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ムストレス派の糾弾と直接攻撃
ムストレス派の糾弾
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左将軍ディアヴォロスの隠れ家のような平屋煉瓦の瀟洒な別宅へと馬を乗り入れ、四人は音も立てずに近寄る場丁に手綱を渡し、いつものように四段ある石段を登って扉を開け、中へと入る。
がその時扉の向こうの長身の男が、中へ入る一同を出迎えた。
ローフィスがその男の顔を見てつぶやく。
「オーガスタス…!」
「思いの他早かったな。
中へ入れ。ディアヴォロスがお前達に用がある」
自分よりも更に背の高い一つ年上の、赤毛をライオンの鬣のように揺らす悪友の様子に、ギュンターがその玄関広間を見渡し呻く。
「…他の奴らは?」
「帰した。報告会は延期だ」
オーガスタスのその素っ気ない言葉に、ディングレーもそう思ったしアイリスも嫌な予感がしてつい、お互い顔を見合わせた。
オーガスタスは窓の並ぶ白い壁と焦げ茶の床の廊下へと背を向け歩き出して一同を促し、ローフィスは2メートルを越す身長の親友の、隣を歩きながら見上げ、いつも朗らかな笑顔のその男が笑って無いのを見、声を落としささやく。
「ムストレス派から横やりか?」
オーガスタスはようやく、笑った。
「推察がついてるみたいだな?」
ギュンターが、ローフィスの背後から後に続きぼやく。
「俺がヘマった。
ディアヴォロスに文句をぶつけたのか?奴ら」
ディングレーがアイリスを見、アイリスは足を止めたまま肩をすくめる。
「会議でフォルデモルドを敵に回した件じゃないのか?」
その四つ年下の優雅な大貴族の言葉に、オーガスタスは赤い髪を振って振り向き、笑う。
「その件だ。だがディアヴォロスはお前を褒めていた。
どうせローフィスにまた、フォルデモルドは嫌がらせしたんだろう?」
ディングレーはアイリスを見、アイリスはオーガスタスにつぶやく。
「だが結局ディアヴォロスを煩わせた」
殊勝にもそう言うアイリスを、ディングレーはつい見つめたし、オーガスタスは笑って、ディングレーに顎をしゃくる。
ディングレーはオーガスタスに頷くと、アイリスの背に手を回し、中へと促しながら言った。
「そうかどうかを、本人の口から聞け」
アイリスは少し子供のように口を尖らせた。
「彼は大人だから、私の非を責めるもんか」
ローフィスが振り向くと、アイリスにつぶやく。
「俺の為なんだから、奴らの文句は全部俺が聞いてやる」
途端、オーガスタスが明るい髪の親友に少し屈んで告げる。
「ディアヴォロスも同席する。
文句は彼が聞く気だ」
皆がついそう言った、ディアヴォロスの右腕で良く見知ったライオンのような男を目を見開き、見つめた。
「開けるぞ!」
オーガスタスが言って扉を開ける。
いつもの広間で無く私用の書斎に通され、四人はついその重厚で品格ある調度の配置された室内で振り向く、オーガスタスと並ぶ程長身の、黒髪の魅力的な人物を見つめた。
浮かぶ透けた、グレーともブルーとも、グリーンとも取れる独特の瞳が室内に入り来る皆を見つめる。
彼は微笑(わら)っていた。
誰よりも先に、一番後ろに居たアイリスが口を開く。
「シャーネンクの隊の人員を我々も、引き受けろと?」
察しのいいアイリスに、ディアヴォロスは微笑んだまま一つ、頷く。
「フォルデモルドが欠員でゴネたのを、君はそう言って押し戻したらしいな?
だがそれだけで隊員の配属先は全部は埋らず、手分けして引き受けろと言って来た。
これから出向いて、その話を付ける。
他の隊長らを帰したのは、巻き込みたく無いからだ。
こっちの数が多いと全部こちらに、押しつける気だろうから」
その低い独特の声音はいつも心に染み入るように響く。
黒い艶やかな巻き毛がゆったりと彼の胸と背を覆う。
彼は既に紺の近衛隊服を身に付けていたし、『同行する』と言ったオーガスタスの言葉を証明するように、その胸には左将軍の証、竜の彫られた銀のブローチを付けていた。
アイリスはまだ若く、男らしいがとても美しい彼の微笑をたたえる顔を見つめ、そして横の新たな隊長ディングレーと前のギュンターに視線を振り、はっきりとした口調で告げる。
「では二人は必要無い。
私の隊に全部、引き取る」
ディングレーもギュンターも途端、年下のその男の言い様に、同時に肩を揺らし吐息を漏らす。
ギュンターが振り向き、アイリスを見つめぼやく。
「恰好の付けすぎだ!」
ディングレーも横のアイリスを見つめ、吐息混じりに言った。
「年相応に、可愛く年上の男に甘えられないのか?」
二人にじっ。と睨まれるように見つめられ、アイリスはつい声を落としてささやく。
「そりゃ。シャーネンクの隊員は無法者だ。
君達ととっても気は、合うとは思うけど」
ディングレーはやっぱりアイリスの言い回しに腹が立ったが、こらえた。
こっちを怒らせて、自分に投げ出させる腹だと読めたから。
だから大きく頷き、唸った。
「そうだ。俺とギュンターは、奴らと気が合う。
問題は無い」
ギュンターも首を縦に振って頷く。
「乱暴者の扱いは手慣れてる。
お前相手じゃ奴らは腹を立てても殴れなくてストレスが溜まり、却って気の毒だ」
オーガスタスはくすくす笑ったし、お互いを庇い合うその猛者達にローフィスも首をすくめた。
ディアヴォロスは会話をじっと聞き、そして口を開く。
「ギュンター。君の所には二人。
そしてディングレー。君には一人を。
そしてアイリス。
君の所にはやはり一人をお願いしたい」
ローフィスがそう言うディアヴォロスを見つめる。
「だが総勢13名。
フォルデモルドが一人を引き受け、残り八名はどうする?」
ディアヴォロスはやっぱり魅力的な微笑を傾け、告げる。
「あっちが分け合うさ」
ギュンターもディングレーも同時に異論を唱える。
「だが………!」
同時に言って、二人は顔を見合わせた。
オーガスタスが頷きながら二人に告げる。
「右将軍が五名を引き受け、残り三だ」
アイリスは呆れたようにディアヴォロスを、見た。
「もう、人員リストに目を通して、配置済みなんですか?」
ディアヴォロスは素晴らしい微笑を零して、アイリスを見た。
「後はムストレス准将らに言い含めるだけだ」
それが一番厄介じゃないか。
と、ローフィスもディングレーも、ギュンターも首を横に振った。
左将軍を筆頭に、馬を走らせる。
相変わらずディアヴォロスの乗馬は軽やかでしなやかで、凄まじい速度に関わらずそうは見えない程自然だった。
オーガスタスもローフィスも無言で、ギュンターもディングレーも、顔を逸らしただけで前に置いて行かれそうな速度につい、言葉無く手綱を繰る。
が、ギュンターはそっと振り向くと、後続のアイリスもやっぱり軽やかな乗馬で、でも何か思案しているような表情で後に続き来る。
こんな速度で良く、考え事が出来るな。
と呆れたが、そうしてる間に横のディングレーから遅れ、ギュンターはつい、足を両側に跳ね上げて、拍車を掛け愛馬を急かした。
その建物に着くと、ローフィスはそっとその周囲を見回す。
てっきり近衛所有の共同使用出来る建物へ向かうと思っていたが、アルフォロイス右将軍の私用別宅だった。
