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6 好転し始める被害状況

左将軍補佐官邸で代理を務めてるオーガスタスと出会う一行

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 アドラフレンとニーシャがディングレーの部屋を出ようとした時。
ローフィスもが、一緒に部屋を出る。

「…どちらへ?」
アドラフレンの問いに、ローフィスは感じ良く微笑む。

「ちょっと先の、左将軍官邸に居る補佐のオーガスタスに。
密偵の件を伝えに」

アドラフレンは、にっこり微笑む。
「行き先が同じだね?
私はこの後、いとこのディアヴォロスに会うため、左将軍官邸に出向くから。
彼に伝えれば補佐殿にも伝わるんじゃないのかな?」

廊下を歩きながらそう言われて、ローフィスは俯く。
「昨夜聞いた話では今現在、左将軍は不在らしいんですが。
お約束があるなら、戻ってるかも。
…じゃオーガスタスは今、補佐官邸にいるかな?」

アドラフレンはそれを聞いて、目を見開く。
「…約束はしてない」

ローフィスが歩を止め、アドラフレンを見上げると。
アドラフレンもローフィスを、歩を止めて見た。


二人が隊長宿舎の門を出て、横幅のだだっ広い道を、奥の左将軍官邸へと徒歩で向かう。
背後から、まだ男装姿のニーシャが付いて来るのを見て、アドラフレンがこそっ…と囁く。

「まだブログナの別荘には…」
ニーシャはにっこり笑う。
「滅多に潜り込めない、鍛えられてて体の凄くイイ、いい男だらけの近衛宿舎よ?
簡単に帰る訳、ないじゃないの!」

アドラフレンのため息に、ローフィスはこそっ…と背後。
嬉しそうに、通りかかる背の高い近衛騎士をジロジロと。
値踏みするように眺めてる、ニーシャに振り向いた。


三人が、広大な近衛宿舎内の、左将軍官邸の門を潜る。

官邸の玄関階段を上がり、中に入り侍従に尋ねると。
やはり左将軍は不在。
現在執務室には、補佐のオーガスタスが代理で詰めているとのことだった。

「…左将軍は居ませんね」
ローフィスが自分より背の高いアドラフレンを見上げると、アドラフレンは俯く。
「補佐殿に要件を伝える」

ローフィスは頷き、二人は執務室に向かって歩き出す。
が、二人に続く、背後のニーシャは。
官邸に出入りする、格好いい近衛騎士を。
やっぱり色目含んだ眼差しで、嬉しそうに眺めていた。

執務室に行くと、机の上に山と積まれた羊皮紙に。
埋もれんばかりのオーガスタスが、椅子に座ってペンを走らせていた。

「……………………」



ローフィスは、オーガスタスの眉がつりあがってて形相が怖くて、書類仕事に没頭してるのを見て。
声をかけるのを躊躇っていると、アドラフレンは微笑を浮かべ進み出てる。

「左将軍ディアヴォロスは…」

オーガスタスは、ペンを走らせたまま顔を上げず、怒鳴る。
「どこに行ったのかも、いつ帰って来るかも!
残念ながら不明!
お役に立てず、すみませんね!」

「…君を責めてはいないけど…」

アドラフレンの呟きに、オーガスタスはやっと顔を上げる。

羽根ペンを止め、アドラフレンをじっ…と見、暫く眺めた後、言った。

「…ああ!
いとこ殿の宮廷警備隊長!」

アドラフレンが、苦笑する。

「不在なのを君が。
みんなに責められる?」

問われてオーガスタスは、やっと居住まいを崩し、肩を竦める。
「職務の内だと。
覚悟はしてます」

「でも不快。
そうなんだね?」

オーガスタスはそれには答えず、背もたれに背を倒す。

「ご用件を伺いましょう」

ローフィスがアドラフレンを伺うと、アドラフレンは机の上に山と積まれた羊皮紙を目で指す。
「…その書類、全てディアヴォロスから手紙で指示を受け取って、返事書いてる?」

オーガスタスは、チラとアドラフレンを上目使いで見、ため息を吐く。
「…いえ。
長くディアヴォロスの側に居るので。
ワーキュラス(光の国の神とあがめられる光竜達の中の、一羽の名前。ディアヴォロスと通じ、知恵と力を貸している)が、ディアヴォロスからの伝言を。
俺の、ここに」
と、頭を指さす。
「…直接、送ってくれてます。
あんまり長いと俺は慣れてないので。
頭痛がしてくると、(ディアヴォロスに)文句は言ってあるんですが」

アドラフレンは、にっこり微笑む。
「じゃ、使者を出さなくても君に言えば。
君からワーキュラス。
ワーキュラスからディアヴォロスに通じるんだ。
便利だね」

「………………………………」

ローフィスは思った。
「(“頭痛”の部分を無視され、オーガスタス、内心憤ってるな…)」

けれど笑ってるアドラフレンに、オーガスタスは言い挑む。

「…あなたも、「左の王家」のお方だ。
ワーキュラスは「左の王家」の者とは、話が出来ると聞きましたが?
直接、ワーキュラスとお話しされては?」

「…ディングレーも「左の王家」の者だが。
彼、ワーキュラスと、話せるかい?」

ローフィスはアドラフレンに問い返されるオーガスタスが、言葉に詰まるのを見た。
やっと
「…気配だけは、感じてる様子ですけど…」
と、言い返す。

アドラフレンは、頷く。
「言葉は聞こえない。
直感で“こんな事言ってるんじゃないのかな?”
程度だろう?
君、「左の王家」の人間を買い被りすぎ。
長い間、ワーキュラスと繋がる人間が出なかったのは。
ワーキュラスと繋がったり言葉を聞いたり…不思議な力を使えるように成るには。
“資質”の他に、本人の凄い努力が要って。
誰もそんなレベルには、到達できないから。
ディアヴォロスは凄い。
それは「左の王家」の者ら、全員が、思ってる」

