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3 妖女ゼフィス 復讐の始まり
指令を受けてギュンターを襲う影の一族の暗殺団
しおりを挟む指令を受けた、都に駐在してる部下達は、ギュンターが宿舎から出て来る時を狙った。
もう日が暮れていたし、人目も少ない。
が、連れがギュンターと並ぶ程の長身で体格のいい美男。
近衛でも、剛の者と知られるディンダーデン。
ギュンター一人なら、幾ら近衛騎兵だろうが、鋼鉄の軍団と言われる銀の影の一族の強者、四人もいれば。
確実に殺せると踏んだ。
が、ディンダーデンが加わるとなれば、確実にギュンターが殺せるかどうかは…不明。
「…それ程、あの連れのディンダーデンとは、強いのか?」
「…噂を聞きかじると…国内最強を誇る近衛騎士らの中で、知らぬ者がいない程の、剛の者らしい」
「…なる程。
誰も彼の顔を殴れないから…美男のままでいられると言う訳か?」
「ギュンターとか言う男、ディンダーデンに守って貰っているから、今だあの美貌のままなんだな?」
皆、襲撃に慣れた者ばかりだったから…。
酒場の入り口近くで、様子を伺う。
が、半刻待ってもギュンターは出て来ない。
「ディンダーデンと連んでない、次の機会を狙うか?」
「その方が、確実だ」
そう、諦めかけた矢先。
ギュンターが一人で、酒場から出て来た。
既に一人が。
咄嗟身を翻して襲いかかり、また直ぐ一人が。
剣を抜いて襲いかかる。
最初の一撃で既に大怪我を負ってると思った三人目の男は、しなやかな身のこなしで屈んでいただけのギュンターの剣が空を切り裂き、突如腹を斬られ、驚愕に目を見開く。
外灯の薄暗いランプと月明かりではっきりとは、見えなかった。
が、ギュンターはほぼ、無傷。
「馬鹿…な!!!」
致命傷は避けたものの、みるみる血が、滲み出る。
慌てて、予備の二人が飛んで来る。
六人かがり…。
と言っても、二番目と三番目に襲いかかった男二人は、既に斬られていた。
だが厳しい訓練を課して来た男らにとって、多少の傷で、引く事はしない。
傷を押して時間差で、六人が交互にギュンターに切りつける。
どんっ!!!
飛びかかった男の一人が、蹴られて酒場の壁に、激しく打ち付けられた。
それと同時に、酒場の扉が開く。
のそり…と。
大層長身で体格のいい男が、姿を現す。
いきなり剣を抜くと、襲撃してる一人目指し、剣を豪快に振り切って怒鳴った。
「ギュンター!!!
何お前一人で遊んでるんだ?!」
「ぎゃっ!」
ふいうちを食らい、豪剣に身をさらした男は深手を負い、なんとか命を絶ち切る一刀を逃れた。
が、その場に膝を折って、崩れ落ちる…。
襲ってた男らは皆、ぎょっ!とする。
ディンダーデンが、出てきてしまったのだ………。
計算外もいいとこ。
六人がかりならもうとっくに、ギュンターは地面に横たわってるはず。
あちこちから、大量に血を吹き出して。
だが肝心のギュンターは、野生の豹のようなしなやかな身のこなしで全て避け、負っているのは掠り傷程度。
呆けてる間もなく、ディンダーデンが直ぐ次の標的に襲いかかる。
ずばっ!
素早く豪快な一撃を見舞われ、避ける間もなく仲間の一人が膝を折り、倒れ伏す。
ギュンターの時とは違い、深く斬りつけられ、見るからに重傷。
が、ディンダーデンは獰猛な獣の如く、直ぐ別の一人に襲いかかり、剣ががちっ!と止められて鳴った途端。
ディンダーデンは嬉しそうに吠えた。
「手応えのあるごろつきだな!
だが俺様に剣を向けると言う事は!
命を捨て去る覚悟があると言う事だ!
その辺り、ちゃんと分かってるな?!
きっちり、あの世に旅立つ覚悟を決めとけ!!!」
が、そう吠えるディンダーデンの背から切りつけようとする男は、直ぐ振り向いて脇差しを抜いたディンダーデンの弧を描く剣で、血をまき散らして仰け反る。
「ぎぁあっ!」
「背中なら俺を斬れると思ったら、大間違いだ!」
襲われてると言うのに、ディンダーデンは嬉しそう…。
ずばっ!
手数が減った時。
とうとうギュンターが、仲間の一人を激しく斬りつけた。
「う゛…がっ!」
肩から胸を深く斬りつけられ、ふらつきながらも次の剣を避けるために、その場を必死で引き始める。
既に三人が、戦闘不能な程の深手を負わされ、立っているのがやっと…。
「思ったより使えるぞ!!!」
「仲間の傷が深い!」
「一旦、引く!!!」
部下達は、大慌てで撤退し始めた。
「こら!
死ぬ覚悟があるんだろう?!
