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夕食の席に、ローランデはついた。
ギュンターの言った事を確かめたくて、その一心でローランデは羞恥を胸の内に隠した。
蝋燭の灯りの中、椅子の背を引きながらそっと椅子に掛ける彼女を伺い見る。
がやはり、彼女は取りすまして顔色も変えない。
ローランデは俯くと静かに椅子に、掛けた。
ギュンターが相変わらずの美貌で、やっぱりとてもすまして見え、さっきの事なんか微塵も感じさせない程隙無い見事な男ぶりだったから、随分気持ちが落ち着くのを感じた。
スープが配られ、それをスプーンですすりながら、ローランデはさっきの出来事がまるで夢のように掻き消えたような静かな夕食の場に、違和感を覚えた。
足が地に、着いてなんか無くて、宙にふわふわ、浮いてるように現実感が無い。
かちゃ…。
かちゃ…。
ギュンターの肉を切るナイフの音に、ローランデはとうとうデルアンネを見つめ、怒鳴った。
「さっきちゃんと、見たんだろう?」
デルアンネはだが、にっこり笑った。
「ええ」
ローランデは、信じられなかった。
「君には、神経が無いのか?…自分の夫があんな……」
言いかけ、彼はかっ!と白い頬を染める。
「あんな風で、恥ずかしくないのかと、聞きたいんだな?
だが、彼女にとってはどうでもいいんだ」
ギュンターが口を挟み、デルアンネはきっ!とその綺麗な顔できつく、そう言った金髪の美丈夫を睨んだ。
が、ギュンターはたっぷり彼女を見据え、続ける。
「自分の、都合のいい君しか彼女の世界には存在しない。
そうだろう?デルアンネ」
デルアンネはそれでも水のグラスを取り上げ、すました顔を上げる。
「言った筈よ。彼はきっと、卒業すると」
ローランデが、俯いたままつぶやく。
「それは……君がそう、決めたから?
私の、意思で無く?」
が彼女はとうとう激昂した。
腰を浮かして。
ローランデに、怒鳴りつけたのだ。
「ローランデ!
貴方初めて会った時言ったわ!私に!
…彼は素晴らしい美男のたいそう男ぶりが良く!
その上実戦でも隊長としても周囲の信頼を買っている男で!
彼の腕の中に居ると自分の男としての自信が!
…消えて無くなりそうで怖いって!
どうしても言って欲しいんなら言うけど、貴方彼の腕の中じゃ完全に、“女”よ!
でもこの美男さんは大層モテそうだし!
女達が放って置くとも思えない!
ローランデ!
貴方だって、思ってる癖に!
彼がいつ正気に戻って本物の女が、良くなるかって!
彼は貴方を、勝利の証にしたいのよ!
自分の魅力は貴方みたいな堅物の立派な騎士だって落とせるってね!
…そんなものに利用されて、腹が立たないなんて信じられない!
どうして怒らないの?