近衛の内輪の会議で決まって使われる場所で、准将クラスか、もしくは希に隊長も呼ばれる場所で、つい二つの塔のある白い豪華な建物を見つめる。
が、ディアヴォロスは馬の手綱を出迎える場丁に渡すと、正面玄関で無く左手に回り、庭に面した開け放たれた窓のその部屋へと足を、踏み入れる。
皆が無言でお互いを見合わせながら、後へと続く。
その洒落た調度の並ぶ、明るい黄色の壁紙の、クリーム色の布の張られた手の込んだ彫刻が施された椅子の並ぶ室内で、アルフォロイス右将軍の重鎮、栗毛のデーデダルデスがディアヴォロスを迎え、微笑を浮かべて頷く。
「ようこそ。ご足労をお掛けしました」
ディアヴォロスは空色の瞳を細めた自分よりうんと年上の、隙の無い立ち振る舞いのその男の謙虚な態度に、一つ頷くとつぶやく。
「准将は揃っていないようですね?」
だがその奥の椅子から、ムストレスの弟、レッツァディンが立ち上がる。
「俺が兄の代理だ」
横の、若くしてその腕を認められ准将に駆け上がったムストレスの子飼いノルンディルも、椅子に掛けたままジロリ…!と、年下の左将軍、ディアヴォロスを見つめる。
がディアヴォロスは二人の猛者の猛禽のような瞳に怯む様子無く、デーデダルデスに頷き、背後の五人を室内へと招き入れる。
そしてデーデダルデスに微笑みかけるとつぶやく。
「既に書状はお手元に届いたかと存じますが?」
デーデダルデスは微笑むと
「確かに、受け取りました。
御任意の四人は既にギュンター隊長、ディングレー隊長。
そしてアイリス隊長の隊へと配属しました」
ガタン!
ノルンディルが立ち上がり、その暗い栗色の巻き毛の長髪を背で揺らし、激しいグレーの瞳をディアヴォロスに突きつける。
『烈剣』と呼ばれる程凄まじい剣を振る、長身で体格のいい整った容姿の身分の高い男はだが、その冷たい瞳で相手の身を凍らせるのが得意だった。
刃(やいば)のような瞳。
ローフィスはそう思った。
が、ノルンディルはローランデが近衛に居た頃散々ちょっかいかけてギュンターを猛烈に怒らせ、酒の席でギュンターを挑発、そしてギュンターに殴りかかられ、戦闘不能な程の怪我を負わせられた。
憎むべき男の姿を、睨むディアヴォロスの背後に見つけ激しく眉間を寄せる。
唸り出しそうだな。ギュンターはつい、睨め付けて来るノルンディルのその総毛立つ様子に、嗤(わら)った。
ディングレーは横のギュンターのその、秘かな野獣ぶりについ、吐息を吐いて肩をすくめる。
そして小声で忠告した。
「…殴りかかるなよ」
ローフィスも秘かに振り向くと
「挑発に乗るな」
と押さえた声で告げる。
が、アイリスが肩を竦めた。
「左将軍かオーガスタスが、止める」
ギュンターも、そうだ。と頷く。
「あの二人は俺より素早い」
それは俊敏なギュンターのその言い切りに、ローフィスは二人に同情した。
つまりはギュンターにずっと“気"を向け、常に見張ってる。と言う事だ。
が、ディアヴォロスは相手は自分だ。と言うように、准将の視線からすっ!と横にずれてギュンターを背に隠すと微笑む。
「ここに既におられる。と言う事は、もう人員リストを手にしている筈だ。
違いますか?」
レッツァディンが、顔を揺らす。
ディングレーも見知っている、ディアヴォロス同様「左の王家」の、一族の男。
黒髪の、面立ちの似た、だがどれをとってもごつく逞しく、激しい気性も兄、ムストレスを上回る。
ディアヴォロスにとっても、自分同様いとこに当たる。
だが年下のディアヴォロスに左将軍に地位を奪われて以来、事ある毎に、兄弟揃ってディアヴォロスに嫌がらせを仕掛け続け、その汚いやり用にディングレーはきっちり腹を立てていた。
ディアヴォロスはレッツァディンが一歩前へ出て自分を睨むなり、背後でディングレーが凄まじい“気"を送りレッツァディンを睨み付けるのに気づき背後に振り向くと、たしなめるような視線を送る。
ディングレーは二つ年上のいとこ、ディアヴォロスの神秘的で浮かぶような透けた瞳に見つめられ、その“気"を一気に鎮め、俯く。
ディアヴォロスは、だが親しみ込めてディングレーに視線を送り続けた。
ディングレーの兄グーデンは、ムストレスやレッツァディン同様自己中心的で他を見下し、卑怯な事も平気な男だったが、弟のディングレーは真っ直ぐな気性の、つ い庇いたくなる程気持ちの純粋な男で、兄の汚名をいつもその弟として受け続けても、泣き言を言ったり愚痴を言わずただじっと、信じる自分の道を着実に歩い ていく。そんな男だった。
恋人シェイルの義兄ローフィスに懐き、ローフィスは懐の広い男だったから、無骨で感情表現の苦手な不器用なディングレーをずっと、面倒見て来た。
そのローフィスはとうとう近衛を去る。
義弟シェイルの為に居続けたが、自分が有能な彼を手元に置きたくて隊長に抜擢して以来、自分の敵ムストレスに嫌がらせを受け続けても、文句を言った試しが無い。
ローフィスはつい、ディアヴォロスのそんな思惑に、気づいたように顔を上げる。
真っ直ぐの、明るい青の瞳。
明るい栗毛のやさ男風の外観だがローフィスの意志が、折れた事が無い程強い男だと、ディアヴォロスは知っていた。
ローフィスは少し俯く。が直ぐ顔を上げ、真っ直ぐ見つめた。
『光の国』の『光竜』をその身に宿し、誰もがディアヴォロスをカリスマと崇めたし、出会った途端その崇高な雰囲気に魅了され、殆どの者が彼に平伏さずにはいられない。
ムストレスもレッツァディンもそれが、気に入らない。
自分が劣る事を決して、認める事の出来ない男達だったから。
「座りませんか?」
年長のデーデダルデスは両派の若者が激しく睨み合う様子を、その思惑を読ませない空色の瞳で見つめ、そっとささやく。
低い声だったがさすが、響き渡る声色で、皆我に返って頷く。
デーデダルデスがディアヴォロスに直ぐ横の椅子を勧め、ディアヴォロスはオーガスタスに頷くと、オーガスタスは横へと付き、ローフィス、ディングレー、ギュンター、アイリスの順に、ノルンディルとレッツァディンらと向かい合うように掛ける。
が、ノルンディルの横の椅子に座った大男、赤毛のフォルデモルドは、ディアヴォロスの横に座すオーガスタスに、激しい視線を送る。その横には、銀髪のララッツも居た。
ディングレーはその喰えない冷静な男が微笑を浮かべる様につい、ギュンターの事も話題に上るな。と俯いた。
案の定、
「遅れてすまない」
と、庭に面した両開きのガラス扉から、アッサリアス准将が姿を見せる。
彼は室内へ入り様、ジロリ…!とギュンターとアイリスに鋭い視線を向け、ディアヴォロスとデーデダルデスに一礼し、フォルデモルドが腰を上げたその席に、着く。
ララッツが動かないのでフォルデモルドは仕方無く末席に着き、どっか!と腰を降ろすと腕組んで、やっぱりオーガスタスに激しい視線を送った。
がオーガスタスは態度も変えず、気づく様子すら見せない。
ララッツもアイリスも内心肩をすくめた。
『だから、器が違う。と言われるんだ』
デーデダルデスは中央の椅子に掛け、左右にずらりと並ぶ若く激しい猛者達が睨み合うのを見回し、内心の吐息を押し隠し、口を開く。
「ディアヴォロス左将軍所属の隊に四人が配置済みで、私達アルフォロイス右将軍所属隊で、五人を引き受ける事が既に、決まっている」
レッツァディンが肩を揺すって怒鳴る。
「それをこれから、話し合うのでは無いのか?!
