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12 秘め事

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 ローランデは風呂の後のガウン姿で、目の前に立つギュンターをそっと見上げた。

ギュンターは彼を優しく見下ろし、つぶやく。
「切り札はいつでも使える。これで彼女もお前の意思を、無視出来ないだろう?」

言われてローランデは俯いた。
「…そういう事を、考えていたんじゃ、無い」
「じゃ、何だ?」

「全部、君の言った通りだった。
結局脅して、彼女は私の言葉を聞いた」

ギュンターは思い切り肩を、すくめる。
「それが、不満か?」

ローランデはその色白の、端正な面を上げた。彼の物言いたげな青い瞳に見つめられ、ギュンターは問うた。

「…聞こうか?」

ローランデは顔を上げてその長身の、美貌の男を見つめた。
「…頼むから、私を捨てる時はそう言ってくれ」

ギュンターはいきなり眉を、思い切り寄せた。

「自分が何を言ってるか、解ってんだろうな?」

「でもデルアンネが言った事は、私の気持ちだ。
君はいつかきっと本物の女性が良くなる」

ギュンターはいきなり、わなわな震え怒鳴った。

「ずっとお前に『惚れてる』と言い続けてるのはこの!
俺で!

お前は“好きじゃない”とのたまってんだぞ!!
普通、逆だろう!」

ローランデは顔を、上げた。
「…だって………」

ギュンターは怒りきって怒鳴った。
「だって、何だ!」

「君はとても詳しいし………」
「何に?!」

途端、ローランデが頬を染める。
「その……。
私の体の反応だとか……」

「で?」
ギュンターは、ふて切っていた。

「正直、最近、男が怖い……」
「どう、怖い?」
「……私の……本当の姿を、見透かされそうで」

ギュンターは、俯くローランデを見つめ唸る。

「お前最近、色っぽくなったしな」
ローランデが端正な顔を、不安げに上げる。
ギュンターがため息を付いた。

「大体お前、剣を握れば雑念無じゃないか。
お前の剣士としての腕前は知れ渡ってるし、誰もが一目置いてる。

で、いい加減俺と寝た後、顔に出さないように出来ないのか?」

そうギュンターに覗き込まれ、ローランデは真っ赤に成って俯いた。その可愛さに、ギュンターはため息混じりにつぶやく。

「…大丈夫だ。
お前に迂闊に手なんか出す奴はいつでも俺が相手になってやるってのは、有効だ。

で?
まだ何か、不安なのか?」

ギュンターの紫の瞳がやけに優しく、ついローランデは微笑(わら)ったものの、思い出すようにささやく。

「…・君、最近無茶、しなかったろう…?」
「?」
「凄く、優しかった」

「ああ………」
「どうしてかと、思って」

ギュンターは一つ、ため息を付いた。
「だって親父になって、嬉しかったんだろう?」

ローランデは顔を、上げる。

「だから………つい、手加減した」

ローランデが、顔を傾げ尋ねる。
「手加減が、優しいのか?」

「そう、感じたのか?」
「そう、感じた」

ギュンターは、ため息を、吐く。

「どっちがいいんだ?
だが大概もう、手加減されると物足りないんだろう?」

ローランデは真っ赤になって俯いた。が、思い直して尋ねる。
「手加減って言うのは、気が抜けてるって事なのか?」

ギュンターは質問の答えをハズされ、肩をすくめる。
「そうだな。表面を、なぜてる感じだ。
喰ってるんじゃなく」

ローランデが、眉を潜めた。
「どうして喰うんだ?」

ギュンターは即答した。
「野獣だから。喰らう時は、真剣だ。

本当に、欲しいからな」

ローランデはそう言う、その美貌の野獣を見つめた。
「あんたの惚れたは、喰らうのか?」
「そう、なるな」

ギュンターは微笑んでローランデを伺う。
「嫌か?」

真顔で尋ねられ、ローランデはつい、頬が赤くなった。

が、ギュンターの方はもう限界だった。
ローランデときたら夕方の情事の後だし、風呂上がりでそれは色っぽいし、デルアンネの一件でギュンターを頼り切って子供のように素直だった。

