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帰り道 11
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がたっ!
ローランデが物思いに耽っていた時、音がした。
どこからの音だろう?と室内を見回す。
いきなり…衣装戸棚が内から…扉が僅かに開く。
立て付けが悪いのか?
見ていると、扉が僅かに開いて………。
「…ギュンター……………!」
ギュンターは押し開けた衣装箪笥から漏れる、細長い灯りの向こうにローランデの愛おしい白面(しろおもて)と青の瞳を見つけ、頷いた。
辿り来た背後の薄暗い隠し通路に振り向き、自分の部屋へ戻って行こうとする公爵を見つめる。
公爵は気づき足を止め、微笑って言った。
「私は貴方と大公子息の関係について、口を閉ざす。
だから貴方も、ローズマリーと私の事を妻には決して言わない。
そう…約束してくれるでしょう?」
ギュンターは返答を待つ公爵に呟いた。
「あんたとローズマリーの関係がバレバレのように、俺とローランデもそうだってのか?」
が、公爵は悪戯っぽく微笑った。
「あの決闘騒ぎの演技が、無駄だったか?
との問いに
『無駄ではなかった』と答えましょう。
ローズマリーはいつも気のある男相手に、恋人のように振る舞う。
私で、無い場合も。
だからどの男と居ても『関係がある』と人に思われてる。
貴方と大公子息の関係については…。
だって貴方のような奔放な男がどの女性をも袖にして、彼と居たがるのは今夜は彼と、過ごしたいと熱烈に要望してる。
そう推測した迄です」
ギュンターは肩を竦めた。
「どれか一人女を取り置きしてたら、疑わなかったか?」
公爵は頷いた。
「私も貴方も相手を一人に絞れない。
余程特別な、一人以外は」
ギュンターはぶすっ垂れて言った。
「(いかにも遊び人だと、バレてるんだな)
が、北領地[シェンダー・ラーデン]で相手が男は、御法度なんだろう?」
公爵は肩を竦めた。
「私は中央テールズキース育ちだし、少年相手に遊んだ事もある。
が、恋人にしたがる男は少ないものです。
ましてや相手が大公子息の場合はね」
ギュンターは肩を竦めた。
公爵は念押しした。
「妻は私の浮気相手が、ローズマリーの場合だけ我慢出来ない」
ギュンターは請け負った。
「生涯口を閉ざそう」
公爵も微笑った。
「では私もそうしよう」
入れ替わりに自分の部屋に戻り行く公爵の背を見つめ、ギュンターはその窮屈な衣装戸棚の中から、目を見開くローランデの居る部屋へと潜り出た。
「…ど……抜け…道なのか?
公爵に…………」
ローランデは公爵に、知られたのか?と聞こうとした。
ギュンターは途中屈んだ膝の埃を払いながら呟く。
「俺の部屋に押し寄せる、女を全部袖にしてここに来たから、バレたようだ」
ローランデは真っ赤に成って怒鳴った。
「君と関係があると知られたら、明日どんな顔をすればいい…!」
が、ギュンターは怒ってるローランデの、腕を掴み素早く言った。
「話は後だ。
ここに来る通路は、屋敷の者は皆知ってる」
言ってローランデの腕を引っ張ると、廊下に続く扉を開ける。
こっそり誰も居ないのを見、内心
「(全員、抜け道を使ってるんだろうな)」
と思い、廊下に足音を忍ばせ、出て行く。
ローランデは引っ張られ、ギュンターがこそこそしてる様子につい、口を噤む。
ギュンターが廊下の奥の行き止まり、セルダンの部屋の扉を叩く。
何気に開けて、そこにギュンターの顔を見つけた時のセルダンの、驚愕と恐怖に見開かれた顔ったら無かった。
「ギ…ギュンター殿………!