既に決まった。とは、どういう事だ!」
デーデダルデスはその激しい横やりに冷静さを崩す事無く、レッツァディンに顔を向ける。
「書状でとっくの昔に、シャーネンク隊員配属先の希望を各隊に聞いている。その返事を今日、受け取っただけだ」
ノルンディルが異論を唱えた。
「…ならこの会議は無意味だろう!
違うか?!」
激しく吠えるその男に、年長のデーデダルデスは顔色も変えない。
「ムストレス准将から色々とディアヴォロス所属隊長らに、意見があると言うのでわざわざこの席を、設けた迄だ。
右将軍はどうしても外せない予定で出席出来ないが、遺恨を残さないよう話合うようにとの、伝言を頂いた。
が、意見をしたいとお申し出のムストレス准将ご本人も、右将軍同様欠席の御様子だが?」
その皮肉な言い様にレッツァディンは顔を揺らし、少し気まずそうにつぶやく。
「王族の大切な用事が既に決まった日程であり、この意見は昨日問題が持ち上がり、言い含めたいと急遽決まった事で、兄はどうしても予定を外せなかった!」
がディアヴォロスが、素っ気なく言う。
「言い訳はいい。代理の貴方で構わない。
シャーネンク隊の配属の話は済んだと考えていいな?
その他にもお話が?」
ノルンディルとレッツァディンは配属の話がこんなに呆気なく終わると思わず、つい顔を見合わせる。
そして、ディアヴォロスの落ち着き払った顔を見つめ、レッツァディンが断固とした口調で告げる。
「舞踏会の席での君の部下達の無礼に、責任者として注意勧告をお願いしたい」
ディアヴォロスはレッツァディンを見つめ、小声で告げる。
が低く通る声音は、穏やかにその場に響き渡った。
「どんな無礼です?」
ノルンディルはつい、顔を伏せるアッサリアス准将に視線を送り
「…夫有るご婦人を構わず誘うのは無礼極まりなく、ましてや一夜を過ごす等言語道断だ!」
ギュンターは思わず俯いて吐息を、吐く。
レッツァディンも口を開く。
「そして優先されるべき身分の女性がその取り巻きにわざわざ並んでいたと言うのに、無視するとは無礼だとは思わないのか?!」
オーガスタスが尋ねるように隣のローフィスを見つめ、ローフィスはついアイリスに視線を振ったが、ディングレーもギュンターも、誰の事だ?と首を捻った。
アイリスが咄嗟に口を開く。
「発言の許可を頂きたい」
打てば響くようなアイリスの対応に、デーデダルデスはこの場で一番若輩の青年につい、感嘆してささやく。
「どうぞ」
アイリスはレッツァディンを見つめ、低い声でつぶやく。
「貴方が口にされたのは、アンリッシュ嬢の事ですか?」
レッツァディンは、顎を上げてアイリスを見下す。
「彼女の身分を、知っているだろう?」
アイリスは上目使いにレッツァディンを見つめ、だが一歩も引く様子を見せず早口に答えた。
「王族だ。だが彼女が私を取り巻いたとは思えない。
取り巻いていた女性達の、隣に居たのでは?」
ディングレーもギュンターも、アイリスのその大胆な詭弁に思い切り呆れ、ローフィスは笑いを堪えるオーガスタスの大きな肩が揺れるのを、横の席で見て、思わず肘で小突いた。
レッツァディンはその静かな気迫で押し切ろうとするアイリスに呆け、だが気を取り直すと告げる。
「では本人に聞け!」
ディングレーがつい、顔を上げる。
レッツァディンが部屋の扉の前に居る召使いに顎をしゃくると、召使いは一つ頷き、
扉を開けて部屋を出た。
ノルンディルはディアヴォロスを睨み付け
「もう一人の話は済んで無い」
と尊大に告げる。
ディアヴォロスは微笑むとささやく。
「で?一夜を過ごしたと言うご婦人は、ここにいらっしゃるのか?」
アッサリアス准将は俯いたまま顔を下げ、ノルンディルは庇うように怒鳴った。
「不貞を働かされたご婦人がここに、顔を出せるか?
誘惑し、不貞をそそのかした男こそが処罰されるべきだ!」
ノルンディルはギュンターとアイリスのどちらを断罪すべきかと、二人を交互に睨む。
がディアヴォロスは冷静につぶやく。
「ご婦人は一夜を共にした男性に不愉快な事をされて夫を裏切ったと。そうおっしゃられておいでか?」
ノルンディルは憮然。と腕を組む。
「当たり前だ!
その夫はどれ程の恥をかかされた事か!
名誉の問題だ。重大な過失だぞ?!」
ギュンターが二度も顔を上げて口を開きかけ、その都度オーガスタスとローフィスに交互にジロリ!と視線で押し止められた。
が、ディアヴォロスは顔を下げ一つ、吐息を吐くとつぶやく。
「そう、重大な問題だ。
ご婦人には悪いが、それ程重大な問題を、本人抜きで判断する事は出来ない」
デーデダルデスも請け負った。
「ご本人の口から、どれ程ひどい状況かをぜひお聞きしなくては。
罪人を断罪しようが無い」
ディアヴォロスとデーデダルデスは申し合わせたようにお互いを見、頷き合う。
デーデダルデスが、言った。
「ご婦人にご出席頂けるか?
