アースルーリンドの騎士達 妖女ゼフィスの陰謀

あーす。

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3 妖女ゼフィス 復讐の始まり

襲撃を受けるギュンター ニ度目 昼の街路で

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 そして、翌日の2度目。
馬で一人で街道を駆けてる最中、やっぱり突然盗賊集団に襲われた。

馴染みの、良く近衛宿舎にやって来る女性の一人が、じき誕生日で。
安い偽宝石の飾り物でいいから、プレゼントして。
と言われ、雑貨屋に向かう途中だった。

午後の日暮れ前。
太陽は少し傾いてたけど、まだ明るかった。
近衛宿舎の門を出て、左の細い、通行人がほぼいない街道へと、馬で乗り入れた途端。
背後から、多数の馬の駒音。

振り向くと、馬上で剣を抜き、追いかけて来るから…。
怒鳴ろうと思った。

“俺を、誰だと思ってる!
僻地の貧乏領主の三男坊だぞ!
このたった一つ、付けてる宝石だって、ニセモノだ!
一文の、価値も無いんだぞ!”

が。
もう横に付けた一人が、剣を振ってくるんで。
ギュンターは首をすくめ避けながら、そいつが剣を振り切った後。
どかっ!と脇腹を靴底で蹴りつけ、吹っ飛ばし様、拍車かける。

「(行け…!行け行け行け!)」
愛馬、ロレンツォに心の中で叫ぶ。
が、ロレンツォは荒っぽい事だらけの主に慣れきっていたので。
言われるまでも無く、全速力で駆け始める。

一直線に、道沿いに並んだ木々の間を、左右交互にすり抜ける。
敵は横に付こうとしても、立木に邪魔され、張り付けない。

駒音から察するに、七、八騎はいる様子。
「(…振り切れるか…?)」

二騎が左右に付き、交互に剣が、降って来る。
一騎が立木に邪魔されると、もう片側が。
次に木立の反対側をすり抜けると、木立に邪魔された男は控え、もう反対側の男が剣を振る。

その都度、ギュンターは身を倒し、首を屈め、避けきった。

「(ここでモタつくと、後続が一気に雪崩れ込んで来るな…!)」

すると突然、背後に殺気。
つい、横に振ろうと待ち構えてた剣を、背後に振る。

かん!
と弾く音で、脇差しを投げつけられたと知る。

「(うざったくて隙さえ見つければ直ぐに殴りかかってくる、乱暴な兄貴達だったが…。
お陰で殺気には、半端なく敏感に反応出来る。
こういう時、その経験が役立つな…!)」

が、二人の兄貴の顔は思い浮かぶものの、感謝を告げるには癪すぎて、ギュンターは腹立ち紛れに速度を上げる。

左右に付いてた男らが、半馬身遅れた。
だがそれで、振り切れる自信は無い。

「(…どこへ、駆け込む?
ともかく身を隠せる場所で、一人ずつ料理するしか無いな)」

そんな事を考えてた矢先。
突然、追いつこうとした斜め横の男が
「ぎゃっ!」
と叫び、馬の背から消えて行く。

暫く後、背後で、どすん!
と草地に転がる、大きな音がした。

反対側の半馬身後ろの男も。
突然、肩を押さえ、バランスを崩し…。
手放しかけた手綱を、掴もうと手を伸ばしかけたものの、前へと走る馬の振動で後ろに引っ張られ。

…そしてそのまま、馬上から姿を消して、背後でどすん!と、転がる音。

次に、ひゅっ!と背後で音がして。
銀の閃光が走り抜け、追っ手の一人の体に突き刺さると。
追っ手はやはりバランスを崩し、落馬する。

どっすん!!!

「(…短剣の助っ人…?)」

少し離れた、木立の茂みに、明るい栗毛が、見えた気がした。
「(…ローフィス!)」



ギュンターは、笑っていた。
こんな場面の、最強の助っ人。

気づくと、追っ手の最後の一人も馬上から消え…。
馬、だけが、後ろを付いて来る。

間もなく、街道横から一騎が馬で駆け寄り、併走するから、ギュンターは叫んだ。

「感謝の代わりに、何すればいい?!」
併走する、明るい栗毛のローフィスは、手綱を繰りながら肩をすくめた。
「そうだな。
俺が困った時、ディングレーのお守りを代わってくれ。
但し、喧嘩は御法度。
ディングレーと一緒に相手を殴り倒すなんて、もっての他!」

それを聞いてギュンターは思い切り、項垂れた。
自分よりまだ、ディングレーの方が我慢強い。

「…そんな難しいこと、俺に出来るはず無いだろう?!
気づいたら殴ってるんだ。自制なんて利かない!
俺が先に殴って、ディングレーも巻き込まれて一緒に殴り倒すのが、通常パターンだって!
とっくに知ってる筈だ!
もっと簡単な…荷物運びとか。
………金は無いから、大していい酒も奢れないし。
あんた結構モテるから、女紹介する必要も無いし……」

ローフィスは、だんだん小さくなるギュンターの声音を聞いて、ため息交じりに告げる。
「…分かった。
大きな貸し一つ。
いずれ。返して貰う」

ギュンターは、とりあえず大きく、頷いた。
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