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特別追記 ユァルエルパの誇り高き王子
帰還
しおりを挟むオーガスタスは、少年少女らを連れて戻る部下らのごった返す中。
ディアヴォロスを見つけ、腕を掴んで振り向かせ、尋ねる。
「俺は、間に合うのか?!」
ディアヴォロスは振り向き、言った。
「…使者を…半刻ほど遅れると…」
けど、言った後に気づく。
「使者より先に、君が着くな」
「…俺が遅れると、補佐の癖にロクに仕事も出来ないと。
会議に集う重鎮らにイヤミ、言われるんだぜ?!」
ディアヴォロスは暫く、そう怒鳴るオーガスタスを見つめ。
そしてやっと、告げた。
「では私が戻るまで会議を延期して欲しいと。
使者を送る」
ようやく、オーガスタスは納得したと、頷く。
「これで俺も、ギュンターを見舞える」
ディアヴォロスは、ため息を吐く。
「彼は殺しても死にそうに無いから。
大丈夫と言えば大丈夫かもしれない。
が」
オーガスタスは、背を向けかけ『が』で咄嗟、振り向く。
ディアヴォロスはオーガスタスの、顔をじっ…と見、囁く。
「半死人なのに動き出して、ローランデの元に出向く可能性が高い」
オーガスタスが、がっくり顔を下げたところで。
テスアッソンが、横に詰め寄る。
「ギュンターの知り合いの、さらわれた美少年、ユザックが。
無事、保護されたと、ギュンターに知らせて貰えますか?!」
オーガスタスは一つ年下の部下の言葉に、落ち着きを取り戻して、頷く。
そしてディアヴォロスに詰め寄ると、囁く。
「…あんたは当分、戻れないんだな?!」
横のテスアッソンは、気の毒そうにオーガスタスを見上げた。
ディアヴォロスは険しい表情の、オーガスタスに告げる。
「私が居ないと、ユァルエルパの人達と意思疎通が出来ないし。
船が修理され、無事国に帰るまで見届けないとだし。
それに。
タチの悪い人さらい集団の、盗賊アデスタンは一掃しないと」
オーガスタスは、がっくり。と首を下げて暫く、沈黙。
ディアヴォロスにも横に居たテスアッソンにすら
「(その間ずっと俺に、左将軍の代理させる気か!!!)」
と怒鳴りたい気持ちをオーガスタスが、必死で堪えているのが、手に取るように分かった。
が、オーガスタスは顔を上げて、何とか言った。
「………分かった」
そして、少しヨロつきながらも、今だ部下でごった返す中、庭へ…。
愛馬、ザハンベクタの元へと歩き去る、オーガスタスの背を、テスアッソンは見、ぼそり…。
と、上司の上司、ディアヴォロスに囁く。
「かなり、過酷ですよ?」
ディアヴォロスは、肩を竦める。
「オーガスタスくらい迫力有れば。
年上の、威張って五月蠅い重鎮らも、黙らせられる」
“それはそうかもしれませんが”
テスアッソンはその言葉を言い淀む。
が、通りかかったデルアンダーが、ずばっ!と言った。
「でも、たいへん苦労は、しますよね」
テスアッソンもディアヴォロスも。
涼しい顔でイヤミを言う、デルアンダーが通り過ぎて部下らに次々と指示を送る姿に、同時に振り向いて視線を送った。
結局テスアッソンは。
ディアヴォロスと共に、ユァルエルパの王子と護衛らが集い寛ぐ、部屋へと足を踏み入れる。
ディアヴォロスの横に居ると、テスアッソンにまで。
王子が第16王子シャムノウムにされた事が、映像で頭に浮かび見えて、戸惑った。
最初の日。
意識を無くす薬を嗅がされた後、目覚めると…。
衣服を脱がされていて、体を拭かれ…。
寝台の上にいて、第16王子シャムノウムが横に。
抱きついて来るから、思い切り顎を殴り、寝台から蹴って転がり落とした。
すると護衛らが入って来て、数人は蹴り倒したものの、やがて両手両足を捕まえられ…。
膝を折って背を丸めた格好で縛り付けられ、そして後腔に指を入れられ、その後…。
シャムノウムのモノで、犯された。
痛みだけが走り抜け、その屈辱にぶるぶると身を、震わせていると…。
体に手を這わせ、あちこちに口づけられ…。
王子は復讐を、固く心に誓った。
また、もう一度背後から挿入される。
そしてまた…。
また…………。
痛みで、気絶しかけた所で、手足の戒めを解かれ、抱き寄せられた時。
鍛えられた王子はかっ!と目を開け、直ぐ抱く腕を掴みねじり上げて、シャムノウムに悲鳴を上げさせ、腕を折る寸前で、護衛の男らに捕まえられそうになって…。
シャムノウムの腕を外し、飛んで寝台から出ると、捕まえようとする護衛らを蹴り、殴り…そして駆け出す。
けれど…駆け下りた階段の先は、鉄柵がはめ込まれ、鉄柵の向こうの見張りの男が、にやついて胸に下げた鍵を持ち上げ、見せびらかして笑う。
王子は手を伸ばし、鍵を取ろうとする。
が、背後から護衛の男に抱き止められて捕まえられ…。
まだ、暴れたのでとうとうみぞおちを殴られて…気絶した。
テスアッソンはそれを見、こっそりディアヴォロスの、横顔を伺う。
幾度も犯され…きっと王子の誇り高き護衛らは。
もし、それを告げられたら。
第16王子の城に取って戻って、シャムノウムの喉を、かっ切るのでは無いか。と。
けれどもまた、イメージが浮かぶ。
強固に反対する、船長と護衛ら。
けれど王子は、船首を北に向けるよう、激しく命ずる。
とうとう…皆が折れ、北上する事を承諾。
しかし不慣れな北への航海。
やがて嵐に遭い、船は流され、岩礁にぶつかり、座礁する………。
嵐が止むと王子は、護衛の目を盗みたった一人でこっそり船を下り、砂浜を崖の方向へと進んで…。
入り組んだ崖の細道を抜け、その先の、砂利混じりの砂漠へと出る。
その遙か向こうに、市街地を見つけ…。
砂漠を、抜けかけたところで…。
馬に乗った男らに、出会った。
話しかけたが言葉は通じず。
一人が馬から下りると他も降りて、横に来て話し始め…。
けれど彼らの言葉も分からず、困惑しているところに、背後から薬の染みこんだ、布を口に当てられて…。
薬を嗅がされ、気絶した。
その時、王子の脳裏に父王が、厳しく言った言葉が蘇る。
『境目の海で、決して船首を、それ以上北に向けては成らぬ!』
父王の戒めを破った。
その事が。
王子の心に、重くのし掛かる。
護衛らが、どれ程酷い辱めを受けたのか?
