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7 逆転し始める優位

サスベスの心を開かせるアイリスと手筈を整えるアドラフレン

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 アイリスの顔が傾けられて近づくと。
サスベスは自然と反対側に顔を傾け、キスを受け取る。
アイリスの舌が滑り込んで来ると、舌を絡め…。

アイリスが挿入し、打ち付けてくると、自らも腰を振り…。

熱烈な、時を過ごしてアイリスの腕の中に抱かれる至福に浸った。

少し目覚めると…ぽつり、ぽつりと口を開き、ここでの生活のことを話し出す。

アイリスは時折、聞いているのかな?
と見上げるサスベスに、優しく微笑んで…。
腕の中に彼を抱いたまま、続きを促す。

サスベスはほっとした様子で、また、話し出す。

…逝ってしまった頭領である、亡き父の事に触れると…。
サスベスは辛いのか、途端に言葉が少なくなる。

「…崖から…落ちた時、重傷で…。
良い薬草が都から、届く前に…息を引き取られた。
最期迄ご立派な…」

そう言いながら、アイリスにしがみつく。
「まだお元気だったのに、あんなに突然…!
モードルやコースタンが支えてくれるから、心配するなと言われるが…。
分かるだろう?
私はまだ…未熟な子供だ!」

「大丈夫です。
貴方は臣下に愛されている。
貴方が愛し返せば…彼らは必ず、貴方の味方になってくれる筈です」

抱きしめて囁くと、サスベスの体の震えが止まる。
溺愛されていたのだろう。
愛情溢れた父を突然亡くし、サスベスは辛い心をひた隠して、頭領の座に就いたのだと、説明した。

「…思い切り、泣く暇も無かった…」
「私の前では、どれだけお泣きになっても、大丈夫です…」

そう、告げるとサスベスはとても嬉しそうに、アイリスを見つめた。
銀の一族の男は皆、剛の者。

女々しさを、出す事は…ましてや、幾ら父を亡くしたばかりだろうが、年若かろうが…。
頭領には、許されない。

けれど彼は、孤独に苦しんでいたから…。

アイリスの暖かさに、浸りきった。




 アドラフレンの隠密仕事を一手に引き受けている部下シャクセンは、アドラフレンより連絡を受けてディドロ男爵の元へ、ゼフィスの連絡を携え、自ら使者として出向いた。

邸宅を訪ねると男爵自らがやって来て、事情を聞かれる。

当然、ゼフィスの居場所は伏せて
「ご病状を知りたいとのことですが…」
ただそう告げる。


「問い合わせるから、しばし待て」
と、足止めを喰らう。

ばたばたと、使者が出立して行き、シャクセンは居間で突っ立ったまま、半刻はたっぷり、待たされた。

その間、男爵よりゼフィスの居所について、詰問責め。
「さあ…。
残念ながら、私も知りません。
私ですか?
私は『アレッグレロ』所属で、依頼を受けてここに参りました」

「『アレッグレロ』…?!」
中老で白髪の筋が黒髪にくっきりと入る、厳しい顔をした男爵の顔が、険しくなる。

「(無理も無い…)」
シャクセンは内心、笑う。

『アレッグレロ』は使者の一般請負機関。
使者を常備していない者は、ここに依頼すると使者を出してくれると言う、サービスを行っている場所。

故に、使者は依頼者についても、依頼内容についても詳しく無い。
ただ、請け負って連絡するのみ。

「…誰が『アレッグレロ』に依頼したかは…?」
「私は詰め所に居て、連絡を頼まれただけで…誰が依頼したかまでは知りません」

そこまで言うと、男爵はまた部屋を出て行き、慌ただしく別の使者が邸内より、出立した気配がした。

「(『アレッグレロ』に、依頼者の問い合わせに走ったんだな。
だが無駄だ。
『アレッグレロ』の管理者には既に金を払って言い含めてある。
『依頼者秘匿』で依頼されたとの、返答を受け取るだけ。
…屋敷を見張らせた部下達に、ここから出立する使者の後を付けるよう、命じておいたから…。
多分使者の一人は、ロスフォール大公の元へ走るはず)」

