長いものを取り出し、口を大きく開けて含む。

一瞬、やっぱりしなやかな早さで身を下げたと思うと熱い口に含まれていて、ディンダーデンはその早業に眉を寄せ、アシュアークの背に手を添える。
舌先で巧みに舐め上げられ、こいつは本当の垂らしだと解る。つい確かめようとアシュアークの顎を手で掴み、そっと自分から引き抜いて、顔を上げさせる。
濡れた碧の瞳が下半身を更に直撃するのが解ったが、そのしなだれる細身を抱き寄せ、奴の下半身に手を這わせてやる。
するとうっとりと…顎を晒し眉を寄せて、恍惚とした表情を作った。

どうやら今迄の男は、奉仕しないと褒美を、やらなかったようだ。
奴が好きでそれをしてるのかどうかは、解らなかった。
褒美欲しさにしてるだけなのかすらも。
だが手を外しその奥。
蕾の辺りに指を這わせると目を見開き、震え、欲しい…。とせがむような表情を見せたから、やっぱりディンダーデンは一気に煽られたが自重した。

アシュアークがチョロいから、奴の体を嬲って自分のしたいように奉仕させ…だが結局最後、奴に飲み込まれていくのはどうやら…こっちのようだった。
ディンダーデンは今迄の男達のその足跡が読めたから…努めて冷静に事を進めた。
指先で蕾を、突いたりなぞったりしてじらしてやると、アシュアークは思い切り仰け反って喉を晒す。
鮮やかな金髪が散り、美しかった。

「もう…挿入て欲しいのか…?」
耳元でささやくと、アシュアークの瞳が向けられる。
「お願い………だって貴方…キスが上手すぎる………」
ディンダーデンは苦笑した。
つまり奴は自分の口づけのせいで煽られ切ったのだと解ると。

ディンダーデンがアシュアークの背を寝台に横たえると、アシュアークの濡れた碧の瞳が期待に瞬く。
ディンダーデンは流し目をくべたままのし掛かり、その腿を肩に担ぎ上げて開かせると、アシュアークが喉を晒し、ごくり。と溜飲を下げる。
自らのスボンの前合わせを解いて取り出し蕾に当ててやると、真っ白な肌をピンクに染め、唇を期待で戦慄かせ、その長い睫を閉じて可愛らしい表情で仰け反るその顔が、息を飲む程美しく見えてディンダーデンは心の中でつい、喉を鳴らす。

確かに…可愛くて色っぽく、美味しい獲物だった。
ゆっくり…押し当てながら進んでやると、アシュアークは必死に首に腕を巻き付け、しがみついて来る。
そのしなやかさが息を飲む程の輝きを瞬間見せ、ディンダーデンはその確かな存在感を放つ体を抱きしめる。
大抵…相手の反応を確かめながら、長く腰を使うのが好きだったから、アシュアークの時もそれをした。

ゆっくり…入り口近く…先端を、奴のいい場所をくすぐる辺りで幾度か小刻みに動かしてやると、アシュアークは喉を晒して仰け反る。
その、うっとりとした表情でひどくイイんだと解る。
次に思い切り奥迄一気に突いてやると、アシュアークは突然の激しい刺激に声を上げる。
「あ…あっ!」
身をぶるぶる震わせるから今度はゆっくり…斜めから抉るように擦り上げてやると、奴の瞳が潤み、泣き出しそうな表情を作る。

興奮が一気に高まるが、まだだ。
相手が泣く迄続けるのが常で…幾度か角度を変え斜めから抉り突いてやると、もうアシュアークは我慢出来ないように、もだえた。
「あっ…ぅんっ…あ…あっ………」
可愛らしい高い喘ぎ声で鳴く。
この声と反応で、ディンダーデンは相手にいつもランク付けをしていたが、アシュアークは間違い無く上級クラスだ。
が直ぐに、一気に突き刺すように突き上げる。
「あ…ああっ!」
アシュアークの身が腕の中で思い切り跳ねる。
それを抱き止めたまま表情を見つめると、突然のきつい刺激に瞳に、涙を溢れさせる。

