アースルーリンドの騎士達 妖女ゼフィスの陰謀

あーす。

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10 逆転する明暗

真相を知るゼフィス

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 ゼフィスは大公家からの使者が、ぱったり途絶えたのを、不思議に思い…。
思いつく限りの知り合いに、使者を送った。

殆どの知り合いからは返事が無く、古馴染みのロッドナットだけが…。
屋敷に姿を見せて、告げた。

「エルベス大公家の報復かどうか…。
まあ、確実だろうけど。
ともかく…ロスフォール大公はこの所、どの場にも顔を出さず、噂では右腕のラデュークの姿が消えて、没落も直じゃないかと言われてる」

ゼフィスはその言葉に、目を見開く。
「ほ…報復…って…どういう事よ?!」

「どうも裏で…ニーシャと親しい、アドラフレンが動いてるそうだ。
アドラフレンを敵に回すと、最悪だ。
なんたって彼に『宮廷への陰謀が企まれていたので、財産没収、逮捕しました』
なんて国王に言われたが最後、撤回できない。
アドラフレンと同じ、「左の王家」の、余程の大物でも味方に付けない限りは。
それでも恩赦程度で、釈放されて命が助かればめっけもの」

ゼフィスは唇を噛む。
「…アドラフレンなら…私だって、ツテがあるわ」

ロッドナットは、怪訝な表情を向ける。
「本気か?
第一…どうして影の一族の頭領は、途中で寝返ったんだ?
俺が聞いたら…ゼフィスって女は追い出され、侍従の知り合いの若い男が、頭領をマトモに戻したと。
お前紹介した俺まで、睨まれたんだぜ?」

「それは……………」
ゼフィスは影の一族の城を留守にしている間、夢のような時を過ごしたことを、思い返す。

ロッドナットにそれを告げると、彼は吐息を吐いた。

「それ…企みじゃないのか?」
ゼフィスはきっ!と、ロッドナットを睨み付ける。
「留守中、ニーシャは近づけないよう、ちゃんと言い含めて置いたわ!」
「…けど侍従の紹介でやって来た美青年は…特徴が、エルベス大公に似てるそうだ。
髪の色は違うが…ブルーの瞳で面長。
雅やかで穏やかな雰囲気の、整いきった美男。
…だが大公よりも若いから…もしかしたら『エルベス大公家の至宝』と言われてる、大公の甥じゃないかって。
影の一族とツテのある、訳知り男がそう言ってた。
…つまり、女は送り込めないから…」

「その甥って!
どこに居るの?!」
「ど…どこって…王立騎士養成学校の、三年だそうだ」

「…………………」
ゼフィスは思い返し…ローランデに会いに行った折、部屋の隅に居た、栗毛の美青年を思い浮かべた。

「(もしかしてもしかして…あいつ?!
それに城で見た時は、髪の色が違ってたし…ほぼ背中で横顔で…。
良く見えなかった…。
王立騎士養成学校の時は、ローランデしかロクに見て無くて…。
けど…確かに、エルベスに大公に似てると…チラと思ったわ………)」

ロッドナットは囁く。
「だからエルベス大公は、秘刀の甥を影の城へ送り込んで、頭領を垂らし込む間、お前をここに足止め…してたんじゃないのか?
擦り寄って来たのは、ニーシャの崇拝者ばっかだろう?
それ…どう考えても、おかしいんじゃ無いのか?」

ゼフィスは愕然とした。
ばっ!とドレスを翻すと
「使者を!」
と叫ぶ。

「誰に送る気だ?」
ロッドナットに聞かれて、ゼフィスはきっ!と振り返る。
「勿論…三人の貴公子と、アドラフレンよ!」

ロッドナットは気の毒そうに、ゼフィスを見た。
「…返事が…来るはず、無いだろう…?
ロスフォール大公自身が既に、力を失いつつある。
つまりそれだけの企てが出来る、力のある相手なんだぞ?
ニーシャが一言言えば…貴公子らもアドラフレンも、お前に愛想くらいふりまくし第一、ブログナに出てる間、所在も大公に連絡出来ず、使者も出せないとなると………」

