アースルーリンドの騎士達 妖女ゼフィスの陰謀

あーす。

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6 好転し始める被害状況

ディアヴォロスと会談するアドラフレン

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 数分後、侍従が来て訪問者を告げる。

「ディアヴォロス様がおいでです」

アドラフレンは、にっこり笑って微笑んだ。
「直ぐ、通して」

侍従が礼をして下がり、入れ替わりにディアヴォロスが。
長身で男らしい美しさを纏った姿を見せる。



「オーガスタスから、伝わった?」
そう聞くと。
ディアヴォロスは肩を竦めた。
「ワーキュラスが。
オーガスタスにかなり、文句を言われたそうだ。
でも私の方も、君の情報を頼りに来たんだけどね」

その後、アドラフレンはディアヴォロスが今。
南領地ノンアクタルの第16王子の後宮を襲って、さらわれた者を解放する計画中で。
第16王子の後宮の警備態勢についてを、聞かれた。

アドラフレンは南領地ノンアクタルの、独特の宮廷を思い浮かべる。
大公はみずからをノンアクタル南領地の王と呼ばせ、中央テールズキースの王にかしづいてはいるが、隙あらば反乱を企んでいる。
荒っぽく体も大きく、肌の浅黒い者らが、ノンアクタル南領地の王族。
正式には大公だが、その名称は王都に来た時のみ使ってる。

後宮を持ち、妻を大勢娶っているので、母親の違う跡取り王子が山程いる。

第16王子はその中でも、盗賊を雇い高値で売れる子供をさらわせ、オークションを開いて金儲けしてる、若くともあくどい王子。
その王子のお抱え盗賊の名が、アデスタン。

「アデスタンか…。
宮廷でも幾人か。
彼らのさらった美少年や美少女の、オークションで性奴隷を売り買いしてる者がいて…。
何とか捕らえたいと思ってる盗賊なんだが、なかなか捕まえられなくてね…」

アドラフレンがそう呟くと、ディアヴォロスは頷く。
「でも、君の事だ。
オークションに出席出来る男を、既に客として潜入させているんだろう?」

アドラフレンは、肩を竦めた。
「…盗賊の尻尾が掴めないから。
オークションで売られた子供達を、売られた先の屋敷から、毎度こっそり奪還してるんだけど。
でも、その間彼らは無傷とはいかず、嫌な思いをしてる」

ディアヴォロスは頷く。
「ではこの際、盗賊らも何とか捕まえたいね」

アドラフレンが囁く。
「奪還した子達を実家に戻した途端、場所を突き止め再度さらおうとする、極悪人らだから。
当然そうしたいのは山々だけど」

そこで、アドラフレンはため息吐いて、こちらの事情に言及した。

「…だが今、銀髪の影の一族が悪さしまくっててね。
裏でロスフォール大公が、糸を引いてるらしいから。
ロスフォールと対決しないといけないかもで。
そっちをしてる間が無い」

ディアヴォロスは男らしい美しさのおもてを傾け、アドラフレンを見つめ囁く。
「…ロスフォール大公?
それはたいそう、厄介だね?」
「そうなんだ。
ロスフォールの懐刀が、やり手で手強くてね。
本当かどうかは分からないが、噂では「左の王家」の血を引いてるそうだ。
もしそうなら、手強くても納得がいく。
ともかく、その男はラデュークという名なんだが…。
彼がロスフォールの警備を一手に引き受けてる以上、ロスフォールを追い詰める事は難しく、かなり手こずると思う」

ディアヴォロスは、軽く頷く。
「…そうか…。
ともかく、漂流してきた南国ユァルエルパの王子をできるだけ早く、第16王子から奪還しないと…。
彼の王国の、屈強な戦士らが国を出て、この国にやって来てしまう。
ワーキュラスが言うには、非常に強い男達だから。
人数が少なくても戦になれば、こちらは大勢が死ぬ」

アドラフレンは、ため息を吐く。
「南領地ノンアクタルの第16王子はくわせものだ。
南領地ノンアクタルの王って、後宮に大勢王妃を囲い、子だくさんだろう?
多くの王子の中でも、頭の切れる頭脳派で。
盗賊を駆使して、大金を手にし。
金で重臣らを買い、裏から南領地ノンアクタルを、牛耳る腹らしい」