と尋ねても…。
王子は口を噤む。
そして、ディアヴォロスを見つめ、心の中で告げる。
“出来れば自らの手で…決着をつけたかった”
テスアッソンが見ていると、ディアヴォロスは優しく微笑む。
“自国に無事、お帰りになる事が、一番大切です”
王子は、顔を下げる。
そして上げて告げる。
“そなたの親切、決して忘れぬ”
ディアヴォロスは頷くと、護衛らに頷き、多分頭の中で何か告げて…護衛らを、頷かせていた。
後、ディアヴォロスは振り向くと
「彼らの船へ、彼らを送って行く。
もう数日、修理にはかかるだろうけど。
ここに居ると、他の王子らも動き出すかもしれず、危険だから」
テスアッソンは、頷く。
ディアヴォロスはデルアンダーを呼ぶと、二人に囁く。
「何としても、盗賊アデスタンについての情報を探ってくれ。
広間でシャムノウムの意識から。
ワーキュラスは必死に探ろうとしたけど。
盗賊らは誘拐した後、連絡の使者を寄越すのみ。
常に使者を通じてやり取りし、シャムノウムですら実際のところ、頭領とは会っていない」
テスアッソンが、俯いて囁く。
「第16王子の使者が訪れる、連絡に使っている酒場でも…。
連絡を受け取った後、更に使者を出すようですが、その先は空き家。
どうやって…使者からの伝言を受け取っているのか。
まずそこから突き止めないと」
ディアヴォロスは、頷く。
「頼む」
テスアッソンとデルアンダーは、頷き返す。
が、ディアヴォロスは尚も言い含める。
「少年らを実家に返しても、居場所をアデスタンに突き止められたら、また奪還される。
今度のことで、もう第16王子は、大金で誘拐された子供達を買わない。
アデスタンは多分また別の、大金払うパトロンを探すはず」
デルアンダーが、その言葉に頷いた。
「そちらの方面でも、探してみます」
ディアヴォロスは、その返答に、にっこり笑う。
そして彼は、二人をねぎらった。
「本来は左将軍内部隊の中でも、実行部隊の君らに、隠密行動をさせてすまない。
多分直、隠密に大層詳しくやり手の人物を調達する予定だから。
それで君たちももう少し、楽になるはずだ」
そう言ってディアヴォロスは、騎乗して待っている、ユァルエルパの者らの元へと足を運び、すらりと馬に跨がり、彼らの座礁した船へと、馬を走らせ駆け去った。
デルアンダーとテスアッソンは、顔を見合わせる。
「…調達?」
テスアッソンに聞かれ、デルアンダーは吐息を吐く。
「まさか裏に通じる、手練れのゴロツキとか、雇うんじゃ無いよな?」
更にテスアッソンに畳みかけられて、デルアンダーはとうとう言い返す。
「彼が調達する人物だ。
多分、相当優秀だろうから。
我々が不慣れな隠密行動から、足を洗えるのは確かだ」
テスアッソンはようやく、ほっとして頷いた。
「どれだけ交渉しても、大金ふっかけてくるから。
怒り心頭で何度、剣を抜きかけたことか…」
デルアンダーが、気の毒そうにテスアッソンを見つめた。
「私もだ。
けれど、どれだけ経費の出費が膨大でも。
オーガスタスもディアヴォロスも、我々の苦労が分かってるから。
一度も“高すぎる”と、突っ返さないで、頷いてる」
テスアッソンも、同意に首を、縦に振る。
「…確かに、普段ではあり得ないほど高額な請求で。
幾度自腹切る覚悟を決めたことか」
デルアンダーは笑うと、テスアッソンの腕を、ぽん。と叩いた。
「そんな交渉事とはおさらば出来て。
剣を抜く乱闘の指揮だけ執れれば」
テスアッソンも、ようやく笑う。
「気分は最高だ!」
二人は笑いながら、別荘の各部屋に少年少女らを割り振って、食事を用意するよう、侍従らに告げて回った。
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