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ヴィクトリアの恋

ギュンターの追憶 副題 ディンダーデンとの出会い

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 俺は三年で教練に編入したから…ディンダーデンは勿論、ディアヴォロスの在校時代すら知らなかった。
だから…近衛に上がり、毎度恒例の顔合わせで他の新兵と一緒に、ずらりと壇上に見せ物に上がってる間、そのだだっ広い広場で周囲を取り囲むお歴々と先輩方のいかつい男達の群れる中ふと…ディンダーデンに目が止まった。
ごつい顔の中、整いきった綺麗な顔が目を、惹きつけた。
最低でも二つ、年上。
それであの顔。
つい…ギュンターは品定めするみたいにその顔を、凝視した。
鼻も顎も頬の線も…崩れてはいない。
…と言う事は、半端無く強い。
と言う事だった。
もしくは誰かお偉いさんの、寵愛を受けているか。
が、それはあの体格からして、無さそうだった。
その群れの中一際長身で…ごつい肩幅を、していたからだ。
つい視線が吸い付いて見ていると、その美男は余所を向いていた。
退屈そうに。しかも、欠伸を時折洩らしながら。
まるっきり興味無さそうに。
ギュンターはそののどかな様子に苦笑した。
他人に興味のない、恐らくは強そうな体格の良い美男。
それが…奴の第一印象だった。

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 正直、近衛に上がったその年度初めは最悪だった。
教練の三年に、した事のやり直し。
とにかく、どこに居ても目立つ新入り。と絡まれる。
喧嘩を売る相手にはきっちり思い知らせとこう。
そう思い、丁寧に拳で歓迎を返した。
だが教練の比じゃなく、何人殴れば終わるんだ?
と言うくらい頻繁に、殴り合いを続けた。
オーガスタスは教練に一年から在籍していたら、もっと殴る数は減ってたろう。と他人事だ。
それもその筈。
奴も入隊間もなく左将軍ディアヴォロスの側近。なんて大役に抜擢されて以来、半端じゃない嫌がらせを受け続けたと聞いた。
奴でさえそうなんだ。
そう…俺は自分を慰めた。

 救いはローランデとの逢瀬だったが、最上級に成ったローランデは講師共から山程役職を押しつけられ、いつ出向いても、ロクに時間が取れない。
彼に会ってまずする事は、スケジュールの確認だった。
部屋の机の上は、講師が添削する筈の提出物が山に成っていたし、ヘタをすると夜遅くまで講師の手伝いに駆り出され、早朝も予定で埋まっていた。
だから…時間がある時を狙わない限り、彼を捕まえるのは難しく、とっくに卒業した校内や寮内をウロつくのは流石に目立ちすぎ、結果…一週間に良くて二日会えれば良い方。と言う悲惨な結果に、俺はますます新兵歓迎の乱暴な挨拶で憂さを晴らす羽目に成った。
新兵訓練の合間を狙い絡んで来るごつい先輩達とやり合うのは目立ち過ぎて処罰を喰らいかねない。
オーガスタスの勧めで
「どうせローランデに会えないんなら、酒場に出向け。
入った途端女共に囲まれて、お前が喧嘩売らなくてもあっちが売って来る。
酒の上での殴り合いは無礼講だし、酒場で殴り倒せばそこら中の奴らの耳に入り、最強を倒せばもう誰も、喧嘩を売って来ない」
そう聞いて、俺は尋ねた。
「…最強。って誰だ?」
「そうだな。今は多分、ディンダーデンだ」
「ディンダーデン?」
オーガスタスはその時近衛官舎の目の前を通り過ぎる、体格の良い長身の美男を顎で差す。
濃い栗毛を背に流す、青の流し目。
新兵顔合わせの時欠伸していた男だった。
その、一人きりで肩で風を切り歩く姿に、俺は改めて威風を感じ、思わず小声でオーガスタスに尋ねる。
「…隊長か?」
オーガスタスは意味ありげに笑う。
「その役職を奴は、どれだけ実力があろうが、受けないだろうよ!」
「謙虚だな…」
俺のつぶやきに、オーガスタスは吹き出す。
「何がおかしい?」
「その、反対だ。
隊長にならなくても皆に恐れられている。
わざわざ厄介な役職を、受ける必要がどこにある?」
成る程。と頷くと、オーガスタスはそう言う事だ。と腕をぽん。と叩いた。