「…つまり次期国王選びで、正当に戦って。
跡継ぎになれないから?」
ディアヴォロスに尋ねられ、アドラフレンは頷く。
「そこそこは、剣も使えるらしいけど。
ほら。
南領地ノンアクタルの王子らって。
次期国王の座に就きたいから、デカくて筋肉ムキムキの、鍛えまくってる俺様ばっかだろう?
流石に第16王子は利口だから。
そんな奴らの中で、勝ち上がるのは無理だと分かってて。
盗賊なんて影で組織し、大金儲けてる」

ディアヴォロスは考え込む。
「では、第16王子の後宮は…」
アドラフレンも頷く。
「警備は厳重。
入り込むのは厳しい。
王権振りかざして、真正面から乗り込みたいけど。
南領地ノンアクタルの大公は
『自国の事に口出すな』と怒りまくって。
ヘタすると戦争に成りかねないから、さらわれた子供らも。
現在、オークションにかけられた子供達しか、救い出せない」

言った後、アドラフレンは年下の従兄、ディアヴォロスを見つめ、提言する。
「…だが、第16王子の後宮の見取り図は手渡せる。
抜け道を、全て書き込んだ正確な地図を、直ぐ手配して届けさせるけど。
届け先は、左将軍官邸でいいかな?」

ディアヴォロスは、にっこり笑った。
「官邸に届けてくれれば、とても助かる。
…私が。
第16王子の後宮を、からっぽにしするよ」

アドラフレンは、心から微笑んだ。
「君が動いてくれると、本当に助かる」

ディアヴォロスは微笑み返すと、すっ…と立ち上がる。
「すまないが、直ぐ出なくては」

アドラフレンもその意味が、分かった。
ユァルエルパと言えば、アースルーリンドのある大陸、エルデルシュベインの他国ですら、国交もないうんと南の国。
民の肌は皆黒く、ノンアクタル南領地の大公一族とは違い、皆黒い目をし、鼻が低く、そして背が高い。

ジャングルに覆われた奥地にその王国はあり、金で出来た王城。
兵は皆強く、ライオンや豹をペットとして飼っている。

陸伝いでは行けず、航海でしか辿り付けないので、殆ど伝説に近い国。
が、怒らせれば彼らは海を渡ってやって来て、あっという間に攻め入り、国を滅ぼすと言われてる。

…その、王子なんてオークションにかけ、性奴隷として売り払ったりしたら…。
彼らは激怒して、滅ぼす気満々で海を渡って来る…。

アドラフレンは国の危機を救う機知を持つ、ディアヴォロスと通ずる光竜ワーキュラスに改めて心の中で感謝しつつ…。
けれどロスフォール大公の件でディアヴォロスの手助けを得られず、本心はがっかりした。

が、ディアヴォロスが去って間もなく。
再びアドラフレンは、訪問者を迎えた。

「…大臣らがここに、訪れたでしょう?
で、我々はロスフォール大公の暴走を止める為、有能な懐刀ラデュークを、何とかしたいと思ってます」

侍従は訪問者の名を、“アッカ”と告げた。
“アッカ”とはレスルの隠し名…。

アドラフレンは地味で目立たない格好の、レスルの部下を見た。
「君たちでも、手こずってる?」

「いつもの半分も、仕事がはかどらない」
彼は言って、ソファにかける。

大臣らよりはるかに貧相な衣装だった。
が、度胸は据わりきっている。

アドラフレンは笑って、向かいに腰掛けた。
「今、ディアヴォロスが来て。
彼は南領地ノンアクタルの件で忙しくてね。
だがラデュークが「左の王家」の血を引く者と聞いたら…。
少し表情が、変わった。
彼、「左の王家」の血を引く者の不遇には憂慮してるし。
使える者なら面倒見たいとも、日頃言ってるからね」

