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傷心のギュンター
情事の名残り
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その朝、ギュンターは憮然と寝台から体を、起こした。
ローランデが北領地[シェンダー・ラーデン]に戻ってからというもの、それ迄しつこく攻め込んで来た南領地ノンアクタルのその向こう、ローデルベール国のラウンデルⅢ世はぴたり!とアースルーリンド侵攻を、取り止めていたからだ。
つ まり、それ迄ひっきりなしに戦闘に駆り出され、戦いに明け暮れていた日々が、いきなり平穏に満ちた毎日と成り、ローランデとずっと過ごしていた近衛宿舎に 今は一人、寝泊まりする羽目と成り、嫌が上でもローランデの姿を部屋の至る所に思い出し、最悪な気分で、先週北領地[シェンダー・ラーデン]までとうとう 居ても立っても居られず会いに行き、だがそれからたった三日だと言うのに、もう腰がむずむずし、再び北領地[シェンダー・ラーデン]迄駆けようか。と思い 悩む程だった。
「…起きてたの…?」
ギュンターは気づいて振り向くと、寝台には見た顔の栗毛の女が裸でその真っ白で豊かな胸をシーツで隠し、身を起こして寝台に掛ける自分の背に、しなだれかかる。
ギュンターは一瞬夕べの事を思い出そうとし、同時に彼女の名前を、記憶から呼び出そうと暫し、沈黙する。
「メリーアン…?」
確か…そんな名だった。
女は背に額を付けたまま、くすりと笑った。
「アリーナ」
ギュンターは顔を揺らす。
「…酒がまだ、残ってるな…すまない。間違えて」
彼女は後ろから首に両腕巻き付けると、くすくすと笑った。
「メリーアンは貴方の左横に居たわ。
でも貴方は私の誘いに、乗ったじゃない?」
ギュンターはぼんやり、夕べの事を思い浮かべた。
そ うだ…。隊長会議でディングレーやアイリスと一緒で…ローランデが北領地[シェンダー・ラーデン]に戻った事から近衛中に、俺がローランデに振られた。と 知れ渡っていたし…どうやら、俺の様子が奴らですら心配げな表情をさせる程らしく、上品な席だから。と、舞踏会に無理矢理連れて来られ、そして………。
取り囲む女が、何時迄も引かなくてしつこくて、ギュンターはその中の一人を、選ばざるを得なくて…。
結局名を聞いたメリーアンで無く、反対側の横に居た女を…選んだ事を、思い出した。
笑顔が気さくな、栗毛の二十代の半分程年齢の、物の解った後腐れなさそうな、気軽な親しみやすさが気に入って。
赤毛の女と金髪の女は火花を散らし、一触即発だったし…とにかく、振り払ったかと思うと次々に女が現れ、避難所のつもりで今背にしなだれかかってる女の手を取り、他の女避けにしていたのですまないと思い、その後も付き合った。
ギュンターは周囲を見回す。
屋敷の、一室だ。
明るい陽は外に続く一面のガラス窓から差し込み、黄色を基調とした小花の散る壁紙やカーテン。明るい栗色の艶やかで手の込んだ調度品の数々。そして天蓋付きの寝台を、眩しく照らし出していた。
彼女は振り向くギュンターにうっとりとした表情を浮かべ、その顔を傾けたので、ギュンターは習慣に従って彼女に口付けた。こんな洒落た室内じゃ、多分自分の美貌はそれは、ロマンチックに彼女に、見えている事だろうな。と内心、肩をすくめながら。
ギュンターは顔を離し、巻き付く彼女の腕を首からそっと外すと、立ち上がる。
「あら…。
この後予定が、あるの?」
彼女に聞かれ、ギュンターは床に散らばる衣服を掻き集めて身に付け初め、呻く。
「その予定を、連れに聞かないと。
確か会議の翌日、左将軍に報告をするから集まると、聞いた記憶が確かか、確認取らないとな。
…奴らがまだ、居ればいいが」
アイリスは多分、自分同様屋敷内で女に掴まり、確実に朝を迎えてると解っていた。
ディングレーは…ローフィスと居る筈だった。
