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帰り道 16
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喉の渇きで、ローランデは目を覚ます。
気づいたら、ギュンターの裸の胸の上に頭を乗せて眠っていて、身を起こすと直ぐ、ギュンターが身を動かし、ローランデは気づいて囁く。
「…済まない…。
喉が渇いて………」
ギュンターは自分の胸の上に上半身起こし、見つめて来るローランデの…その圧倒的に美しく愛しい様に、呆けた。
少し乱れた明るいクリーム色の長い髪を背に垂らし、青の澄んだ瞳はけぶるようで、半開きの唇は紅く、そして甘く艶を放っていた。
朝日に真っ白に肩と頬が眩しく輝き、まるで侵しがたい気品を放ち、その癖初々しくて…。
ギュンターが目だけを見開き、表情も変えずローランデに見惚れていると、ローランデは照れたように俯く。
「…どうして…そんなにじっと見ている?
そんなに…私は変なのか?」
問われて…でもギュンターはまだ、口を開けなかった。
が、ローランデは喉の渇きに耐えかねて、返答を待たずその顔を寝台の周囲に振り、飲み物を探す様子にようやく、ギュンターは身を起こす。
胸の上に身を起こすローランデを抱き寄せるように身を抱き、耳元で囁いた。
「…飲み物だったな?」
ローランデは抱かれて頬を真っ赤に染める。
ギュンターはそんなローランデの反応に、飲み物を取りに寝台を出ようとして…つい、そのまま両腕で抱き寄せ、顔を寄せた。
ローランデがふいに顔を、上げる。
間近にその金の髪に縁取られた透けた紫の瞳の美貌が迫り…呆けて見とれている内に、しっとりと唇を、塞がれる。
ギュンターはそんな気は、無かった。
が口付けたローランデが身を僅かに、捩っただけでもう…彼が、欲しくなった。
そっ…と口付け顔を上げ見つめる。
そのまま彼のあどけなく開かれた唇を、塞ぎに倒れ込みたかったが、自分も喉の渇きを意識し、ぐっ…。と堪えた。
す…、とローランデと位置を取り替えるようにすり替わって、寝台を出る。
ローランデはふいの熱いさと…金の髪を朝日に白く輝かせるギュンターの、裸の背を見送った。
朝は毎度…ギュンターの美貌は本当に圧倒的で、誰もが情事の後の艶やかで男らしい彼の様子に、更に惚れ直して彼を放すまい。とあがく気持ちが、理解出来た。
肩も背も、教練の頃よりもっと…逞しく成っていたし、胸板も厚さを増していた。
引き締まった尻は素晴らしく、長い足は格好良かった。
が振り向く金髪と紫の瞳の素晴らしい美貌は甘く、優美に見える。
ギュンターはボトルと二つのグラスを手に、戻って来る。
寝台横のテーブルにグラスを乗せ、コルクを歯で開けグラスに注ぎ込む。
そんな野蛮な様子も、朝日の魔法なのか、とても優美なものへと変わってしまう。
グラスを手渡され、ローランデは横に腰掛けるギュンターを見つめる。
彼は一気に飲み干し、下げたグラスをチラ…と見やり、がまた腰を上げて再びボトルの液体をグラスに、注いだ。
…ローランデも口にしたが、北領地[シェンダー・ラーデン]の地酒でスモモの絞り汁の入った、独特の酸味と甘みのある酒で、ローランデは飲み慣れた味を一気に、飲み干した。
横に立つギュンターの手が空に成ったグラスを持ち上げ、お代わりを注いでくれる。
手渡され…それを受け取る。
彼はいつも…さりげなく世話を焼いてくれた。
グラスを口にすると、ギュンターが立ったまま一気に飲み干すのが見え、やはり…とても喉の渇いていたローランデはそれを、飲み干した。
潤いが全身を、満たす。
不思議だったけど心も…満たされている気がした。
とても…幸福で輝きに満ちていた。
今迄何度も抱き合って来たが、こんな風に朝を迎えたのは、初めてだった。
ローランデはさり気なく視線を自分に向けながら、それでもグラスを口に運ぶ、ギュンターに見惚れた。
朝陽の中、金の髪が首に巻き付き、伏せた紫の瞳が宝石のように輝き、神々しさすら、纏って見えた。
そう思ってるのが、分かったみたいに、ギュンターも視線を自分に釘づける。
見つめ合ってる…。
ローランデはそう、気づいていたけど、視線が離せなかった。
どん!