この涙が頬に滴るのを見るのが、ディンダーデンは好きだったから、また緩やかに突いてやる。
が、その動きのいやらしさとたまらない刺激に、アシュアークは恥じらうように頬を染めて俯いたりするから、ディンダーデンは内心
『これは特級品だ』そう吟味しながら再びきつく擦り上げる。
「あっ…!あっ!!!」
鋭い声で鳴くアシュアークが喉を晒し震える様を見つめ、チラと視線を奴の股間に落とすともう…先端に汁を滴らせていたから、ディンダーデンはそろそろか。と腰をうねるように使い始める。

時折抱いた体を持ち上げて下から突き刺し、引いて思い切り奥迄一気に刺し込み…単調にするのは好みじゃなく、アシュアークの体を抱いたまま暫く攻めるように強い刺激を与え続けると、アシュアークはもう必死になってディンダーデンの逞しい首にしがみつき、泣き声を上げる。

「あっ…あああっ!あ………」
すっ…と一旦引いてやると、アシュアークの瞳からポロリ…と涙が頬に滴る。
ぶるぶると身を震わせているから、労るように瞼の上に唇を優しく降らせ、そして頬…耳元に擦りつけてやると、気持ちいいんだろう…。目を伏せてこちらに任せきりに成る。

再び奴の背を抱き、腿の下に腕を差し入れ抱え上げてその顔を見つめ、下から突き入れてやると、アシュアークは腕の中で背を反り返らせた。
「あああっ!」
背を背もたれに押しつけ、胸板で挟み込みそして…斜め下から連続で突いてやるともう…アシュアークは首を振って乱れきる。

「ああっ!あっ……あ………あっ!」
慣れた女なら
「イク…イク!」
と五月蠅い所だが、アシュアークは一瞬涙で濡れた瞳を開けた。
それがどきりとする程綺麗で、ディンダーデンはその半開きの唇につい、唇を押しつけて所有の印を付け、外し一気に下から突き上げると、アシュアークはがくがく。と二度程顎を揺すりそして…解き放った。

ふうっ…。と大きく吐息を吐いて、ぐったりとしなだれかかるアシュアークを腕に絡め取ると、アシュアークはまるで…子猫のように身を寄せてしがみつくから、そのあまりの可愛らしさにディンダーデンはその頬に顔を寄せて口付ける。

真っ赤に染まった唇から吐息を吐き、身を寄せたまま胸にしがみつく奴を暫く…休ませる。
があんまり…甘い気分で、ディンダーデンはそっと耳元でささやいた。
「良かったか?」
アシュアークは濡れた碧の瞳を注ぐと、泣き出しそうに見つめ、そしてこくん。と小さく頷く。
まだ口が聞けない様子にディンダーデンは満足し、そっと横のテーブルの上の酒瓶を取り上げ、口に含むとアシュアークの顔に倒れ込む。

酒を口移しで飲まされ、アシュアークの瞳に輝きが戻る。
そして顔を上げ、見つめてつぶやく。
「まだ…しゃべれないのか?」
アシュアークは一瞬顔を揺らし…吐息を短く吐いて、掠れた声音で告げる。
「…こんなの…初めて………」
ディンダーデンは肩を竦めた。
「だつて経験豊富なんだろう?
今迄の男はしなかったのか?」
アシュアークは素直に頷く。
その様子がまだあんまり艶やかで心元無い様子だったから、ディンダーデンはアシュアークの体を寝台に横たえ、その横に寝転ぶと、酒瓶から酒を煽りなが尋ねる。

