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ギュンターの来訪

引き裂かれた朝の辿り着いた場所

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 ギュンターは使者を呪ったし、ダウンゼストにもうんと腹を立てていた。
目前にはムストレス派准将、ノルンディルが整いきった嫌味な顔をこちらに向けている。
ギュンターは一つ、吐息を吐くと、慌ただしく駆け出す羽目に成った昨日の朝の顛末を、思い浮かべていた。

 目は、とっくに醒めていた。
朝日に浮かび上がる横に眠るローランデの、白い頬があんまり美しくてそして………昨夜の彼の言葉を思い返し、息が一瞬詰まる。
『迎えるから…!
拒絶する筈が、無いだろう…?』
彼から口付けられた…その唇の感触がまだ、唇の上に残っていた。
起こしたかった。
そしてもう一度きつく彼を抱きしめ………。
が、あんまり安らかな寝息を立てる彼が愛しくて可愛くて…。
ギュンターは差し出しかけた手を、引っ込めた。
その、途端。だった。
戸が激しく叩かれ、召使いの声がする。
「旦那様!早馬です!使者が大至急と…!」
ローランデは身を、跳ね起こす。
そして扉を見つめ、叫ぶ。
「どのような内容か、聞き知ってるか?!」
その鋭い声は確かに、地方護衛連隊長としての威厳を滲ませていた。
まどろむ愛しい恋人から一気に武人に戻る彼に、ギュンターは躊躇った自分を呪った。
心の赴くまま彼を起こし、腕にくるんでいたなら今頃…彼は頬を染めて可愛らしい喘ぎを腕の中で発し、突然の使者に必死で腕の中から逃げだそうと、身を捩っていたに違いない。
ローランデの手がガウンをそのシーツの上に手を這わせ探る。
「都から…。
ギュンター隊長に至急お戻りをと!」
ローランデは背後のギュンターに振り向き、ギュンターは一瞬固まった。
ローランデの視線を浴び仕方無く、手渡された彼のガウンを貰い、立ち上がり、ガウンを羽織って扉に手を、掛けてローランデに振り返る。
寝台の上に居る彼は朝日の中白い肌をさらに白に輝かせ、その不安げな青の瞳を真っ直ぐ向けていた。
乱れ、ほつれる優しい色の長い髪が彼の胸に流れ、その肢体の甘やかさと艶やかさは、蜜のように感じる。
扉を開ける前、ギュンターには予感がした。
やっと、幻で無く現実の彼を手に、出来たというのに!
が愚痴を言っても始まらない。
憮然。と扉をぶっきら棒に開けると、召使いの手に持つ書状を、ジロリと見つめる。
「ギュンター様で?」
頷き、ひったくるように取り上げ、広げる。
眉が一気に、寄る。
「………糞…!」
一声叫ぶと、ローランデが不安そうにささやく。
「悪い知らせか?」
ギュンターは金の前髪をその手で梳き上げ、唸る。
「俺にとってはな!」
そして召使いに『ご苦労』と一瞥投げて扉を閉め、真っ直ぐ寝台に、戻って来る。
ローランデは戸惑うように見つめ、ギュンターは歩を止める事無く寝台に膝を付いて乗り入り様、手をローランデの頭の後ろに添えて一気に唇を奪う。
「ギュン…っ!……ん………っ」
その身を遮二無二抱き寄せ、深く口付け…が、舌を入れるのは差し控えた。
それをしたら…もう小半時、彼を離さず寝台から出られなくなる。
それは願ったりだが、そうはいかない。
『相手』が居て、『約束日』がある。
つまりこの、遠く離れた北領地[シェンダー・ラーデン]からその期日迄に都に、戻らなくてはならない。と言う事だ。
「…また来る…!
迎えるとそう…言ったな?!」
ギュンターの紫の瞳は真剣で、ローランデはもう誤魔化しよう無くただ、頷いた。
ギュンターは咄嗟に身を離すと、床下に散らばる衣服を掻き集め、さっさと身に付け始める。
ローランデは暫く、寝台の上で呆然。とそれを見守った。
あっと言う間にズボンを履き、上着。
そしてベルトを付けると剣を探し、帯刀。
最後に、ブーツを立ったまま履くと一瞥投げる。
その瞳が悔しそうで、ローランデは言葉に詰まる。
がギュンターはくるり。と決別するように背を、向ける。
扉は開いたまま。
ガラン。とした、朝日差す真っ白な光に包まれた室内。
だがギュンターの去ったその空間は、彼の未練で満ちていた。
慌てて…ローランデはギュンターが脱ぎさったガウンを羽織ると、窓へと身を寄せる。
暫くしてその長身の逞しくしなやかな体躯が金の髪を靡かせて走り来るのが窓下に見える。
彼は何か怒鳴り、馬丁が慌てて彼の馬を差し出し、その手綱を取って一息も付かず馬に跨り、顔を上げて二階の窓辺に佇むローランデを見上げ、その瞳で『愛しい』と告げ、手綱を繰って駆け出した。
その金の髪が馬上で靡く。
だがその馬が、門を潜り姿を消したのはあっという間だった………。

