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特別追記 ユァルエルパの誇り高き王子

合流

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 結局ディアヴォロス自ら。
南領地ノンアクタルに派遣された隠密部隊の部下、デルアンダーとテスアッソンに合流した。



ディアヴォロスは自身が目立つ事を知っていたので、夜の内に南領地ノンアクタルの市街地に入り、町中の別宅の、扉を叩く。

既にデルアンダーが着いていて、ディアヴォロスを出迎えた。
デルアンダー、テスアッソン共に、応接間でディアヴォロスに、調査結果を伝える。

「第16王子の後宮は、城の最上階の塔の中にあって、出入り口は塔へ上る階段一つ。
勿論、厳重な見張り付き。
更に後宮の入り口には、鍵のかかった鉄の柵。
…潜入は難しいですね」

デルアンダーの冷静な言葉に、ディアヴォロスはワーキュラスに、頭の中で伺いを立てる。
ディアヴォロスはワーキュラスの、イメージの断片を受け取る。

城に迂闊に侵入すれば、護衛がわんさかいて。
それを交わしたとしても、塔へ侵入する通路は入り組んでいて、各地に護衛が配置され、とても困難…。

だが、王子は客人に、珍しい性奴隷を披露したい。
その客人として、城内に入り込める人物、それは…。

かつて、南領地ノンアクタルで剣闘奴隷だった、オーガスタス…。

以前奴隷でありながら、今や左将軍補佐に出世したオーガスタスに。
昔の身分を思い起こさせるような奴隷を、見せびらかしてかつての自分の境遇を思い起こさせ。
侮蔑の視線を送るのが…。
南領地ノンアクタルの王子らの、共通した流行の楽しみで、オーガスタスは左将軍補佐として仕方無く、身分高い王子ら(正式には大公子息)の招待に、毎回応えていた。

「ではオーガスタスがこちらに、私の用事で来ると。
第16王子の耳元で囁いて、招待状を出させてくれるかな?」

デルアンダーは即座に頷く。
「では王子の側近侍従に、金を払って手配させます」

テスアッソンはオーガスタス召喚を聞き、気の毒そうに、ため息を吐き出した。

それに気づいたディアヴォロスが囁く。
「オーガスタスは、毎度不快そう?」

テスアッソンは頷く。
「彼を『今は左将軍補佐でも、お前は奴隷だったんだ』
と見下す王子らの、酒のつまみにされちゃ…。
やっぱ、気の毒でしょう?」

けれどディアヴォロスは、にっこり笑った。
「けれど彼は、微塵も動揺を見せず、補佐をやりきって見せる。
毎度、そうだろう?」

デルアンダーが、異論を唱えた。
「だからこそ…。
どの王子がオーガスタスを動揺させられるかで、競って性奴隷の披露目に、王子達はオーガスタスを、招待するんですよ?」

ディアヴォロスはますます、にっこり笑った。
「じゃ、オーガスタスがこちらに来てると。
いち早く情報を掴んだ第16王子は、即座にオーガスタスを招待してくれるね?」

人の悪い上司、ディアヴォロスに。
デルアンダーもテスアッソンも、顔を下げてため息を吐き出した。


 オーガスタスが明け方、姿を見せる。
その時、既に招待状は届いていて、デルアンダーは招待状を手に、呟いた。
「…色事には夜も昼も無いんだな…」

テスアッソンも囁く。
「きっと夜通し、新しい奴隷と遊んでるんだ。毎夜」
「南領地ノンアクタルならではだな。
中央テールズキースで屋敷に愛人囲いまくってたら。
間違いなく、離婚だ」

テスアッソンは、性に生真面目なデルアンダーの言葉に、同意の頷きをした。

オーガスタスはつかつかと室内に入って来て、ディアヴォロスを見つけると、駆け寄って怒鳴る。
「あんたが不在だから!
会議の重鎮らの機嫌の悪さったら、無かったぜ!」
ディアヴォロスは怒鳴るオーガスタスを見た途端。
囁く。

