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5 急報
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その知らせが入ったとしても、どれだけ急いだって二日は駆け続けなければシェンダー・ラーデンには辿り着けなかった。
だがローランデは途中ずぶ濡れの雨に遭っても、馬を走らせ続けた。
ざっ!
扉を開ける。
帽子、マント毎びっしょり濡れたローランデが顔を出すと、玄関広間に居た彼の父は、明るい茶の髪を肩の上で滑らせながら端正で品格ある顔を上げ、幅広の肩を揺らして椅子から立ち上がる。
ずぶ濡れで進み来る愛息を、その長身ですらりとした逞しい身のその腕を、広げ包むように迎え、明るく澄んだ青の瞳で優しく見下ろしながら微笑む。
大きな、手入れの行き届いた綺麗な手で、雨で凍えたローランデの手をそっと取り、告げた。
「男の子だ…」
ローランデは一つ、頷くと手伝ってくれる父の手を借り、ずぶ濡れのマントを脱ぐ。
帽子を取ると水が滴り、父は召使いに体を拭く布を用意させた。
その部屋には既に大勢の人が祝う為に駆けつけていた。
彼女の、親類や母親。
だがデルアンネはまっ白なレース飾りの枕に身を起こし、同様華やかな白レースの布団で覆われた寝台の上で、その小さな子供を腕に抱いてローランデに微笑みかける。
「…大公様から…いえもう、私のお父様よね。
“マリーエル”とお名前を頂いたの」
彼は横に立つ父を、見た。
背が高く頑健な体格の…だがもの静かで、とても気品溢れた美男の優しい父親を…。
母は病弱でいつも南の療養所に居た。
でも父は、荒くれ者だらけの北領地[シェンダー・ラーデン]地方領主達の中ではとても品格ある都の宮廷人のような騎士で、肩幅が広くとても立派だった。
ローランデが母親に似て華奢なのを心配し、子供の頃から剣を、真剣に仕込んでくれた。
剣士として抜きん出ていなくては、ここの領主達は彼を自分達の長とは認めないだろう。と、それは必死に。
ローランデは父の微笑を受けて促され、その産まれたばかりの小さな子供を、壊さないようそっと、抱き上げた。
“マリーエル”は途端腕の中でその小さな手を上げ、ローランデの頬をピタピタと叩き、笑った。
あんまり小さく可愛らしくて、ローランデはすっかり彼に夢中になった。
けど髪の色を除き、瞳の色も顔立ちもがデルアンネにそっくりで“男の子は母親に似るものだ”と言われ、がっかりする。
けどマリーエルは小さくてもしっかりした子供で、元気で健康だと皆に祝福され、ローランデはとても嬉しかった。
次の朝、ローランデは父親の見送る視線に振り向いた。
卒業しなくてはならない彼は、その屋敷を後にした。
デルアンネの事は一瞬も浮かばず、小さなマリーエルと別れる事だけが、辛かった。
だがローランデは途中ずぶ濡れの雨に遭っても、馬を走らせ続けた。
ざっ!
扉を開ける。
帽子、マント毎びっしょり濡れたローランデが顔を出すと、玄関広間に居た彼の父は、明るい茶の髪を肩の上で滑らせながら端正で品格ある顔を上げ、幅広の肩を揺らして椅子から立ち上がる。
ずぶ濡れで進み来る愛息を、その長身ですらりとした逞しい身のその腕を、広げ包むように迎え、明るく澄んだ青の瞳で優しく見下ろしながら微笑む。
大きな、手入れの行き届いた綺麗な手で、雨で凍えたローランデの手をそっと取り、告げた。
「男の子だ…」
ローランデは一つ、頷くと手伝ってくれる父の手を借り、ずぶ濡れのマントを脱ぐ。
帽子を取ると水が滴り、父は召使いに体を拭く布を用意させた。
その部屋には既に大勢の人が祝う為に駆けつけていた。
彼女の、親類や母親。
だがデルアンネはまっ白なレース飾りの枕に身を起こし、同様華やかな白レースの布団で覆われた寝台の上で、その小さな子供を腕に抱いてローランデに微笑みかける。
「…大公様から…いえもう、私のお父様よね。
“マリーエル”とお名前を頂いたの」
彼は横に立つ父を、見た。
背が高く頑健な体格の…だがもの静かで、とても気品溢れた美男の優しい父親を…。
母は病弱でいつも南の療養所に居た。
でも父は、荒くれ者だらけの北領地[シェンダー・ラーデン]地方領主達の中ではとても品格ある都の宮廷人のような騎士で、肩幅が広くとても立派だった。
ローランデが母親に似て華奢なのを心配し、子供の頃から剣を、真剣に仕込んでくれた。
剣士として抜きん出ていなくては、ここの領主達は彼を自分達の長とは認めないだろう。と、それは必死に。
ローランデは父の微笑を受けて促され、その産まれたばかりの小さな子供を、壊さないようそっと、抱き上げた。
“マリーエル”は途端腕の中でその小さな手を上げ、ローランデの頬をピタピタと叩き、笑った。
あんまり小さく可愛らしくて、ローランデはすっかり彼に夢中になった。
けど髪の色を除き、瞳の色も顔立ちもがデルアンネにそっくりで“男の子は母親に似るものだ”と言われ、がっかりする。
けどマリーエルは小さくてもしっかりした子供で、元気で健康だと皆に祝福され、ローランデはとても嬉しかった。
次の朝、ローランデは父親の見送る視線に振り向いた。
卒業しなくてはならない彼は、その屋敷を後にした。
デルアンネの事は一瞬も浮かばず、小さなマリーエルと別れる事だけが、辛かった。
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