いきなり扉の鳴る音。
軽い音だったけど、説破詰まったような。
ギュンターは咄嗟振り向き、扉に寄ると少し開ける。
公爵が扉の隙間から、顔を覗かせ、素早く小声で告げた。
「すみませんが…早々に発って頂けないでしょうか?」
「問題か?」
ギュンターに問われ、公爵は頷く。
「薬を盛って…コトの後、眠らせたんですが…。
当然、友人達もです。
けれど…目覚めた途端、貴方はどこかと聞かれ…」
公爵のうんと後ろで、扉の開く音がし、廊下の先で女性の声がする。
「…だって、機会は無いのよ?
あなたとは、また出来るじゃない!
でも彼とは…」
けれど別の女性と、廊下ではち合わせたのか。
会話が聞こえた。
「ギュンターはあなたのお部屋なの?!」
「あなたこそ!
彼を隠してるわね?!」
バタン!
「どこ?!どこに隠してるの?!」
廊下に女性達が出て来て、騒ぎ始めるのを聞き、公爵は素早く扉を押し開け、室内に入ると扉を閉じ、目前の…裸のギュンターから背を向けて扉に顔を向け、そのまま廊下の様子に聞き耳を立てる。
バタン!
バタン!
次々に扉の開く音がし、ギュンターの姿を求め、また次の扉も開く音がする。
バタン!!!
「あなたねローズマリー!
隠してるでしょ!」
公爵の男友達らは、自分と過ごした後でもギュンターを探す、女性達に呆れたのか。
廊下に出てくる気配も無い。
暫く、本来ギュンターに宛がわれた部屋で、女性達の言い争う声がし…。
結局、彼女らは揃って喚きながら、再び廊下に出て来る。
そして廊下の最奥の、ローランデに宛がわれた一番高級な寝室の扉を、ノックしていた。
「…何の騒ぎです…?」
セルダンの、眠そうな声がすると、公爵は彼らがこの部屋を嗅ぎつけるのは直。
と、ギュンターに振り向く。
ローランデはもう衣服を着始めていて、ギュンターに衣服を放る。
ギュンターは急いで裸体に衣服を纏う、ローランデを惜しそうに見つめ。
けれど自分をじっ…と見てる公爵に気づき、素早く衣服を身に付け始めた。
公爵は、はらはらして囁く。
「忘れ物は…?
バルコニーに出ると、横に扉があります。
そこから一階に降りられ、厩(うまや)は右です。
朝食のバスケットをもう、鞍に積ませて頂きましたので…」
ローランデが、素早く礼を言う。
「お気遣い、感謝致します」
廊下で、カン高い女性の叫び声。
「ローランデ様もいらっしゃらないの?」
「じゃ、まさか二人は夕べの内に発たれたの?!」
「そんな訳、無いわ!!!
セルダン、あなたがいるはずだったお部屋って、どこなの?!」
公爵は、もう間もなく女性が押し寄せる。
そう分かり、首をバルコニーに振る。
ギュンターの金髪が、頷くようにバルコニーの端に伺い見え、その後消え。
それとほぼ同時、公爵はノックの音を聞いて、暫く沈黙し。
しかししつっこく叩きまくる、音に根負けし、扉を開いて姿を見せる。
マリアンネが思い描くギュンターの姿で無いのに、驚いて目を見開く。
「…公爵…」
ローズマリーも、目を見開いて叫ぶ。
「デルドン?!どうしてあなたがここにいらっしゃるの?!
さっきまで………」
言いかけ、彼の妻のアナロッテが斜め横に居るのを見て、口を閉ざす。
アナロッテは怪訝そうに、ローズマリーに問い正した。
「どこに居たか、あなた知ってるの?!」
「…廊下の向こうに…」
ローズマリーは咄嗟、そう言って誤魔化した。
公爵は努めて冷静に
「…誰を探してるんだい?」
とトボケ口調で問うと、女性達は口々に騒ぎ始め、一気に騒がしくなった。
その喧噪の中。
公爵はバルコニーの外で、駆け去る二頭の駒音を聞きながら、女性達の叫び混じりの糾弾に、相づち打つ。
「見つからない?