勿論、この事はここに居る者は誰も、外に洩らしたりはしないと宣誓を行う」
これにはアッサリアス准将が慌てた。
「妻は気分がひどく悪く、この席に顔は出せない!」
「あら。私ならここに居ますけれど?」
デーデダルデスの背後の扉が開き、アリーナが顔を覗かせる。
その時のアッサリアス准将の驚愕の表情はまるで幽霊を見たように真っ青で心底びっくりし、椅子から飛び上がりそうで、皆がつい准将の顔を凝視する。
彼女はつかつかと室内に入り、デーデダルデスに、そしてディアヴォロスに頷いて挨拶に代え、皆に…特にギュンターを見つめて艶然とにっこり微笑み
「殿方の大事なお仕事の会議であるに関わらず、私がここに在籍いたしますご無礼、謝罪申し上げますわ。
けれど…先程のご婦人が、もし!
私の事だとおっしゃるのなら!」
アッサリアスが慌てて叫ぶ。
「お前だとは誰も、一言も言っていない!」
「あら。そうなの?
じゃ、誘惑されて不貞を働かされたご婦人。とはどなた?」
ノルンディルは腹を括れ!とアッサリアスを睨み付けて、怒鳴る。
「ご婦人。夫の名誉をお守りになる気がおありなら!
一介の隊長の誘惑に乗って夫に汚名を着せるのは、得策ではありませんぞ!」
だがアリーナは、ノルンディルににっこり。と笑った。
「間違えていらっしゃるわ。准将。
誘惑したのは私の方でその一介の隊長さんは、私に口説かれたのよ」
その場の皆は呆然としたし、デーデダルデスは一気に吹き出し体を前に折って、くっくっくっ!と笑いを漏らしながら
「ああ…失礼…」
と言って、それでも笑い続けた。
婦人は見つめるディアヴォロスににっこり微笑むと
「ですから、その隊長さんが文句がおありなら、私は告発を受ける気がありますわ?」
ディアヴォロスはご婦人に、やはりその神秘的で男らしくて美しい微笑を湛えて微笑み返し、つぶやく。
「その隊長は私の推察ですと、とても楽しい一夜を過ごし、貴方に感謝こそすれ、告発等微塵も脳裏に、浮かばないでしょう」
ギュンターはそのディアヴォロスの言葉に、腕組みして俯いて顔を、下げた。
だがディアヴォロスは言葉を続けた。
「ですが貴方は夫がある身。
他の男性をその貴方が誘惑されたとあっては、夫である准将が貴方の愛を疑いたくなり、相手の男に嫉妬するのも当たり前」
が、准将が咄嗟に怒鳴る。
「嫉妬等、しておらぬ!」
だがこれにはディアヴォロスも婦人も同時に、立ち上がって顔を真っ赤にし、憤慨する准将を見つめた。
ディアヴォロスはすましきり、片眉上げてささやく。
「しておられぬのか?
それはご婦人が他の男を誘惑しても、無理からぬ事です」
准将はつい、そう言った若年の左将軍を見つめる。
「どうして無理からぬ事なんだ?!」
アリーナが意地悪く言った。
「だって、私を愛していたら嫉妬してあたりまえでしょう?」
ディアヴォロスも眉間を寄せるとつぶやく。
「嫉妬していない。と言う事は、愛してない。と同様の言葉だ」
ノルンディルもレッツァディンも…フォルデモルドもララッツも見つめる中、准将は顔を真っ赤にした。
デーデダルデスが笑いを堪(こら)え、准将に注進する。
「その…体面を構われるのであれば我々に対してでなく、ご婦人に例え嘘でも
『嫉妬で体が沸騰し、相手を斬り殺さないと気が済まない程君を愛している』
と言うべきだ。
経験から申しますが」
准将は年上のその男の言葉に、顔を真っ赤にして俯いた。
「失礼な発言をお許し頂けるのであれば」
アイリスの言葉に皆が一斉に、一番年若いその男を見つめた。
「『他の男と過ごす貴方を一瞬でも想像しただけで、胸が嫉妬で焼けて生きて居られない程辛い』
とおっしゃるのも、効果的です」
皆がその大袈裟さに眉間を寄せまくり、ノルンディルが馬鹿げてる!
と異論を唱えようとした途端、婦人はにっこり微笑むとその美男に
「さすがに大勢の女性に取り巻かれるだけのお方だわ。
貴方に切なげにそんな事を言われたりしたら、どんな女性も感激で胸がいっぱいになる事でしょう!」
ノルンディルはしゃしゃり出て目立ちたがりの男を睨んだが、婦人はつい、ジロリ!とムストレス派の男達を睨め付けて言った。
「そんな風に謙虚で熱烈に、ご自分の胸の内を明かされる男性はここには殆どいらっしゃらないばかりか、戦いに明け暮れるお仕事第一の殿方にはまるで思いつかず、むしろそんな言葉を婦人に告げるのは、恥だと皆さん、思っていらっしゃるようですわね?」
准将は言われて顔を下げ、が上げてアイリスを、嫉妬の標的と睨み付け、ギュンターはアイリスが自分に成り代わり、准将の嫉妬を引き受けようとしている事を悟り咄嗟にぼそり。とつぶやいた。
「准将婦人と知らず彼女と時を過ごした事を謝罪する」
爆弾を投下したようなその発言に、そう言って顔を真っ直ぐ上げるギュンターを皆が一斉に凝視し、その場はしん。と静まり返る。
アイリスは隣の上座寄りに座るギュンターの美貌の横顔を見つめ眉を寄せたし、オーガスタスは顔を上げ、ローフィスは首を横に振りながら俯き、ディングレーはローフィスとディアヴォロスに交互に視線を、向けた。
レッツァディンとノルンディルがこの機にギュンターを非難しようと勢い込んで同時に立ち上がり、が婦人がすかさずつぶやく。
「謝罪の言葉より、私が貴方に言った、夫についての言葉をこの場で披露して頂けると有り難いわ?」
ギュンターはその紫の瞳を丸くしてアリーナを見つめ、頷く彼女に促されてつぶやく。
「五人も愛人を抱えちゃ、妻を構ってる暇は無いって…あれか?」
アリーナはたっぷり頷き、准将は顔を真っ赤にして俯いた。
アリーナはじっ。と夫を見つめ、言った。
「私が嫉妬すると、想像もしてないから五人も居るの?
私も五人と浮気しないと、貴方に私の気持ちは、お分かりにならないのかしら?」
准将が、咄嗟に顔を上げる。
が、アリーナはプイ。と背を向け、さっさと元来た扉を開けて退出する。
バタン…!