 ギュンターは仕方成しに馬を気狂いのように飛ばし、普段は迂回する山道へと踏み込み、橋へと回る時間も惜しんで川の中を行き、最短距離を走り続けた。
途中宿屋で馬を取り替え、都まで愛馬を運ぶ手続きをすると替えの馬に跨り、休憩も取らずひたすら走り続けた。
陽が傾き夕日が全てをオレンジに染め、夜の帳(とばり)が降りても休まない。
途中やはり宿屋に駆け込み、馬を替える。
そして、ギュンターはその馬の手綱を取り夜通し…駆け続けた。

 中央テールズキースの大門が見えたのは昼前で、腹は減り眠気が襲ってきたが振り払った。
後少しだ。とヘバる馬をなだめ中央街道を土煙を上げてひた走り、市街地を抜け右へ行くと王都。左に行くと軍の建物の点在する小高い丘。
その左へ馬の首を向けて拍車を入れ、立て続けに馬の腹に足を打ち付けて一気にその坂を駆け上がり、連隊本部の塀を回って近衛連隊の門へと駆け込む。
馬を厩で馬丁に手渡し
「労ってやってくれ」
と一声告げて建物の戸を潜り、そのまま三階に駆け上がり、近衛本部のディアヴォロス隊長詰め所へ乗り込むと、ローフィスとアイリスが、揃って顔を上げた。

 最初、除隊を決めたローフィスが付き添うと申し出てくれたが、アイリスがそれを押し退ける。
「左の王家」出身、押し出し満点の副隊長のディングレーが不在な今、ローフィス一人だと除隊前に下賎な身分の男。と見下されて嫌な思いをするに決まってる。
自分の身分をひけらかす気は無いが、奴らは身分とか権威に弱いから、大公の後ろ盾のある大貴族の自分が、ギュンターの盾に成った方がローフィスの為でもある。
ギュンターは異論を引っ込めてアイリスを伴い、部下の酒場での喧嘩の、事後処理に当たった。

 相手がアルフォロイス派隊長なら、隣にローランデが眠る寝台から駆け下りて衣服を掬い上げて身に付け、厩に駆け込んで手綱を取ったりはしない。
書状で部下の非礼の詫びを言い、相手も酒場の出来事だ。
と穏便に事を収めたろう。
が、ムストレス派が相手。
しかも戦闘が無く平和とあらば、いちゃもん付けて嫌がらせをする暇はたっぷり有り、案の定、直ちにこの件での話し合いの場を持ちたい。と書状が届き、怪我をさせた相手の家柄が名家。と言う事でダウンゼストの処分を求めてきた。

