若き騎士達の危険な日常

あーす。

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東の聖地の散策

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 シェイルはその後、ラッドラセルに厩に瞬間移動してもらい、厩で馬を借りて、シェリアンと共に東の聖地のなだらかな丘を駆けた。

ローフィスとディラフィスは、馬を並べて二人の後を追う。

シェイルは横に併走する父親を見つめ、輝くような笑顔を浮かべてる。

ローフィスはそんなシェイルの笑顔を、眩しそうに見つめた。

周囲は明るい雰囲気で包まれ、草地を走り続けると…やがて、小高い丘の向こう。
一際高い崖の上に、真っ白で壮大な神殿が見えて来る…。

崖の上の神殿から、東の聖地の住民らの住居が、まるっと見渡せそうだった。

シェイルとシェリアンは馬を止めて…青空を背景に崖にそびえ立つ、真っ白な神殿と横に広がる、やはり白い壁の手の込んだ、優美な建物を見つめた。

「荘厳だね?」
シェイルにそう呟かれ、シェリアンは肩を竦める。
「中は、そうでも無い。
神聖神殿隊騎士は、荒っぽい騎士ばかり。
喧嘩も絶えなくて…能力を使って喧嘩をするから、あちこち崩れたりする」

シェイルは、びっくりして父親に振り向く。
「そうなの?!
中に、入った?!
喧嘩の現場、見た?!」

シェリアンの背後に、ディラフィスとローフィスが追いつき、馬を止める。

ディラフィスはシェリアンが
「喧嘩が始まると、俺達人間は真っ先に、神殿の避難所に移動させて貰える」
と説明するのを聞いて、ぼやく。

「…俺は一度、天井が半分崩れた時。
忘れられて寸でで、瓦礫がれきの下敷きになるとこだった」

シェリアンが、ディラフィスに振り向く。
「あの時は…あの場にいた能力者らは一斉に、天井を支えるので精一杯。
俺は大広間に続く回廊で、見てたけど。
無数の瓦礫は宙で止まり。
お前は慌てて、ぱらぱら瓦礫のカケラが降る中、俺達の方へ駆け込んで来たろう?!」

ディラフィスはジロリ。
とシェリアンを見る。
「…つまり移動はしなかったが、俺を助けたと?」
シェリアンは笑う。
「結果的には。
お前が逃げた後。
瓦礫はゆっくり床に、落とされた」

ローフィスがため息を吐く。
「天井ぶっ壊しといて。
お咎め無し?」

シェリアンとディラフィスは振り向き、同時に叫ぶ。
「無い訳無い」(ディラフィス)
「あるに決まってるだろう?」(シェリアン)

「どんな?」
シェイルが聞くと、シェリアンが答える。
「天井の修復と掃除を。
喧嘩した二人だけでするように。
おさからお達しを受けていた」

ローフィスが首を横に振る。
「それだって、能力使えば難しくないんだろう?」

シェリアンとディラフィスが、目を見開く。

「…一週間経っても天井は完全に修復されず、仲間に二人は散々、嫌味を言われてた」
ディラフィスがそう言うと、シェリアンも説明する。
「雨が降って大広間は水浸し。
それすらも。
二人っきりで何とかしろと。
結構、大変なんだぞ?
例え能力使おうが」

ディラフィスは、それを聞いて頷く。
「俺は喧嘩した一人を知ってて。
笑ってやったら、塔のてっぺんに移動させられ、下ろして貰えなかった」

シェリアンは、笑う。
「あいつら、ホントにとんでもない仕返し、して来るよな?」
ディラフィスは直ぐ思い立って、言葉を返す。
「ああそれで、神聖神殿隊付き連隊の新入り。
三日で辞めたよな」