女の代わりに遊ばれてるだけよ!」
一見彼の為に、彼女は怒っているように見えた。
だがローランデには解ってしまった。
彼女がなぜ、怒っているのかを。
ローランデは静かに、つぶやく。
「はっきり言っておく。デルアンネ。
私は君のものには決してならない」
ギュンターが、そう静かに言葉を放つ、食卓を翳す蝋燭の灯りに浮かび上がったローランデの、白い頬を曝す横顔を見つめた。
デルアンネは目だけをまん丸に、見開いてた。
…我が儘な少女が、この人形はあたしのよ!と叫んでる姿が目に浮かぶ。
そして…多分一度も彼女の前に、それを阻む障害は無かったのだろう………。
ローランデはデルアンネに静かに視線を向ける。
「…少なくとも、ギュンターがもう私に飽きて抱かなくなったとしても…私が窮地に陥ったらきっと、耳を傾け相談に乗ってくれる。
これは………」
隣に座るギュンターの視線を感じ、それでもローランデは静かに続けた。
「……私だけで無く、彼と関わった皆が感じている彼の人柄で、それはとても尊重されている。
態度は…どうしようも無く無礼だけど」
デルアンネはきっと、ギュンターを、睨んだ。
「戦いのさ中、殿方には“信頼”とやらが欠かせないようね?」
ローランデは、頷いた。
「“信頼”が裏切られると命を危険に晒す。
でも戦場で無くっても………」
デルアンネはとても静かで、端正なローランデの顔を見た。とても、嫌な、予感がした。
彼女が愛してやまない、独特の色の、濃淡混じる艶やかで美しい栗毛を肩から背に長く垂らし、その髪に被われた彼の、整って品良い顔立ちには何の表情も、浮かんではいなかった。
デルアンネはつい、縋りつくようにローランデの次の言葉を伺う。
「…普段の日常でもそれはとても、大切なものだと私は思う。
デルアンネ。
私は君に“信頼”を感じられない」
彼女は、静かに俯いた。
「…私は君の為ならどんな事でもする」
ローランデのその言葉に歓喜の表情を浮かべ、デルアンネが咄嗟に顔を上げる。
ローランデは彼女のその表情を瞳に止めはしたものの、言葉を続けた。
「が、それは……“離婚”する為に。
と、付け加えざるを得ない」
デルアンネの喜びの笑顔が、一瞬で落胆に曇った。
「私はこの先君を愛する事が無いから、君はちゃんと君を愛している男と居る方が、君の為だと思う」
デルアンネは俯いたまま、テーブルの下で拳をきつく握った。
確かに…ローランデを侮ってた。
こんなに真っ直ぐ正攻法で、真理を突き付けて来るなんて………。
彼女は皿に、視線を、落とす。
「お腹が、空いているの。食事を、続けていい?」
ローランデは微かにため息を洩らし、頷いた。
その後はただ、ナイフとフォーク、そしてスプーンの、皿を滑る音だけが静かにその場に響いた…………。
ギュンターの言った事を確かめたくて、その一心でローランデは羞恥を胸の内に隠した。
蝋燭の灯りの中、椅子の背を引きながらそっと椅子に掛ける彼女を伺い見る。
がやはり、彼女は取りすまして顔色も変えない。
ローランデは俯くと静かに椅子に、掛けた。
ギュンターが相変わらずの美貌で、やっぱりとてもすまして見え、さっきの事なんか微塵も感じさせない程隙無い見事な男ぶりだったから、随分気持ちが落ち着くのを感じた。
スープが配られ、それをスプーンですすりながら、ローランデはさっきの出来事がまるで夢のように掻き消えたような静かな夕食の場に、違和感を覚えた。
足が地に、着いてなんか無くて、宙にふわふわ、浮いてるように現実感が無い。
かちゃ…。
かちゃ…。
ギュンターの肉を切るナイフの音に、ローランデはとうとうデルアンネを見つめ、怒鳴った。
「さっきちゃんと、見たんだろう?」
デルアンネはだが、にっこり笑った。
「ええ」
ローランデは、信じられなかった。
「君には、神経が無いのか?…自分の夫があんな……」
言いかけ、彼はかっ!と白い頬を染める。
「あんな風で、恥ずかしくないのかと、聞きたいんだな?
だが、彼女にとってはどうでもいいんだ」
ギュンターが口を挟み、デルアンネはきっ!とその綺麗な顔できつく、そう言った金髪の美丈夫を睨んだ。
が、ギュンターはたっぷり彼女を見据え、続ける。
「自分の、都合のいい君しか彼女の世界には存在しない。
そうだろう?デルアンネ」
デルアンネはそれでも水のグラスを取り上げ、すました顔を上げる。
「言った筈よ。彼はきっと、卒業すると」
ローランデが、俯いたままつぶやく。
「それは……君がそう、決めたから?