ローフィスの移動が決まり、隊長だった奴に代わって副隊長のディングレーは隊長に昇格する。
身分の低いローフィスは自分同様、敵対勢力ムストレス派の標的になる事しばしばで、奴はとうとう神聖神殿隊付き連隊へ移動願いを左将軍ディアヴォロスに出し、奴を兄貴のように慕ってるディングレーは多分、別れをそれは、惜しんでいる筈だ。
態度には出さないものの。
まあ、ディングレーの兄貴のグーデンは宮中護衛連隊へ配属されていて別れ別れだが兄弟仲はすこぶる悪いし、あのロクデナシの兄貴を、あの立派な男が見習うどころか軽蔑し、ローフィスへと入れ込むのも無理はない。
ローフィスもデキた男だし面倒身も良かったから、自分より身分の遙か高い、立派な体格の強面の男前に懐かれても、ビクともしない。
俺なら…絶対ごめんだが。
聞くと奴らの付き合いは教練に上がる前からだと聞く。
…の割には、ディングレーは年上で隊長である筈のローフィスに、敬語を使うのを一度も耳にした事が無い。
教練時代、酒場でこの二人連れに出会った時、その以外な取り合わせに本当にびっくりした。
…今はさすがに慣れたが。
戸口で今だ寝台に居る彼女に、視線を投げる。
「もしまだここに居るのなら…」
前髪を上げ、栗色の柔らかな髪が緩やかにくねって色白の顔を縁取り、豊かな胸と肢体を真っ白なシーツに包む女性らしい艶やかさを纏った、穏やかさを湛えた少し垂れ目の、美人だった。
その瞳が青色だと気づき、ギュンターはつい、吐息を吐く。
ローランデとは勿論全然違うが、あの青の瞳に引きつけられるように彼女を、選んだのも確かだった。
彼女は戸惑うギュンターに、くすり。と笑った。
やはり、品の良い親しげな微笑だった。
「あら。戻って来てくれるの?」
ギュンターは柔らかな冗談交じりのその皮肉に、肩を竦める。
「予定が優先なら、使いを寄越す。
でなければ…戻るが?」
彼女はまた、くすくすくすと笑う。
「それとも誰かに、掴まらなければ?
貴方ってほんと、競争率高いわ!」
ギュンターは言われて、押し寄せる女の数を思い出し、もう一度肩をすくめた。
「夕べはなぜかいつもより凄い」
彼女はギュンターを、じっと見た。
「なんだ?」
「…だって貴方、恋人に振られたばかりでしょう?
空いた席をみんな、狙ってるのよ」
ギュンターは“振られた"と言う件(くだり)でつい、思い切り喉を、詰まらせ俯いた。
「…あら…。ごめんなさい。
平気そうに見えたから………。
堪(こた)えてたのね?
夫も貴方は凄く、入れ込んでたって。
でもそのお相手と言うのが、北領地[シェンダー・ラーデン]の貴公子じゃね」
振られるのは当然だ。と言う口調に、ギュンターはもっと、俯く。
相手が良く知る飾る必要無い相手なら、思い切りがっくりと、肩を落としていた所だ。
がふと、聞き返す。
「…夫?」
彼女は笑った。
「安心して。別居状態だから」
ギュンターはつい、顔を揺らす。
「…旦那の、浮気か?」
「愛人を五人も抱えられちゃ、妻を構ってる間なんて、無くて当然よね!」
彼女の剣幕に、ギュンターはつい、肩をすくめた。
広間の続き部屋に顔を出すと、だだっ広い室内にまばらに、それぞれの椅子やソファに掛けて空の酒瓶を前に話し込む男達の姿が見え、その中に案の定、ディングレーとローフィスの姿があった。
扉の直ぐ横には名前を間違え、夕べ選ばなかった黒髪のメリーアンが、振り向くなりいきなりふん!と顔を背け、横の長身の色男、レルムンスの腕をぐい!と自分に引き寄せる。
レルムンスの、淡い栗毛の狐のように優美な、相変わらず整った生っちろいにやけ顔が自分に注がれたが、無視した。
レルムンスはギュンターの隊の副隊長ディンダーデンのいとこだがムストレス派の男で、大嫌いないとこディンダーデンが居ないと、それは態度がデカかった。
ディンダーデンに言わせると昔しょっ中いじめてたらしいので、今だディンダーデンの姿を見ると、レルムンスはそっと身を隠す。
が今や体格は自分らと並ぶ長身の、隙無い剣を使う、近衛の隊長の一人だった。