「あし…足止め…?
私を…ここに留め置いて、サスベスを寝取り返す為の…時間稼ぎだったって言うの?!!!!」

ゼフィスはあの…夢のような時間が罠だと…思い始めた途端、足元が崩れ落ちていく錯覚に、囚われた。

「ともかく、ロスフォール大公はもう終わりだと。
もっぱらの噂だし、大公は命乞いに必死で…お前だって、報復される可能性が、強いんだぞ?
それに…お前が腹立ててた金髪の近衛騎士。
…すっかり健康に戻ったと。
見かけた女に聞いた。
元気で馬車に乗って…食い物、食べまくってたそうだ」

「……………そ………葬式………は……………」

「出る訳、無いだろう?
ロスフォール大公には、会ったのか?」

「会えるはず…無いじゃ無い………」

「………そうか………大公が消えれば、この屋敷の持ち主も変わる。
お前もどこに住むかの、算段付けといた方がいいぞ」

「………貴方の所に…」
「知ってるだろう?
俺だってお前同様、少しでも取り入れる大貴族に、尻尾振ってようやく…。
貴族の体面、かろうじて保ってる貧乏貴族だぞ?
仮住まいだし、お前が住める、部屋だって余ってなんかいない」

「…でも、宝石を…高く売る、ツテはあるじゃない」

ゼフィスはきっ!とした表情で、宝石箱に駆け寄る。
ブログナでニーシャに傅く貴公子らに貰った宝石を、取り出してロッドナットに差し出す。
「これを。
出来るだけ、高く売って!」

ロッドナットは差し出された宝石をじっ…と見つめ、囁く。
「残念だが、宝石は皆、見事なまがいもんだ。
金持ちが盗賊に盗まれてもいいように。
常備してる…贋物」

ゼフィスは頭を殴られたようなショックを受け、ロッドナットから思わず宝石をひったくって、間近で見つめた。

浮かれていたし、金持ちの貴公子らのプレゼント。
一度だって…贋物と、疑わなかったけど、確かに………。
そう言われて見れば、輝きは鈍い。

「(こんな…贋物を、鼻高々に身につけて…貴婦人らに見せびらかしていたなんて…!
でもブログナの誰も、貴公子らが贋物を私にプレゼントしたなんて…私同様、思ってなかったんだわ………)」

ゼフィスは悔し涙が滲むのが、分かった。

そして…他の知り合い達は全て、自分と繋がりがあると、エルベス大公の報復に巻き込まれる。
そう感じて、返事を寄越さないのだと、分かった。

ゼフィスはロッドナットを、衣装部屋に連れて行く。
色とりどりの、素晴らしく豪華なドレスの数々。

「これは大公がくれたドレスだから、飾り宝石も本物の筈だわ」
ロッドナットは幾つかのドレスに付けられた、小さな宝石を見つめ、頷く。

「これなら…そこそこの値で売れるな」
ゼフィスはため息を吐く。

「領地とこの屋敷も、私の物の筈よ」
「権利書は?あるのか?」
ゼフィスは、サインはしたものの…権利書を、渡されなかったことを思い出す。

「…大公は、くれなかったんだろう?
他の、ロスフォール大公の為に働いてた奴も、同様。
賜ったと言ってるが、やっぱり権利書は、渡されなかった」

「…つまり…つまり…」
「残念だな。
大公が威光を取り戻し、お前にこのまま、住まわせてくれるんならいいが………」

「何てこと!
まさかロスフォール大公が倒れるだなんて!」
「相手は同等の勢力の、エルベス大公家。
ヘタに戦闘の火蓋を切った、ロスフォールの失態だ。
仕方無いさ」



ロッドナットが帰った後。
ゼフィスは室内でずっと。
佇んでいた。

どうしても、ニーシャに会わなくては。

ベルを成らし、召使いを呼ぶと、叫んだ。
「ニーシャが顔を出す、舞踏会を調べて!
大至急よ!」
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