わ…わ…私は田舎育ちで、たしなみが無いしその………。
貴方が楽しめる相手とは、到底思えません!!!」
がギュンターは言い訳るセルダンを肩で突き飛ばして押し退け、ローランデの腕を引いて中にさっと滑り込み、セルダンに怒鳴る。
「とっとと扉を閉めろ!」
セルダンはローランデを見、呆けたまま扉を閉める。
ギュンターはセルダンに振り向き、素早く言った。
「俺は大公から彼の私生活を護れと、言い渡されてる。
ローランデの部屋には抜け道で出入り自由だ。
それで…アナベルに深夜押しかけられると、子供が生まれたばかりのローランデは困った事になる」
ローランデも言葉の内容にぎょっ!としたが、セルダンも叫んだ。
「アナ…!」
言いかけて、はっ!とする。
「…確かに無いとは言い切れない」
ギュンターはたっぷり頷くと
「君には代わりにローランデの部屋に泊まって貰い、今夜の監視を命ずる」
セルダンは、驚いてギュンターを見上げる。
「でも私はあの…万が一、アナベルが私とローランデ殿を間違えたりしたら………」
「君が彼女を不快と思うなら
『深夜男の寝室に押しかけるのは、はしたない』
と怒ってやれ」
「では…でも………。
不快と、思わなかったら?」
「ならローランデの代わりに、抱けばいいだろう?」
「私の事を、彼女はローランデ殿と思ってるのに?!」
「ちゃんと自分だ。と、事の終わった後に言ってやれ」
「そんな事をしたら、大騒ぎに成りますよ!」
ギュンターはジロリ…!とその年若い青年を見た。
「事の、後でもか?
君は男として、そこ迄自信が無いのか?」
セルダンはごくり…!と唾を飲み込んだ。
「つまり、騒がれないよう満足させろと?」
ギュンターは、当然だろう?と頷く。
そしてさっさとセルダンの背を押し扉を開けて押し出す。
廊下に出たセルダンはそれでもまだ、不安そうに年上の金髪美男を見つめる。
ギュンターは、頷いて言った。
「男なら腹を括れ!
ソノ気で迫れば、君はいい男なんだから相手は陥落するさ!」
セルダンは後押しされ、うわずりながらも何とか、頷いて見せた。
廊下を歩くその足取りはよろよろで、何もない場所でコケている。
「その直ぐ横の扉だ」
こっそり言ってやると、セルダンは頷き、もう一度縋るようにギュンターを見、ご利益を貰うように頷き掛け、意を決してローランデの部屋の、扉を開けて中へと消えた。
ローランデが物思いに耽っていた時、音がした。
どこからの音だろう?と室内を見回す。
いきなり…衣装戸棚が内から…扉が僅かに開く。
立て付けが悪いのか?
見ていると、扉が僅かに開いて………。
「…ギュンター……………!」
ギュンターは押し開けた衣装箪笥から漏れる、細長い灯りの向こうにローランデの愛おしい白面(しろおもて)と青の瞳を見つけ、頷いた。
辿り来た背後の薄暗い隠し通路に振り向き、自分の部屋へ戻って行こうとする公爵を見つめる。
公爵は気づき足を止め、微笑って言った。
「私は貴方と大公子息の関係について、口を閉ざす。
だから貴方も、ローズマリーと私の事を妻には決して言わない。
そう…約束してくれるでしょう?」
ギュンターは返答を待つ公爵に呟いた。
「あんたとローズマリーの関係がバレバレのように、俺とローランデもそうだってのか?」
が、公爵は悪戯っぽく微笑った。
「あの決闘騒ぎの演技が、無駄だったか?
との問いに
『無駄ではなかった』と答えましょう。
ローズマリーはいつも気のある男相手に、恋人のように振る舞う。
私で、無い場合も。
だからどの男と居ても『関係がある』と人に思われてる。
貴方と大公子息の関係については…。
だって貴方のような奔放な男がどの女性をも袖にして、彼と居たがるのは今夜は彼と、過ごしたいと熱烈に要望してる。
そう推測した迄です」
ギュンターは肩を竦めた。
「どれか一人女を取り置きしてたら、疑わなかったか?」
公爵は頷いた。
「私も貴方も相手を一人に絞れない。
余程特別な、一人以外は」
ギュンターはぶすっ垂れて言った。
「(いかにも遊び人だと、バレてるんだな)
が、北領地[シェンダー・ラーデン]で相手が男は、御法度なんだろう?」
公爵は肩を竦めた。
「私は中央テールズキース育ちだし、少年相手に遊んだ事もある。
が、恋人にしたがる男は少ないものです。
ましてや相手が大公子息の場合はね」
ギュンターは肩を竦めた。
公爵は念押しした。
「妻は私の浮気相手が、ローズマリーの場合だけ我慢出来ない」
ギュンターは請け負った。
「生涯口を閉ざそう」
公爵も微笑った。
「では私もそうしよう」
入れ替わりに自分の部屋に戻り行く公爵の背を見つめ、ギュンターはその窮屈な衣装戸棚の中から、目を見開くローランデの居る部屋へと潜り出た。
「…ど……抜け…道なのか?
