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7 逆転し始める優位
ニーシャの策謀に、乗り続けるゼフィスとその波紋
しおりを挟むニーシャはブログナの行われている隠れ屋敷で、レスルからの報告を受け取った。
「“…現在、サスベスはアイリス様に首ったけでとりあえずはロスフォール大公の、襲撃依頼を断った…。
けれどゼフィスが戻れば状況はまた、覆る可能性があると、部下らは慎重。
…新しい襲撃予定は指令しない。
が、既に出した襲撃命令は、今だ撤回されていない様子。
サーテス領地とレドナッド領地の出荷は、念のため見合わせた方が賢明”
直ぐ、エルベスに伝えなきゃね。
でもギュンターについては、書かれていないわね?」
横に居るアドラフレンが囁く。
「多分部下らも、葬式が出るかそれとも回復するか、状況を見張ってるんじゃないのか?
君の取り巻きがゼフィスを夢見心地にしてる間は、ゼフィスは綺麗に忘れてる。
がしかし。
それにしても、君の甥は大した物だ」
「強烈な媚薬を渡してあるし」
「ワッセンダッチ?
だが薬だけで、新しい命令の停止にまでは、出来ないだろう?」
「そう。
アイリスも、貴方同様食えないヤツよ。
でも今ゼフィスが外と連絡を取ったり…。
万が一でも、あちらに戻ると…。
幾らアイリスでも、かなりマズいわ」
アドラフレンは、頷く。
「サランフォール公爵に、常に見張っているよう重々頼んでおく」
ニーシャは戸口に歩く貴公子の背を見送り、使者を呼んで囁く。
「この報告書をエルベス大公に。
決して、ロスフォールの手の者には、奪われないように」
使者は頷き、風のように室内を出て行った。
ブログナでのゼフィスは、夢の中にいた。
午前中は、美しい庭園を散策。
お昼からは、ボート遊び…。
優雅で素晴らしい時が、過ぎていく。
常に寄り添う、素晴らしい貴公子達に取り巻かれ、夢のような時間を過ごす。
「(ニーシャったら、いつでもこんな素敵な事してたんでしょうけど…。
もう、没落確実で、お見限りよね!)」
ゼフィスはニーシャに取って代わったような気分で、つまらない冗談にも朗らかに笑った。
時折…招待したのは自分だと。
シァル侯爵が、しゃしゃり出て来たけれど。
強引に二人きりになろうと手首を引っ張られた時。
男らしいナンタステ公が遮る。
「ゼフィス嬢は私と、お約束があるので」
自分より身分高く見目麗しい貴公子に、じっ…と冷たく見つめられ、シァル侯爵が悔し顔で去って行く姿の、爽快なこと!
「まあ、なんて頼もしい!」
そうナンタステ公にしなだれかかると、整いきった男らしい顔立ちでゼフィスを真っ直ぐ見つめながら
「だって、困っておいでのようでしたから」
そう言って、優しく腕を肩に回し、ソフトに肩を抱かれて…。
ゼフィスは思わず、彼の唇に感謝のキスをした。
ナンタステ公は微笑んで
「では今夜はぜひ、私を選んで頂けますね?」
と尋ね、ゼフィスは二つ返事で快諾した。
「ええ、ぜひそうするわ!」
エラインは馬車に乗り、出荷馬車の襲撃を受けた領地を見回っていた。
領地に泊まる際の、別邸の門を潜り、屋敷の玄関脇に馬車は止まる。
馬車から降りると、出迎える領地の管理者に丁重に頭を下げられ、頷く。
背後に振り向くと、開け放たれた門の向こうに、かなりの領民が集まって来て、不安そうな表情でエラインを見つめていた。
エラインは振り向くと、皆に叫んだ。
「ご不安でしょうけど…。
必ず、出荷出来るように、現在手配をしております!
これ以上の被害を出させないよう、私たちも全力を尽くしています。
襲撃でお亡くなりになった方には、手厚い補償をさせて頂く所存です。
皆さん、どうぞ大公家を信じ、引き続き収穫に戻ってください。
私たち共々、どうかこの危機を乗り越えましょう!
最後に…弟、大公からの伝言をお伝えします。
『皆さんの信頼に応えるため、全力を尽くす事をお約束いたします。
決して、悪意ある襲撃に屈すること無く、現状を打破し、再び正常な日常に戻してみせます。
どうか。
私を信じ、その時をお待ちください』」
エラインが静かに微笑み、見守る領民達を見つめた時。
歓声が沸いた。
おおおおおーーーーーーーっ!!!