日頃あれ程手強い騎士が、隙だらけだと思うと余計に。

ギュンターが顔を、そっと寄せると、ローランデは少し顎を上げ、それに、応えた。





 デルアンネはぷりぷり怒ってた。
彼女は敗北、した事なんか無かった。完全に勝者の筈だった。

マリーエルを少しあやして気分を戻すと、彼女は寝酒を飲もうとテラスの続き部屋へと足を向けた。

ギュンターを一目見た時、彼女の予想と全然違うのに驚いた。

いい男だとは聞いていたけど
“そこら辺では滅多にお目にかかれない素晴らしい美男”

で、しかも近衛の猛者だと聞いていたから、単に逞しくて愚直で頭の軽い腕っぷしだけ強そうな男だと思ってたのに、ギュンターは逞しいだけで無く、しなやかだった。

独特の仕草や立ち振る舞いに隙が無く、それが彼を更に格好良く見せている。

ギュンターの中味が解ってますます“しなやかな野獣”で見事な男だとも。

だからこそ……!

そんな男がきりきり舞いして自分に敗北する姿を、それは楽しみにしていたのに!!

ギュンターの目の前で彼女の大切な『夢の王子様』ローランデが
“自分はとんでも無い馬鹿だった!”
とうっとりした表情で彼女の手を取り、跪き、手に口づけながら改めて揺らがぬ愛を彼女に誓い…。

そして振られたあの“滅多に見ない美男”が、情けなくべそをかく姿を、思い描いていたのに!!

彼女の夢を台無しにし、そして目の前で!!!

あの、端正で気品溢れて美しく、そしてとても優しい青い瞳のローランデを粉々にした!

ローランデの肌を晒し、女のようにいたぶって、何度彼が叫んでも、犯すようにして……!

目を覆えるんなら、そうした。
ローランデが女以上に綺麗で色っぽく、あいつの腕に抱かれてる姿なんて!

デルアンネの瞳に、悔し涙が、浮かんだ。

だから…!
薬を盛って、ローランデが私の事をどれ程好きかあいつに見せつけたかったのに!

知ってたなんて!

大公に、告げ口しようとしたのはこっちだった。
…今夜をやり過ごし明日の早朝、ローランデの父、大公を呼んで…教練で、ローランデがギュンターにどんな扱いをされているかさりげなく…臭わせ、ギュンターを、息子に不埒を働くものとして大公の厳しい視線に晒し、追い払うつもりだったのに…!

デルアンネはどう頑張っても今の状況が、理解なんか出来なかった。

だって…大人しくして、彼を手に入れる為の万全の策を練り、ちゃんと世継ぎの、男の子迄授かったのに!

つい腹を立てすぎて目的の部屋の扉を通り過ぎた事に気づき、彼女は戻って扉を開けた。

一瞬、閉めようかと思ったが夕方とはうって変わってローランデは、ギュンターの口づけを恋人のように受けていた。

ギュンターの腕は彼を捕らえてなんか居ず、ギュンターはローランデに顔を傾け、ローランデはギュンターの口づけを、顔を仰向け受け取っていた。

デルアンネの心に警鐘が、鳴り響いた。

ローランデは………。
彼は決して認めたりはしなかった。ただ、困ってると。

でも、ギュンター無しでは、居られないと………・。
だけど…………。

どう見てもローランデはギュンターの事がとても、好きなように見える。

そして、ギュンターはその事を、知っているようにも。


…だからあれだけの暴挙をしても、ローランデに嫌われたりはしなかったんだ!

デルアンネの、足が凍り付いた。


ギュンターはローランデのガウンの前の紐を、さっと引く。
デルアンネは自分が、覗き見をしてるのに気づいた。
が、構わなかった。

堂々と“見ていけ”と、ギュンターは言える男だ。今度だって、見咎められはしない筈だ。

白くて、適度に肩幅があり、均整の取れた、形の綺麗な胸だった。
俯くローランデの美しさは、彼女の知っている、優しげなのにとても青年っぽい彼とは違っていて、どこか、処女の乙女のようにすら見え、ギュンターが顔色も変えずその美しさに、息を飲む様子が解った。