がギュンターは視線をディングレーらに戻す。
彼らにそっと近寄ると、二人は揃って長椅子から振り向き、だがその椅子に辿り着くその前に、腕をふいに横から掴まれ、振り返る。
アイリスの端正な、長く濃い栗毛を肩に流す優雅な姿が目に飛び込み、だがそのいつも余裕しか持ち合わせが無いように微笑を湛えている筈の顔が、眉間を寄せ困惑の表情を浮かべているのについ目が吸い付き、問う。
「…アイリス…!何だ?!」
「…君、夕べアッサリアス婦人としけ込まなかったか?」
ギュンターは一辺に言葉に詰まり、アイリスの心配げな表情の理由がずどん!と重く胃にのし掛かるのを、感じた。
「アッサリアス?………アリーナと名乗ってたが………。
もしかして彼女の夫が………」
途端、ローフィスが立ち上がる。
そしてそっと横に付き、周囲の男達を覗うように、声を潜めてギュンターにささやく。
「とっととここを、逃げ出せ」
ディングレーもローフィスの背後から声を忍ばせる。
「ムストレス派の奴らがお前の失態を、目こぼしする筈が無い。
准将がここに、駆け付けて来ない内に逃げて、後日は知らないとばっくれ通せ」
ギュンターは俯く。
「だが彼女の話だと准将は愛人を五人も抱え、彼女の相手をロクにしないと。
本当に、アッサリアスは駆け付けて来るのか?」
アイリスは思い切り、吐息を吐いた。
そして顔を上げ、声を思い切り潜める。
「…知らないのか?
あっちが下手だと婦人から寝室から閉め出され、それで五人も抱える羽目に成ったんだ」
ギュンターは横に肩を並べる年下の大貴族の整った顔を、たっぷり見た。
「…もしかして、技術向上の為に………?」
アイリスに頷かれ、ギュンターは思いきり、顔を下げた。
ローフィスが、畳みかける。
「…婦人の口から、お前が“良かった”なんて、洩れてみろ!
婦人の手前その場は濁しても、後日絶対恨みを買うぞ!」
ギュンターは、そう言った軽やかな伊達男を見つめる。
「…もしかして、アッサリアスは婦人にベタ惚れか?」
目前のローフィスも隣のアイリスも、そしてローフィスの背後のディングレーまでが思い切り、頷く。
ローランデが北領地[シェンダー・ラーデン]に戻ってからというもの、それ迄しつこく攻め込んで来た南領地ノンアクタルのその向こう、ローデルベール国のラウンデルⅢ世はぴたり!とアースルーリンド侵攻を、取り止めていたからだ。
つ まり、それ迄ひっきりなしに戦闘に駆り出され、戦いに明け暮れていた日々が、いきなり平穏に満ちた毎日と成り、ローランデとずっと過ごしていた近衛宿舎に 今は一人、寝泊まりする羽目と成り、嫌が上でもローランデの姿を部屋の至る所に思い出し、最悪な気分で、先週北領地[シェンダー・ラーデン]までとうとう 居ても立っても居られず会いに行き、だがそれからたった三日だと言うのに、もう腰がむずむずし、再び北領地[シェンダー・ラーデン]迄駆けようか。と思い 悩む程だった。
「…起きてたの…?」
ギュンターは気づいて振り向くと、寝台には見た顔の栗毛の女が裸でその真っ白で豊かな胸をシーツで隠し、身を起こして寝台に掛ける自分の背に、しなだれかかる。
ギュンターは一瞬夕べの事を思い出そうとし、同時に彼女の名前を、記憶から呼び出そうと暫し、沈黙する。
「メリーアン…?」
確か…そんな名だった。
女は背に額を付けたまま、くすりと笑った。
「アリーナ」
ギュンターは顔を揺らす。
「…酒がまだ、残ってるな…すまない。間違えて」
彼女は後ろから首に両腕巻き付けると、くすくすと笑った。
「メリーアンは貴方の左横に居たわ。
でも貴方は私の誘いに、乗ったじゃない?」
ギュンターはぼんやり、夕べの事を思い浮かべた。
そ うだ…。隊長会議でディングレーやアイリスと一緒で…ローランデが北領地[シェンダー・ラーデン]に戻った事から近衛中に、俺がローランデに振られた。と 知れ渡っていたし…どうやら、俺の様子が奴らですら心配げな表情をさせる程らしく、上品な席だから。と、舞踏会に無理矢理連れて来られ、そして………。