どこへいらっしゃったんだろう…?」
バックレ続け、駒音が門の向こうへ遠ざかった頃。
白々しく横のテーブルの上から、いかにも取り上げたみたいに、ポケットからそっと出した、小さな羊皮紙を手に持ち、呟く。
「置き手紙のようだ…」
途端、ディスカッテが手から取り上げ、横のラベンダーが読み上げる。
「“大変申し訳ないが、急用が出来てしまい、おいとまする。
手厚いもてなしに、感謝いたします。
………ローランデ………”」
マリアンネが叫ぶ。
「…つまりギュンターは…大公子息に、付き合わされたの?!」
ローズマリーも声を張り上げた。
「酷いわ、約束したのに!」
公爵は、慌てて告げる。
「でも大公子息の、大事に御用事だ。
大公子息を、恨めるのかい?」
突然みな、シン…となる。
公爵は、やりきった。
と安堵し、穏やかに告げた。
「朝食の用意が、出来てるはずだ」
アナロッテが
「頂くわ」
と言うと、ディスカッテも
「お腹が減ったわ」
と言い。
他も空腹を思い出したのか、扉に背を向け始める。
公爵は全員が廊下の向こうの、一階へと降りる階段目がけ、歩き始めるのを確認し。
部屋を出て、扉を閉めた。
それぞれの寝室から、男友達が浮かない顔で出て来るのを見て、小声で囁く。
「機嫌を取って、ギュンター殿のことを忘れさせないと」
皆、頷くと
「池へ出かけ、ボートに乗るのは?」
とか
「昼食をピクニックで食べるのは?」
とかの提案を出した。
一人が
「…本当に、二人は去ったのかい?」
と聞くので、公爵は請け負った。
「確かだ」
それを聞くなり、一番若造の、セルダンが安堵のため息を吐き出した。
「…昨夜、ギュンター殿が私の部屋をノックした時の、恐怖と言ったら!
冬の森で腹を空かせた大熊に出会った時以来の、恐怖でしたよ!」
と叫ぶので。
男達は一斉にセルダンを見つめ、次に、一人が吹き出すと、次々みんな、吹き出した。
一番若いセルダンは、笑う年上の男らを怒鳴りつける。
「初めてなのに、あんな凶暴な男に掘られたりしたら!
間違いなく、壊れますからね!!!」
どっっっ!!!
セルダンの決死の叫びは、男らの笑いを、もっと大きくした。
気づいたら、ギュンターの裸の胸の上に頭を乗せて眠っていて、身を起こすと直ぐ、ギュンターが身を動かし、ローランデは気づいて囁く。
「…済まない…。
喉が渇いて………」
ギュンターは自分の胸の上に上半身起こし、見つめて来るローランデの…その圧倒的に美しく愛しい様に、呆けた。
少し乱れた明るいクリーム色の長い髪を背に垂らし、青の澄んだ瞳はけぶるようで、半開きの唇は紅く、そして甘く艶を放っていた。
朝日に真っ白に肩と頬が眩しく輝き、まるで侵しがたい気品を放ち、その癖初々しくて…。
ギュンターが目だけを見開き、表情も変えずローランデに見惚れていると、ローランデは照れたように俯く。
「…どうして…そんなにじっと見ている?
そんなに…私は変なのか?」
問われて…でもギュンターはまだ、口を開けなかった。
が、ローランデは喉の渇きに耐えかねて、返答を待たずその顔を寝台の周囲に振り、飲み物を探す様子にようやく、ギュンターは身を起こす。
胸の上に身を起こすローランデを抱き寄せるように身を抱き、耳元で囁いた。
「…飲み物だったな?」
ローランデは抱かれて頬を真っ赤に染める。
ギュンターはそんなローランデの反応に、飲み物を取りに寝台を出ようとして…つい、そのまま両腕で抱き寄せ、顔を寄せた。
ローランデがふいに顔を、上げる。
間近にその金の髪に縁取られた透けた紫の瞳の美貌が迫り…呆けて見とれている内に、しっとりと唇を、塞がれる。
ギュンターはそんな気は、無かった。
が口付けたローランデが身を僅かに、捩っただけでもう…彼が、欲しくなった。
そっ…と口付け顔を上げ見つめる。
そのまま彼のあどけなく開かれた唇を、塞ぎに倒れ込みたかったが、自分も喉の渇きを意識し、ぐっ…。と堪えた。
す…、とローランデと位置を取り替えるようにすり替わって、寝台を出る。
ローランデはふいの熱いさと…金の髪を朝日に白く輝かせるギュンターの、裸の背を見送った。