ギュンターの腕がローランデの腰に巻き付き、ゆっくりと抱き寄せると、ギュンターの顔は傾き…その形の綺麗な胸へと、降りていった。

ローランデはもう、微かに震っていた。

ギュンターの唇が触れると途端、感じたように目を閉じ、白い喉を晒す。

その姿があんまり綺麗で色っぽく、ギュンターの腕はローランデを、もっと強く自分に引き寄せる。

「あ……あ……っ!」

夕方、散々嬲られた乳首を再び、熱い唇で擦られると、ローランデはひどく感じるようで、その手が、咄嗟にギュンターの腕にしがみつく。

舌が突起の先端をじらすようになぜ、その後…きつく吸い上げられローランデは身を、震わせた。

「ん……ぁ…っ!」

だがギュンターは、ローランデの股間がもう反応してるのを知り、顔を上げると、腕に抱いたままそっと、促す。

ローランデはギュンターを見上げ、肩に殆ど、落ちそうなガウンを引っかけたまま、隣の、一人掛けのソファに崩れ落ちるように腰を、降ろした。

ギュンターは座らず、ローランデの前で屈むとその足を開かせ内へと入り、その白い、両腿をゆっくり肩へと、担ぎ上げる。

ローランデはもう、ギュンターが何をする気か、解ったようだった。

大人しくするに任せ、その股間にギュンターが顔を埋めると途端、形の良い白い胸を反り返らせ、長い足をギュンターの肩の上で揺すり仰け反る。

「ぁ……あ…っ!」

ランプの灯りが陰影を作り、その胸は更に白く目に映る。

「ん……ぁ……あっ!」

ローランデが、股間に顔を埋めるギュンターの頭に手を掛け、与えられる愛撫に、囚われたように身を、くねらせた。


いつもだった…。
ローランデは思った。

こんな事をされ続けたら、もう絶対、他では満足出来ないんじゃないかと思う程ギュンターはいつも的確で、快感に包まれてあっとう間に、頂点まで登りつめてる。

もう目が潤み、彼が夕方のあの、激しいやり方を再びするんじゃないかと心配になってつい、つぶやいた。

「お…願いギュンター…今度は……」

ギュンターは、頷いたような気が、した。が、ローランデは腿を、高く引き上げられ、殆ど仰向けに近いくらいソファに背を倒されてようやく、次にギュンターが何をするのか、解って焦った。

