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9 復活を果たすエルベス大公家とギュンター
歓喜溢れるエルベス大公母と縁談について文句を言うエルベス大公
しおりを挟むエルベス大公は、歓喜で顔の前で手を組む、横の大公母を眺めた。
その倉には。
続々と奪われた荷馬車が、戻って来ていたから。
秘密裏の田舎風大公別邸の、田舎道の裏門は。
大きく開け放たれて、くねったあぜ道に、荷馬車が列をなして入って来る。
護衛として雇われた騎士らは、次々と入って来る荷馬車から、荷を下ろしつつ、ぼやく。
「…これ、護衛の仕事じゃないよな?」
「賃金が倍だから。
仕方無いさ」
一人が、護衛としてとっても有能で、紹介者も王族の、プライド高い騎士が凄く不満そうに。
荷下ろししてるのに顔を振る。
「…威張ってたのにな!」
「ああ。
たいそう息巻いてたよな。
“腕が立つのは俺だから、襲撃が来たら全て俺に任せろ!”」
「格好付けて、剣振って。
言い切ってたよな!」
ひゃっひゃっ!
二人の護衛は、両手で荷を抱えた、腕自慢護衛騎士に振り向かれ、睨まれて。
笑いをピタリと止めて、荷をまた下ろし始める。
が、こっそり二人は顔を下げ、小声で笑い続けた。
「まあ…!
まあ!まあっ!!!」
大公母が歓喜で、飛び上がらんばかりで。
エルベス大公はそっと横から、囁く。
「本気で。
市場に割り振るんですか?」
大公母は頷く。
「市場くらいなら、大丈夫よ!!!
第一ロスフォールは、部下を次々、アドラフレンに逮捕されてるんでしょ?
もうここでも密偵を気にせず、おおっぴらにやれるわ!!!」
領地管理人達は、自分の領地の荷が入ると、荷台に乗り込み確認しては。
下ろす荷と、そのまま運ぶ荷を指示する。
大公母は、背の高い息子、エルベスを見上げる。
「あと幾つの倉に、戻って来てるの?!」
「運び出すのに便利な場所を4カ所。
指示してあります。
柔らかく日持ちしない果物は皆、無くなってますが…。
他はほぼ、そのまま。
高級酒は…少し減ってる様子です。
でもアドラフレンが。
調査と偽って回収して、その後こちらに、返してくれました」
大公母は、エルベスに問う。
「ちゃんと、断った?」
エルベスは笑う。
「ええ。
どうか、我が大公家の自慢の品を、ご堪能下さい。
と」
「でもアドラフレンは。
半分は返して来たのね?」
「…流石ですね。
全部返されたら、我々が気分を害すると。
ちゃんと分かっていらっしゃる」
大公母は、ため息を吐く。
「ニーシャも凄いお方と、繋がりが出来て…。
大した物よ。
これで…そのまま、アドラフレン様と………」
エルベスは、素早く言った。
「結婚ですか?
どっちも…一人に決められるタイプじゃないから。
難しいでしょうね」
「偽装でも、いいんだけど」
「でもニーシャ姉様。
周囲にアドラフレンの妻扱いされると。
隠密行動が、しにくいから絶対、嫌!!!
って…叫んでましたよ?」
「…どうしてウチの子達は、結婚がなかなか決まらないのかしら…。
婚約者がいるのは、エラインだけね。
…子供も三人居るけど」
エルベスはそれを聞いて、背の低い母を覗き込む。
「…エラインの婚約者の…カモメ眉毛(眉毛が真ん中で繋がってる)は。
三人も他の男の子供を婚約者に産まれ、その長男アイリスなんて、16にもなるのに。
………まだ、諦めてないんですか?」
母は頬に手を当て、ため息を吐く。
「しつっこいのよねぇ…。
ラデュスタン(亡くなった夫の名)も…何もお酒の席で。
婚約話を決めなくてもいいのに」
エルベスはそれを聞いて、顔を下げた。
「…カードで賭けに、負けたんでしたっけ?」
母は、頷く。
エルベスはけど、思い出したように母に突きつける。
「…ちなみに、私の婚約者を三人も。
追い払ったのはお母様方ですから。
貴方方の妨害工作が無かったら。
…私はとっくに、結婚出来ていた筈です」
母はエルベスに、上から睨まれて。
顔を背けて、バックレる。
「…私は、最初のウキウキ娘だけよ。
…確かに目はいつもキラキラ輝いてたけど。
宝石を見る時が一番、輝いてたの。
貴方気づかなかったの?」
「……………では二人目のフェリスは?」
「あれは…ニーシャよ。
わざと質素ぶって。陰気くさいって」
エルベスは、絶句しかけた。
が、言った。
「…慎み深い、貞淑で品の良い、淑女でした」
「そうだっけ?
三番目の…きゃぴきゃぴ娘は、エラインね。
“鬱陶しい!”
って叫んだら、貴方に泣きついて。
これみよがしに、被害者ぶるから。
私もニーシャも“鬱陶しい”
って、思ったわ」
「…それで三人で。
徒党を組んで追い払ったんですか?」
「あら人聞きの悪い。
取り囲んで、逃げられないようにすれば。
本性現す。
ってニーシャが言うから。
実行してみたの。
…けど、ひたすら私たちに虐められてるみたいに、泣くだけで。
とうとうニーシャが言ったのよ。
“ビービー泣くしか能のない女は。
大公家には、必要無いわ!”」
エルベスは…呆然としたが、言った。
「…それで…泣き止まなくなって…ある日荷物も彼女も、忽然と消えてたんですね?」
エルベスの顔が引きつっていたから。
大公母は、にっこり笑った。
「そうみたいね」
エルベスはため息吐いて、呟いた。
「…私を一生、独身にさせときたいんですか?」
母は
「きっといつか。
良い人が見つかるわよ」
と言うと、ドレスの裾を引き上げ。
こっそりその場から、逃げ出した。
エルベスは
「いつか。
って、いつの話で…」
そう、言いかけた時。
母の姿が、消えてるのに気づき。
更なる大きなため息を、吐き出した。
エラインは再び、荷の襲われた領地を訪れては。
荷が奪還された事を告げ、市場での売り上げを、配って回った。
その頃。ようやく荷が、奪い返されたと知ったロスフォール大公は。
かんかんに怒り狂って、呼び集めた部下ら全てに。
どうやって隠し倉が知られたのか。
また、ラデュークが寝返り、敵方に情報を漏らしたのか。
その辺りを、徹底的に探れ!!!
と、怒鳴り散らしていた…。
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