「大公様は我々を見捨てない!!!」
「お待ちしています!必ず襲撃が止む日のことを!!!」
「仕事をしよう!
丹精込めて作った作物は、必ず再び出荷出来るぞ!!!」
おおおおおーーーーーーーーーーーーーっ!!!
沸き立つ領民らに一つ、頷くと、エラインは責任者に案内してくれるよう、合図を送る。
玄関を潜り、広間に案内される。
「ご連絡頂いたとおり…襲撃で命を落とした者らの遺体は、こちらの広間に置かせて頂いております」
「遺族に食事や、子供の世話などは…不備は無いかしら?」
「邸内の客間を使わせて頂いておりますので…十分かと」
エラインは頷き…広間の扉を開ける。
布を被せられた遺体が、台の上に並べられていて…。
横には椅子にかけた未亡人らが、亡くなった夫の冷たい手を握りしめていた。
「別室に収容した重病人には医者が必死で手当を行い、殆どの者が、回復に向かっています」
「この後、訪問させて頂くわ」
管理者は頷き、一歩下がる。
エラインは夫人、一人一人に近づいては、小声でお悔やみを言い、慰め、そして今後の生活の、心配は要らないと告げた。
夫人らは悲しみの中、それでもエラインに、感謝の眼差しを向けた…。
ゼフィスはブログナで、三人の貴公子に周囲を常に取り巻かれ、他の淑女らを尻目に、得意の絶頂にいた。
ボートが揺れると、貴公子達が直ぐ手を差し伸べ、抱き寄せて水に落ちるのを助けてくれる。
花に囲まれた美しい庭園でも、貴公子達が常に手を取り、一緒に歩いてくれて…。
ゼフィスはすれ違う淑女達の、連れの男性と見比べ
「(私の取り巻きの、勝ちね)」
と、つん。
と顎を上げて淑女らを見下した。
サランフォール公爵は、正式にカンファッテにすら招待されないゼフィスに見下され、明らかに不快の表情を浮かべる、淑女らを見る。
そしてさりげなく近寄ると、気分がほぐれるような会話に持って行き、また楽しいここでの催しについて語り。
『もう、帰ろうと思いますの』
と言う言葉を彼女らから、撤回して回った。
サランフォール公爵が楽しげな笑顔を、淑女らからか引き出すのを見て、他の紳士らも、彼女達と楽しげに話し始める。
サランフォール公爵は、ほっとして輪の中から外れ、再び楽しげな笑顔に戻る、出席者らを見回す。
「(…ゼフィスはまるで、台風だな…。
通り過ぎると、被害甚大)」
だがその背後に、こそっ…。
と、一人の男爵がやって来ては、囁く。
「しかし普段大公令嬢ニーシャを取り巻いてる貴公子らが。
あんな下品な女を取り巻くとは…。
宮廷の伊達男らは、一体、どうしたんでしょうかね?」
と首を捻ってる。
サランフォール公爵は、謀がバレてはマズイと、必死に成って取り繕った。
「ここだけの話で、決して口外しないというのなら…」
しかし、そう言いかけると、男爵は微笑む。
「さては、賭けてるのですね?
彼女を使って、男ぶりを競ってる?」
サランフォール公爵は、冷や汗隠して苦笑う。
「そんな、ところです。
それに…。
ゼフィス殿は実は。
高貴な淑女では、味わえない楽しみがあって…」
「おお!
そうなんですか!
つまり、高貴な身分では早々、下品な娼館には出入り出来ない。
が、彼女といれば、わざわざこちらから出かけなくとも、平民が味わってる、宮廷では味わえない、下品だがとても刺激的な楽しみが、味わえるって事ですね?」
男爵は、羨ましげにゼフィスを取り巻く、三人の貴公子を見つめる。
下賤な娼婦扱いされてるとも知らず、ゼフィスは自分を見つめる、男爵とサランフォール公爵に、つん。と気取った表情で、顔を背けつつ…。
振り向いて、笑顔を向けて愛想を振りまく。
サランフォール公爵は、さっ!と顔を背けた。
が、男爵は
「…一体、どんな刺激的なプレイで、楽しませてくれるのかな…」
と、呟きつつ…。
いつまでも三人の取り巻き貴公子らを、羨ましげに見つめていた。
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