 次から俺は、努めて酒場に出向く。
近衛の男達の集う酒場は、近衛官舎の周囲に四つ。
寮の近くには少し遠い場所も併せて六つ、あった。
どこの酒場も大抵、入ると一斉に視線を浴びる。
連中が見慣れる迄、これを繰り返すのかと思うと、げんなりした。
丸で見せ物だ。
が案の定、最初は遠巻きに色目を送っていた女達は、一人が寄るとそれを皮切りに、次々と俺の周囲を取り巻き始める。
だが俺は…寄って来る女達を眺めるふりをし、周囲の男達の、反応を覗った。
オーガスタスの言う通り、一人の女が口説いて来る男を振り切って俺の取り巻きに加わった途端、のそり。と一人の男が女の向こうに姿を見せて睨み付ける。
女を掻き分けて、喧嘩を売って来るのは直だ。
そう…思った時、扉が開いて例の美男が姿を見せ…途端、取り巻いていた女の半数が、奴の下へと駆け付ける。
睨み付けていた男はせせら嗤った。
ディンダーデンとお前は違う。
そう、言いたげな嗤いだった。
「…とっとと済ませようぜ。
俺に、言いたい事があるんじゃないのか?」
そう聞いてやると、男は途端、肩を怒らせた。
「そのチャラチャラした顔が今迄良く、無事だったな?
誰の庇護を受けてる?
名前に拠っちゃ、拳を引っ込めても良いぜ」
俺は笑った。
「友達なら居るが、庇護はして貰ってないから遠慮は要らないぜ?」
途端、男はずかずかと女を押し退けると、拳を振って来た。
ふざけてる。
何て甘いパンチなんだ?
咄嗟に避けながら、がっかりした。
力一杯殴っちゃ、マズそうな相手だ。
が…手加減は苦手な上に、ローランデとここ三日会って無くて鬱憤は溜まりまくってた。
とっとと済ませて…せめて取り巻く半数(三人)の女の相手をしたら、少しは気が晴れるかも知れない。
…気づいたら…やっぱり思い切り、殴っていてとっくに相手は床に転がっていた。
思わず顔を下げて、吐息を漏らす。
頼むから…もう少し手応えが欲しかった………。
それでその晩、結局俺は五人の女を、渡り歩く羽目に成った………。

 別の日は、最悪だった。
教練宿舎に約束道理出向いたのにローランデは来ず、つい講師宿舎に探しに出向き、そこで講義用の教材を揃えてるローランデの腕を掴み、講師に怒鳴る。
「俺が先約だ!
悪いが、貰って行く!」
…流石に教練で俺の凶暴振りは講師にまで知れ渡っていたから、俺の登場にビビる講師を尻目に、彼を連れ出すのは簡単だった。
最もその後、ローランデに両手で胸を殴られ、罵られたが。
「確かに約束の時間を過ぎてる!
けど…私の体面を、少しは考えてくれたって、いいんじゃないのか?!
大体君が顔を出す度に皆に…君と夜を過ごすと、勘ぐられてるのに!」
「その通りだ。
昨夜はギュンターといい思いをした。と堂々と言ってやれ!」
ぱん…!