「初めて惚れた相手は…?
こんな風じゃないのか?」
アシュアークはディンダーデンにすり寄り、こくん。と頷きながら吐息を吐き、つぶやく。
「…スフォルツァは……慣れた様子だったけどあの時まだうんと若くて……若いケンタウロスみたいに力強く駆け上がるような感じだった………」
『えらく抽象的だな………』
ディンダーデンは思ったが、頷く。
「ギュンターとも寝たんだろう?」
アシュアークは一つ、頷く。
「凄く…激しくて………。
息付く間も無く追い立てられ……彼のものにされる……」
だがディンダーデンは笑った。
「それが嬉しいんだろう?」
アシュアークは素直にこくん。と頷く。
「けど………。こんな風に貴方のものにされるのは、初めてだ」
『狙ってるからな』
思ったが、ディンダーデンはそれを口にしない。酒を煽り、次を促す。
「ディングレーとも寝たんだろう?」
アシュアークはこくん。と頷く。
「やっぱり凄く力強くて………。
けど終わった後凄く優しくて、でも言われた。
一度だけだって…………」
そして、ぽろっと涙を流す。
「本命は、ディングレーだった?」
「その時は」
「けど、スフォルツァに惚れていたんだろう?」
アシュアークは一瞬目を見開き、ポロポロポロっ…と涙を滴らせてつぶやく。
「だって私は遊びだって………。
スフォルツァは当時その貴族達の集まる場で一番の毛並みのいい美少女と…付き合ってた。
婚約は直だってみんな…噂していて………。
彼女は…大切に大切に扱うのにいつも私には………。
抱いてくれるだけで…時々乱暴だし…冷たかった」

ディンダーデンは吐息を吐く。
最初は興味本位で本気に成るつもりが無かったスフォルツァが結局…アシュアークに掴まった経緯が想像出来て。
「それでも教練宿舎に、通って行ったのか?」
アシュアークはディンダーデンを見つめる。
「だって……一週間に三回は無いと……少なくとも。
こんな時間が」
ディンダーデンが肩を竦めた。
「体が辛い?」
アシュアークがこくん。と頷く。
「それで幾人もの親衛隊を抱えてるのか?」
「………だって…皆教練時代からせがむと応えてくれる相手だから………」
「お前が、奴らを離さないんだな?
惚れた。と告白された事は無いのか?」
「ある…けれど…でも付き合ってる間に私が他と付き合うと、大抵つれなくされる」
「それが、普通だ」
「………どうして…?」
「男は種まき本能があって所有欲が強い。
自分が多くの相手とするのはいいが、相手に多くの相手とされるのは、嫌がる」
アシュアークはぽろっ。とまた、涙を滴らせた。
「だからいつも私の事を……みんなあんまり大事にしてくれないのか?」
「アイリスは違うんだろう?」
アシュアークはまた、ポロっと涙を滴らせてつぶやく。
「ディングレーもそうだけど…優しくしてくれる相手は大抵、本気では付き合えない。ってそう言う……。
だから…その代わりに優しくしてくれるみたいだ……」
そして、ディンダーデンを見つめてささやく。
「貴方も、そう………?」
「多分な。俺が他の相手と過ごしたら、嫌か?」
「私一人のものにしたいけど…今まで出来た試しが無い」
「それは惚れた相手が悪いんだ」
アシュアークは涙をやっぱりポロポロ滴らせてつぶやく。
「一番好きなのはラフォーレンだけど……。
男は興味無いって」
ディンダーデンはあの苦労の絶えない世話役を思い浮かべた。
「それは普通だ」
アシュアークは今度は壮絶に涙をポロポロ零して言う。
「いくら頑張っても…私は結局男だから、誰にも本気で相手にされない…………」
「男でも平気だ。と言う相手を惚れさせて余所見しなきゃいいんだ」
が、ここでアシュアークがマジな表情で自分を見つめてるのに気づく。
ディンダーデンは肩を竦めて言った。
「まあ…お前も俺も、落ち着くのには早すぎる。
その内どうしてもこいつじゃなきゃ。って相手が見つかる」
「本当に?」
「多分な」
まるで確証なんて無かったが、ディンダーデンは請け負ってその会話を、終わらせた。
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