若き騎士達の危険な日常

あーす。

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宮廷貴公子の豪華な浴室

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 ローフィスはデザートの、桃と苺の煮物カスタードクリームがけを小皿に取り分け、デザート用のハーブティーをシェイルの前に置く。

シェイルはカップを口に含み、デザートをフォークで口に運び始めてようやく。

「ごめん…。
結局ローフィスに全部、給仕させた?」

気づいて、謝罪する。

ローフィスもシェイルといる時の、いつもの癖で
『お前と親父とで、シェイルをお姫様扱いしてないか?』
と言うオーガスタスの言葉が蘇り、手を止め自問する。

「(…もしかしてこれが、お姫様扱い…?)」

シェイルのデザートを食べる手が止まり、ローフィスは慌てて叫ぶ。
「いいから、食っちまえ!」

シェイルは言われて頷き、またフォークを取り上げた。

もぐもぐ…と、小さな口で少量を頬張るシェイルを見、ほっとしながら思う。
「(食べてくれれば御の字。
って毎日だったから、これが当たり前で…)」

そう思うものの、シェイルに振り向き、問う。
「お前さ。
俺が『教練キャゼ』入学した後ってちゃんと…」

シェイルは顔を上げる。
「…ディングレーが。
剣と乗馬の訓練付き合ってくれて。
その後、毎度食事も一緒で…。
横で凄く、がっついて食べてるから。
つられて僕も…食べてたよ?」

「ディングレーは、その…料理の取り分けとか…した?」

シェイルは首を横に振る。
「鶏のもも肉、でん!ってお皿にのっけて『食え!』
でディングレーは、手づかみで掴んで、肉にかぶりついてた」

ローフィスは、思わず顔下げて尋ねる。

「で、お前は?」

「…まねして、手づかみで…。
でもディングレーみたいに、三口でおっきなもも肉、食べきれなかったけど」

「(…そうか…。
男って…普通、そうだよな…。
この場合、ディングレーが正解か)」

そう分かると、がっくり、首下げた。

食事を終えて、ローフィスが立ち上がるのを、シェイルは見上げる。

ローフィスは部屋をあちこち見、召使いを呼ぶ紐を探し当てると、引く。

シェイルは手に持つハーブティーのカップを残して、後の食器が全部乗ってる、ワゴンをじっ…と見た。
テーブル上は綺麗に片付けられ、ワゴンの上に食べ終わった皿が、重ねられて整然と置かれてる。

ローフィスがさっさと歩き出すから、気づいて尋ねる。
「お風呂?」

ローフィスは笑顔で振り向く。
「ここの風呂は近いから、いいよな」

シェイルもソファを立ち上がる。

そして手に持つカップに気づき、そっとワゴンの上に乗せて、扉を開けるローフィスの背に続く。

浴室へと進む、ローフィスを見上げて尋ねる。
「いっつも…共同浴場に行くの?
屋外の?」
「遠いよな?
けどよく、ヤッケルにも会うな。
気づくと、あっちから手を上げて、声かけてくる」

シェイルは目を見開く。
「…一緒に…入るの?」

ローフィスは、宮廷貴公子の浴室の豪華さに唖然。
としていたけど、シェイルに振り向く。

「いや。俺らもダチと連んで入るし。
あっちもダチと一緒だから、別々。
それに…だだっ広い浴場に続き、あちこちに、こじんまりした窪みがあるから。
俺とオーガスタスらはいっつも、ちょい上の、窪みに浸かってる」

シェイルは一度行った時。
ヤッケルに岩場の上の方にも、岩の窪みを利用した、こじんまりした場所が幾つもあるのを目にして、尋ねたことを思い出す。
「あっちだと…人が少なくてゆっくり浸かれそう」

そしたらヤッケルは
「上は大抵、学年が上の連中のたまり場だから。
『下級は下の、大浴場使え』
って、上がって行っても、下ろされる」
って言うから…仕方無く凄く広い岩だらけの温泉に浸かったけど。
気づいた生徒にジロジロ見られ、かなり…恥ずかしかった。

そこでようやくシェイルは、ローフィスが。
床はピンクに金の模様の入った洒落たタイルが敷かれ、壁は大理石がはめ込まれ、六人くらいは入れそうな大きさの、縁のあちこちに金の綺麗な蔦飾りの蛇口からお湯が注ぎ込まれてる浴槽を、呆けて眺めてる事に気づく。

「…綺麗で豪華」

シェイルが言うと、ローフィスは無言で頷いた。

タオルやガウンの置かれた棚までも、金の飾り彫刻が彫られてる。
香料壺も、凄く手が込んで、お洒落。

ローフィスは壺を一つ、手に取って、開けて香りを嗅いで、ささやく。
「高いんだろうな…」

「いい香り!」
シェイルがはしゃいで言うと、ローフィスは六つある壺を全部、開けてシェイルに嗅がせた。

「僕、これが好き!」
花の香りで、けれど清涼感もあった。

ローフィスは頷いて、壺の半分を浴槽に入れる。
けれど浴槽がデカいので、結局全部入れた。

香料は、香りが良いだけで無く石けんの役割も果たすから、中で体を擦れば、汚れが落ちるようになってた。

「こっちのは?」

別の段の、形の違う壺をローフィスは取って、開けて見る。
「…入浴後の…オイルだな。
さらっとしてる…。
多分、入浴後に髪や体に塗る」

シェイルも壺を開けて、匂いを嗅ぐ。
「…お風呂に入れる香料と、同じ香りがある!」

「ってか。
多分、風呂に入れた香料と同じ香りのオイル塗って、香水代わりに香りを長く身に纏ってるんだろうな…」

シェイルは、感心したように頷いた。

「だから高貴な人っていっつも、いい香りがしてるんだね?
ディアヴォロスも…そう」

言った後、つい思い出して、ローフィスに振り向く。

「あ!
でもディングレーからはいっつも、草とか砂埃すなぼこりの匂いしかしなくって、あんまりいい香りじゃない!
…だからディングレーが高貴。
って、ピンと来ないんだね。きっと」

ローフィスはそれを聞いて、また吹き出した。


ディングレーは優雅な食事を終え、大貴族のテーブルを立ち上がろうとし。
また悪寒がして、暫く固まり。

皆が『どうしたんだろう?』
と見るので、慌てて取り繕って、偉そうに背を伸ばし
「自室に戻る」
と威張って言って、そそくさと、自分の部屋へと逃げ込んだ。

バタン。
と扉を後ろ手で閉め、ほっと安堵しつつ…。
ふと思う。
「(そーーー言えばローフィス、シェイルと一緒に東の聖地だっけ…)」

けれど彼らがそんな場所で、自分の噂話をしてるなんて思えず
「(…絶対、誰かが。
俺の悪口、言ってるよな…。
まさか…ディアヴォロス?
いや彼は俺の悪口なんて、人と話さない…ハズ)」

ディングレーは扉にもたれかかるように背を寄せた姿勢で固まったまま、噂話しそうな相手を次々、思い浮かべ続けた。


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