…………。
「どうしたの?頬が赤いわ?」
「手の平の痕ね?女に殴られたの?」
興味津々で新入りの坊やを品定めする、遊び慣れた女達は何かと釜駆けて触りたがる。
つい顔を背け、口を閉ざす。
今夜は遅いな。おい、冗談だろう?
あいつを、伸したくらいでビビる先輩方じゃ、無い筈だろう?
近衛はそんなに、だらしない男だらけなのか?
アースルーリンド一の名の知れた、精鋭戦闘部隊の筈だ。
違うのか?
それとも骨のある奴は隊長クラス以上で、こんな酒場に顔なんか、出さないのか?
…だから、あのディンダーデンも自分の顔を護れたのか?
だがやはり…今夜の獲物が顔を、出す。
いい、体格だ。顔もごつくて風格がある。
願わくば…粘ってくれ。
せめて俺の、腹くらいは殴るくらいに。
…だがやっぱり、そいつも数秒だった。
奴が床に転がるのを見て、無情な気がした。
憂さも思い切り、晴らせないのか?
戦闘でも起こらないと、無理か?
あんまり腹が立って、見回すとやっぱり、ディンダーデンは奥で女に囲まれていた。
最強。
身長は同じくらい。
肩幅は奴の方が、広い。胸ぐらも。
オーガスタスよりは当然劣るが。
もう、とっとと奴にこっちから、喧嘩を売ろうかとも思った。
奴の顔が崩れるかそれとも俺かだ。
が…ふ…と気づくと、女に囲まれた奴の視線は、一人の女に吸い付いてる。
視線を追うと…その彼女は戸口近くで、丸で誰かを捜すように、店内に視線を彷徨わせていた。
ディンダーデンは語りかける女に顔を傾け…がまた、視線を彼女に戻す。
遠い…目で。
それが…叶わぬ相手を思う目に見えてつい…そう。俺はつい、自分とダブらせた。
ローランデと約束をし、奴が講師に代わって乗馬のクラスを受け持ち、生徒を引き連れて校内に戻って来るローランデを見つめている時…俺は奴のような目を、していないか?
…見ている、こっちが切なくなる目だった。
じっと。
じっと…声を、掛けるでも無く、彼女の姿を…時折取り巻く女と話しながら…それでも、また………。
つい、吐息を吐く。
そう…恋は誰の上にも、苦悩をもたらす。
例えこの酒場最強と言われる、ディンダーデンの上にも。
それで俺は…結局奴に喧嘩を、売り損ねた。

 どの酒場でも、寄って来る女の誰もを相手にしたせいで、姿を見せる度、取り巻きは増えて行った。
今夜の相手は流石に一発では沈まず、意識を残して捨て台詞を吐いた。
「…女共にちやほやされて、いい気に成ってるな!
その内ディンダーデンと女がダブりゃ、お前は確実に終わってる」
「今終わってるのは、お前だ!」
言って殴って相手を黙らせる。
確かに、ほんの…少しずつだが、手応えが出て来た。
それで考えた。
俺は一体奴らにどう見えてるんだ?
鏡を、今更見たって無駄な事は解ってる。
ど派手な金髪の、チャラチャラした外見だ。
まさか俺が、外見道理の男だと、全員そう思って舐めきってるから、あんな手応えのない奴が平気で俺に、喧嘩を売って来てるのか?
「………………………」
俺は、思い切り落ち込んだ。
そこ迄柔な奴だと、皆に思われてると知って。
その夜俺はあんまりがっかりした腹立ちの内に、取り巻いていた女全員を喰った。
八人いたが、それでも満腹に成らない程飢えていた。
一番食いたいご馳走は、いつも棚の上だ。
彼(ローランデ)を抱けない日が続くと、最低な気分で毎日を過ごす。
丸で…生きている事すら、価値がないみたいに。
あんまり投げやりで、自分でもマズい。と思ったが俺はムキに成って、酒場巡りをした。

