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10 逆転する明暗
鬱憤全部を拳に乗せて、新兵を殴り倒すディンダーデン
しおりを挟むディンダーデンは揺れまくる吊り橋を渡りつつ、頭の中では別れたばかりのサスベスの、身体や過ごした情事を思い起こし。
行きとは違い、全然苦労せずに崖に辿り着いた。
待ってる馬車に乗り込む。
すると中に、オーガスタスがいて。
足元には、空のバスケットが幾つも転がっていた。
「………………これまさかお前一人で…」
「な訳無いだろう」
「…ギュンター…?」
問うと、オーガスタスは腕組みして、大きく頷く。
ディンダーデンはつい、転がるバスケットの中身を全部、見た。
が、どれも空。
「俺の分を取り置きしとくとかって配慮は、無いのか?!」
つい、そう怒鳴ると。
オーガスタスは目だけ見開き、尋ねる。
「…食べて、来てないのか?」
ディンダーデンはオーガスタスを、睨み付けた。
「どれだけしても応えてくる、体力ある美少年なんて!
滅多に居ないんだぞ?!
ギリギリまで楽しんでたに、決まってるだろう?!」
オーガスタスは額に手を添え、顔を思い切り下げてため息を吐く。
「…食べて、無いのか…。
仕方無い。
俺は戻って食うつもりだったが。
途中昼飯食ってから戻るか…」
ディンダーデンは大きく頷き、どっか!と背もたれに背を倒して頷く。
「そうしろ!」
二人はその後、まるで口を聞かず。
馬車が宿屋に着くと、無言で降り。
中へ入ると無言で椅子にかけ。
それぞれが食事を注文し。
届くまでも、やはり無言。
テーブルに注文した食事が並ぶと。
二人無言で食べまくり。
オーガスタスが支払いを済ませてる間にディンダーデンは酒瓶持って馬車に乗り込み。
近衛宿舎に着くまで、やはり無言。
ディンダーデンは宿舎の門を潜った後、一般宿舎を通り越し。
新兵訓練用の建物の前で馬車が止まるのを見て、ため息を吐き。
その時、ようやく口を開く。
「休みなしで直ぐ、新兵を躾けろと?!」
「…これ以上、訓練騎兵の怪我人を出すのは防ぎたい」
オーガスタスの返答に、ディンダーデンは美麗な青い瞳の流し目を投げ。
馬車を降りながら、問う。
「どれだけ荒っぽく躾けても、文句は出ないな?」
「奴らを躾けられたら、多少の骨折程度、誰も気にしない」
ディンダーデンは馬車を降りると、中に座るオーガスタスに青の瞳の流し目を向けて微笑み。
すっ!と背筋を伸ばして、胸を張って新兵訓練舎の、扉を開けた。
入ると五人の新兵…。
と言うより、明らかに体格の良いごろつきが。
訓練騎兵の胸ぐら掴んで、いちゃもんつけていて。
他の訓練騎兵は、広い訓練舎の隅で、縮こまってそれを見ていた。
ディンダーデンは、不敵に笑う。
「…よくも俺を、可愛いサスベスから引き離しやがったな!!!」
「デ…ディンダーデン!!!
喧嘩じゃない!!!
訓練を…」
がっ!!!
止めようと駆け寄る、訓練騎兵の一人を殴り倒し。
見つめるごろつき五人へ向かっていく。
「かかって来い!!!
どうせお前らも、ちんたら躾けられて鬱憤、溜まってんだろう?!!!!」
騎兵の胸ぐら掴んでた男は、目を見開く。
がっっっっ!!!
強靱な肩から繰り出された素早い一撃の、重い拳を頬に思い切り喰らい、ふっ飛ぶ。
「…目上の騎兵に暴力振るうと、こうなる!!!
次は誰だ?!
四人、一辺にかかって来てもいいぞ?!」
四人の内、二人はディンダーデンの迫力に、躊躇していた。
が、体格の一番いい男は、ディンダーデンに向かって行く。
もう一人の、引き締まりきった体をした、喧嘩好きも。
先にディンダーデンに詰め寄る男は拳を振ろうとし、構えていたが、ディンダーデンは咄嗟身を屈めて、回し蹴る。
がっっっっ!!!
「こん…の野郎!!!」
喧嘩好きは吹っ飛ぶ仲間を見て、拳を構え、蹴る間も与えず襲いかかる。
ディンダーデンも身を屈め、同時に拳を、繰り出した。
がっっっ!!!
訓練騎兵は、さっきまで新兵の癖に、威張りまくってた男の頬に。
ディンダーデンの拳がめり込むのを見て、横の男と顔を見合わせ。
首を横に振りまくって、ため息と共に、顔を下げた。
どったん!!!
二人目が倒れ、ディンダーデンは残る二人を、ジロリ…と見る。
「かかって来ないのか?」
利口な二人は、俯いて首を横に振る。
「…ならいいコで奴ら(訓練騎兵)の言う事、ちゃんと聞くか?