私の、意思で無く?」
が彼女はとうとう激昂した。
腰を浮かして。
ローランデに、怒鳴りつけたのだ。
「ローランデ!
貴方初めて会った時言ったわ!私に!
…彼は素晴らしい美男のたいそう男ぶりが良く!
その上実戦でも隊長としても周囲の信頼を買っている男で!
彼の腕の中に居ると自分の男としての自信が!
…消えて無くなりそうで怖いって!
どうしても言って欲しいんなら言うけど、貴方彼の腕の中じゃ完全に、“女”よ!
でもこの美男さんは大層モテそうだし!
女達が放って置くとも思えない!
ローランデ!
貴方だって、思ってる癖に!
彼がいつ正気に戻って本物の女が、良くなるかって!
彼は貴方を、勝利の証にしたいのよ!
自分の魅力は貴方みたいな堅物の立派な騎士だって落とせるってね!
…そんなものに利用されて、腹が立たないなんて信じられない!
どうして怒らないの?
女の代わりに遊ばれてるだけよ!」
一見彼の為に、彼女は怒っているように見えた。
だがローランデには解ってしまった。
彼女がなぜ、怒っているのかを。
ローランデは静かに、つぶやく。
「はっきり言っておく。デルアンネ。
私は君のものには決してならない」
ギュンターが、そう静かに言葉を放つ、食卓を翳す蝋燭の灯りに浮かび上がったローランデの、白い頬を曝す横顔を見つめた。
デルアンネは目だけをまん丸に、見開いてた。
…我が儘な少女が、この人形はあたしのよ!と叫んでる姿が目に浮かぶ。
そして…多分一度も彼女の前に、それを阻む障害は無かったのだろう………。
ローランデはデルアンネに静かに視線を向ける。
「…少なくとも、ギュンターがもう私に飽きて抱かなくなったとしても…私が窮地に陥ったらきっと、耳を傾け相談に乗ってくれる。
これは………」
隣に座るギュンターの視線を感じ、それでもローランデは静かに続けた。
「……私だけで無く、彼と関わった皆が感じている彼の人柄で、それはとても尊重されている。
態度は…どうしようも無く無礼だけど」
デルアンネはきっと、ギュンターを、睨んだ。
「戦いのさ中、殿方には“信頼”とやらが欠かせないようね?」
ローランデは、頷いた。
「“信頼”が裏切られると命を危険に晒す。
でも戦場で無くっても………」
デルアンネはとても静かで、端正なローランデの顔を見た。とても、嫌な、予感がした。
彼女が愛してやまない、独特の色の、濃淡混じる艶やかで美しい栗毛を肩から背に長く垂らし、その髪に被われた彼の、整って品良い顔立ちには何の表情も、浮かんではいなかった。
デルアンネはつい、縋りつくようにローランデの次の言葉を伺う。
「…普段の日常でもそれはとても、大切なものだと私は思う。
デルアンネ。
私は君に“信頼”を感じられない」
彼女は、静かに俯いた。
「…私は君の為ならどんな事でもする」
ローランデのその言葉に歓喜の表情を浮かべ、デルアンネが咄嗟に顔を上げる。
ローランデは彼女のその表情を瞳に止めはしたものの、言葉を続けた。
「が、それは……“離婚”する為に。
と、付け加えざるを得ない」
デルアンネの喜びの笑顔が、一瞬で落胆に曇った。
「私はこの先君を愛する事が無いから、君はちゃんと君を愛している男と居る方が、君の為だと思う」
デルアンネは俯いたまま、テーブルの下で拳をきつく握った。
確かに…ローランデを侮ってた。
こんなに真っ直ぐ正攻法で、真理を突き付けて来るなんて………。
彼女は皿に、視線を、落とす。
「お腹が、空いているの。食事を、続けていい?」
ローランデは微かにため息を洩らし、頷いた。
その後はただ、ナイフとフォーク、そしてスプーンの、皿を滑る音だけが静かにその場に響いた…………。
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