准将は呆然と扉を見つめ、デーデダルデスがつぶやく。
「どうぞ。後をお追いに成っては?」
准将はがたん!がたん!と音を蹴立てて椅子を退けながら慌てて扉に駆け寄り、開けて扉のその向こうの、妻の姿を追った。
問題提起の張本人が消え、レッツァディンとノルンディルが呆然とする中、ディアヴォロスが横列の後席に座すギュンターに振り向き、言った。
「夫婦間の諍いに巻き込まれ、丁の良い当て馬にされた愚かさを、繰り返さないと約束出来るな?」
ギュンターはディアヴォロスの柔らかな声音と見つめる神秘的な瞳に一つ、頷く。
そしてディアヴォロスは今だ立ったままのノルンディルとレッツァディンに顔を向けると言った。
「もう一人のご婦人についての、お話をされては?」
と顎をしゃくる。
とっくに室内に入り、壁際で一部始終を見ていたアンリッシュが、ディアヴォロスの発言に気づいたように顔を揺らし、レッツァディンはアッサリアス准将で挫かれた出鼻を、取り戻そうとアンリッシュに顔を向ける。
がその時扉の向こうの長身の男が、中へ入る一同を出迎えた。
ローフィスがその男の顔を見てつぶやく。
「オーガスタス…!」
「思いの他早かったな。
中へ入れ。ディアヴォロスがお前達に用がある」
自分よりも更に背の高い一つ年上の、赤毛をライオンの鬣のように揺らす悪友の様子に、ギュンターがその玄関広間を見渡し呻く。
「…他の奴らは?」
「帰した。報告会は延期だ」
オーガスタスのその素っ気ない言葉に、ディングレーもそう思ったしアイリスも嫌な予感がしてつい、お互い顔を見合わせた。
オーガスタスは窓の並ぶ白い壁と焦げ茶の床の廊下へと背を向け歩き出して一同を促し、ローフィスは2メートルを越す身長の親友の、隣を歩きながら見上げ、いつも朗らかな笑顔のその男が笑って無いのを見、声を落としささやく。
「ムストレス派から横やりか?」
オーガスタスはようやく、笑った。
「推察がついてるみたいだな?」
ギュンターが、ローフィスの背後から後に続きぼやく。
「俺がヘマった。
ディアヴォロスに文句をぶつけたのか?奴ら」
ディングレーがアイリスを見、アイリスは足を止めたまま肩をすくめる。
「会議でフォルデモルドを敵に回した件じゃないのか?」
その四つ年下の優雅な大貴族の言葉に、オーガスタスは赤い髪を振って振り向き、笑う。
「その件だ。だがディアヴォロスはお前を褒めていた。
どうせローフィスにまた、フォルデモルドは嫌がらせしたんだろう?」
ディングレーはアイリスを見、アイリスはオーガスタスにつぶやく。
「だが結局ディアヴォロスを煩わせた」
殊勝にもそう言うアイリスを、ディングレーはつい見つめたし、オーガスタスは笑って、ディングレーに顎をしゃくる。
ディングレーはオーガスタスに頷くと、アイリスの背に手を回し、中へと促しながら言った。
「そうかどうかを、本人の口から聞け」
アイリスは少し子供のように口を尖らせた。
「彼は大人だから、私の非を責めるもんか」
ローフィスが振り向くと、アイリスにつぶやく。
「俺の為なんだから、奴らの文句は全部俺が聞いてやる」
途端、オーガスタスが明るい髪の親友に少し屈んで告げる。
「ディアヴォロスも同席する。
文句は彼が聞く気だ」
皆がついそう言った、ディアヴォロスの右腕で良く見知ったライオンのような男を目を見開き、見つめた。
「開けるぞ!」
オーガスタスが言って扉を開ける。
いつもの広間で無く私用の書斎に通され、四人はついその重厚で品格ある調度の配置された室内で振り向く、オーガスタスと並ぶ程長身の、黒髪の魅力的な人物を見つめた。
浮かぶ透けた、グレーともブルーとも、グリーンとも取れる独特の瞳が室内に入り来る皆を見つめる。
彼は微笑(わら)っていた。
誰よりも先に、一番後ろに居たアイリスが口を開く。
「シャーネンクの隊の人員を我々も、引き受けろと?」
察しのいいアイリスに、ディアヴォロスは微笑んだまま一つ、頷く。
「フォルデモルドが欠員でゴネたのを、君はそう言って押し戻したらしいな?
だがそれだけで隊員の配属先は全部は埋らず、手分けして引き受けろと言って来た。
これから出向いて、その話を付ける。
他の隊長らを帰したのは、巻き込みたく無いからだ。
こっちの数が多いと全部こちらに、押しつける気だろうから」
その低い独特の声音はいつも心に染み入るように響く。
黒い艶やかな巻き毛がゆったりと彼の胸と背を覆う。
彼は既に紺の近衛隊服を身に付けていたし、『同行する』と言ったオーガスタスの言葉を証明するように、その胸には左将軍の証、竜の彫られた銀のブローチを付けていた。
アイリスはまだ若く、男らしいがとても美しい彼の微笑をたたえる顔を見つめ、そして横の新たな隊長ディングレーと前のギュンターに視線を振り、はっきりとした口調で告げる。
「では二人は必要無い。
私の隊に全部、引き取る」
ディングレーもギュンターも途端、年下のその男の言い様に、同時に肩を揺らし吐息を漏らす。
ギュンターが振り向き、アイリスを見つめぼやく。
「恰好の付けすぎだ!」
ディングレーも横のアイリスを見つめ、吐息混じりに言った。
「年相応に、可愛く年上の男に甘えられないのか?」
二人にじっ。と睨まれるように見つめられ、アイリスはつい声を落としてささやく。
「そりゃ。シャーネンクの隊員は無法者だ。
君達ととっても気は、合うとは思うけど」
ディングレーはやっぱりアイリスの言い回しに腹が立ったが、こらえた。
こっちを怒らせて、自分に投げ出させる腹だと読めたから。
だから大きく頷き、唸った。
「そうだ。俺とギュンターは、奴らと気が合う。
問題は無い」
ギュンターも首を縦に振って頷く。
「乱暴者の扱いは手慣れてる。
お前相手じゃ奴らは腹を立てても殴れなくてストレスが溜まり、却って気の毒だ」
オーガスタスはくすくす笑ったし、お互いを庇い合うその猛者達にローフィスも首をすくめた。
ディアヴォロスは会話をじっと聞き、そして口を開く。
「ギュンター。君の所には二人。
そしてディングレー。君には一人を。
そしてアイリス。
君の所にはやはり一人をお願いしたい」
ローフィスがそう言うディアヴォロスを見つめる。
「だが総勢13名。
フォルデモルドが一人を引き受け、残り八名はどうする?」
ディアヴォロスはやっぱり魅力的な微笑を傾け、告げる。
「あっちが分け合うさ」
ギュンターもディングレーも同時に異論を唱える。
「だが………!」
同時に言って、二人は顔を見合わせた。
オーガスタスが頷きながら二人に告げる。
「右将軍が五名を引き受け、残り三だ」
アイリスは呆れたようにディアヴォロスを、見た。
「もう、人員リストに目を通して、配置済みなんですか?」
ディアヴォロスは素晴らしい微笑を零して、アイリスを見た。
「後はムストレス准将らに言い含めるだけだ」
それが一番厄介じゃないか。
と、ローフィスもディングレーも、ギュンターも首を横に振った。
左将軍を筆頭に、馬を走らせる。
相変わらずディアヴォロスの乗馬は軽やかでしなやかで、凄まじい速度に関わらずそうは見えない程自然だった。
オーガスタスもローフィスも無言で、ギュンターもディングレーも、顔を逸らしただけで前に置いて行かれそうな速度につい、言葉無く手綱を繰る。
が、ギュンターはそっと振り向くと、後続のアイリスもやっぱり軽やかな乗馬で、でも何か思案しているような表情で後に続き来る。
こんな速度で良く、考え事が出来るな。
と呆れたが、そうしてる間に横のディングレーから遅れ、ギュンターはつい、足を両側に跳ね上げて、拍車を掛け愛馬を急かした。