取り囲む女が、何時迄も引かなくてしつこくて、ギュンターはその中の一人を、選ばざるを得なくて…。
結局名を聞いたメリーアンで無く、反対側の横に居た女を…選んだ事を、思い出した。
笑顔が気さくな、栗毛の二十代の半分程年齢の、物の解った後腐れなさそうな、気軽な親しみやすさが気に入って。
赤毛の女と金髪の女は火花を散らし、一触即発だったし…とにかく、振り払ったかと思うと次々に女が現れ、避難所のつもりで今背にしなだれかかってる女の手を取り、他の女避けにしていたのですまないと思い、その後も付き合った。
ギュンターは周囲を見回す。
屋敷の、一室だ。
明るい陽は外に続く一面のガラス窓から差し込み、黄色を基調とした小花の散る壁紙やカーテン。明るい栗色の艶やかで手の込んだ調度品の数々。そして天蓋付きの寝台を、眩しく照らし出していた。
彼女は振り向くギュンターにうっとりとした表情を浮かべ、その顔を傾けたので、ギュンターは習慣に従って彼女に口付けた。こんな洒落た室内じゃ、多分自分の美貌はそれは、ロマンチックに彼女に、見えている事だろうな。と内心、肩をすくめながら。
ギュンターは顔を離し、巻き付く彼女の腕を首からそっと外すと、立ち上がる。
「あら…。
この後予定が、あるの?」
彼女に聞かれ、ギュンターは床に散らばる衣服を掻き集めて身に付け初め、呻く。
「その予定を、連れに聞かないと。
確か会議の翌日、左将軍に報告をするから集まると、聞いた記憶が確かか、確認取らないとな。
…奴らがまだ、居ればいいが」
アイリスは多分、自分同様屋敷内で女に掴まり、確実に朝を迎えてると解っていた。
ディングレーは…ローフィスと居る筈だった。
ローフィスの移動が決まり、隊長だった奴に代わって副隊長のディングレーは隊長に昇格する。
身分の低いローフィスは自分同様、敵対勢力ムストレス派の標的になる事しばしばで、奴はとうとう神聖神殿隊付き連隊へ移動願いを左将軍ディアヴォロスに出し、奴を兄貴のように慕ってるディングレーは多分、別れをそれは、惜しんでいる筈だ。
態度には出さないものの。
まあ、ディングレーの兄貴のグーデンは宮中護衛連隊へ配属されていて別れ別れだが兄弟仲はすこぶる悪いし、あのロクデナシの兄貴を、あの立派な男が見習うどころか軽蔑し、ローフィスへと入れ込むのも無理はない。
ローフィスもデキた男だし面倒身も良かったから、自分より身分の遙か高い、立派な体格の強面の男前に懐かれても、ビクともしない。
俺なら…絶対ごめんだが。
聞くと奴らの付き合いは教練に上がる前からだと聞く。
…の割には、ディングレーは年上で隊長である筈のローフィスに、敬語を使うのを一度も耳にした事が無い。
教練時代、酒場でこの二人連れに出会った時、その以外な取り合わせに本当にびっくりした。
…今はさすがに慣れたが。
戸口で今だ寝台に居る彼女に、視線を投げる。
「もしまだここに居るのなら…」
前髪を上げ、栗色の柔らかな髪が緩やかにくねって色白の顔を縁取り、豊かな胸と肢体を真っ白なシーツに包む女性らしい艶やかさを纏った、穏やかさを湛えた少し垂れ目の、美人だった。
その瞳が青色だと気づき、ギュンターはつい、吐息を吐く。
ローランデとは勿論全然違うが、あの青の瞳に引きつけられるように彼女を、選んだのも確かだった。
彼女は戸惑うギュンターに、くすり。と笑った。
やはり、品の良い親しげな微笑だった。
「あら。戻って来てくれるの?」
ギュンターは柔らかな冗談交じりのその皮肉に、肩を竦める。
「予定が優先なら、使いを寄越す。
でなければ…戻るが?」
彼女はまた、くすくすくすと笑う。
「それとも誰かに、掴まらなければ?
貴方ってほんと、競争率高いわ!」
ギュンターは言われて、押し寄せる女の数を思い出し、もう一度肩をすくめた。
「夕べはなぜかいつもより凄い」
彼女はギュンターを、じっと見た。
「なんだ?」
「…だって貴方、恋人に振られたばかりでしょう?