朝は毎度…ギュンターの美貌は本当に圧倒的で、誰もが情事の後の艶やかで男らしい彼の様子に、更に惚れ直して彼を放すまい。とあがく気持ちが、理解出来た。
肩も背も、教練の頃よりもっと…逞しく成っていたし、胸板も厚さを増していた。
引き締まった尻は素晴らしく、長い足は格好良かった。
が振り向く金髪と紫の瞳の素晴らしい美貌は甘く、優美に見える。
ギュンターはボトルと二つのグラスを手に、戻って来る。
寝台横のテーブルにグラスを乗せ、コルクを歯で開けグラスに注ぎ込む。
そんな野蛮な様子も、朝日の魔法なのか、とても優美なものへと変わってしまう。
グラスを手渡され、ローランデは横に腰掛けるギュンターを見つめる。
彼は一気に飲み干し、下げたグラスをチラ…と見やり、がまた腰を上げて再びボトルの液体をグラスに、注いだ。
…ローランデも口にしたが、北領地[シェンダー・ラーデン]の地酒でスモモの絞り汁の入った、独特の酸味と甘みのある酒で、ローランデは飲み慣れた味を一気に、飲み干した。
横に立つギュンターの手が空に成ったグラスを持ち上げ、お代わりを注いでくれる。
手渡され…それを受け取る。
彼はいつも…さりげなく世話を焼いてくれた。
グラスを口にすると、ギュンターが立ったまま一気に飲み干すのが見え、やはり…とても喉の渇いていたローランデはそれを、飲み干した。
潤いが全身を、満たす。
不思議だったけど心も…満たされている気がした。
とても…幸福で輝きに満ちていた。
今迄何度も抱き合って来たが、こんな風に朝を迎えたのは、初めてだった。
ローランデはさり気なく視線を自分に向けながら、それでもグラスを口に運ぶ、ギュンターに見惚れた。
朝陽の中、金の髪が首に巻き付き、伏せた紫の瞳が宝石のように輝き、神々しさすら、纏って見えた。
そう思ってるのが、分かったみたいに、ギュンターも視線を自分に釘づける。
見つめ合ってる…。
ローランデはそう、気づいていたけど、視線が離せなかった。
どん!
いきなり扉の鳴る音。
軽い音だったけど、説破詰まったような。
ギュンターは咄嗟振り向き、扉に寄ると少し開ける。
公爵が扉の隙間から、顔を覗かせ、素早く小声で告げた。
「すみませんが…早々に発って頂けないでしょうか?」
「問題か?」
ギュンターに問われ、公爵は頷く。
「薬を盛って…コトの後、眠らせたんですが…。
当然、友人達もです。
けれど…目覚めた途端、貴方はどこかと聞かれ…」
公爵のうんと後ろで、扉の開く音がし、廊下の先で女性の声がする。
「…だって、機会は無いのよ?
あなたとは、また出来るじゃない!
でも彼とは…」
けれど別の女性と、廊下ではち合わせたのか。
会話が聞こえた。
「ギュンターはあなたのお部屋なの?!」
「あなたこそ!
彼を隠してるわね?!」
バタン!
「どこ?!どこに隠してるの?!」
廊下に女性達が出て来て、騒ぎ始めるのを聞き、公爵は素早く扉を押し開け、室内に入ると扉を閉じ、目前の…裸のギュンターから背を向けて扉に顔を向け、そのまま廊下の様子に聞き耳を立てる。
バタン!
バタン!
次々に扉の開く音がし、ギュンターの姿を求め、また次の扉も開く音がする。
バタン!!!
「あなたねローズマリー!
隠してるでしょ!」
公爵の男友達らは、自分と過ごした後でもギュンターを探す、女性達に呆れたのか。
廊下に出てくる気配も無い。
暫く、本来ギュンターに宛がわれた部屋で、女性達の言い争う声がし…。
結局、彼女らは揃って喚きながら、再び廊下に出て来る。
そして廊下の最奥の、ローランデに宛がわれた一番高級な寝室の扉を、ノックしていた。
「…何の騒ぎです…?」
セルダンの、眠そうな声がすると、公爵は彼らがこの部屋を嗅ぎつけるのは直。
と、ギュンターに振り向く。
ローランデはもう衣服を着始めていて、ギュンターに衣服を放る。
ギュンターは急いで裸体に衣服を纏う、ローランデを惜しそうに見つめ。
けれど自分をじっ…と見てる公爵に気づき、素早く衣服を身に付け始めた。
公爵は、はらはらして囁く。
「忘れ物は…?