 今度の相手は、いかにも強そうに周囲が注目してる。
あの、ディンダーデンですら、俺達の対戦に視線を送る。
だが俺は自問自答していた。
『こいつ、本当に強いんだろうな?』
…確かに、パンチは切れがあって鋭かったし、それなりには早かった。が……………。
また、数秒だ。
嘘だろう?こいつは…強いのか?
それとも俺が、半端無く煮詰まってるから、誰も相手に成らないのか?
オーガスタスに愚痴を垂れても、相手にしちゃ貰えないだろう。
殴り甲斐のあるのはオーガスタスくらいだったが、奴は左将軍のお守りで忙しい。
その年で、遊びに付き合ってくれと駄々こねる気か?と笑われるのがオチだ。
そして…チラ。と視線を向ける。
最強の、ディンダーデン。
だが俺には奴に対しての、戦意が無かった。
また…だった。
今度ディンダーデンはその女に、寄り掛けて止めた。
口説けない相手なのか?
奴が取り囲む女に気づかれないよう、こっそりと俯いて吐息を吐く。
気づいたら俺も同様、吐息を吐いていた。
惚れた相手と、過ごす時間は天国だ。
…だがそれ以外は…じゃりじゃりと…砂が口の中に、混じっているみたいに空しく苦い。
奴も…丸で自棄(やけ)のように、取り巻く女達を酒場の二階の、寝室に誘う。
俺も気づいたら…そうしていた。
朝…頭を押さえ、衣服を掻き集め、まだ寝台に眠る女の耳元で小声で告げる。
「もう…帰らないと。送らなくて大丈夫か?」
彼女は目をこすり、窓の外を見る。
「順番を待ってたら、朝じゃないの…」
「仕方無いだろう?
他の女と同時でも、良かったのか?」
彼女は寝ぼけながら笑った。
「あら…!それもいいわね。
貴方が二階から、下りて来るのを待たなくていいし…!
その間寄って来る男を断らなくてもいいわ」
「言ってろ」
枕に沈む彼女の横に、コインを置いて告げる。
「朝食代だ。付き合えない代わりに、誰か誘って食べるといい」
彼女は顔を上げず、手だけ振って俺に返事した。

 廊下を歩きふと見ると、先にディンダーデンの長身と広い肩幅が見える。
奴も同様、朝を過ごしたのか。
夕べは何人相手にした?
笑う、奴の顔が浮かぶ。
不思議だった。
俺は奴と、殴り合いたいのかそれとも…話したいのか。
ローランデと過ごせない時間の、孤独を埋められる男。
拳でか言葉でかは解らなかったが、そんな予感は確かにあった。

