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帰り道 9

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 階下の豪勢な素晴らしい晩餐の席に降りていくと、皆びくっ!と目を見開き、自分を見てるのにギュンターは気づく。

感情のままローランデを抱けず、かと言って泣けず、感情を吹き出す事が出来ず煮詰まって不機嫌極まりないせいなのか…それとも披露した戦いぶりで、悪友共から近衛中が今は皆が思い知ってる、野獣ぶりを見せつけたせいなのか………。

怖がられていた。

言葉無くギュンターの登場で息を飲む、静まりかえった一同の中、
がたっ!
と音がして、ローランデが席を、立つ。

そして自分を迎えるように正面に立つと囁く。
「素晴らしいご馳走だ。
機嫌を、直してくれるだろう?」

そうだ。演技中だっけ。
いい、演技だ。

そう…思ってローランデを見つめた。
が、彼は微かに震えていて…その愛しい青の瞳が潤んでいた。

人目が無かったら抱き寄せて、思いを込めて口付けたろう…。
がギュンターは渾身の力を込め、自分の感情を抑え込んだ。

努めて、ぶっきらぼうに告げる。
「俺の口に、合うかな」

そう言って、公爵が示してくれる自分の席に、着く。



が晩餐は、ギュンターがもりもり食べて飲むのを目にし、皆直ぐに打ち解けた。

ローズマリーは再びギュンターの横で、しきりにしゃべりかける。
ギュンターは幾度もチラ…。と公爵を盗み見たが、やはり気に成る様子で、ギュンターにその気が無いのを公爵は知っていたから、妻に内緒の恋人のその様子に、困ったように眉を寄せ、ギュンターに示した。

ギュンターも肩を竦めて、苦笑いして見せる。
公爵は、“解ってる”と頷いていた。

が、ローズマリーの自分を見つめる瞳と会話の成り行きで、彼女が今夜自分の寝室に、絶対こっそり忍んで来る。と解り、口に付けたグラスの中身を食卓に、ブチまけそうに成ったが、我慢した。



 食後酒を飲む為に皆が場所を居間に移し、雑談に華を咲かせるさ中、ギュンターは人気のない廊下に公爵を呼び出した。

公爵は何か?
と自分を見上げる。

ギュンターは頭一つ背の低い公爵を見下ろし、囁く。
「俺に宛がわれた部屋は、隠し通路から入れる。とローズマリーに聞いたが」

公爵は途端、顔を下げた。
その様子でギュンターは、ローズマリーが言った事が真実だと知る。

「…本当なんだな?」
「暖炉の下に出口がある。
どころかあの部屋は、衣装棚の後ろからも出入り出来る」

ギュンターが口を開けたが、公爵が顔を上げて先に言った。
「君の部屋だけで無く、この屋敷中がそうだ。
隠し部屋と通路だらけ」

ギュンターが、頷く。
「ローズマリーが来る前にあんたが先に俺の部屋に来て、俺をローランデの部屋に案内してくれないか?」

公爵はちょっとびっくりして、言った。
「それはいいが…ローズマリーはどうする?」

「あんたが俺の部屋に戻って、相手すればいいだろう?」
公爵が目を、見開く。

が途端、慎重に成った。
「妻が居るのに?
第一ローズマリーは直ぐ私と気づく。
彼女は君が喰いたいんだ」

「…暗かったら、最初はバレやしない。
あんたのやり用で彼女が蕩けたら、俺の事は忘れるだろう?
…そっちに自信無いのか?」

公爵は呟いた。
「まあ…そっちは大丈夫だ」

「第一俺とした。と言った方が彼女も、他の女に面子が保てるだろう?

隠し通路だらけなら、俺の心配は他の女達だ。
他に俺に、夜這いを掛ける女が居ないといいんだが。

鉢合わせて俺じゃなくあんたが居るとなると、夜中に大騒ぎになる」

公爵はチラ…!と居間の女性達を伺い見た。
「君の所に忍んで行きそうな女性には先に、その女に惚れている私の友人達を送り込む」

ギュンターは笑って頷いたし、公爵も心からその頼もしい共犯者を見つめ、その肩をポン!と叩いた。



ギュンターが居間に戻ると、今度はアナベルで無くセルダンが、ローランデに張り付いていた。
ギュンターは嫉妬でむかっ腹立ってセルダンに背を向け、こっそり二人の会話を立ち聞きした。