 場所は近衛連隊本部の一棟にある、懲罰委員会の一室。
殆ど黒に近い焦げ茶の柱と壁。
重厚で歴史ある建物の廊下を、アイリスと連れ立って歩く。
焦げ茶の艶やかな、手入れの行き届いた髪を胸に背に流すアイリスは優雅そのもの。
済ました顔は整いきっていて、若さも手伝い、黙っているととても品の良い、貴族のボンボンに見える。
が、この男が一旦戦闘態勢に入ると、殺気で満たした濃紺の瞳をきらりと光らせ、ぞっとする微笑をその口元に湛える物騒な男に豹変する事をギュンターは熟知していた。
室内に入ると、先にテーブルの向こうの椅子にかけるムストレス派准将ノルンディルがこちらに振り向く。
ノルンディルは横にアイリスの姿を見つけ、凄く嫌そうな顔をしたが、奴の横には参謀メーダフォーテが椅子に掛けて済まし返り、事実上この二人の対決に成る。と、中央に座す仲介者は顔を下げた。
仲介者である近衛軍懲罰委員会の代表は近衛を退職した元近衛騎士。
明るい栗毛の髭を蓄え、落ち着いたたたずまいで、努めて地顔を出すまい。と自らを諫めている感が見て取れる。
酒場での出来事に会を開く等愚か。と言いたい所を、准将ノルンディルの身分と地位を思い、ぐっと堪えてすまし顔で事の成り行きを見守る。
席に着くとノルンディルはさっさと告げた。
「懲戒処分を。かの者へ。
戦闘が途切れたとはいえ、現在近衛兵の数は激減。
もしまた敵国が我が国に攻め入った時、兵の数が怪我人が出た為減っては、戦勝に関わる。
味方の足を引っ張る、重大な行為だと、ギュンター。
君の隊の隊員は解ってないようだ」
が、アイリスがにこやかに微笑む。
「私が酒場で聞き知った事によれば、貴方の隊のザランダーが先に剣を抜いたと。
ギュンター隊隊員ダウンゼストは、周囲に怪我人が出ては。と、彼を足で蹴りつけ、剣を手放させたそうです」
メーダフォーテが口を挟もうと乗り出した途端、アイリスはジロリ。と一瞥投げて続ける。
「無論、それはこちらの言い分で貴方方はこれを否定なさるおつもりだ。
だがギュンター隊隊員ダウンゼストも貴方の隊員同様、怪我をしている。
こちらを一方的に処理するのは片手落ちというもの。
もとより戦場で、相手に斬りかかられたら斬り捨てるのは常識。
ダウンゼストは斬りかかられたと言うのに、剣を持たず素手で最後迄戦った、あっぱれな勇者。
それを除隊にしろ。とおっしゃるのはまさに、戦威を削ぐやり方で、足を引っ張っているのはそちらでは?
とお聞きしなくてはなりません」
アイリスの鮮やかな鞭撻に、メーダフォーテは吐息を吐くが告げる。
<i7079|300> 
「勇者。と言われるが、酒場での英雄がいざ戦場で、どれ程の勇敢さを発揮出来るか怪しいものだ。
酒場では剛気な男が、戦場で震え上がる事は良くある事。
ダウンゼストがそう。とは勿論、言う気は無い。
がこちらのザランダーは肩を骨折している。
意味がお分かりか?
剣が持てぬ。
そう言う事だ。
これでは准将が、一兵卒とは言え戦力が落ちた。
と感じられても無理は無い。
無論…、常勝の准将の事。
例え一兵減った所でかの者の努力は変わらず、戦に負ける事は考えられない。
がそれでも、使わずとも済む労力を、准将が悪戯に浪費されるのも事実。
准将と言えば、隊長を束ねる大切な役職。
一隊長とは責任も重責も違う。
少しでも…准将の気苦労を軽くするのが、一隊長の、努めではないのか?
ギュンター隊長?」
アイリスはメーダフォーテのごたくを、鼻で笑った。
「一兵が欠けただけで労力を余分に費やされるとおっしゃる?
隊長が多少、苦労されるのは理解出来るが、隊長らを束ねる准将がそれで苦労されるのであらば、次々と兵が欠ける戦場で、普段余程のご苦労をされていると見える。
失礼。
私(わたくし)は、ノルンディル准将は一兵欠ける事等気にもしない程の剛気でお強いお方。とカン違いしていたようだ」
その言い捨てる言葉に、ノルンディルが目を剥いた。
「アイリス。それは私を侮辱する言葉だ。違うか?」
アイリスはメーダフォーテの口が開く前に、早口で言い切った。
「だが事実一兵欠けてご苦労される。とおっしゃったのはそちらの参謀殿だ。
参謀殿から見て准将は、たったの一人欠けただけで戦に勝つ事にご苦労される、あまり力の無いお方。と労っておいでのようだが、違うか?」
ギュンターは思いきり、下を向いた。
自分が居なくてもアイリス一人でカタが付く。
今更に、別れの挨拶もそこそこ。で朝日輝く寝台の上で見つめるあの澄んだ青の瞳と、口づけた柔らかな唇の感触を思い出しつい、もぞ…。と身を揺する。
仲介者がとうとう、口を出す。
「どちらも勿論、言い分がおありでしょう。
が、これではきりがありません。
ただ、一兵欠けた為に戦威が落ちる。との批判は確かに、言い過ぎで除隊処分には値しない。
それに見合う提案があればお聞きしましょう」
メーダフォーテが口を開く前に、アイリスが言った。
「では宿舎の掃除を。
その程度でしたら、罰則に値すると存じ上げます」
メーダフォーテはとうとう、ノルンディルを見つめながら唸った。
「准将隊員ザランダーは懲罰に値するとは思えない」
ギュンターは内心吐息を吐く。
身分からして、一方的にダウンゼストが懲罰を喰らうのは目に見えていたが、懲戒処分よりは全然、マシだった。
仲介者はアイリスに向くと告げる。
「ではご提案の宿舎掃除を、ギュンター隊ダウンゼストに申しつける。管理責任は…」
アイリスはにっこり微笑むと
「勿論、私が致します」
そう言い、メーダフォーテとノルンディルを見つめ、微笑む。
「勿論、そちらが刑罰をこなしたかどうかのご確認を取りたいのであらば、お断りは致しません」
ギュンターは二人が特別宿舎で、一般兵群れる近衛宿舎等、顔も出したく無い。と思ってるのを見て、アイリスの嫌味に顔を下げて、唸るノルンディルの言葉を聞いた。
「使いの者を確認に寄越す」
アイリスはにっこり。と微笑んだ。
アイリス相手じゃ使いの者等、赤子同然。
結果アイリスの作戦勝ちで、一応懲罰を承認した形のムストレス派の二人は文句を封じられ、メーダフォーテもこれ以上ゴネても無駄だと踏んだのか、それで納得しろ。
とノルンディルを目で制す。
じっと対応を伺うアイリスは、微笑を浮かべたまま。
その微笑を、ノルンディルは殴って消したい。と睨み、メーダフォーテは毒を盛って消し去りたい。と冷ややかに見つめたが、アイリスはその二人の悪魔に怯む様子無くその微笑を湛えたままなのを、ギュンターは吐息混じりに見つめた。