レスルの部下は笑う。
「ではディアヴォロスに興味を持って貰えるかな?
その当たりを調べ上げたら」
「…かもね」

が、レスルの部下は肩を竦める。
「だがディアヴォロスには、目通りが叶わない。
どこにいるのか、まるで所在が掴めないから」

アドラフレンは、にっこり笑った。
「ああそれなら。
補佐のオーガスタスに伝言を頼めば、たちどころに伝えて貰える。
(頭痛がすると言ってたから。
情報の出所が私だとバレると、きっと恨まれるな……)」

レスルの部下は、頷いて立ち上がる。
ので、アドラフレンは直ぐに言葉を付け足した。

「君らがラデュークをどうにかして。
ロスフォール大公家を劣勢に導き、負かしてくれたら。
動向をうかがってる、ここに来た大臣らも、揃って喜ぶ。
勢力が均衡を保ち、長く戦われると。
どっちにおべっか使えば良いのか、困る輩だから」

レスルの部下は、肩を竦める。
「襲撃された荷馬車の、運び込まれた場所を現在、探ってる」

アドラフレンは、真顔で頷く。
「多数有る?」
レスルの部下は、笑った。
「それはたくさん」

アドラフレンは言葉を返す。
「首尾を期待してる。
まずは…ラデュークを切り崩すのが先?」

レスルの部下は頷く。
去りゆく背に、アドラフレンは囁いた。
「君に、幸運を」

レスルの部下は、振り向くと。
丁重に、右手を胸に当て、深い礼を取った。


 ゼイブンは奥の部屋へ。
美人女中がどれ程なのか。
胸ときめかせて眺めに入った。

部屋に入るなり、にっこり微笑む彼女に。
ゼイブンは内心呟く。
「(…流石、粋人アドラフレン………)」

胸元の開いたドレス。
が、ロコツで無く程良い色香で上品。
感じの良い…けれど優しい感じの、美女。

少しオレンジがかった、ピンクの派手じゃ無い花柄のドレス。
結い上げた金の巻き毛のほつれ毛は愛らしく見え、茶色の瞳は優しく、温かい。
唇は小さくて形良く、頬は薔薇色。

もし悩み事があったら。
思わず打ち明けてしまいそうな。

包み込むような雰囲気で。
けどちゃんと、匂い立つような色香もあって…。

ゼイブンはつい。
極上の部類に入る、美女を見つめた。

彼女は寛げる椅子を引いて促すから。
ゼイブンは会釈して腰掛ける。

背に立つ彼女が屈むと。
仄かな品の良い香り。
そして…さりげなく見せられる、盛り上がった胸元。

柔らかそうで…でも色香ムンムンじゃなくて…。

心と体が、くすぐられるような…甘ったるい気持ちに成った。

手渡されるカットの複雑な、高そうなグラス。
口に含むと、香り立つ極上酒。

「うまい…」

思わず、呻くと、つまみの皿を差し出されて。

口に含んでみると、酒のうまさ更にが引き立つ。
横に腰掛ける彼女に微笑まれ、まさにここは天国。

「…君を口説いてもいいって…アドラフレンに言われたけど」
「どう口説いて下さるの?」
「君は天界の、女神みたいだ…」
「あら」

彼女の微笑みと、酒に促され。
ゼイブンは微笑み返して、言葉を続ける。
「俺、女神を口説いたことも、寝た事も無い。
君としとねを共に出来たら。
…きっと一生涯の、思い出になる」

くすっ…と笑う彼女に顔を寄せ…。
ゼイブンはそっ…と、キスをする。
彼女は一瞬呆け…。
けれど尚も唇を重ねてくるゼイブンの、頭に手を添え、キスに応えた。

「抱きしめても…いい?」
ゼイブンは一瞬唇を離して問う。

彼女は
「いいわ」
と笑って同意するから。
ゼイブンは優しく包み込むように彼女を抱きしめ…また、キスをする。

彼女が、とろん…となった瞳を見て、ゼイブンは耳元で囁く。
「奥に、寝台があるって…」
そうして、首筋に口づける。
「ええ…」

ゆっくり、ドレスの上から太ももをなぜて囁く。
「…君を抱きたい…」

彼女はとうとう、真っ直ぐ見つめて来るゼイブンを見つめ返し、密やかに囁き返した。

「いいわ…」
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