「ギュン……・!それは、嫌!」

がギュンターはもう、顔を埋めていた。

「あん…っ!ぁ………ん……んっ!」

ギュンターの舌が、高く抱え上げられて開かれたその下、双丘の蕾の周囲を這い、舌先で割って入り口を舐められるともう、たまらなかった。

「ギュン…ターお願い……嫌……っ!」

ギュンターが、でもたっぷりそこを嬲る気だと知って、ローランデの頬が羞恥に染まる。
逃れようと両足を振るが、腿を掴むギュンターの手は、びくともしない。

じれるような感覚に嬲られ、ローランデは肘掛けを握りしめ、殆ど倒した背を揺すって反り返った。

「いや…ん……あ……んっ!」

自分でも恥ずかしいくらい、甘えた声に聞こえ、が、ギュンターの舌がそこでくねると、声を殺すのは無理だった。

じわじわと舐められるとたまらなくて、ローランデはつい身を、揺すって叫ぶ。

「ギュンター…!お願い!あ……んっ!」

必死で身を起こそうとするが、それを知っているようにギュンターの舌が意地悪く舐め上げる。

「ギュン…ター!…ギュン…ター……!」


デルアンネはっ、とした。

あの…声だ。

まるでその声しかギュンターを動かす事が出来ないみたいに、ギュンターはローランデの、甘い声音を聞くと身を、起こす。

乱れて、息絶え絶えの裸のローランデを抱き寄せると、ギュンターは着ていた自分のガウンを肩から滑り落とした。

デルアンネはぞくっ、とした。

想像通り、ローランデのそれは綺麗な白い裸体と違い、逞しく見事に締まった筋肉で、しなやかで鋼のようでそしてとても……男らしかった。

彼の胸に抱かれるとローランデは男に、見えなかった。

女ですら無い、中性の、とても綺麗な生き物のように瞳に映る。

「お…願い…今日は…縛ら…ないで……」

ローランデが彼の胸でそう、懇願するとギュンターはぞくりとする程低い声で彼の耳元にささやいた。
「だってお前……」

そう言って、首筋を食べるように舌を這わせる。
ローランデはギュンターの声音に、そして舌に、感じたように身を小刻みに震わせた。

「いつも、それは早いだろう…?」

ローランデはそれが恥ずかしいらしく、かっと頬を染めて俯く。
ギュンターはそんな彼が可愛いようで、途端、食べるようにその、真っ赤な唇を塞いだ。

「ん……っん………っんっ…」

ローランデの、吐息が甘く、ギュンターが子供を抱くように優しく彼の腿を持ち上げ、抱き寄せては自分自身を、彼の双丘の下から腰を進めて捻り入れる様子が、はっきりと目に映った。

ローランデの白い尻はとても形良く、いつも、格好いいと思っていた長い足は綺麗で、ローランデは途端、ギュンターの背に腕を回してしがみつくとギュンターは一瞬、目を閉じたまま顔を、揺らす。

伏せた濃い紫の瞳がランプに照らされ、そのゆっくり開かれる瞳は明るい紫色で光を弾き、ローランデだけを、見つめていた。

ギュンターの固く太いものがゆっくり、ローランデの白い双丘に押し込まれて行く様子が解り、ローランデの形の良い眉が寄り、赤い唇が、戦慄いた。

「ん……あ………あっ……!」

ギュンターがもう、限界だと言う様に彼の腿を掴み上げると、そのまま身ごと腰を進めて刺し貫き、ローランデをソファに押し倒した。

ローランデが瞬間、白い胸を反らし、大きく仰け反る。
「ああっ…………!」

彼の独特の色の髪が散り、白い顔が艶を増し、真っ赤な唇が戦慄く。

「あっ……!ああっ……!」

ギュンターに、激しく腰を打ち付けられ貫かれ、ローランデの身がのたうつようにくねり、とうとう両腕を、ギュンターの首にきつく巻き付け必死でしがみつく。

「あっ……んっ!」

ギュンターは彼の膝の下に腕を入れて足を抱え、更に腰を、激しく押しつけ挿し入れると、ローランデが喉を晒して反り返る。

「あ……………っ………」

そのままぐったりしたように、抱くギュンターの腕に顔を埋め、ギュンターも同時に動きを、止める。

デルアンネはローランデが達ったのは解ったけど、ギュンターも同時だなんて思えなくて、ギュンターが惨めたらしく果てたローランデの中でまだ、身を揺すると思っていたが違ってた。

ギュンターは、まるでその思惑が解ったかのようにランプの光の届かない暗い戸口に居る彼女に、振り向く。

デルアンネは一瞬、息が止まるかと、思った。

が、ギュンターはぶっきら棒につぶやく。

「楽しそうだな?」

デルアンネはその皮肉に、一気に腹が立った。

「貴方、もしかしてとっくに先に、達っちゃってたんじゃないの?」
戸口に背をもたせ、腕組みし意地悪く、そう言う。

ギュンターはまだ、息を切らしていたが、その見事な裸体を平気で彼女の前で晒し、肩を、すくめた。

「もっと、男と遊べ。
たまには上手い奴も、居るかもしれん」

デルアンネは最高に腹が立った。

「私は、ローランデと!
結婚してるのよ!!!」

バタンと扉を閉め、ぷんぷん怒って出て行く。

ローランデは、どうしてデルアンネの声がするのか解らなかったが、ぐったりした身を起こすと彼女が戸口に居て、あんな事の後にギュンターはいつもと変わりなく彼女と会話していて、つい、扉が閉まった後ギュンターに尋ねた。

「彼女が居る……って………?」

ギュンターはローランデの見開かれた青い瞳を見、かったるそうに金の髪を指で梳き上げると、唸るようにつぶやく。

「ああ……途中で、気づいた」

ローランデは、呆けた。

「どうして……止めない……?」

ギュンターは真顔で問い返した。
「どうして止める?」

ローランデは途端、椅子の上にあったクッションを掴むとギュンターの顔目がけ、思い切り振った。

「人が居たりしたら普通、止めるだろう?!」

クッションが激しい衝撃で顔にめり込み、ギュンターは反論を、諦めた。



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