その建物に着くと、ローフィスはそっとその周囲を見回す。
てっきり近衛所有の共同使用出来る建物へ向かうと思っていたが、アルフォロイス右将軍の私用別宅だった。
近衛の内輪の会議で決まって使われる場所で、准将クラスか、もしくは希に隊長も呼ばれる場所で、つい二つの塔のある白い豪華な建物を見つめる。
が、ディアヴォロスは馬の手綱を出迎える場丁に渡すと、正面玄関で無く左手に回り、庭に面した開け放たれた窓のその部屋へと足を、踏み入れる。
皆が無言でお互いを見合わせながら、後へと続く。
その洒落た調度の並ぶ、明るい黄色の壁紙の、クリーム色の布の張られた手の込んだ彫刻が施された椅子の並ぶ室内で、アルフォロイス右将軍の重鎮、栗毛のデーデダルデスがディアヴォロスを迎え、微笑を浮かべて頷く。
「ようこそ。ご足労をお掛けしました」
ディアヴォロスは空色の瞳を細めた自分よりうんと年上の、隙の無い立ち振る舞いのその男の謙虚な態度に、一つ頷くとつぶやく。
「准将は揃っていないようですね?」
だがその奥の椅子から、ムストレスの弟、レッツァディンが立ち上がる。
「俺が兄の代理だ」
横の、若くしてその腕を認められ准将に駆け上がったムストレスの子飼いノルンディルも、椅子に掛けたままジロリ…!と、年下の左将軍、ディアヴォロスを見つめる。
がディアヴォロスは二人の猛者の猛禽のような瞳に怯む様子無く、デーデダルデスに頷き、背後の五人を室内へと招き入れる。
そしてデーデダルデスに微笑みかけるとつぶやく。
「既に書状はお手元に届いたかと存じますが?」
デーデダルデスは微笑むと
「確かに、受け取りました。
御任意の四人は既にギュンター隊長、ディングレー隊長。
そしてアイリス隊長の隊へと配属しました」
ガタン!
ノルンディルが立ち上がり、その暗い栗色の巻き毛の長髪を背で揺らし、激しいグレーの瞳をディアヴォロスに突きつける。
『烈剣』と呼ばれる程凄まじい剣を振る、長身で体格のいい整った容姿の身分の高い男はだが、その冷たい瞳で相手の身を凍らせるのが得意だった。
刃(やいば)のような瞳。
ローフィスはそう思った。
が、ノルンディルはローランデが近衛に居た頃散々ちょっかいかけてギュンターを猛烈に怒らせ、酒の席でギュンターを挑発、そしてギュンターに殴りかかられ、戦闘不能な程の怪我を負わせられた。
憎むべき男の姿を、睨むディアヴォロスの背後に見つけ激しく眉間を寄せる。
唸り出しそうだな。ギュンターはつい、睨め付けて来るノルンディルのその総毛立つ様子に、嗤(わら)った。
ディングレーは横のギュンターのその、秘かな野獣ぶりについ、吐息を吐いて肩をすくめる。
そして小声で忠告した。
「…殴りかかるなよ」
ローフィスも秘かに振り向くと
「挑発に乗るな」
と押さえた声で告げる。
が、アイリスが肩を竦めた。
「左将軍かオーガスタスが、止める」
ギュンターも、そうだ。と頷く。
「あの二人は俺より素早い」
それは俊敏なギュンターのその言い切りに、ローフィスは二人に同情した。
つまりはギュンターにずっと“気"を向け、常に見張ってる。と言う事だ。
が、ディアヴォロスは相手は自分だ。と言うように、准将の視線からすっ!と横にずれてギュンターを背に隠すと微笑む。
「ここに既におられる。と言う事は、もう人員リストを手にしている筈だ。
違いますか?」
レッツァディンが、顔を揺らす。
ディングレーも見知っている、ディアヴォロス同様「左の王家」の、一族の男。
黒髪の、面立ちの似た、だがどれをとってもごつく逞しく、激しい気性も兄、ムストレスを上回る。
ディアヴォロスにとっても、自分同様いとこに当たる。
だが年下のディアヴォロスに左将軍に地位を奪われて以来、事ある毎に、兄弟揃ってディアヴォロスに嫌がらせを仕掛け続け、その汚いやり用にディングレーはきっちり腹を立てていた。
ディアヴォロスはレッツァディンが一歩前へ出て自分を睨むなり、背後でディングレーが凄まじい“気"を送りレッツァディンを睨み付けるのに気づき背後に振り向くと、たしなめるような視線を送る。
ディングレーは二つ年上のいとこ、ディアヴォロスの神秘的で浮かぶような透けた瞳に見つめられ、その“気"を一気に鎮め、俯く。
ディアヴォロスは、だが親しみ込めてディングレーに視線を送り続けた。
ディングレーの兄グーデンは、ムストレスやレッツァディン同様自己中心的で他を見下し、卑怯な事も平気な男だったが、弟のディングレーは真っ直ぐな気性の、つ い庇いたくなる程気持ちの純粋な男で、兄の汚名をいつもその弟として受け続けても、泣き言を言ったり愚痴を言わずただじっと、信じる自分の道を着実に歩い ていく。そんな男だった。
恋人シェイルの義兄ローフィスに懐き、ローフィスは懐の広い男だったから、無骨で感情表現の苦手な不器用なディングレーをずっと、面倒見て来た。
そのローフィスはとうとう近衛を去る。
義弟シェイルの為に居続けたが、自分が有能な彼を手元に置きたくて隊長に抜擢して以来、自分の敵ムストレスに嫌がらせを受け続けても、文句を言った試しが無い。
ローフィスはつい、ディアヴォロスのそんな思惑に、気づいたように顔を上げる。
真っ直ぐの、明るい青の瞳。
明るい栗毛のやさ男風の外観だがローフィスの意志が、折れた事が無い程強い男だと、ディアヴォロスは知っていた。
ローフィスは少し俯く。が直ぐ顔を上げ、真っ直ぐ見つめた。
『光の国』の『光竜』をその身に宿し、誰もがディアヴォロスをカリスマと崇めたし、出会った途端その崇高な雰囲気に魅了され、殆どの者が彼に平伏さずにはいられない。
ムストレスもレッツァディンもそれが、気に入らない。
自分が劣る事を決して、認める事の出来ない男達だったから。
「座りませんか?」
年長のデーデダルデスは両派の若者が激しく睨み合う様子を、その思惑を読ませない空色の瞳で見つめ、そっとささやく。
低い声だったがさすが、響き渡る声色で、皆我に返って頷く。
デーデダルデスがディアヴォロスに直ぐ横の椅子を勧め、ディアヴォロスはオーガスタスに頷くと、オーガスタスは横へと付き、ローフィス、ディングレー、ギュンター、アイリスの順に、ノルンディルとレッツァディンらと向かい合うように掛ける。
が、ノルンディルの横の椅子に座った大男、赤毛のフォルデモルドは、ディアヴォロスの横に座すオーガスタスに、激しい視線を送る。その横には、銀髪のララッツも居た。
ディングレーはその喰えない冷静な男が微笑を浮かべる様につい、ギュンターの事も話題に上るな。と俯いた。
案の定、
「遅れてすまない」
と、庭に面した両開きのガラス扉から、アッサリアス准将が姿を見せる。
彼は室内へ入り様、ジロリ…!とギュンターとアイリスに鋭い視線を向け、ディアヴォロスとデーデダルデスに一礼し、フォルデモルドが腰を上げたその席に、着く。
ララッツが動かないのでフォルデモルドは仕方無く末席に着き、どっか!と腰を降ろすと腕組んで、やっぱりオーガスタスに激しい視線を送った。
がオーガスタスは態度も変えず、気づく様子すら見せない。
ララッツもアイリスも内心肩をすくめた。
『だから、器が違う。と言われるんだ』
デーデダルデスは中央の椅子に掛け、左右にずらりと並ぶ若く激しい猛者達が睨み合うのを見回し、内心の吐息を押し隠し、口を開く。
「ディアヴォロス左将軍所属の隊に四人が配置済みで、私達アルフォロイス右将軍所属隊で、五人を引き受ける事が既に、決まっている」
レッツァディンが肩を揺すって怒鳴る。
「それをこれから、話し合うのでは無いのか?!