「………………………………」

アドラフレンは机に手をかけ、言葉の返せないオーガスタスを、覗き込んで言い諭す。

「ワーキュラスを、誰だと思ってる?
異次元の、我々と違って不思議な力が使いまくれる『光の民』らですら。
“神”と仰ぐ程の、凄い超能力使える、巨大な光竜だ」

「………………………それは…知ってます…」

アドラフレンは、また頷く。
「こっちの世界では、人間と回路を開いて精神で繋がるだけで。
本体は、このアースルーリンドでは誰も拝めないから。
神々しさや凄さや、その巨大さは伝わらない。
けれど「左の王家」の家にはどこでも。
私の家にすら。
光竜ワーキュラスの姿が、巨大な絵として在り、私は幼少の頃から、それを眺めてる」

「…………………で?」

「ワーキュラスの言葉が聞こえるなんて、君も凄い。
だからディアヴォロスにとって、君はとても貴重で。
かなり大切にしてる。
違う?」

「褒められても!
俺のここ(頭を指でさす)に、送られてくるのはディアヴォロスの声です!
伝えてるのがワーキュラスなだけで!」

「私には、聞こえないんだ。
送られてきても。
受け取る能力が無い」

オーガスタスが絶句し、一瞬呆け。
その隙にアドラフレンは言葉を叩き込む。

「君のとこのギュンターに毒を盛った銀の影の一族は。
頭領をすっかりロスフォール大公の淫婦に取り込まれ。
現在、ロスフォール配下の暗殺集団と成り果てて、かなり危険。
ロスフォールを押さえる、上手い手があれば知恵を借りたいと。
ディアヴォロスに伝えといてくれ。
ワーキュラスの方からは。
私の事情や居所はたちどころに分かるから。
ディアヴォロスの方から、空いてる時間があれば、使者なりなんなり。
働きかけて貰えないと、連絡が取れない」

ローフィスは横のアドラフレンを見ないまま、思った。
「(…流石、宮廷警護隊長…。
役職はダテじゃないな)」

オーガスタスの、呆けたままの様子を目に。
そっと小声で助言する。
「今の。
意味、分かった?
もう一度、言い直す?」

アドラフレンはそう聞くローフィスを見る。
その後、オーガスタスを見ると。

オーガスタスはローフィスの助言に、頷いてた。

「…全く頭に入って来なかった。
もう一度、頼む」

アドラフレンは自分の言った事を、もう一度ローフィスが言い直して、オーガスタスの耳に叩き込むのを、横で見た。

オーガスタスは、やっと頷く。

「伝えるだけで。
後はディアヴォロスに、任せれば良いんだな?」

そう、ローフィスに聞き、ローフィスは頷いてる。

「………………………………………………」


左将軍官邸をローフィスと一緒に出ながら、アドラフレンはローフィスに言った。
「君と一緒に来て、正解だった」

ローフィスは無言で頷く。
が、アドラフレンを見上げて言った。
「…それよりあれ。
マズいんじゃないです?」

ローフィスの視線の先を見ると、男装のニーシャが。
左将軍内部隊きってのいい男。
堅物のデルアンダーに、言い寄っていた。

デルアンダーは男装だと知らず。
男に口説かれて、かなり、困惑気味。

「…ニーシャ…。
ディアヴォロスに、ここの出入りを禁止されるよ?」

ニーシャは直ぐ、振り向く。
「…左将軍にチクるつもり?!」

「チクらなくても、直ぐバレるよ。
ワーキュラスはディアヴォロス周辺の人間の動向に、いつも気を配ってるから。
ディアヴォロスの部下の、彼を思い切り困惑なんてさせたら………」

「分かったわよ!
で?!左将軍には伝言出来た?!」

アドラフレンとローフィスは、顔を見合わせる。
「…一応は」

アドラフレンが言うと、ニーシャは腕組みする。
「こちらが“レスル”を雇ってると。
左将軍に伝えて」

アドラフレンは直ぐ、ニーシャから解放されて歩き去ろうとしてるデルアンダーに声かける。

「君!
左将軍補佐のオーガスタスに!
エルベス大公家がレスルを雇ってる事、ディアヴォロスに言付けてくれと、伝えて貰える?!」

デルアンダーは直ぐ、頷き。
そそくさと、執務室廊下へその姿を消した。

ニーシャが惜しそうに。
その男らしく気品溢れる背中を見送る。

「…やっぱり違うのよねぇ…。
宮廷貴公子とは、体付きが」

「君が言うと、凄くヤらしく聞こえるんだけど」

アドラフレンが言うと、横でローフィスも同意に頷いた。
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