が、セルダンの関心事は、ローランデがどうやってそれだけの剣の腕前を身に、付けたか。だった。

ほっ…としてもう一度、思い直す。
ここは中央テールズキースで無く、北領地[シェンダー・ラーデン]だったな。と…………。

が、ローランデは向かいのセルダンの背後に背を向けて立つ、ギュンターが気になって仕方無かった。

が、セルダンの次はアナロッテで、ローランデの素晴らしさを褒め称え、大公の後を継ぐに相応しいお方だ。と頬を、染めて告げる。


ギュンターは向かいで話しかけて来るアナロッテの姉、ディスカッテに顔を、傾けた。
「公爵とアナロッテは政略結婚なのか?」

彼女はチラ…!と、北領地[シェンダー・ラーデン]中の若い娘達に『夢の王子様』と呼ばれている彼女らの憧れの的、大公子息ローランデに、しきりと話しかける妹を見た。

そして、聞き耳立てて顔を傾ける、金髪の素晴らしく洗練された美男をうっとりと見つめ、囁く。

「アナロッテはローランデ様に憧れていたのに、彼が結婚した晩ヤケに成って側に居た公爵と、関係を持ってしまって…。

けどその場をお父様に二人とも、見つかってしまったのよ」

ギュンターは眉間を寄せた。
「…つまり…たった一回の事で二人は…体面を保つ為に結婚させられたのか?」

ディスカッテは声を潜めるとギュンターに小声で答えた。
「でも公爵は家柄がそれは良かったから…。
もし相手が、取るに足らない家柄の男だったらお父様は、絶対結婚させたりなさらなかったわ」

ギュンターは頷く。
「…つまり公爵が、捕まったのか?」

ディスカッテは吐息を吐くと手にした扇で口元を隠す。
「でも結婚してても…公爵はそれは、奔放な方なのよ。
貴方に惚れ込んでるローズマリーは…公爵ととっくの昔に関係があるし。

それで、ご存知?
お泊まりのお部屋に誰にも見られず辿り着く方法を私、知ってるのだけれど………」

ギュンターはさっ!と顔を、背けた。

これが、ローランデが居ず、彼とロクに会えない時期なら来る者拒まずで誘いに乗ったろうが…。

そして顔をディスカッテに戻すと、囁き返す。
「…もう、先にローズマリーと約束しちまった」

ディスカッテが心から残念げに、吐息を吐いた。
「何時に?」

ローズマリーは、一点鐘。と告げたがギュンターは言った。
「二点鐘の、鐘の鳴る頃」

ディスカッテが頷き、ギュンターは絶対彼女は、二点鐘の鐘が鳴る前にやって来るだろうな。と思った。

その次はアナロッテの叔母のマリアンネ。
彼女にぞっこんの男が、ギュンターに幾度も視線を送り色目使う彼女に思い出させようと、仕切りと「御夫君は…!」を連発していた。

が彼女はディスカッテが離れると、入れ替わりにギュンターの、横に付いた。
結局、ディスカッテと同じ事を言う。

この屋敷は興味深い構造をしていて、貴方の部屋に誰にも見られず入れるのだと。

マリアンネの次はローズマリーと同様、いとこのラベンダーがギュンターに、誘いを掛けた。

ギュンターは公爵を見つけると、こっそり名を上げた女達を自室に足止めするよう、耳打ちした。

公爵はギュンターに誘いを掛ける女達を盗み見、笑う。
「たった一度の機会だと、皆必死の様子だ。
彼女達が自室に引っ込んだら、直ぐ行くよう男達に伝えよう」

ギュンターは頷く。
そして、いつ迄経ってもローランデの横に張り付く彼の妻、アナロッテに顎をしゃくった。
「あんたが寝室を出てたら…彼女は誰が、足止めする?

こんな事言いたくないが、結婚前彼女はローランデにぞっこんだったんだろう?」

公爵はアナロッテを見た。
「…別に私が足止めしなくても…。
彼女に惚れ込む私の友人を行かせれば事は済む」

ギュンターはつい、自分の妻の寝室に間男をけしかける公爵の顔を、覗き込んだ。
「いいのか?
仮にも奥さんだろう?」

「お互い遊びだと、割り切っていたのに彼女の父君に傷物にされた。と怒鳴り込まれて結婚迄したんだ。

表だってはお互い口にしないが、彼女だってこの結婚が、誠実な物でも愛情満ち溢れた物でも無いと、解ってるさ。

…が当然、彼女は憧れの大公子息が妻の居ない滅多に無いこの機会、彼と心から望む一夜を、過ごしたいだろうがね」

ギュンターはそれを聞いて、思い切り肩を竦めた。

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