既に決まった。とは、どういう事だ!」
デーデダルデスはその激しい横やりに冷静さを崩す事無く、レッツァディンに顔を向ける。
「書状でとっくの昔に、シャーネンク隊員配属先の希望を各隊に聞いている。その返事を今日、受け取っただけだ」
ノルンディルが異論を唱えた。
「…ならこの会議は無意味だろう!
違うか?!」
激しく吠えるその男に、年長のデーデダルデスは顔色も変えない。
「ムストレス准将から色々とディアヴォロス所属隊長らに、意見があると言うのでわざわざこの席を、設けた迄だ。
右将軍はどうしても外せない予定で出席出来ないが、遺恨を残さないよう話合うようにとの、伝言を頂いた。
が、意見をしたいとお申し出のムストレス准将ご本人も、右将軍同様欠席の御様子だが?」
その皮肉な言い様にレッツァディンは顔を揺らし、少し気まずそうにつぶやく。
「王族の大切な用事が既に決まった日程であり、この意見は昨日問題が持ち上がり、言い含めたいと急遽決まった事で、兄はどうしても予定を外せなかった!」
がディアヴォロスが、素っ気なく言う。
「言い訳はいい。代理の貴方で構わない。
シャーネンク隊の配属の話は済んだと考えていいな?
その他にもお話が?」
ノルンディルとレッツァディンは配属の話がこんなに呆気なく終わると思わず、つい顔を見合わせる。
そして、ディアヴォロスの落ち着き払った顔を見つめ、レッツァディンが断固とした口調で告げる。
「舞踏会の席での君の部下達の無礼に、責任者として注意勧告をお願いしたい」
ディアヴォロスはレッツァディンを見つめ、小声で告げる。
が低く通る声音は、穏やかにその場に響き渡った。
「どんな無礼です?」
ノルンディルはつい、顔を伏せるアッサリアス准将に視線を送り
「…夫有るご婦人を構わず誘うのは無礼極まりなく、ましてや一夜を過ごす等言語道断だ!」
ギュンターは思わず俯いて吐息を、吐く。
レッツァディンも口を開く。
「そして優先されるべき身分の女性がその取り巻きにわざわざ並んでいたと言うのに、無視するとは無礼だとは思わないのか?!」
オーガスタスが尋ねるように隣のローフィスを見つめ、ローフィスはついアイリスに視線を振ったが、ディングレーもギュンターも、誰の事だ?と首を捻った。
アイリスが咄嗟に口を開く。
「発言の許可を頂きたい」
打てば響くようなアイリスの対応に、デーデダルデスはこの場で一番若輩の青年につい、感嘆してささやく。
「どうぞ」
アイリスはレッツァディンを見つめ、低い声でつぶやく。
「貴方が口にされたのは、アンリッシュ嬢の事ですか?」
レッツァディンは、顎を上げてアイリスを見下す。
「彼女の身分を、知っているだろう?」
アイリスは上目使いにレッツァディンを見つめ、だが一歩も引く様子を見せず早口に答えた。
「王族だ。だが彼女が私を取り巻いたとは思えない。
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ディングレーもギュンターも、アイリスのその大胆な詭弁に思い切り呆れ、ローフィスは笑いを堪えるオーガスタスの大きな肩が揺れるのを、横の席で見て、思わず肘で小突いた。
レッツァディンはその静かな気迫で押し切ろうとするアイリスに呆け、だが気を取り直すと告げる。
「では本人に聞け!」
ディングレーがつい、顔を上げる。
レッツァディンが部屋の扉の前に居る召使いに顎をしゃくると、召使いは一つ頷き、
扉を開けて部屋を出た。
ノルンディルはディアヴォロスを睨み付け
「もう一人の話は済んで無い」
と尊大に告げる。
ディアヴォロスは微笑むとささやく。
「で?一夜を過ごしたと言うご婦人は、ここにいらっしゃるのか?」
アッサリアス准将は俯いたまま顔を下げ、ノルンディルは庇うように怒鳴った。
「不貞を働かされたご婦人がここに、顔を出せるか?
誘惑し、不貞をそそのかした男こそが処罰されるべきだ!」
ノルンディルはギュンターとアイリスのどちらを断罪すべきかと、二人を交互に睨む。
がディアヴォロスは冷静につぶやく。
「ご婦人は一夜を共にした男性に不愉快な事をされて夫を裏切ったと。そうおっしゃられておいでか?」
ノルンディルは憮然。と腕を組む。
「当たり前だ!
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が、ディアヴォロスは顔を下げ一つ、吐息を吐くとつぶやく。
「そう、重大な問題だ。
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「ご婦人にご出席頂けるか?
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これにはアッサリアス准将が慌てた。
「妻は気分がひどく悪く、この席に顔は出せない!」
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デーデダルデスの背後の扉が開き、アリーナが顔を覗かせる。
その時のアッサリアス准将の驚愕の表情はまるで幽霊を見たように真っ青で心底びっくりし、椅子から飛び上がりそうで、皆がつい准将の顔を凝視する。
彼女はつかつかと室内に入り、デーデダルデスに、そしてディアヴォロスに頷いて挨拶に代え、皆に…特にギュンターを見つめて艶然とにっこり微笑み
「殿方の大事なお仕事の会議であるに関わらず、私がここに在籍いたしますご無礼、謝罪申し上げますわ。
けれど…先程のご婦人が、もし!