 懲罰委員会別館を出ると、ギュンターがアイリスに礼を告げる前に、アイリスが口を開く。
「で?どこに行ってたんだ?」
ギュンターはアイリスのその整った顔を眺めた。
教練の頃からローランデより一つ年下のアイリスは、ローランデを崇めまくり、ローランデに手を出す自分にいつも…脅しをかけていた。
そんな相手に…北領地[シェンダー・ラーデン]迄ローランデを抱きに行った。とは、到底告げられない。
俯き、ぼそり。とつぶやく。
「………ヤボ用だ」
アイリスは女だな?と頷き
「郊外の館に?通ったのか?」
ギュンターは頷く。
「……どうしてそっちだと解る?」
アイリスは肩を竦めた。
「ノルンディルが嫌い以外に、凄く不機嫌で腹を立てて居たろう?」
「…それで解るのか?色恋が絡んでる。と」
アイリスは、その濃紺の瞳を投げる。
「解るさ。それ位」
が、顔を俯けるギュンターにささやく。
「まさか、北領地[シェンダー・ラーデン]じゃ、無いよな?」
ギュンターは俯いたままぼそり。と告げる。
「地方護衛連隊長就任したての彼(ローランデ)が俺を、歓迎すると思ってるのか?」
アイリスは頷く。
「…それもそうだな」
ギュンターはその、カンの鋭い男の詮索から逃れて、ほっと内心、吐息を吐いた。

 近衛宿舎に戻り、広間に群れて結果を伺う隊員達の中からダウンゼストの姿を見つけ、処遇を伝えるが、隊員達は相手が処罰を受けない事にぶーぶー文句を垂れ、とうとうギュンターは我慢の限界で、怒鳴った。
「後二日は留守にするつもりが、すっ飛んで帰って来たんだ!
それ以上文句垂れると、殴るぞ!」
一人がぼそり…。とつぶやく。
「行き先が北領地[シェンダー・ラーデン]だもんな………」
皆が一斉に、首を垂れる。
「…その…やっぱり門前払いだったんじゃ………」
それは小声だったが、他の皆が一斉に
「しっ!」と言ってその男を黙らせた。
ギュンターは背を向け、だがダウンゼストに釘を刺すのを忘れなかった。
「アイリスには絶対、行き先は言うな!」
皆がしん………。と口を閉ざした。
背後でやっぱり隊員達は、どの場でも一番モテる彼らの隊長が、北領地[シェンダー・ラーデン]では地方護衛連隊長に、冷たく袖にされたんだ。とひそひそ話す声を聞いた。
がギュンターはもう、振り返らなかった。