シェリアンは、もっと笑う。
「神経タフじゃないと、務まらないもんな!」

ディラフィスはため息交じりに頷きまくり…シェイルとローフィスは、思わず顔を、見合わせた。


 シェイルは父親と、東の聖地の丘を馬で駆けながら、尋ねる。
「今日は、疲れないの?!」

シェリアンは笑う。
「ああ!
最近は滅多に、倒れない!」

シェイルはそれを聞いて、本当に嬉しそうに、微笑った。

その後一行は、東の聖地の露店街へと馬を乗り入れた。

馬を引きながら、露天の品を見て歩く。

ここは物々交換で、皆が手作りの衣服やブーツ。
食べ物。
お酒…。
自慢の品を持ち寄って、別の物と交換していた。

あちこちで、品を並べる町の人々。

皆一様に背が高く、とても美しい人ばかり。

年若い美人の前で、美味しそうなチーズやベーコンの乗ったパンが並んでて、シェイルは思わずじっと、パンを見つめた。

「あら人間なの?
珍しいわね。
欲しいなら、あげる」

シェイルは頬染めて俯く。
「でも僕…交換する物、持ってないし…」

けれど横でシェリアンが、懐から皮のベルトを取り出す。
「男物だけど」
「あら素敵!
平気よ。時々男装するから」

そう言うと、パンと果実水の入った瓶がずらりと並ぶ、テーブルを指し示す。
「四つ。
持ってって、いいわ。
飲み物も、一緒にどうぞ?」

ディラフィスが笑う。
「それじゃ、貰いすぎだ。
このハンケチは気に入るかな?」

やっぱり懐から取り出した、とても綺麗な刺繍入りのハンケチを手渡す。

「凄いわ!
こんな綺麗な飾り刺繍のハンケチ、私持ってない!」

ディラフィスは笑うと、交渉始めた。
「じゃ、パンをもう一個。
余分に貰える?」

彼女は喜んで、五つの大きなチーズとベーコンのパンを差し出した。

シェイルとローフィスで二瓶ずつ。
果実水の瓶も受け取る。

「あっちにベンチがあるわ」

彼女に言われて、四人はベンチまで歩き、屋外の落ち着いた雰囲気のベンチで、戦利品を食した。

「お前、二個食べるの?」
シェリアンに聞かれ、ディラフィスは二個目にかぶつりいて、頷く。
「朝から食べて無くて、腹ペコ」

ローフィスは相変わらず食べっぷりのいい、父親を呆れて見た。

一個はかなりな大きさのパンだったけど。
シェイルははしゃいで、食べきった。

「…僕…もここに来る時。
何か、持って来ないとダメだね?」

シェリアンは笑う。
「自分で何か作ってる暇なんて、あるのか?」

シェイルは言われて、俯く。
「…無い」

シェリアンは頷き、懐から細い…明るい緑色に着色された、皮のベルトを取り出す。
「これの方が、彼女向きだとは思ったけど…」
そう言って、シェイルに手渡す。

「…僕に…?」
シェリアンは頷く。
「手先を使うと、脳が活性化するから、リハビリに良いらしい。
刺繍も薦められたが…。
俺には合わないと、辞退した」

ディラフィスが、シェリアンをじっと見る。
「…布じゃ無く指を刺しまくって、布が血だらけになるから?」

シェリアンはそれを聞くと、ディラフィスを睨んだ。
「…大昔の話なのに。
まだ、根に持ってるのか?」

ディラフィスは、肩を竦めた。
「俺の白シャツに付いたお前の血の染み。
取れず結局、お気に入りのシャツを捨てる羽目になったからな」

シェイルはくすくす笑い。
ローフィスは父親を見た。

ディラフィスは息子を見て言う。
「お前の方が、よっぽど器用だ」

ローフィスは顔を下げる。
「旅の間。
シェイルに針使わせなかった理由、凄く分かった」

シェイルはそれを聞いて、ふくれっ面になる。
「僕、ちゃんと布が刺せる!」

ローフィスとディラフィスは顔を下げたまま、互いをチラ…と見た後。
ローフィスが、ぼそり。と言った。

「でも、指も刺す」

シェイルは父親に見つめられ、振り向いて叫ぶ。
「でも!
ちゃんと布を、刺してる!」

父親の…シェリアンは、ぼそり。と尋ねた。

「布は血で、汚れない?」

シェイルは父親を見つめ、尋ね返した。

「それが…肝心?」

シェリアン始め、ディラフィスとローフィスの、三人がほぼ同時に頷いた。


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