私の事だとおっしゃるのなら!」
アッサリアスが慌てて叫ぶ。
「お前だとは誰も、一言も言っていない!」
「あら。そうなの?
じゃ、誘惑されて不貞を働かされたご婦人。とはどなた?」
ノルンディルは腹を括れ!とアッサリアスを睨み付けて、怒鳴る。
「ご婦人。夫の名誉をお守りになる気がおありなら!
一介の隊長の誘惑に乗って夫に汚名を着せるのは、得策ではありませんぞ!」
だがアリーナは、ノルンディルににっこり。と笑った。
「間違えていらっしゃるわ。准将。
誘惑したのは私の方でその一介の隊長さんは、私に口説かれたのよ」
その場の皆は呆然としたし、デーデダルデスは一気に吹き出し体を前に折って、くっくっくっ!と笑いを漏らしながら
「ああ…失礼…」
と言って、それでも笑い続けた。
婦人は見つめるディアヴォロスににっこり微笑むと
「ですから、その隊長さんが文句がおありなら、私は告発を受ける気がありますわ?」
ディアヴォロスはご婦人に、やはりその神秘的で男らしくて美しい微笑を湛えて微笑み返し、つぶやく。
「その隊長は私の推察ですと、とても楽しい一夜を過ごし、貴方に感謝こそすれ、告発等微塵も脳裏に、浮かばないでしょう」
ギュンターはそのディアヴォロスの言葉に、腕組みして俯いて顔を、下げた。
だがディアヴォロスは言葉を続けた。
「ですが貴方は夫がある身。
他の男性をその貴方が誘惑されたとあっては、夫である准将が貴方の愛を疑いたくなり、相手の男に嫉妬するのも当たり前」
が、准将が咄嗟に怒鳴る。
「嫉妬等、しておらぬ!」
だがこれにはディアヴォロスも婦人も同時に、立ち上がって顔を真っ赤にし、憤慨する准将を見つめた。
ディアヴォロスはすましきり、片眉上げてささやく。
「しておられぬのか?
それはご婦人が他の男を誘惑しても、無理からぬ事です」
准将はつい、そう言った若年の左将軍を見つめる。
「どうして無理からぬ事なんだ?!」
アリーナが意地悪く言った。
「だって、私を愛していたら嫉妬してあたりまえでしょう?」
ディアヴォロスも眉間を寄せるとつぶやく。
「嫉妬していない。と言う事は、愛してない。と同様の言葉だ」
ノルンディルもレッツァディンも…フォルデモルドもララッツも見つめる中、准将は顔を真っ赤にした。
デーデダルデスが笑いを堪(こら)え、准将に注進する。
「その…体面を構われるのであれば我々に対してでなく、ご婦人に例え嘘でも
『嫉妬で体が沸騰し、相手を斬り殺さないと気が済まない程君を愛している』
と言うべきだ。
経験から申しますが」
准将は年上のその男の言葉に、顔を真っ赤にして俯いた。
「失礼な発言をお許し頂けるのであれば」
アイリスの言葉に皆が一斉に、一番年若いその男を見つめた。
「『他の男と過ごす貴方を一瞬でも想像しただけで、胸が嫉妬で焼けて生きて居られない程辛い』
とおっしゃるのも、効果的です」
皆がその大袈裟さに眉間を寄せまくり、ノルンディルが馬鹿げてる!
と異論を唱えようとした途端、婦人はにっこり微笑むとその美男に
「さすがに大勢の女性に取り巻かれるだけのお方だわ。
貴方に切なげにそんな事を言われたりしたら、どんな女性も感激で胸がいっぱいになる事でしょう!」
ノルンディルはしゃしゃり出て目立ちたがりの男を睨んだが、婦人はつい、ジロリ!とムストレス派の男達を睨め付けて言った。
「そんな風に謙虚で熱烈に、ご自分の胸の内を明かされる男性はここには殆どいらっしゃらないばかりか、戦いに明け暮れるお仕事第一の殿方にはまるで思いつかず、むしろそんな言葉を婦人に告げるのは、恥だと皆さん、思っていらっしゃるようですわね?」
准将は言われて顔を下げ、が上げてアイリスを、嫉妬の標的と睨み付け、ギュンターはアイリスが自分に成り代わり、准将の嫉妬を引き受けようとしている事を悟り咄嗟にぼそり。とつぶやいた。
「准将婦人と知らず彼女と時を過ごした事を謝罪する」
爆弾を投下したようなその発言に、そう言って顔を真っ直ぐ上げるギュンターを皆が一斉に凝視し、その場はしん。と静まり返る。
アイリスは隣の上座寄りに座るギュンターの美貌の横顔を見つめ眉を寄せたし、オーガスタスは顔を上げ、ローフィスは首を横に振りながら俯き、ディングレーはローフィスとディアヴォロスに交互に視線を、向けた。
レッツァディンとノルンディルがこの機にギュンターを非難しようと勢い込んで同時に立ち上がり、が婦人がすかさずつぶやく。
「謝罪の言葉より、私が貴方に言った、夫についての言葉をこの場で披露して頂けると有り難いわ?」
ギュンターはその紫の瞳を丸くしてアリーナを見つめ、頷く彼女に促されてつぶやく。
「五人も愛人を抱えちゃ、妻を構ってる暇は無いって…あれか?」
アリーナはたっぷり頷き、准将は顔を真っ赤にして俯いた。
アリーナはじっ。と夫を見つめ、言った。
「私が嫉妬すると、想像もしてないから五人も居るの?
私も五人と浮気しないと、貴方に私の気持ちは、お分かりにならないのかしら?」
准将が、咄嗟に顔を上げる。
が、アリーナはプイ。と背を向け、さっさと元来た扉を開けて退出する。
バタン…!
准将は呆然と扉を見つめ、デーデダルデスがつぶやく。
「どうぞ。後をお追いに成っては?」
准将はがたん!がたん!と音を蹴立てて椅子を退けながら慌てて扉に駆け寄り、開けて扉のその向こうの、妻の姿を追った。
問題提起の張本人が消え、レッツァディンとノルンディルが呆然とする中、ディアヴォロスが横列の後席に座すギュンターに振り向き、言った。
「夫婦間の諍いに巻き込まれ、丁の良い当て馬にされた愚かさを、繰り返さないと約束出来るな?」
ギュンターはディアヴォロスの柔らかな声音と見つめる神秘的な瞳に一つ、頷く。
そしてディアヴォロスは今だ立ったままのノルンディルとレッツァディンに顔を向けると言った。
「もう一人のご婦人についての、お話をされては?」
と顎をしゃくる。
とっくに室内に入り、壁際で一部始終を見ていたアンリッシュが、ディアヴォロスの発言に気づいたように顔を揺らし、レッツァディンはアッサリアス准将で挫かれた出鼻を、取り戻そうとアンリッシュに顔を向ける。
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