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特別追記 ユァルエルパの誇り高き王子
第16王子の後宮
しおりを挟むオーガスタスが、重鎮集う堅苦しい会議から、補佐官邸に戻った午後。
奇異な事に、ギュンターに。
知り合いの弟の美少年が、人さらいにあって連れ去られたので、行方を調べて欲しい。
との依頼を受け、どこに居るのかを探っていたテスアッソンから、使者を通じて知らせが入る。
羊皮紙にはこう、したためられていた。
『ギュンターの知り合いの弟をさらったのは、南領地ノンアクタルの第16王子お抱えの盗賊、アデスタン。
オークションにはかけられず、現在後宮にいる。
ただ、今第16王子の後宮にはとても珍しい黒人種の若き美少年がいて、王子はその、毛色の変わった美少年に夢中。
もしかすると、ギュンターの知り合いの弟はオークションにかけられ、誰かに買われるかもしれない。
至急、対処が必要』
オーガスタスはため息を吐くと、使者を二名呼び、一人はディアヴォロスに。
一人は、黒人種の奴隷の行方を探るデルアンダーに、テスアッソンと合流するよう、伝えてくれと頼んだ。
自分も南領地ノンアクタルに、出向きたかった。
が、ディアヴォロス不在で、自分は左将軍の代理をせねばならず、更に更に。
ローフィスより、ギュンターが毒を盛られて伏せっているとの知らせが入り、ソファに座り込んで、深いため息を吐いた。
オーガスタスより知らせを受け取ったディアヴォロスは、同じ「左の王家」の年上のいとこ、アドラフレンと、東領地ギルムダーゼン近くのアドラフレンの隠し別荘で会っていた。
アドラフレンは宮廷護衛の長。
だが裏では、王家転覆を狙う反乱分子監視のため、あちこちに密偵を入り込ませて、常に情報収集を行っているスパイの大元締め。
知りたいことは彼に聞けば分かる。
そうワーキュラスに勧告され、たまたまこの別宅に来ていたアドラフレンの元へと訪れた。
趣味が良く居心地のいい客間のソファで、アドラフレンはディアヴォロスの向かいにかけて、顎に手をやる。
「アデスタンか…。
宮廷でも幾人か。
彼らのさらった美少年や美少女の、オークションで性奴隷を売り買いしてる者がいて…。
何とか捕らえたいと思ってる盗賊なんだが、なかなか捕まえられなくてね…」
アドラフレンの言葉に、ディアヴォロスは頷く。
「でも、君の事だ。
オークションに出席出来る男を、既に客として潜入させているんだろう?」
アドラフレンは、肩を竦めた。
「…盗賊の尻尾が掴めないから。
オークションで売られた子供達を、売られた先の屋敷から、毎度こっそり奪還してるんだけど。
でも、その間彼らは無傷とはいかず、嫌な思いをしてる」
ディアヴォロスは頷く。
「ではこの際、盗賊らも何とか捕まえたいね」
アドラフレンが囁く。
「奪還した子達を実家に戻した途端、場所を突き止め再度さらおうとする、極悪人らだから。
当然そうしたいのは山々だけど」
そこで、アドラフレンがため息を吐くので、ディアヴォロスは年上の高貴ないとこの整った顔を覗き込んだ。
アドラフレンは気づいて、言葉を継げる。
「…だが今、銀髪の影の一族が悪さしまくっててね。
裏でロスフォール大公が、糸を引いてるらしいから。
ロスフォールと対決しないといけないかもで。
そっちをしてる間が無い」
「…ロスフォール大公?
それはたいそう、厄介だね?」
「そうなんだ。
ロスフォールの懐刀が、やり手で手強くてね。
本当かどうかは分からないが、噂では「左の王家」の血を引いてるそうだ。
もしそうなら、手強くても納得がいく。
ともかく、その男はラデュークという名なんだが…。
彼がロスフォールの警備を一手に引き受けてる以上、ロスフォールを追い詰める事は難しく、かなり手こずると思う」
ディアヴォロスは、軽く頷く。
「…そうか…。
ともかく、ユァルエルパの王子をできるだけ早く、奪還しないと…。
彼の王国の、屈強な戦士らが国を出て、この国に来てしまう。
ワーキュラスが言うには、非常に強い男達だから。
人数が少なくても戦になれば、こちらは大勢が死ぬ」
アドラフレンは、ため息を吐く。
「南領地ノンアクタルの第16王子はくわせものだ。
南領地ノンアクタルの王(正式には、南領地ノンアクタル大公)って、後宮に大勢王妃を囲い、子だくさんだろう?
多くの王子の中でも、頭の切れる頭脳派で。
盗賊を駆使して、大金を手にし。
金で重臣らを買い、裏から南領地ノンアクタルを、牛耳る腹らしい」
「…つまり次期国王選びで、正当に戦って。
跡継ぎになれないから?」
アドラフレンは頷く。
「そこそこは、剣も使えるらしいけど。
ほら。
南領地ノンアクタルの王子らって。
次期国王の座に就きたいから、デカくて筋肉ムキムキの、鍛えまくってる俺様ばっかだろう?
流石に第16王子は利口だから。
そんな奴らの中で、勝ち上がるのは無理だと分かってて。
盗賊なんて影で組織し、大金儲けてる」
ディアヴォロスは考え込む。
「では、第16王子の後宮は…」
アドラフレンも頷く。
「警備は厳重。
入り込むのは厳しい。
王権振りかざして、真正面から乗り込みたいけど。
南領地ノンアクタルの大公は
『自国の事に口出すな』と怒りまくって。
ヘタすると戦争に成りかねないから、さらわれた子供らも。
現在、オークションにかけられた子供達しか、救い出せない」
けれどディアヴォロスは、にっこり笑った。
「私が。
第16王子の後宮を、からっぽにするよ」
アドラフレンは、心から微笑んだ。
「君が動いてくれると、本当に助かる」
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