逃げるな!!!」
ディンダーデンが背後で吠える。
が、怪我人を抱え、逃げ出すのが精一杯。
まだ戦える者が、追って来るディンダーデンの剣を決死で弾き飛ばして怪我人を先に逃がし、それでも掠り傷を幾つも作りながら…。
銀の一族の部下達は、命からがら、逃げ去った。
闇討ち失敗の報告を聞いた、襲撃に参加しなかった仲間らは、失敗をなじった。
が、その男達でさえも、ディンダーデンの名を出すと、黙り込む。
皆は翌日もう一度、ディンダーデンが居ず、ギュンター一人で出歩く機会を狙い、確実に殺してから、頭領に報告しようと決めた。
強盗、暗殺に慣れ、土地カンのある訓練されたごろつきを、襲撃仲間に加えて。
交代で、近衛宿舎の門を見張る。
午後をかなり過ぎた時、ギュンターが一人で馬で門を潜るのを見つけ、見張りは直ぐ、襲撃者一同に知らせる。
「この先の街道で襲うぞ!」
皆、大きく頷く。
ギュンターの馬が通りかかった所を、馬に乗り周囲を固める。
そして、馬上から刃物で斬りつけた。
が。
どんっ!
横から足で蹴られ、一人が馬から吹っ飛んで落ちる。
尚も皆、馬に拍車を入れて追いすがるが…。
なかなかの乗り手。
速度を上げ、巧みに木の間を左右に蛇行して、横に並ばせない。
二騎が決死で左右の斜め後ろに付ける。
が、巧みな乗馬で直ぐ、半馬身離される。
業を煮やして、背後から脇差しを投げつける。
が、直ぐ振り向いて剣を振り回し、飛んで来た剣を、カン!と弾く。
少し離れた横を、一騎が速度を上げて併走しようとした時。
がっっっ!
どっすん!
いきなり、落馬し、馬だけが走ってる。
ヒュッ!
また音がすると、一人が突然、馬から落ちていく。
どんっ!
斜め後ろを走ってた男は、仲間が次々突然落馬する様に、目を見開き…。
ギュンターを見た。
「(まさかこの男…『光の民』の血を引く、能力者か…?!)」
が、後ろから声が飛ぶ。
「どっからか、短剣が飛んで来てる!
ギュンターは投げてない!」
が、叫んだ男も突然、飛んで来た短剣が脇に突き刺さり、大きく馬の上で体勢を崩し、結果…。
どっすん!
落馬していく…。
「……………………」
八騎いた筈だ。
なのに…今、周囲を走ってるのは、乗り手を無くした馬だけ…。
しゅっ!
銀に光る短剣を、避けたつもりが肩に突き刺さり、とうとうその男も、馬上から姿を消した…………………。
皆、かろうじて致命傷は避けたものの、短剣の傷を負い、更に落馬の打ち身を抱え、かろうじてアジトに辿り着く。
「二度も襲撃に失敗しただなどと…!
銀髪の影の一族の、名誉に賭けても頭領に報告出来んぞ!」
皆、仲間のその言葉に頷きまくる。
一人が、おもむろに口を開く。
「…策を弄しよう。
ギュンターは…ただ顔の綺麗なヤツだと、もう侮れない」
皆、無言で頷いた。
ツテを頼って、近衛騎士の一人と会い、金を渡して命ずる。
近衛宿舎の外街道にある、目立たない宿場の食堂に、誘い出すために。
子供に金を渡し、宿場の女将に毒の包みを渡すよう、指示を出す。
皆、首尾良く行くのを、固唾を飲んで待った。
ギュンターが、近衛騎士に誘い出されて宿場へ。
窓からこっそり覗くと、女将はスープを勧めていた。
ギュンターはそれを飲み、顔色も変えずすました美貌で、宿場を出る。
が、扉を出た途端、突然青ざめ…。
背を丸めた。
部下達は、色めき立つ。
「…止めを刺すか?!」
皆、頷き、剣を携え、毒で弱ったギュンターに迫ろうとした。
が、その時。
激しい駒音が。
どどどどどっ!
「…どうした?!
どれだけ食っても腹なんて壊したこと無いお前が、まさか腹痛か?!」
赤毛の大男…。
左将軍補佐のオーガスタスが、馬で突然ギュンターの前に飛び込み、声をかけ。
ひらりと乗っていた馬から下りて、ギュンターに寄り添い、様子見してる。
飛び出そうとした部下達は、先頭の一人に腕で制され、歩を止める。
「…新兵で左将軍補佐に抜擢され、異例の大出世を遂げた近衛の若き大物、オーガスタスだ………」
「…もしかして、あの体格からすると、ディンダーデンより強いのか?!」
「…対決してないのでどちらが強いかは分からんが…。
ディンダーデンでさえも、一目置いてるそうだ………」
「俺は噂で、オーガスタスは南領地ノンアクタルの奴隷小屋出身だと聞いた。
ガキの頃から剣を握り、見せ試合でも年上相手に半端ない暴れぶりで…」
「………つまり………?」
「滅茶苦茶、強かったらしい………」
皆が皆、オーガスタスのズバ抜けて高い背と、その体躯の逞しさ。
ゆったりと構えながらも…明らかに強そうな風情に、固唾を飲む。
幾ら腕に覚えのある、剛の者の銀髪の一族でも。
戦闘訓練を積み、更に騎士の中の最高峰、近衛騎士らは敵に回す事は躊躇われた。
暴れることが大好きで、人を斬る事に疑問も抱かない、最強の化け物軍団だったから。
「………ともかく、毒は盛ったし実際、ギュンターは歩けない」
「…そうだな。
ここは毒に、任せよう」
人が集まって来ていたが、オーガスタスは
「友人だ。俺が面倒見る」
と言い、自分の馬にギュンターを担ぎ上げて連れ去る。
が、通行人達は皆、宿場をこっそり見つめ
「何飲んでああなったんだ?」
「俺今日、ここで食事は止めとこう…」
と、噂し合った。
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