出て行った使者達が全て戻り、男爵の元へと連絡が届いた後。

やっとシャクセンは
『病状は、非常に悪く重体なので、直ぐ戻るように』
との返事を貰い、屋敷を下がる事を、許された。

邸内を出て、見張っていた部下らと合流すると、やはり…。
使者の一人は、ロスフォール大公邸へと走ったとの報告が。

「で?内部は覗えたか?」
シャクセンの問いに、部下はにっこり笑った。
「幸い大公の懐刀、ラデュークが屋敷を出ていたので。
楽勝ですよ。
ラデュークがいないと、ダレきっていますからね。監視の奴ら」
「それで?」
「邸内に忍び込んで覗いましたが、ロスフォールは知らせを受けて激怒し、直ぐ銀髪の影の一族の城に
『ゼフィスは明日戻る』
と、脅しの使者を差し向けていました」

「…ゼフィスの居所も知らぬのにか?
余程、焦ってるな」

シャクセンは呆れると、直ぐ。
部下に待機を命じ、ブログナの開催されている別荘へと。
馬を走らせ、アドラフレンに会った。

相も変わらず、優雅で高貴な彼の主人、アドラフレンは知らせを聞いて、微笑む。
「ありがとう。
ディドロ男爵邸に、警護隊を差し向け、待機させておいてくれ。
早朝逮捕し、馬車に乗せてここの外で待機するよう、伝えておいてくれるかい?」
「…逮捕するんですか?」
「そう。で?
ディドロの返答は?」
「『重体で、至急戻れと』」
「…だろうな」
アドラフレンが笑ったところで、シャクセンは言った。

「…私自ら、男爵から直接返答を受け取りました」

アドラフレンはそれを聞いた途端、目を見開く。

「…君自ら、使者としてディドロの元へ行ったのかい?
大丈夫か?
君の美貌は凄く、目立つんだぞ?」

シャクセンは狙い道理の主の反応に、微笑む。

「ちゃんと帽子を真被りして、顔を隠しときましたよ。
第一あっちはゼフィスの居所が知りたくて、私の容姿なんて気にもとめていませんし。
例え顔を知られようが、どうせディドロは逮捕するおつもりなんでしょう?」

アドラフレンは白っぽい金髪の麗人である部下、シャクセンを、もう一度見つめて囁く。

「君、自分の容姿に頓着なさ過ぎ。
…どうして私の部下の警護隊の男を誘惑する時は、その美貌を武器として存分に使うのに。
そういう時は、不用意かな?」

「どっちを責めてるんです?
目立つ私が、使者として出向いたこと?
貴方の、いい男揃いの警護隊の誰かを、誘惑した事?」
「…誰か?!
…ほぼ、全員と寝てるくせに。
それに君、皆が君を奪い合って諍うのを、楽しんでるだろう?」

シャクセンは、くすくすと笑った。
「だって警護隊の男達ってみな、食指をそそるいい男だらけ。
ちょっかい出すなと言う方が、無理ですよ」

アドラフレンは呆れてため息を吐いた。
「…救いは、機転が利いてとても腕がいい事と、主の私には、ちょっかい出さない事くらいかな」

シャクセンは真顔で言った。
「私くらい腕のいい男はいないし、第一貴方はとてもいい男だけど、バリバリの女好き。
誘う気すら、起こりません」

アドラフレンはぼやいた。
「…どうして君が『女好き』と言うと、もの凄い欠点のように聞こえるんだろう…?」
「少なくとも私に取っては。
決して長所では無いからです」

「…あんまり話してて、ニーシャが来るとまずいから、もう行ってくれるかな?」
シャクセンはつまらなそうに頷く。
「折角、彼女が狙っててまだ落とせない、ルーラスを私が先に落とした事、報告して悔し顔を拝みたかったんですが…。
彼女、今家が大変な時ですから。
仕方有りませんね」

「…間に挟まれる、私の身に、少しはなってくれないかな?」

シャクセンは主の泣き言に、愉快そうにくすくす笑いながら、背を向け、室内から出て行った。
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