公爵に…………」
ローランデは公爵に、知られたのか?と聞こうとした。
ギュンターは途中屈んだ膝の埃を払いながら呟く。
「俺の部屋に押し寄せる、女を全部袖にしてここに来たから、バレたようだ」
ローランデは真っ赤に成って怒鳴った。
「君と関係があると知られたら、明日どんな顔をすればいい…!」
が、ギュンターは怒ってるローランデの、腕を掴み素早く言った。
「話は後だ。
ここに来る通路は、屋敷の者は皆知ってる」
言ってローランデの腕を引っ張ると、廊下に続く扉を開ける。
こっそり誰も居ないのを見、内心
「(全員、抜け道を使ってるんだろうな)」
と思い、廊下に足音を忍ばせ、出て行く。
ローランデは引っ張られ、ギュンターがこそこそしてる様子につい、口を噤む。
ギュンターが廊下の奥の行き止まり、セルダンの部屋の扉を叩く。
何気に開けて、そこにギュンターの顔を見つけた時のセルダンの、驚愕と恐怖に見開かれた顔ったら無かった。
「ギ…ギュンター殿………!
わ…わ…私は田舎育ちで、たしなみが無いしその………。
貴方が楽しめる相手とは、到底思えません!!!」
がギュンターは言い訳るセルダンを肩で突き飛ばして押し退け、ローランデの腕を引いて中にさっと滑り込み、セルダンに怒鳴る。
「とっとと扉を閉めろ!」
セルダンはローランデを見、呆けたまま扉を閉める。
ギュンターはセルダンに振り向き、素早く言った。
「俺は大公から彼の私生活を護れと、言い渡されてる。
ローランデの部屋には抜け道で出入り自由だ。
それで…アナベルに深夜押しかけられると、子供が生まれたばかりのローランデは困った事になる」
ローランデも言葉の内容にぎょっ!としたが、セルダンも叫んだ。
「アナ…!」
言いかけて、はっ!とする。
「…確かに無いとは言い切れない」
ギュンターはたっぷり頷くと
「君には代わりにローランデの部屋に泊まって貰い、今夜の監視を命ずる」
セルダンは、驚いてギュンターを見上げる。
「でも私はあの…万が一、アナベルが私とローランデ殿を間違えたりしたら………」
「君が彼女を不快と思うなら
『深夜男の寝室に押しかけるのは、はしたない』
と怒ってやれ」
「では…でも………。
不快と、思わなかったら?」
「ならローランデの代わりに、抱けばいいだろう?」
「私の事を、彼女はローランデ殿と思ってるのに?!」
「ちゃんと自分だ。と、事の終わった後に言ってやれ」
「そんな事をしたら、大騒ぎに成りますよ!」
ギュンターはジロリ…!とその年若い青年を見た。
「事の、後でもか?
君は男として、そこ迄自信が無いのか?」
セルダンはごくり…!と唾を飲み込んだ。
「つまり、騒がれないよう満足させろと?」
ギュンターは、当然だろう?と頷く。
そしてさっさとセルダンの背を押し扉を開けて押し出す。
廊下に出たセルダンはそれでもまだ、不安そうに年上の金髪美男を見つめる。
ギュンターは、頷いて言った。
「男なら腹を括れ!
ソノ気で迫れば、君はいい男なんだから相手は陥落するさ!」
セルダンは後押しされ、うわずりながらも何とか、頷いて見せた。
廊下を歩くその足取りはよろよろで、何もない場所でコケている。
「その直ぐ横の扉だ」
こっそり言ってやると、セルダンは頷き、もう一度縋るようにギュンターを見、ご利益を貰うように頷き掛け、意を決してローランデの部屋の、扉を開けて中へと消えた。
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