「…どうしてローフィスの薬で、ギュンターは直ぐ回復しないかな?」

オーガスタスは突然、そう言われ。
口ごもった。

言葉の出ないオーガスタスを見つめつつ、ディアヴォロスは告げる。
「…ローフィスの薬は、神聖神殿隊の処方した魔法薬だから。
彼の指示道理大人しくしてたら、直ぐ良くなるのに。
仕方無い。
オーガスタス、君、ここから戻る時。
私の薬師のラミレスに“ザッド”を処方するよう言って。
受け取ったら、ローフィスに持って行ってあげてくれるかな?
彼を手こずらせるなんて。
ギュンター、瀕死の病人の癖に、呆れる体力だ」

オーガスタスはそこでようやく、ぼそり…と言った。
「体力じゃ無く、性格なんじゃないのか?
ローフィス…苦労してる?」
ディアヴォロスは、肩を竦める。
「大層、手を焼いてるね。
世話が長引けば、ローフィスだって隊長の身だ。
幾ら戦が無くて暇だからって。
騎士らの士気の緩みは深刻だから。
暇持て余して騒ぎを起こす、騎士らの後始末に追われる。
少しでも、楽にしてやらないと」

オーガスタスは親友、ローフィスの心配事に、殊勝にディアヴォロスの言葉に頷く。
ディアヴォロスはオーガスタスの怒りを体よく交わしたところで。
デルアンダーに囁く。
「招待された時間は?」

デルアンダーが、招待状を見つめて言い淀み。
テスアッソンが横から口を出す。

「こちらに着いて、予定がつけられたら、いつでも。
と」

ディアヴォロスはオーガスタスに振り向く。
「今日の予定は?」

オーガスタスはまた、思い出したのか、ぷりぷり怒って言う。
「あんたが出ないから。
昨日の会議、議決が出ないで今日の午後、再開だ」

「じゃあ、午前中にコトをすませよう」

デルアンダーとテスアッソンが、目を見開く。
「極秘裏に城を襲うのに、午前ですか?!」

テスアッソンに叫ばれて、ディアヴォロスはまた、艶然と笑う。

「だって、彼らの肌は黒いから、夜の方が目立たなくて夜は彼らの方が有利。
第一皆、午前は夜更かしの主同様、だれきってるから。
狙い時だ」

皆、呆れ返る中、ディアヴォロスだけが、テスアッソンに。
「後二点鐘後に、オーガスタスが訪問すると」

デルアンダーとテスアッソンは、直属の上司、オーガスタスが。
苦虫かみつぶしたような表情で、焼け糞に椅子に、どっか!とかけるのを、気の毒そうに見た。

「で、俺はただ、招待されてればいいのか?!」

ディアヴォロスが、オーガスタスに振り向く。
「多分、見せびらかされる性奴隷は。
ユァルエルパの黒人種の王子だ。
私と彼の護衛が、乱入して奪還する予定だから。
出来るだけ君は、王子の近くにいてくれるかい?」

「…あんたが乱入したら。
南領地ノンアクタルの大公は公式に近衛軍に苦情をブチ撒ける。
それって、マズいだろう?」

ディアヴォロスが、肩を竦めた。
「第16王子が、王たる父大公に、ブチまけたらの話だろう?
幾らこの国では見た事も聞いたことも無い、黒人種ユァルエルパの、王子だろうが。
遙か南の、彼らの国は。
大陸エルデルシュベインの強国ですら、攻め入ることなど問題外。
出来れば国交して、貿易したいと願う、最果ての南の強大国。
敵に回せばアースルーリンドとて。
攻め入られる覚悟が要る。
戦争の火種を起こしたとあらば。
例え、南領地ノンアクタル大公から近衛に、苦情が入って正式糾弾されようが。
戦争回避に行ったと、正当に理由を述べられるし。
一介の王子がそんな大事を起こせば。
王子の身分の剥奪。
ヘタをすれば、大公家より追放の、憂き目に遭いかねないから。
利口な男ならまず、自分の不始末は、父大公には告げ口しないね」

ディアヴォロスの弁舌を聞いて。

オーガスタスはもとより、デルアンダーとテスアッソンも、顔を下げた。

オーガスタスが何か言いかけ…。
彼の部下の、デルアンダーとテスアッソンが、伺う。

「…ディアヴォロスに言い返すなんて。
俺は馬鹿な真似をした」

ぼそりと呟く、彼らの上司、オーガスタスの言葉を聞いて。

デルアンダーとテスアッソンは、心から同意に頷いた。
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