もし聞かないなら…」
「ち…ちゃんと聞く!」
「…従う。
不本意だが」
ディンダーデンは二人を見て、頷く。
「不本意なら、無理せず俺に殴られても、いいんだぞ?」
だが。
“不本意”と言った男は、簡単に床に沈められた三人が。
今だピクリとも動く様子が無く、死人のように見えて。
ごくり…。
と音立てて、唾を飲み込む。
「…いや。
あんたに殴られるのはお断りする」
ディンダーデンは頷く。
「訓練騎兵の命令が聞けないなら。
断ろうがお構いなしに、俺はお前らを殴るからな」
二人はそう言われ…。
顔は美麗だが、森で出会った凶暴な、デカい人食い熊に匹敵する程恐ろしい、ディンダーデンを見て。
借りてきた猫みたいに大人しくなって、頷いた。
ディンダーデンはくるり。
と背を向け、訓練騎兵に振り向く。
「宿舎の部屋にいる。
聞かないようなら、俺に言いつけに来い。
この三人は…多分、当分マトモな訓練は出来ないだろうな。
だがまだゴネるようなら。
もっと怪我するぞと、正気づいたら言っとけ」
訓練騎兵らはディンダーデンに、ただ頷き。
扉を開けて去って行く背を、見送った。
ディンダーデンが左将軍補佐官邸の門を潜ると、オーガスタスは馬車の横で、部下の一人に報告を受けていた。
それで、オーガスタスに怒鳴りつけた。
「とりあえずは簡単に躾けた!
ギュンターがこちらに帰ったら!
俺はとっととあそこに戻るからな!!!」
オーガスタスは部下から顔を上げ、無言で一つ、頷いた。
「ついでに使者を、近場の酒場に送り。
俺が部屋にいるから、来たい者は来いと言付け。
来る女全員に、通行証を出してくれ。
褒美には程遠いが。
それっくらいは!
して貰うからな」
ディンダーデンに睨まれて。
オーガスタスは無言で、頷く。
「…いいだろう」
ディンダーデンは頷き返すと。
だかだかと音立てて、補佐官邸の門を潜り。
近衛宿舎内の、横幅のだだっ広い通用道を。
一般宿舎建物へと向かい、歩き去った。
その後、オーガスタスは訓練騎兵からの報告を受けた。
喧嘩腰で新兵に襲いかかるディンダーデンを止めようとした、訓練騎兵は気絶程度の軽傷。
訓練騎兵にいちゃもん付けてた新兵は、脳振とう。
かなり頭を強く打ったようで、でっかいコブが出来てる。
ディンダーデンにかかって行った二人の内、一人は肘にヒビが入って左腕を吊り。
顎を殴られた一人は、顎がズレてマトモにしゃべれない。
オーガスタスはそれを聞いて、ぼそり。と告げた。
「……………本来、俺を殴りたいのをあいつ…。
馬車で二人きりでいた間ずっと、我慢してたみたいだから。
我慢の限界で、爆発したんだな。
が、訓練騎兵が軽傷ってコトは、まだ多少は。
………理性、残ってたんだな」
報告した騎兵は、凄く長身で逞しい、オーガスタスを呆けて見上げる。
オーガスタスは、笑って言った。
「ご苦労」
騎兵は頷き、背を向けて、もう一度オーガスタスに振り返る。
「(きっとあの人なら…ディンダーデンに拳振られても。
全然、怖く無いんだろうな…)」
そして、オーガスタスとディンダーデンの喧嘩…を。
思い浮かべただけで、重量級の激突の、凄まじさと激しさに。
思わず身震いしながら、騎兵は宿舎に、戻って行った。
ディンダーデンはその後、一般宿舎自室で。
たくさんの酒場からやって来た女性と。
やりまくってとりあえずは、満足した。
が、可愛いサスベスの愛らしい喘ぎを思い出すと。
横で休む隣の女を抱き寄せ、また始める。
女性らは、ディンダーデンが動き出すと嬌声を上げて。
一斉にディンダーデンに抱きつく。
ディンダーデンのあちこちに、多数の裸の女性は群がると、愛撫を始め。
ディンダーデンは一人を満足させると次。
またその次と。
部屋にまだ続々と詰めかける女性らも交え。
全部の女性を、満足させた。
朝。
寝台に残ってたのは六人。
皆、裸でディンダーデンに抱きついて眠りこけ。
朝食中の一般宿舎、食堂では、前日。
次から次と、女性達の出入りを目撃した宿舎の騎士らが寄り集まって。
新たなディンダーデン伝説を、囁きあった。
「本当に、左将軍補佐は通行証を出したのか?!」
「公認か?」
「…最初、こいつが
“通行証のない女性は、この先は入れないぞ”
といちゃもん付けて。
自室に連れ込もうとか、したら…」
その“こいつ”は、手を顎に当てて、ぼやく。
「通行証をひらひらさせ、笑って横を通り過ぎられ。
次の女も、その次も」
「…全員が、通行証持ってたぞ」
「で。数えてたか?人数」
「…11人までは、何とか…」
「出入り、激しいし。
入る時と出る時で、髪型変わるともう…誰だか解らなく成る」
皆、通夜のように静まり返り、その背後では。
憶測の人数を皆それぞれ、口々に叫びあっていた。
「…ともかく…10人超え?」
「との女も、艶々の肌で、満足そうだったぞ…」
「出来るか?そんなワザ」
「中ってどんな状況なんだ?
だって…せいぜい乗って、6人が限界だろう?寝台…」
「俺のとこは10人位乗れるぜ」
「…ディンダーデンはお前よりデカいのに?」
「…………………」
「…つまりやってるトコ、順番待ちで、見てるのか?」
「無理。
俺、一人二人ならともかく。
大勢で見られると、萎える」
「…繊細だな?」
「俺も無理だ。
一対一で、部屋の外で待たれたい」
「ある意味、男の夢だが」
「現実では、男の能力が試されるもんな………」
食堂はため息で満たされ、オーガスタスは新たにその報告を、左将軍補佐室で知らされて。
聞くなりやっぱり、大きなため息を、吐き出した。
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