 その晩は、彼女が俺に話しかけた。
酒場に、入って直ぐで他の女が来ないその時に。
つい…眉が切なく寄った。
違うだろう?どうして俺の所に来る…?
もしローランデが俺でなく…別の奴に声掛けたら俺は間違い無くそいつに思い切り腹を立て…きっと待ち伏せして足腰立たないくらい殴るに違いない…。
俺の…事を知らない相手なら…もう少し加減する気は、多少は、あるが。
だが俺はディンダーデンの気持ちが、解ってた。
それでその女に言ってやった。 
「あんたとは…付き合えない」
「どうして?」
俺は返答に困って、咄嗟にホラを吹いた。
「俺の姉に、そっくりだから」
彼女は途端、がっかりした。
だから…聞いてやった。
「…ディンダーデンは?
いい男だろう?どうしてあいつに声掛けない?」
「…だって…。彼、貴方と違ってここでは“顔”で、凄く堂々としてて、近寄りがたいのよ」
俺は…つい切なくなった。
彼女は離れ…一度振り向き、そして背を向ける。
途端、上着を脱いだディンダーデンが彼女の進路を塞ぎその腕を、取る。
俺はそれを見て…正直ほっとした。
そうだ。必要としてる男が居る。ならその男の元へ、落ち着くべきだ。
ローランデにもそれが言えたら………。
考えただけでローランデの怒号が浮かび、俺は胸が詰まって悲しくなったが。
そんな事少しでも洩らしたらきっとローランデは…喚きまくるに違いない。
「ふざけるな!」とか
「私は正常な男だから、男と恋愛する気はない!」
だとかを、ずっと。
だが突然ディンダーデンの綺麗な顔が間近で、俺はつい、あれ?と思ったもんだ。
どうして…彼女の手を放し俺の所に来る?
俺を、口説くくらいだから障害は無い筈だ。
なのに…何を好きこのんで、男の元に顔を出してんだ?
「どうしてあの女を振る!」
ディンダーデンのその怒声に、俺は呆れ返った。
違うだろう?
「どうして怒る?あんたが狙ってる女だろう?
俺が振って…礼を言われる筈だ。違うか?」
ディンダーデンはその綺麗な顔を思い切り…歪めた。
びっくりしてる。
どうして、驚くんだ?
が次に眉を寄せると、唸った。
「俺と…殴り合うのが嫌で、姉が居ると嘘を付いたのか?」
殴り合うのは本望だ。もう…殴り甲斐のない男の相手は、うんざりだ。
が…………。
「あんたを殴って迄欲しい。と、俺は思ってないからな」
だがディンダーデンは意味が通じないように、眉間を寄せてる。
「だから俺に、譲る。か?
俺にへつらって迄自分を護る。か?
そんなに自分の面が、可愛いか!!!」
大声で、激昂してる。
別の、機会なら俺だって喜んで喧嘩を買ってやる。
が…………。
言葉の通じない奴に、言ってやった。
「俺が、見ている限りで三度…あんたは彼女に寄り掛けて止めた。
だからあの女には婚約者か夫が居て、口説けないのか。と、思ってたら俺のとこに来る。
…断るだろう?普通」
がディンダーデンはまだ、怒鳴る。
「普通なのか?!」
溜息を、吐きそうになるのを堪え、俺はささやいた。
「他の男がマジに入れ込む女に、遊びで手が出せるか?」
ディンダーデンはその言葉でようやく…さっきからの俺の言葉の意味を察し、途端俯いた。
そうして…顔を下げて居る奴の姿は真摯で、とても他人事には思えなかった。
その、伏せた瞳は誤魔化しが無く純粋で…とても…恋に一途な男に見えたからだ。
俺とは違う。
あんたには、機会があるじゃないか…。
彼女の口ぶりは、あんたは手の届かぬ相手。そんな感じだった。
それで奴の、耳元でささやいてやった。
「惚れてるんなら、とっとと口説いてきたらどうだ?
あんたに声かけたらどうだ?と聞いたら、あんたはいつも女に囲まれてるから、近寄りがたい。と言ってたぞ?」
ディンダーデンが躊躇うように顔を上げぬまま揺らすので、俺はつい…言葉を足した。
「あんたに寄れないから、俺のとこに来たんだろう?」
その言葉で…ようやくディンダーデンは顔を上げた。
「美味しいものは、先に食べるタイプか?お前は」
ぼそり。とそう言う。
つい…彼の煮え切らぬ様子に口を突いて出た。
「あんたは後に、とっとくタイプのようだ」
俺なんかと話さず、さっさと彼女を捕まえに行けばいいのに。そう思い、じっ。と見てるとディンダーデンは俯いて口を開く。
「惚れてる兄貴の嫁さんに似ている」
その時ようやく…ディンダーデンの煮え切らぬ理由が、解った。
最悪に、切ないじゃないか。
あの目は…俺の気のせいなんかじゃなかった。
つい、そっとささやく。
「寝ないで…兄貴の嫁さん。に彼女を、しときたいんだな?
兄貴の嫁さんには、滅多に会えないのか?」
そう…聞いた時、奴は殊勝に頷いた。
それで…俺には全て解った。
年上だろうが…関係無い程共通点が多い。
奴も兄貴に腹を立て…その記憶は俺にも山程あった。
俺の兄貴達は横暴で、奴の兄貴とデキは違ったが、兄貴の存在に自分を掻き回されてるのは同じ。
だが奴には下が居ない。
そうして…俯き自分の心をじっ。と抑えてる様子は意外に可愛く…弟達を思い出させた。
普段我が儘なのに…大事な時はちゃんと…解って我が儘を控える。
それをしちゃ、相手の心を傷付ける。
それがちゃんと、解ってる奴の表情だった。

 俺は一つ、吐息を吐いた。
オーガスタスは一目見た時からその大らかな雰囲気でのっけから…俺を惹きつけたが、ディンダーデンも同様だった。
但し奴はオーガスタスとは違い、その思いを湛えた鮮烈な青の流し目で。

 ディンダーデンは傲慢で横暴だと、皆が口を揃えて言う。
けど俺はそうは、思わない。
年上の男なのにその我が儘は結構可愛いし、俺が本気で睨んでも、ビビらない位頼もしい。
それに…俺が一途に、行き着く場所のない恋に狂っても…奴はそれを、笑ったりはしない。
馬鹿だ。と言いながら時に無言で、寄り添ってくれたりもする。
結局俺達は似たもの同士で、憂さを一緒に晴らす、最高の道行きのような仲だった。
奴が居たからお互い孤独に、耐えられたのかも知れない。
心から惚れた相手に滅多に会えない、からからに乾いた、砂漠のような孤独に。

   end
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