空いた席をみんな、狙ってるのよ」
ギュンターは“振られた"と言う件(くだり)でつい、思い切り喉を、詰まらせ俯いた。
「…あら…。ごめんなさい。
平気そうに見えたから………。
堪(こた)えてたのね?
夫も貴方は凄く、入れ込んでたって。
でもそのお相手と言うのが、北領地[シェンダー・ラーデン]の貴公子じゃね」
振られるのは当然だ。と言う口調に、ギュンターはもっと、俯く。
相手が良く知る飾る必要無い相手なら、思い切りがっくりと、肩を落としていた所だ。
がふと、聞き返す。
「…夫?」
彼女は笑った。
「安心して。別居状態だから」
ギュンターはつい、顔を揺らす。
「…旦那の、浮気か?」
「愛人を五人も抱えられちゃ、妻を構ってる間なんて、無くて当然よね!」
彼女の剣幕に、ギュンターはつい、肩をすくめた。
広間の続き部屋に顔を出すと、だだっ広い室内にまばらに、それぞれの椅子やソファに掛けて空の酒瓶を前に話し込む男達の姿が見え、その中に案の定、ディングレーとローフィスの姿があった。
扉の直ぐ横には名前を間違え、夕べ選ばなかった黒髪のメリーアンが、振り向くなりいきなりふん!と顔を背け、横の長身の色男、レルムンスの腕をぐい!と自分に引き寄せる。
レルムンスの、淡い栗毛の狐のように優美な、相変わらず整った生っちろいにやけ顔が自分に注がれたが、無視した。
レルムンスはギュンターの隊の副隊長ディンダーデンのいとこだがムストレス派の男で、大嫌いないとこディンダーデンが居ないと、それは態度がデカかった。
ディンダーデンに言わせると昔しょっ中いじめてたらしいので、今だディンダーデンの姿を見ると、レルムンスはそっと身を隠す。
が今や体格は自分らと並ぶ長身の、隙無い剣を使う、近衛の隊長の一人だった。
がギュンターは視線をディングレーらに戻す。
彼らにそっと近寄ると、二人は揃って長椅子から振り向き、だがその椅子に辿り着くその前に、腕をふいに横から掴まれ、振り返る。
アイリスの端正な、長く濃い栗毛を肩に流す優雅な姿が目に飛び込み、だがそのいつも余裕しか持ち合わせが無いように微笑を湛えている筈の顔が、眉間を寄せ困惑の表情を浮かべているのについ目が吸い付き、問う。
「…アイリス…!何だ?!」
「…君、夕べアッサリアス婦人としけ込まなかったか?」
ギュンターは一辺に言葉に詰まり、アイリスの心配げな表情の理由がずどん!と重く胃にのし掛かるのを、感じた。
「アッサリアス?………アリーナと名乗ってたが………。
もしかして彼女の夫が………」
途端、ローフィスが立ち上がる。
そしてそっと横に付き、周囲の男達を覗うように、声を潜めてギュンターにささやく。
「とっととここを、逃げ出せ」
ディングレーもローフィスの背後から声を忍ばせる。
「ムストレス派の奴らがお前の失態を、目こぼしする筈が無い。
准将がここに、駆け付けて来ない内に逃げて、後日は知らないとばっくれ通せ」
ギュンターは俯く。
「だが彼女の話だと准将は愛人を五人も抱え、彼女の相手をロクにしないと。
本当に、アッサリアスは駆け付けて来るのか?」
アイリスは思い切り、吐息を吐いた。
そして顔を上げ、声を思い切り潜める。
「…知らないのか?
あっちが下手だと婦人から寝室から閉め出され、それで五人も抱える羽目に成ったんだ」
ギュンターは横に肩を並べる年下の大貴族の整った顔を、たっぷり見た。
「…もしかして、技術向上の為に………?」
アイリスに頷かれ、ギュンターは思いきり、顔を下げた。
ローフィスが、畳みかける。
「…婦人の口から、お前が“良かった”なんて、洩れてみろ!
婦人の手前その場は濁しても、後日絶対恨みを買うぞ!」
ギュンターは、そう言った軽やかな伊達男を見つめる。
「…もしかして、アッサリアスは婦人にベタ惚れか?」
目前のローフィスも隣のアイリスも、そしてローフィスの背後のディングレーまでが思い切り、頷く。
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