 その後、アイリス監督下で宿舎の掃除をする。と出かけるダウンゼストに付き合い、ギュンターも桶から雑巾を絞り、そこら中を拭きながら思いはローランデの甘やかな肢体へと走る。
「何を、してるんだ?!」
アイリスの叫び声に、ダウンゼストとギュンターは並んで窓を拭く手を止めて、振り向く。
ダウンゼストがささやく。
「懲罰はたしか…掃除でしたよね?」
「召使いは隣室で暫く待てと、告げなかったのか?」
ダウンゼストとギュンターは顔を見合わせ、ギュンターがささやく。
「待ってられるか。とっとと済ますに限る」
アイリスは、素っ気なく告げて仕事に戻るギュンターの背を見つめ、腕組みする。
そして口を開く。
「懲罰なんて形だけだと、どうして解らないんだ?
監督責任は私だ。
召使い達が昨日とっくに、掃除を済ませた」
ギュンターはつい…ガラスを拭く手を、止めてそれを見る。
曇り無く、透けていた。
道理で、綺麗な筈だ。
ダウンゼストは雑巾を降ろし、アイリスを見る。
アイリスは肩を扉から外し、道を空ける。
「雑巾は桶に放り込んで置け」
アイリスの言葉に、その男は手にした雑巾を、桶に放り込んでアイリスの部屋へと入る。
ギュンターは顔を下げ、同様桶に放り込む。
腕組みしたアイリスの横を通り過ぎる時、アイリスが睨む。
「…どうしてそんなにボーッとしてるのか知りたい所だ。
余程…放り投げて来たご婦人は、魅力的だったのか?!」
ダウンゼストがつい、笑って振り向く。
「そりゃ、北領地[シェンダー・ラーデン]ですから…!」
ギュンターが咄嗟に凄い瞳で見、ダウンゼストはしまった。と慌てて顔を背ける。
付いて来て良かった。ギュンターは思い、目がきつく成るアイリスにぼそり。とささやく。
「着いた途端、使者に出会って逆戻りだ」
アイリスはそれを聞いてきつい表情を崩す。
「…門前払い同然か?
ローランデには?」
ギュンターは肩を竦める。
「挨拶くらいは、した」
アイリスは俯くと
「そうか………」
とつぶやいた。

 その後アイリスの部屋で、高級菓子を馳走に成ってる間中、アイリスの同情の視線を受け続けるギュンターだったが、ばっくれ通した。
「気を落とすな…」
戸口で見送るアイリスの言葉に、一つ、頷く。
入れ替わりにノルンディルの使者がやって来て、アイリスは声高に告げる。
「ギュンター隊長まで出向いて掃除にご参加された。とご主人に伝えろ!
汚れが残っているかどうかも、君自身の目で確認していきたまえ」
横でダウンゼストが自分に悪戯っぽく微笑んだが、ギュンターはその背を思い切り、手でど突いて言った。
「どうしてそう、迂闊なんだ!
喧嘩相手は選べ!
余計な事はしゃべるな!」
ダウンゼストはだが、怒鳴る。
「あんたを振られ男と罵られて、黙ってられるか!」
ギュンターはだが、睨む。
「俺が喧嘩理由か?
お袋さんが侮辱されたんなら殴ってもいいが、俺の為に拳振る必要は無い!」
ダウンゼストはだが、首を横に振る。
「誰にもひけをとらないモテ男をそんな風に言うのは許せない!」
ギュンターは内心一つ吐息を吐く。
そして声を顰めてささやく。
「内情は結構、これと思う相手に振られてる。
だがもし今度奴らがそれを言ったら、モテない奴のやっかみだと、鼻で笑っとけ!」
ダウンゼストは顔を上げ、小声でギュンターにささやく。
「…そうなんですか?」
「これ以上俺に、恥をかかせたいのか?」
ダウンゼストは首を横に、振った。
「喧嘩相手は選べるな?」
ダウンゼストは、この人でも振られるのか。とマジマジとその美貌を見つめ、だが頷いた。
ギュンターはやれやれ。と吐息を吐いたが、その後周囲に現れるローランデの幻は、出向く以前より倍以上も数が増え
『俺は重傷だ………』
と今だ遠い北の地に居るローランデの幻が腕の中を擦り抜ける切なさに、心の底からダウンゼストとノルンディルを恨んだ……………。


                  END






 
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