バルコニーに出ると、横に扉があります。
そこから一階に降りられ、厩(うまや)は右です。
朝食のバスケットをもう、鞍に積ませて頂きましたので…」
ローランデが、素早く礼を言う。
「お気遣い、感謝致します」
廊下で、カン高い女性の叫び声。
「ローランデ様もいらっしゃらないの?」
「じゃ、まさか二人は夕べの内に発たれたの?!」
「そんな訳、無いわ!!!
セルダン、あなたがいるはずだったお部屋って、どこなの?!」
公爵は、もう間もなく女性が押し寄せる。
そう分かり、首をバルコニーに振る。
ギュンターの金髪が、頷くようにバルコニーの端に伺い見え、その後消え。
それとほぼ同時、公爵はノックの音を聞いて、暫く沈黙し。
しかししつっこく叩きまくる、音に根負けし、扉を開いて姿を見せる。
マリアンネが思い描くギュンターの姿で無いのに、驚いて目を見開く。
「…公爵…」
ローズマリーも、目を見開いて叫ぶ。
「デルドン?!どうしてあなたがここにいらっしゃるの?!
さっきまで………」
言いかけ、彼の妻のアナロッテが斜め横に居るのを見て、口を閉ざす。
アナロッテは怪訝そうに、ローズマリーに問い正した。
「どこに居たか、あなた知ってるの?!」
「…廊下の向こうに…」
ローズマリーは咄嗟、そう言って誤魔化した。
公爵は努めて冷静に
「…誰を探してるんだい?」
とトボケ口調で問うと、女性達は口々に騒ぎ始め、一気に騒がしくなった。
その喧噪の中。
公爵はバルコニーの外で、駆け去る二頭の駒音を聞きながら、女性達の叫び混じりの糾弾に、相づち打つ。
「見つからない?
どこへいらっしゃったんだろう…?」
バックレ続け、駒音が門の向こうへ遠ざかった頃。
白々しく横のテーブルの上から、いかにも取り上げたみたいに、ポケットからそっと出した、小さな羊皮紙を手に持ち、呟く。
「置き手紙のようだ…」
途端、ディスカッテが手から取り上げ、横のラベンダーが読み上げる。
「“大変申し訳ないが、急用が出来てしまい、おいとまする。
手厚いもてなしに、感謝いたします。
………ローランデ………”」
マリアンネが叫ぶ。
「…つまりギュンターは…大公子息に、付き合わされたの?!」
ローズマリーも声を張り上げた。
「酷いわ、約束したのに!」
公爵は、慌てて告げる。
「でも大公子息の、大事に御用事だ。
大公子息を、恨めるのかい?」
突然みな、シン…となる。
公爵は、やりきった。
と安堵し、穏やかに告げた。
「朝食の用意が、出来てるはずだ」
アナロッテが
「頂くわ」
と言うと、ディスカッテも
「お腹が減ったわ」
と言い。
他も空腹を思い出したのか、扉に背を向け始める。
公爵は全員が廊下の向こうの、一階へと降りる階段目がけ、歩き始めるのを確認し。
部屋を出て、扉を閉めた。
それぞれの寝室から、男友達が浮かない顔で出て来るのを見て、小声で囁く。
「機嫌を取って、ギュンター殿のことを忘れさせないと」
皆、頷くと
「池へ出かけ、ボートに乗るのは?」
とか
「昼食をピクニックで食べるのは?」
とかの提案を出した。
一人が
「…本当に、二人は去ったのかい?」
と聞くので、公爵は請け負った。
「確かだ」
それを聞くなり、一番若造の、セルダンが安堵のため息を吐き出した。
「…昨夜、ギュンター殿が私の部屋をノックした時の、恐怖と言ったら!
冬の森で腹を空かせた大熊に出会った時以来の、恐怖でしたよ!」
と叫ぶので。
男達は一斉にセルダンを見つめ、次に、一人が吹き出すと、次々みんな、吹き出した。
一番若いセルダンは、笑う年上の男らを怒鳴りつける。
「初めてなのに、あんな凶暴な男に掘られたりしたら!
間違いなく、壊れますからね!!!」
どっっっ!!!
セルダンの決死の叫びは、男らの笑いを、もっと大きくした。
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